出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語32-2-81922/08海洋万里未 三人娘王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
北の森林
あらすじ
未入力
名称
お朝 お月 高子姫 高姫 常彦 春彦 ヨブ
旭 高倉 月日 八頭 八王
自転倒島 時雨の森 神界 大江山(たいこう) 高砂洲 千座の置戸 天眼通 常世の国 間の国
 
本文    文字数=12250

第八章 三人娘〔八九九〕

 高姫は、以前の美人が二人の侍女を伴ひ悠々として此方に向つて進み来るを、百間ばかりこちらから嬉しげに打眺め、夢に牡丹餅でも食つたやうな嬉しさうな顔をつき出してゐる。そのスタイルのどことなく間の抜けた可笑しさに、吹出すばかり思はるるを、ジツと怺へて春彦は女を指し、
『アレ御覧なさい……一人かと思へば三人も魔性の女が耳をピラピラさせながらやつて来るぢやありませぬか……高姫さま、あれでも御信用になりますかなア』
 高姫は最早玉と聞いて、再び心を曇らしてゐる。
『コレ春さま、失礼なことを云ふものぢやありませぬよ。あれほどよう目につく耳が動いてるか動いとらぬか、よく御覧なさい。動くやうに見えるのはお前の目の玉が動くから、向方の耳が動くやうに見えるのだよ』
『私の目が動くのならば、誰の耳も体も一緒に動きさうなものぢやありませぬか。よくお前さま、気をつけて目をあけてミヽヽ見なさい。アフンと致してあいた口がすぼまらぬやうな事があつたら、後で何程後悔したと云つても悔んでも後の祭り、折角高い鼻がめしやげてしまひますぞや。私が今何程御意見しても歯節は立ちますまい。私の云ふ事は一々足と思うてござるから、何と云つても、手ごたへはせぬのも道理ぢや。しかしながら人にあの拇指は小指の意見も聞かず、時雨の森でバカを見たと、後指をさされぬやうになされませ。背中に腹は替へられませぬぞえ。後で臍をかむやうな事のないやうに、胸をさはやかにし、腹を据ゑて乳と考へなされ。股後で叱言をおつしやつても、尻まへんワ、けつ喰へ観音ですよ』
『黙つて聞いて居れば、蚤か蝨のやうに体中を這ひまはし、何屁理窟を垂れなさるのぢや。糞が呆れますぞえ』
『アーア、腹が春彦だ。小便ぢやないが、シヽシリもせぬ癖に、エラさうにおつしやつて今にアフンとなさる御方が、どこやらに一人ありさうだ。アーアまたもや例の病がおこつたのかなア』
『喧しい!』
と制し止むる時しもあれ、三人の女は早くも此処に近寄り来り、叮嚀に会釈しながら、
『高姫様、永らく御待たせ致しました。私はあなたの御名によく似た高子姫と申す者、この侍女は一人はお月、一人はお朝と申します。どうぞ御見知りおかれまして末永く御交際をお願致します』
 春彦小声で、
『それやつて来たぞ! だまされな!』
と拍子をつけて、小声で囁いてゐる。高姫は春彦をグツと睨めつけながら、俄に顔色を和げ、高子姫に向つて、
『これはこれは、始めて御名を承はりました。マアマア実に御優しい御立派な御姿ですこと!』
『イエイエどうしてどうして、さう御誉め下さつては、お恥づかしうございます。山家育ちの山時鳥、ホーホケキヨの片言まじり、何も知らない未通娘でござりますれば、どうぞよろしく御指導を御願致します』
 春彦はそばより、
『何と言つても、海千山千河千の経験を経た高姫さまですから、大丈夫ですよ、アハヽヽヽ。その三千年の劫を経た高姫さまをチヨロまかす娘さまは、ドテライ偉い変つた変な見当の取れぬ仕方のない御方でございませう。オツトドツコイ眉毛に唾をつけ、おけつの毛に気をつけて、高姫さまの後から従いて参りませうかい』
 高姫目を怒らし、口を尖らし、歯のぬけた口から唾を吐き出しながら、
『コレ春彦さま、さうズケズケと淑女に向つて、失礼な事を云ふことがありますかい。モウシ高子姫さま、斯様な動物がついて居りますので、寔に妾も頭を悩めます。どうぞお気を悪くせぬやうにして下さいませ』
春彦『ハイハイ、誠に以て失礼千万、どうぞ寒狐に見直し、大狐に宣直し、大空は高倉でも、月日をかくす、雲さへ払へば吾々の魂は朝日の豊栄昇るやうな勢になつて来ます……コレ高さま、オツトドツコイ高姫さま、だまされなさるな。常世の城で八百八十八柱の八王の神や八頭、立派な御方が寄り合うて、泥田圃の大失敗も鑑が出て居りますぞや。コレコレ高倉稲荷さま、月日、旭明神さま、化けた所でこの春さまが承知をしませぬぞえ。何と恐れ入りましたかなア……隠されぬ証拠と云ふのは、お前の二つの耳だ。お尻に白い尻尾が下つて居りますぞえ。こんな深い森林までだましに来るとは……(浄瑠璃文句)そりや聞えませぬ胴欲ぢや、欲に呆けた高姫さまを、高子の姫と現はれて、心曳かうとなさるのか、金剛不壊の如意宝珠、玉と云うたら目の玉を、グルグルまはす癖のある、高姫さまにありもせぬ、如意の宝珠をやらうとは、馬鹿になさるもほどがある。この春彦が天眼通、一目睨んで査べたら、メツタに間違ひありませぬ、高倉稲荷の白狐さま、月日旭の明神さま、早く尻尾を出しなされ』
高姫『コレコレまたしても失礼なことをおつしやるのかいなア。高倉稲荷さまや月日旭の明神さまは、この高砂島へはござらつしやる筈はありませぬぞや。常世の国の大江山に御住ひ遊ばされ、間の国を境として、自転倒島へ御渡り遊ばす方ぢやほどに、見違をするもほどがある。黙つてゐなさい!』
春彦『そんなら、黙つて御手前拝見と、出かけませうかなア……ヨブさま、常さま、お前はどう考へるか、一寸否定肯定如何を聞かして下さいな』
常彦『否定も肯定もありませぬワイ。ゴテゴテ言ひなさるな』
ヨブ『何と云つても合点の往かぬ事ですワイ』
高子『何なと御疑ひ遊ばしませ。何よりも事実が証明致しますよ』
高姫『左様ならば御伴を致します……コレコレ春彦、常彦、ヨブさま、おとなしうして従いて来るのだよ。何も言つちやなりませぬぜ。人民がゴテゴテ言つたつて、神の仕組が分るものぢやありませぬ。黙つて居る方が、どれほど賢う見えるか分らぬぞえ』
とイラツクやうな声でたしなめながら、三人の後に従ひ、水のたまつたシクシク原を足の裏をひやし、
『アヽ気分がよい、久しぶりでお水にありついた。これと云ふのも神様の水も漏らさぬ御仕組、瑞の御霊の御神徳だよ。足で踏むのも勿体ないけれど、ここを通らねば行くことが出来ませぬから、どうぞ神様許して下さいませや』
と肩を四角に欹て、尻をプリンプリンとふりながら、三人の後に従ひ、勇み進んでついて行く。
 此処には大変に広い河が飛沫を飛ばしてゴーゴーと音を立てて流れてゐる。三人の娘は、尻をまくり、兎が飛ぶやうに高い石の頭を狙つて、向方へ瞬く間に渡つてしまつた。高姫もわれ遅れじと尻ひきめくり、
『コレコレ皆さま、気をつけなされ。この石はよく辷りますよ』
と後向く途端に背中に負つた石地蔵の重みで自分から辷つて激流におち込み、浮きつ沈みつ、足を上にして苦み悶え、矢を射る如くに流れ行く。
『コリヤ大変』
と春彦は忽ち赤裸となり、
『オイ常彦、ヨブ、俺の着物を預つてくれ!』
と云ひながら、渦まく波にザンブと飛込み、急流を泳いで、浮きつ沈みつ高姫に追つつき、漸くにして岩上に救ひ上げた。高姫は幸ひに余り水も呑まず、気も取り失つては居ない。
春彦『高姫さま、危ない事でございましたなア。それだから私が怪しいと云つて止めたぢやありませぬか。これからチツト吾々の云ふ事も聞いて貰はなくちやなりませぬぞや』
『お前がありや、こりや、なけりや、こりや、善い事もあれば悪い事もある。サア早く行きませう』
『どこへ急いで行くのですか』
『きまつた事だ。早く高子姫さまの御宅へ行かねば、さぞ御待兼ねだらうから…』
『ハテさて困つた事だなア。こんな目に遭つてもまだ目が醒めないのですか』
『神界の御仕組が分りますかい』
と云ひながら、川ぶちの森林を、上へ上へと伝ひのぼり、最前はまつた飛石の前まで走り来り、
高姫『ヤア常彦、ヨブさま、待たせました。サア行きませう』
常彦『ともかく、御無事で御目出度うございます』
ヨブ『マアこれで私も安心しました』
高姫『コレ常さま、ヨブさま、お前等二人は、水臭い、なぜ私の危難を救はなかつたのだ。かうなると始終口答へする春彦の方が余程ためになる。まさかの時に間に合ふ者はメツタにないと、神様がおつしやるが、いかにもその通りだよ』
常彦『あなたは神さまだから、メツタに水に溺れて死になさると云ふやうなことはないと思つて安心してゐたのですよ。人民が神様を助けようなんテ、そんなことがどうして出来ますか』
ヨブ『余り勿体なうて、寄りつく訳にも行きませず、吾々のために千座の置戸を負うて下さるのだと思ひましたから、ヂツト暗祈黙祷してゐました』
高姫『生神がこんな谷川位にはまつて弱るやうな事はないが、しかしながら、人民として案じて私を助けに来た春彦の心は、実に美はしいものだ。神は人間の真心を喜ぶのだからなア』
春彦『高姫さま、春彦でもまた間に合ふ事がありませうがな』
高姫『棒千切れも、三年田の中にすてておけば肥しになる。腐れ縄にも取りえといふ比喩の通り、あんな者がこんな手柄をすると云ふ神様のお筆先の実地正真のおかげをお前は頂いたのだ。サア神様へ御礼を申しなさい。こんな結構な御用をさして頂いてお前は余程果報者だよ。これから高姫の云ふ事を一つも背かず聞きなされや。さうでないと高姫がまたお前の代りに犠牲にならねばならぬから、チツト心得て下されよ。あんな若い女の方が、何ともなしに渉れる石の飛び越えを、辷ると云ふやうな道理がない。これも全く神様がお前の罪の贖ひに、私を辷りおとし、お前を飛込ませ、惟神的にお前の禊を遊ばしたのだから、決して、高姫を助けてやつたなどと思つちやなりませぬぞや』
 三人一度に顔を見合せ、目を丸くし、口を尖らせ、高姫の言に呆れてゐる。
 高子姫、お月、お朝の三女は、岸の向方に停立し、白き細き手を差出し『早く来れ』と差招いてゐる。高姫は一歩々々指の先に力を入れながら糞垂れ腰になつて、怖相に向ふ岸へと渡りつき、太き息をつきながら……惟神霊幸倍坐世……と二三回繰返し、渡り来れる一行と共に、三人の女の後に従ひ、得意の鼻を蠢かしつつ心欣々従いて行く。

(大正一一・八・二二 旧六・三〇 松村真澄録)



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