出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語32-2-111922/08海洋万里未 人の裘王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
北の森林
あらすじ
 南の森・北の森
名称
石地蔵 高姫 常彦 春彦 ヨブ
旭 エルバンド 鬼武彦 狼 獅子 高倉 鷹依姫 竜国別 月日 狒々猿 モールバンド
アマゾン河 兎の都 自転倒島 北の森林 大江山(たいこう) 帽子ケ岳 霊光
 
本文    文字数=13891

第一一章 人の裘〔九〇二〕

 アマゾン河の南岸に展開せる大森林は、猛獣毒蛇の公然として暴威を逞しうするのみなれば、却てこれが征服には余り骨を折らなくてもよかつた。ただ表面的神力を発揮さへすれば獅子、狼その他の猛獣をも悦服させ得たのである。
 鷹依姫、竜国別は兎の都の王となり、しばらく此処に止つてゐた。しかるに屡々、獅子、熊、虎、狼、大蛇、禿鷲、豺その他の獣、群をなして兎の都を包囲攻撃し、大いにそれが防禦に艱みつつありし処に、帽子ケ岳の山頂より危急存亡の場合は、不思議の霊光、猛獣の頭を射照らし、遂に流石の猛獣大蛇も我を折り、鷹依姫、竜国別の許に鷲の使を派遣し帰順を乞ひ、時雨の森の南森林は、全く鷹依姫女王の管掌する所となりぬ。
 これに反し北の森林はすべての獣類、奸佞にして妖怪変化をなし、容易にその行動、端倪すべからざるものあり。そこへ動もすれば執着心を盛返し、心動き易き高姫を主として一行四人、鷹依姫を助けむと出で来りたるが、到底北の森林は、一通や二通で通過する事さへ出来ない事を大江山の鬼武彦が推知し、茲に白狐の高倉、月日、旭の眷族を遣はし、先づ第一に高姫の執着心を根底より除き、我を折らしめ、完全無欠なる神の司として、森林の探険を了へしめむと企画されたるが、果して高姫は玉と聞くや、執着心の雲忽ち心天を蔽ひ、かくの如き神の試みに遇ひたるぞ浅ましき。
   ○
 高姫は泥田圃の葦の中にアフンとして、夢から醒めたやうな面をさらしてゐる。常彦、ヨブの両人は、鼈に尻をぬかれたやうな、ド拍子の抜けた面をさげて、高姫の体を不思議さうに、頭の先から足の先まで、まんじりともせず眺めながら黙然として立つて居る。春彦は何時の間にやら、身体自由になつて居た。
春彦『高姫さま、私の云つた事はどうでした。違ひましたかなア』
高姫『違はぬ事もない、違ふと云つたら、マア違ふやうなものだ。チツトお前さま改心なさらぬと、私までがこんな目に遇はなくちやなりませぬよ』
『アハヽヽヽ、何とマア徹底的に強いこと、世間へ顔出しがならぬやうになりて来るぞよ、われほどの者はなきやうに申して、慢心致して居ると、眉毛をよまれ、尻の毛が一本もない所まで抜かれてしまうて、アフンといたし、そこになりてから、何程神を頼みたとて、聞済はないぞよ……と三五教の御教にスツカリ現はしてあるぢやございませぬか……スゴスゴと姿隠して逃げていぬぞよと』
『コレコレ春彦、お前そりや誰に云つてるのだえ。そんなこた、チヤンと知つてゐる者ばかりだ。高姫はそんな事は百も千も承知の上の事だから、モウ何にも云うて下さるな。エヽこんな男の側に居つて、ひやかされて居るよりも、どつかの木の下で一つ沈思黙考と出掛けようか』
と云ひながら、一生懸命に尻ひきまくり、森林の奥深く駆入る。
 常彦は高姫の姿を見失はじと、是亦尻ひつからげ、後を慕うて従いて行く。
 春彦、ヨブの二人は、二人の姿を見失ひ、
『また何れどつかで会ふ事があるだらう。吾々は鷹依姫一行を早く捜し求めて救ひ出し、自転倒島へ早く帰らねばならぬ』
と春彦は先に立つて高姫が走つて行つた反対の方向へワザとに歩を進めた。半時ばかり森林の中をかきわけて、西北を指して進み行くと、そこに真黒けの苔の生えた、目鼻口の輪廓も碌に分らぬやうな三尺ばかりの石地蔵が、耳が欠けたり、手が欠けたり、頭半分わられたりしたまま、淋しげに横一の字に立つてゐる。
ヨブ『春彦さま、一寸御覧、この石地蔵を……耳の欠けたのや、頭の欠けたの、手の欠けたのや、しかも三体、よくも不具がこれだけ揃うたものですな。一寸この辺で一服致しませうか』
春彦『サアもう一休みしてもよい時分だ。しかしこの石地蔵は決して正真ぢやありますまいで。気をつけないと、また高姫さまの二の舞をやらされるか知れませぬワイ。神さまに吾々は始終気を引かれて修業をさせられますからな』
『春彦さま、私はモウ三五教が厭になりましたよ。高姫さまの正直な態度に、船中において感歎し、本当に好い教だと思うて入信し、一切の欲に離れて財産まで人にくれてやり、ここまで発起してワザワザついて来ましたが、どうも高姫さまの執着心の深い事、あの豹変振り、ホトホト愛想がつきて、三五教がサツパリ厭になつてしまつたのですよ』
『あなたは神様を信ずるのですか、高姫さまを信じてるのですか……人を信じて居ると、大変な間違ひが起りますよ。肝腎要の大神様の御精神さへ体得すれば、高姫さまが悪であらうが、取違ひをしようが、別に信仰に影響する筈はないぢやありませぬか』
『さう聞けばさうですなア。しかし高姫さまの行ひに惚込んで入信した私ですから、何だか高姫さまがあんな事を言つたり、したりなさるのを実地目撃しては、坊主憎けら袈裟まで憎いとか云つて、神様までが信用出来なくなつて来ましたよ』
『そらそんなものです。大抵の人が百人が九十九人まで導いてくれた人の言行を標準として信仰に入るのですから、盲が杖を取られたやうに淋しみを感ずるのは当然です。どうでせう、これから吾々両人が高姫さまに層一層立派な神柱になつて貰ふやうに努めようぢやありませぬか。神様から吾々に対する試験問題として提供されたのに違ひありませぬよ』
『ともかく入信間もなき私ですから、先輩のあなたの御意見に従ひませう。私もあなたには感心しました。高姫さま以上の神通力をお持ちになり、吾々三人が今の今迄神様の試みに会ひ、泡を吹いて苦しむ事を、先へ御存じの春彦さま、高姫さま以上ですワ』
『イエイエ、決して高姫さまの側へも寄れませぬ。しかしながらどうしたものか、私の体が余程霊感気分になり、あんな事を言つたのです。つまり神様から言はされたのです』
と話して居る。後の石地蔵はソロソロ歩き出し、二人の前に胡坐をかき始めた。ヨブはビツクリして、
『アヽ春彦さま、大変ですよ。石地蔵奴、そろそろ動き出して、此処に胡坐をかいて笑つてるぢやありませぬか』
『アハヽヽヽこれですかいな。コリヤオホカミ様ですよ。獣としては優良品ですよ。一つの奴はアークマ大明神と云ふ奴、一つの奴はシシトラ大明神と云ふ化神さまだから、用心なさいませや』
『何とよう化州の現はれる所ですなア』
『元より妖怪の巣窟だから、いろいろの御客さまが現はれて、面白い芸当を見せてくれますワイ……オイ熊公、獅子、虎、狼、なんぢや猪口才な、石地蔵や人間の姿に化けやがつて、四ツ足は四ツ足らしうしたがよからうぞ。勿体ない、人間様の姿に化けると云ふ事があるかい、僣越至極にもほどがあるワ』
石地蔵『ホツホヽヽ、俺達が人間の姿や仏の姿をするのが、夫程可笑しいのかい。また夫程罪になるのか。よう考へて見よ、今の人間に四足の容器になつて居らぬ奴が一人でもあると思ふか。虎や狼、獅子、熊、狐、狸、鷲、鳶、大蛇、鬼は云ふも更なり、下級な器になると、豆狸や蛙までが人間の皮を被つて、白昼に大都市のまん中を横行濶歩して居る世の中だよ。
 これはしも人にやあるとよく見れば
  あらぬ獣が人の皮着る
と云ふやうな今日の世界だ。そんな野暮な分らぬ事を云ふものでないよ。今の人間は神様の真似をしたり、志士仁人、聖人君子、学者、宗教家、教育家などと、洒落てゐやがるが、大抵皆四足のサツクだ。どうだ、チツト合点がいつたか』
『お前がさう云ふとチツト考へねばならぬやうな気分がするワイ。全くの悪口でもないやうだ。しかし、お前の目から俺の肉体を見ると、神さまのサツクのやうに見えはせぬかな』
『見えるとも見えるとも、スツカリ神様だ』
『四足の容器のやうにはないかなア』
『四足所かモツトモツト○○だ。神は神ぢやが渋紙のやうな面をし、心の中は貧乏神、弱味につけ込む風邪の神、疱瘡の神に痳疹の神、おまけに顔はシガミ面、人情うすき紙の如き破れ神……と云ふやうな神様のサツクだなア』
『そら、余り酷評ぢやないか』
『どうでも良いワ。お前の心と協議して考へたが一番だ。お前は高姫を見棄てる精神だらうがな』
『イヤア決して決して見すてる考へぢやない。一日も早く改心をして貰つて、立派な神司になつて欲しいのだから、それでワザとに高姫さまが苦労をするやうに、二人こちらへ別れて来たのだ。この春彦が従いてゐると、高姫さまがツイ慢心をして、折角の改心が後戻りをすると約らないからなア』
『アツハヽヽヽ、腰抜神の分際として、高姫さまに改心をして貰ひたいなどとは、よう言へたものだ。お前の心の曇りが、みんな高姫さまを包んでしまふんだから、折角改心した高姫が、最前のやうな試みに遇うたのだぞよ。今高姫はモールバンドに取囲まれ、大木の幹を目がけて、常彦と共に難を避けてゐるが、上には沢山な猅々猿が居つて、高姫に襲撃して来る。下からはモールバンドが目を怒らして、ただ一打ちと狙つてゐる最中だ。オイ春彦、ヨブの両人、これから高姫を救ひに行くと云ふ真心はないのか』
『そりやない事はないが、この春彦、ヨブの両人が往つた所で、モールバンドのやうな、強い奴が目を怒らして待ち構へとる以上は、吾々二人が救ひに行つた所で、駄目だ。否駄目のみならず、吾々の命まで、あの尻尾で一つやられようものなら、台なしになつてしまふ。人間の体は神様の大切なる御道具だから、さう易々と使ふ訳には行きますまい。何分にも、お前の云ふ通り、人情うすき紙のやうな神や、腰抜神の容器だからなア』
『アツハヽヽヽ、口ばかり立派な事を云つて居つても、まさかの時になつたら尻込みを致す、誠のない代物ばかりだなア。それでは三五教も駄目だよ』
『喧しう云ふな。春彦の精神が石地蔵のお化けに分つて堪らうかい。俺は高姫さまのやうに有言不実行ではないのだ。不言実行だ。どんな事をやるか見て居つてくれい。モールバンドであらうがエルバンドであらうが、誠と云ふ一つの武器で言向け和し、見ン事二人の生命を助けて見ようぞ。サア、ヨブさま、春彦に従いてお出でなさい』
とあわてて、高姫の走つた方へ行かうとする。石地蔵は、
『アツハヽヽヽ、たうとう俺の言に励まされて、直日の霊に省みよつたなア。人に言うて貰うてからの改心は駄目だよ。心の底から発根と改心した誠でないと役には立たぬぞよ。今にアフンと致して腮が外れるやうな事がないやうに気をつけたがよいぞよ。石地蔵が気を付けておくぞよ。この方はアキグヒの艮の神、それに、良き獣の使はし女を沢山抱へて居る狼またアークマ大明神と云ふ立派な御方だ。ドレ、これから石地蔵に化けて居つても本当の活動は出来ない。うしろから、お前の腕前を、実地見分と出かけよう。口と心と行ひの揃ふやうな誠を見せて貰はうかい』
『エヽ喧しい、化州、俺の御手際を見てから、何なと吐け。サア、ヨブさま行かう』
と尻ひつからげ、以前の谷川を兎の如くポイポイポイと身軽く打渡り、転けつ輾びつ、
『オーイオイ、高姫さまはどこぢやアどこぢやア、モールバンドのお宿はどこぢや、春彦さまの御見舞だ、俺がこれほどヨブのに、何故春彦ともヨブさまとも返答をせぬのか。高姫、お前は聾になつたのか。オーイ、オイ』
と声を限りに叫びながら、ドンドンドンと地響きさせつつ、草原を無性矢鱈に大木の茂みを指して走り行く。

(大正一一・八・二三 旧七・一 松村真澄録)



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