出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語31-4-241922/08海洋万里午 魔違王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
屏風山脈
あらすじ
 翌日、秋山別の前に、また、昨日の怪物化け爺がモリスに化けて現れる。男が麻のような物を左右左にプツプツと振り回すと、小さな玉が転がり出して、それが爆発し、何百人もの紅井姫が生れて、秋山別を誘惑したり殴ったりする。秋山別は耐え切れず昏倒してしまう。爺は「仇をとった」と、采配を打ち振り、女を消して、立ち去る。
 そこへ、本物のモリスが現れる。秋山別は「また化物が来た」と思い何度も天の数歌を歌う。モリスは、秋山別を谷川の流れのそばに連れてゆき、谷水をぶっかける。秋山別はなかなか納得しない。
名称
秋山別 化け爺 モリス
国依別 紅井姫? 桃太郎
シーズン河 帽子ケ岳
 
本文    文字数=8230

第二四章 魔違〔八九〇〕

 秋山別はこの樹下に一夜を明かす折しも、遥の方より宣伝歌の声が聞え来るにぞ、秋山別は雀躍し、後ふり返りよく見れば、モリスは只一人何か手に采配様の者を握り、これを打ふり打ふり此方に向つて進み来る。秋山別は地獄で神に会ひし心地にて、雀躍しつつ待ちゐたりしが、近寄つて来るを、よくよく見ればモリスにあらで、夜前の化爺、体を少し小さくして、モリスの声色を使ひながら来れるなりけり。されど秋山別はモリスとのみ深く信じて少しも疑はず、飛びつくやうに、
『ヤア、モリスどこへ往つて居つたのだい、随分待ち詫びたよ。夜前も夜前とて、この木の下に寝て居れば、それはそれは厭らしい化爺が出て来よつてナ、流石の俺も荒肝を潰したよ。しかし俺の取つときの言霊を発射したのに驚き、小さくなつて逃げよつた時の愉快さと云つたら、有つたものぢやないワ、アハヽヽヽ』
 モリスに見えた男、
『そうか、ソリヤ愉快だつたネイ。イヤ気味が悪かつただらうネ。しかし今日はお前の一番怖い者をドツサリ持つて来てやつたから、マア昨夜の返礼だ。ゆつくり楽むがよからうよ』
と云ひながら、麻のやうな物を左右左にプツプツプツと振りまはす。小さい玉のやうな物が、幾百ともなく落つる途端に、何れも一時に爆発し、中から桃太郎が生れたやうに、何百とも知れぬ紅井姫が現はれて、秋山別の前後左右に取りつき、
『コレコレまうし秋山別さまお前は情ない人だよ。ようマア私を見捨ててこンな所迄逃げて来やしやつたは本当に憎らしいワ』
と云つて頬辺たをピシヤツと叩き、耳を引かき、そこら中をひねりまはす。また同じ姿の女、秋山別の足にしがみつき、
『お前は本当に罪な人、私が国依別さまに、あれだけ恋して居るのに、好かぬたらしい、横恋慕をして、一も取らず二も取らずにしてしまつたぢやないか。エヽ恋の敵ぢや、秋山別さま!』
と云ひながら、拳を一口クワツとかぶり取る。また一人の女は武者振りつき、
『エヽ残念々々、お前故に、私はシーズン河へ身を投げたのだよ。敵を討たずにおくものか!』
と髻を掴み、無性矢鱈に引まはすその痛さ。秋山別は声を限りに悲鳴をあげ、
『痛い痛い、怺へてくれ。モウ是丈女攻めに会うてはやりきれないワ。命がなくなる、どうぞ助けてくれ!』
と泣き声になつて呼ばはつて居る。数多の女はまたもや武者ぶりつき、
『女にかけたら、命も何にも要らぬと云つたぢやないか。お前の心が生ンだ紅井姫、サア命を貰はう。妾の手にかかつて死ンだら得心でせう。コレ秋山別さま、黒い色男には生れて来ぬものぢやなア。ホヽヽヽヽ痛いか痛いか、チト痛いとても辛抱なされ。可愛い女につつかれたり、囓ぶりつかれたり、体一面抓られるのは、男として天下第一の光栄でせう。……コレコレ甲乙丙丁戊己の紅井姫さま、寄つて集つてこの男を苛めてやらうぢやありませぬか。あゝ面白い面白い』
と云ひながら何百人とも知れぬ女が、交る交る頭を叩き、髪をひつたくり、鼻を抓まみ、耳を引つかき、手足にかぢりつくその苦しさ。遂に秋山別は堪りかねて、その場に昏倒したりける。モリスに見えた男、大口あけて、
『アハヽヽヽ、偉相に昨夜は俺に言霊を発射し、苦めよつたその返報がやしぢや。此奴は何にも世の中に恐いものはないが、女が一番恐いと吐しよつたので、女で仇敵討をしてやつたのだ。モウこうなれば、命もあろまい。ハヽヽヽヽ、好い気味だナ。サア帰らう』
と云ふや否や、再び采配を打ふれば、数多の女は夢の如くに消え失せ、怪物もまた何時とはなしに煙の如く消えにける。秋山別はホツと息をつぎ、馬鹿面をさらして、そこらをキヨロキヨロ見まはし居たりしが、またもや宣伝歌の声聞え来たるにぞ、秋山別は再び驚き立上り、よくよく見ればモリスである。『また出よつたなア』と目を怒らし、臍下丹田に息をつめ、双手を組みモリスに向つて身構へなし居たりしが、樹下に近寄り来りしモリスはこの態を見て、
『ヤア此処に居つたのかい。俺やモウ貴様が何処かへ散つてしまつたのだと思ひ、心配して居たよ。マア無事で結構だつた。しかし俺は途中において紅井姫の御化に出会ひ、大変に試めされて来たよ』
と聞くに、秋山別は、
『オツトドツコイ化物奴その手は喰はぬぞ』
と言ひながら、身構をなし、両手を組み、モリスに向ひ、『ウーンウーン』と力限りに唸り立て、『一二三四』を一生懸命繰返す。モリスは何の事だか合点行かず、
『オイ秋山別、そら何だイ、いい加減に言霊をやめたらどうだい。チツとお前に話したい事があるのだから』
『吐かすな吐かすな。言霊をいい加減に止めと吐すが、これを止めて堪るかい。益々猛烈に発射志てやるぞよ』
といひながら、またもや『一二三四』を繰返した。
『オイ、お前は気が違うたのぢやないか。俺が分らぬか、俺はモリスだよ』
『馬鹿にするない。また女を振り出して、俺を責ようと思つたつて、その手にや乗らないぞ。惟神霊幸倍坐世、一二三四……』
と切りに汗をたらたら流し、数歌を唱へてゐる。モリスは、
『此奴烈風にあほられて、肝をつぶし発狂してゐるのに違ひない、一つ水でも頭から、ぶつ掛けてやれば気がつくだろう』
と小声に囁きながら、秋山別の手をグツト握り、無理矢理に谷川の流れの傍へ引張行き、片一方の手にて、頭部面部の嫌ひなく、切りに谷水をブツ掛るを、秋山別は、
『コリヤ畜生、何をしよるのだ。沢山な女責めに会はして置いて、また水責めに会す積りか。ヨシ、俺にも了見がある。今に返報がやしをしてやるぞよ。俺の兄弟分のモリスがやがて此処へやつて来るから、待つて居れ、仇を討つてやるワ』
『オイ秋山別、確りせぬかい。俺はモリスだよ。トツクリと顔を見てくれ、モリスに間違ないのだから……』
と秋山別の前に黒い顔をニユツと突出して見せるを、秋山別はモリスの顔を熟視して、
『アハヽヽヽよく化けよつたな。丸でモリスそつくりだ。夫丈化ける技両があれば、どうだ一つ改心して、俺の弟子になる気はないか』
『今更めてそんな事を云はなくても良いぢやないか。兄弟同様にしてゐる仲だもの。お前が強つて弟子になれと云ふのなら、お前の気が付くまでなつてやらぬ事はない』
『モウ昨夜のやうに、白髪の老爺には化てくれなよ。それから、あれだけ沢山に紅井姫を出されると、俺もお門が広すぎて、処置に困るからなア』
 モリスは合点の往かぬ事を言ふ奴だと思ひながら……チト逆上して居るのだらう、余り逆らつてはよくなからう……と心の中に思ひながら、よい加減にあしらひつつ、帽子ケ岳を目当てに登り行く事とはなりける。

(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)



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