出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語31-4-221922/08海洋万里午 神の試王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
屏風山脈
あらすじ
 国依別一行はシーズン河を渡り、アマゾン河の上流を目指して進み、屏風ケ岳へやって来た。秋山別とモリスは南から、国依別、宗彦、安彦は北の谷から屏風山脈の中央の山へ登る事になった。
 南から登った秋山別は途中で猛烈な風に飛ばされて行方不明となる。残されたモリスは「秋山別が聞きつけて来る」と宣伝歌を大声で歌いながら風下方向へ進む。
 モリスの前に紅井姫が現れモリスをかき口説く。モリスは、「以前は恋に煩悶苦悩を続けていたが、今は、神の戒めを受けて、以前の自分とは違う」と受け付けない。そこで、姫は懐剣で自害しようとするが、モリスは心を動かされない。実は、この紅井姫は旭日明神で、モリスを試したのだった。
名称
秋山別 旭日明神! 国依別 紅井姫? 宗彦 モリス 安彦
鬼武彦
アマゾン河 シーズン河 大江山(たいこう) ヒルの館 屏風ケ岳
 
本文    文字数=10092

第二二章 神の試〔八八八〕

 国依別の一行は  シーズン河を打渡り
 荒野を駆けり山を越え  夜を日についでアマゾンの
 上流さして進み行く。  

 忽ち前方に屏風の如き、余り高からず、低からざる延長数百里に渡る山脈の横たはるを見る。この山は屏風ケ岳と云ひ、海抜二万五千尺、山頂の横巾は五十里に及ぶ。この山脈上より東南を広く観望すれば、アマゾン河は銀河の如くに流れ、鬱蒼たる森林は雲の如く、目に入る景勝の地点なりける。
 国依別はこの山に登るに就いて、左右に分れ絶頂に達したる上、作戦計画を定むる事とし、秋山別、モリスを南より登らしめ、自分は北の谷から安彦、宗彦と共に宣伝歌を唄ひ、屏風山脈の中央に帽子の如く突出せる峰を出会所と定めて登ることとせり。この山上に達するにはどうしても、徒歩にて、四五日を要するだけの距離がある。
 秋山別、モリスの両人は南の谷より、宣伝歌を唄ひながら、標的の帽子山を目がけて進み行く。日は漸くにして山に隠れ、暗黒の幕は次第々々に濃厚に二人の身辺を包み来たるにぞ、二人は止むを得ず、坂道の傍に草を布き、横臥し、夜を明かさむとするや、俄に猛烈なる山颪吹き来り、二人の体は殆ど中天に飛ばさるる如き勢となりぬ。二人は『惟神霊幸倍坐世』を一生懸命に称へたれども、七十米の猛烈なる風力は容易に止まず、終に秋山別は風に吹き飛ばされて、暗夜の空を何処ともなく、散り失せにける。
 モリスは幸ひ岩の根に喰ひつきてこの難を免れける。漸くにして風は歇み、夜明けとなりて四辺を見れば、秋山別の姿無し。……大方夜前の烈風に吹き散らされて、どつかの谷底にでも落ちて居るのだらう、あの風は追風であつたからよもや西北の方へ散つて居る筈はない、キツと東南へ散つたであらう、さうすればこれから宣伝歌を高らかに唄ひ進み行かば、秋山別が吾声を聞きつけて来るだらう……などと心の中に思ひながら、宣伝歌を唄ひ唄ひ山と山とに囲まれた谷道をトボトボと登り行く。
 俄に聞ゆる女の叫び声、何事ならむと足を早め、声する方に近より見れば、妙齢の女、手足を縛られ、髪ふり乱し、そこに倒れ居たり。モリスは驚きて、手早く手足の縛を解き、言葉静かに、
『モシモシ、どこの御女中かは存じませぬが、何者に斯様な残酷な目に会はされたのですか。これには何か深い様子のある事でございませう』
『ハイ、有難うございます。妾はシーズン河を渡り、此方へ参ります折り、四五人の荒くれ男に捉へられ、ドンドンドンドンと手足を括られたまま、ここまで担がれて、夢の如く連れて来られました。さうして今の先、妾に向ひ五人の男が交る交る無理難題を吹きかけまするので、妾は余りの悲しさ、何事にも応じませなかつた。さうした所、五人の荒男は腹を立て、鋭利な剣を引抜き、一度により集まつて、妾を嬲殺しにしてくれむと申し、今や彼等に嬲殺しにされようとする刹那、有難き宣伝歌の声が聞えて来ましたので、曲者はその声に辟易して一人も残らず、雲を霞と逃げ散つた所でございます。あなたは何れの方かは存じませぬが、かよわき女の一人旅、行きもならず、帰りもならず、実に険呑でございます。誠に御邪魔でございませうが、どうぞ御伴をさして下さいませぬか』
『それは大変に危い事でございました。しかしながら私は神様の御用によつて、アマゾン河の上流まで参らねばならぬ者、女の方と道伴れになることは、到底出来ませぬから、こればかりは平に御断り申します』
と女の顔を覗き込めば、不思議や紅井姫にてありける。
『オー、貴女は紅井姫様ぢやございませぬか? どうしてマアこンな所に連れられて御出でなさいましたのかなア。サアどうぞ一時も早く立去り、元来し路へ御引返し下さりませ。かような所に長坐をして居れば、又候悪者が引返して来て、如何なる事を仕出かすか分りませぬ』
『お情ないモリスさまのその御言葉、妾はあなたの内事司として、ヒルの館にお仕へ遊ばす砌より、朝夕お顔を拝し、何時とはなしに恋路に心を曇らせ、日に日に身体は痩おとろへて、重き病の身となりました。そこへ、秋山別の嫌な男、朝な夕な、妾に寄り添ひ、いろいろと妙な事を言ひかけ、大変な迷惑を致して居りました。余りあなたを思ふ恋の弱味で、恥かしくて、心にもなき情ない事を申しましたが、決して妾の心はさうではござりませぬ。どうぞモリスさま、今日はあなたと妾とただ二人、こンな機会はまたとござりますまい。今でこそ妾の腹の底を打明けますから、どうぞ二世も三世も先の世かけて可愛がつて下さいませ』
と涙を流し、真実を面に表はして、かきくどくそのしほらしさ。モリスは心の中にて非常に煩悶したるが思ひ切つて、
『これはこれは姫様、あなた様は怪しからぬ事を仰せられます。どうして兄上様の御許しもなく、左様なみだらな事が勝手に出来ませうか。この儀ばかりは平に御許し下さりませ』
『ホヽヽヽヽ、これモリスさま、よう、そンなことを、今になつてようマアおつしやいますな。妾はあなたの心の底の底までよく窺つて居りますよ。そンなテレ隠しはおつしやらずに、一時も早くウンと云つて下さい。妾も気が気でなりませぬワ』
『実は御察しの通り、寝ても醒めても、道ならぬ事とは知りながら、姫様の美はしき姿を一目拝むで……あゝ可愛い女だ……と思ひ込ンだが病み付きで、恋の病におち、それからと云ふものは、何を食つても味はなく、身は次第に痩衰へ、煩悶苦悩をつづけて居りましたが、或事より神様のお戒めを受けて翻然として悟り、今では、是迄のモリスとは違ひますから、この事ばかりは御許し下さいませ。モリス、手をついて御願ひ致します』
『あのマア、モリスさまの白々しい御言葉、仮令天地が覆る共、一旦痩る所まで思ひつめた女、どうしてさう綺麗サツパリと思ひ切られる道理がございませう。余りぢらして下さりますな。恋は神聖と云ひまして、あなたと妾が夫婦になつた所で、それがナニ罪になりませう。サア早く御返事をして下さい。また実際に嫌なら、嫌とキツパリ言つて下さい。妾も一つの覚悟がございます』
と云ふより早く、懐剣を取出し、引抜いて、早くも喉にあてむとするを、モリスはあはててその手を押へ、涙ながらに、
『モシモシお姫様、あなたのそこまで思ふて下さる御心は実に勿体なく有難う存じます。その御志は仮令死ンでも忘れは致しませぬ。しかしながら今日の私は、最早神の光りに照されて、国依別様の弟子となり、アマゾン河の森林に言霊戦に参る途中でございますれば、どうぞここの所を聞分けて、思ひとまつて下さりませ』
と声を震はせ、泣き声になつて諫むるにぞ、紅井姫は首をふり、
『イエイエ、何とおつしやつても、女の一念晴らさねば置きませぬ。そンなら帰つてから夫婦になつてやらうと、ここで一事云つて下さい。それが出来ぬと云ふことがございますか』
『折角ながら、その事ばかりはどうぞ思ひとまつて下さいませ。モリス改めてお断わりを申します』
『あゝ是非に及ばぬ。そンならモリス殿、妾は冥途へ参ります』
とまたもや懐剣を引ぬき首に当てがはむとするを、モリスはあわててその手を押へ、
『またしてもまたしても、御合点の悪い御姫様、モリスのやうなヒヨツトコの愚鈍者の分らずやが、どうして尊い姫君様の恋男になることが出来ませう。あなたの御志は身に代へて有難うございますが、どうぞこれだけは許して下さいませ。モウ私は女に会ふことは断念して居りますから、折角の決心をどうぞゆるめて下さいますな。モリスのお願でございます』
と手を合せ頼み入る。
 紅井姫、厳然として立上り、言葉をあらためて、
『我れこそは大江山に守護をいたす、鬼武彦が幕下旭日明神と申す者、汝の心底は最早疑ふの余地なし。いざこれよりアマゾン河に向ひ、天晴れ、言霊戦に功名手柄を現せよ。我も汝に力を添へ、守り与ふれば、如何なる事あるとも、決して恐るることなく、撓まず、屈せず、国依別の命に従つて、神界のために活動せよ。モリス殿さらば……』
と言葉終るや、忽ち立ち昇る白煙あたりを包み、紅井姫と思ひし美女の姿はこの場より霞の如く消え失せにけり。

(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)



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