出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=31&HEN=3&SYOU=14&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語31-3-141922/08海洋万里午 樹下の宿王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
ブラジル峠
あらすじ
 国依別はキジに安彦、マチに宗介という名を与えた。一行はブラジル峠までやって来て夜を明かすことにした。宗介は眠られずに起きていたが、その近辺に秋山別とモリスが来て、丸木橋に細工をして国依別を落とす相談をしていた。秋山別とモリスは先へ行ってしまった。悪企を聞いた宗介はそれを独り言で言うので、国依別と安彦も知るところとなる。
 また、宗介は「自分が安彦より低い名前である」と言うので、国依別は自分の昔の名・宗彦を与えた。
 国依別は遊び心を出し、「紅井姫とエリナのフリをして、秋山別達をからかってやろう」と言い出す。
名称
秋山別 キジ 国依別 マチ 宗介! 宗彦! モリス 安彦!
エリナ オド山津見 蚊々虎 紅井姫 木の花咲耶姫 高姫 鷹依姫 ナイル ハル モールバンド
アマゾン河 大地震 製糞器 ハル ハルの原野 日暮シ山 ヒル ブラジル峠 六菖十菊
 
本文    文字数=13373

第一四章 樹下の宿〔八八〇〕

 波に浮べる高砂の  ヒルとハルとの国依別が
 険しき山をよぢ登り  安彦、宗介両人を
 従ひ登るブラジルの  細き谷間を打渡り
 夜を日についではるばると  ハルの原野を打渉り
 アマゾン河の森林に  思はず知らず迷ひ込み
 鷹依姫の一行や  高姫一行に巡り会ひ
 モールバンドの怪獣を  言向け和し万民の
 さも恐ろしき災禍を  除き清めし物語
 いよいよ茲に述べ立つる。  

 国依別はキジに安彦といふ名を与へ、マチに宗介と云ふ名を与へ、道々三五の教を説き諭しながら、その昔淤縢山津見司が、木の花咲耶姫の化身なる蚊々虎と通過したる、ブラジル峠の山頂に息を休め、それより大原野に出づる事となつた。
 国依別一行はブラジル峠の山麓にて日を暮らし、大木の根元に夜露を凌ぎ一夜を明かす事となりぬ。
 国依別、安彦は他愛もなく旅の疲れに、よく眠つて居る。宗介は何となく、胸騒ぎがして、マンジリとも得せず、二人の間に挟まつて、横たはつて居た。忽ち聞ゆる猛獣の声、心飛び魂消ゆるばかり、その厭らしさに宗介は、戦慄堪へ切れず、安彦の体にしつかり喰ひ付き、夜の明くるを一刻も早かれと祈つて居た。
 夜明に間近くなつたと見え、猛獣の叫び声は何時とはなしに消えてしまつた。折柄二人の男、大木の株に腰をかけ、ヒソビソ話に耽つてゐる。同じ一本の大木と雖も、五十丈ばかりも周つた幹、一方の方には三人が他愛なく横たはつて居るのも、一方に腰打かけてる二人の目には止まらうやうもなかつた。
 どこともなくヒソビソ話が耳に這入つて来るので宗介は、ソツと空をすかしながら、声する方に近寄つて耳を立てて、一言も洩らさじと聞いて居る。
『オイ秋……ここまで捜しに来たのだが、モウ駄目だぞ。日暮シ山では、ハル、ナイルの両人に追ひまくられ、様子を聞けば国依別は今朝ほど立つたと言ひよつたので、何人連れかと聞いて見れば、指を三本出して居やがつた。的切り、ク印とエ印を連れてノホホンで、宣伝をだしに天下を漫遊すると云ふ考へだ。俺も男の意地で、仮令命がなくなつても、彼奴の後をつけ狙ひ、国依別の隙を窺ひ、谷底へでも突き落し、二人のナイスを此方のものにせぬことには、阿呆らしうて、世間へ顔出しも出来ぬぢやないか。最早行方が分らぬと云つてこのまま泣き寝入る訳にも行かず、何とか工夫はあるまいかなア、秋さま』
『モリ公、お前も中々執着心が深いねい。こんな所迄スタスタと尻を付けて来るのだから、こンな連中に狙はれた女こそ、蛇に魅入られた蟇のやうなものだよ。本当に思へば思ふほど、二人の女が可哀相になつて来た。俺もここまで心猿意馬の狂ひに引かされて、来るは来たものの、何時の間にか、心の猿も思ひの馬も、どつかへ、愛想をつかして、絶望を叫び、帰つてしまつたやうな気分になつて来た。モウ仕方がない、これから後へ引返さうぢやないか』
『勝手にせい、俺は何処迄もやり遂げるのだ。男がのめのめとどの面さげて、国許へ帰る事が出来ようかい』
『しかし何程二人の女に懸想して居つても、国依別の居る以上は駄目ぢやないか。彼奴をどうかして……』
と云ひながら小声で何か耳のはたで稍しばし囁いて居る。宗介はどうしてもその声が余り低いので聞えなかつた。
『……此処を一里ばかり先へ行くと、丸木橋がある。相当に深い谷川で、そこへ落ちようものなら、どんな太い男でも五体がメチヤメチヤになつてしまふと云ふ事だから、今の中に先へ廻つて、その橋のつつぱりを取り、国依別が一足跨げるや否や、バサツと落ちるやうに工夫をせうぢやないか。藤蔓か何かで、橋の一方を括つておき、国依別が跨げるや否や、谷底へ隠れて居つて、その綱を引くのだ。さうすると、ズヽヽヽズドン、ウン、キヤア……とそれつきり、憐れなりける次第なりけりだ。さうせうぢやないか』
『それほど骨を折つたつて、国依別の通つた後だつたら、骨折損の草臥儲けになつてしまうぢやないか』
『ナアニ、大丈夫だよ。半日位先に出たと云つても、向うは足弱女を連れてるんだし、此方は健脚家ばかりのお揃だから、キツと俺の方が先へ勝つにきまつてる。彼奴はまだ二三里位後に女と意茶ついて居よるに違ひない。サア早く行かぬと、追ひつかれると大変だぞ。作業が済まぬ中に来よつたら何にもならぬからなア。もしも女が渡りよつたら、黙つて渡してやるのだ。国依別が足を二歩三歩かけよつたが最後一イ二ウ三ツで引張るのだ。何と秋さま、妙案だらう』
『一人の女が先に立ち、国依別が中に立ち、また一人の女が後にあり、一時に単縦陣を作つて渡りよつたら、どうするのだ。それこそ虻蜂取らずの草臥もうけになつてしまうぢやないか』
『そこはまたはその時の風が吹くぢやないか。仮令落込ンだ所で、チツと位怪我をしても、三人が三人ながら死ぬ気づかひはないワ。そこで国依別は目をまかす、そ知らぬ顔して放つとけばそれで仕舞だ。二人の女には水を呑ませ、介抱し……コレコレ旅の御女中……とか何とか云つて助けてやる。さうすれば紅井姫が、俺達に命の親様と云つて、秋波を送つてクレナイ事もあるまいぞ。現に国依別がラバーされたのも大地震の時に助けてやつたのが原因ぢやからのウ』
『それもさうだなア。サア早く往つて準備に取りかからうかい。グヅグヅして居ると六菖十菊、後の祭りで、何にもならないワ。オ一、二、三!』
と、細き谷路を、怪しげにすかしながら、進ンで行く。
 宗介は二人の往つた後で、
『何だか俺は今夜に限つて寝られないと思へば、秋山別、モリスの両人、あンな悪い事を企ンでゐやがるのだなア。それも天罰に俺達に聞えるやうにすつかり喋つて行きよつた。神様が彼等両人がこンな計画をして居るからと、俺に霊をかけ、ねかさなかつたのだナ。何と神様の恵はどこからどこまでも行届いたものだ。誰も知るまいと思つて、悪い事を企むと、何事もこの通りだ。天知る地知る吾れも知る、宗介までが知ると云ふのだから、怖いものだなア。ドレドレこの秘密を聞き取つて手柄話を国依別様に報告せうかなア……イヤイヤ待て待てさう早く云ふと値打がない。橋の詰まで行つた所で、国依別さまが足をかけようとなさつたら……モシ御待ちなさい、私の天眼通で見れば、この橋は浮橋ですから険呑です。秋、モリの二人が綱を引張つて居りますから……と抱止めるのだ。さうすると国依別さまも喜びて、宗介と替へて下さつた名をまた、昔の名の宗彦さまと替へて下さるかも知れぬ。おゝさうだ言はぬが花だ』
と調子に乗つて、何時の間にやら、高い声で囀つて居る。安彦は目をさまして、
『オイ宗介、貴様は甘い事を考へて居よるなア』
 宗介小声になつて、
『オイ、お前聞いたのか。大将に内証だからその積りで居つてくれよ』
 安彦殊更大きな声で、
『一本橋をどうしたと云ふのだい』
『喧しう言はずに休まぬか。秋、モリの両人が、今頃にや丸木橋をおとす作業中だ。面白いぢやないか』
『宣伝使様、あなた御存じですか』
『初からスツカリ聞いて居る。宗彦と云ふ名に替へてやらうか』
『イヤもう有難うございます。どうぞよろしうお頼み申します』
『そんなら、一段位を上げて、只今から宗彦と名を与へる』
『アヽ何とも御礼の申様がございませぬ……オイ安彦どうだい、只今から、お前も俺も同役だ。余り偉相に弟扱ひには出来ないぞ』
『俺は彦を貰つてから三日になる。貴様は今貰つた所ぢやないか。双児が生れても兄弟の区別がつくのだ。現に三日も違ひがあるのだから、ヤツパリ弟だよ』
『エヽ仕方がないなア。ぢやドツと譲歩して表面だけ弟になつておかうかい。その代り兄は兄だけの甲斐性がなくてはならず、弟を可愛がつて大切にせねばならぬ責任がある。弟が弱つて居れば、手を引いてやつて労はりまた負うてやらなきや、兄貴の値打がないからなア』
『コラコラ喧しう云はずに休まぬか。まだ夜明にチツと間もある。ゆつくり茲で休ンで、夜が明けてからボツボツ行くのだ。何れ彼奴ら両人は谷底の木の茂みに隠れて居るに違ひないから、お前等両人は女の声色を使つて行くのだよ。さうして三人共甘く、渡つてしまうのだよ』
『二人の女に三人が声色とは、チツと変ぢやござりませぬか』
『そこは二人になるのだ。国依別が紅井姫の声色を使ひ、安彦は弟の宗彦を背中に負ひ、さうしてエリナの声色になつて、渡りさへすれば大丈夫だ。渡つてしまつてから、各自に男の声で大笑ひをし、ビツクリさしてやるのだ』
『国依別さま、あなたは真面目な宣伝使に似ず、随分悪戯が御好ですなア。こんな男を、私だつて背中に負うて一本橋が渡られませうかなア』
『あのやうな悪い事を企む奴には、此方も一つからかつてやる位は良いぢやないか。まさか違へば生命を取られる所ぢやから……そしてお前は宗彦を背中へ括りつけ、もしも誤つて落ちた所で、国依別においては、痛い事もなければ痒い事もないのだ、アハヽヽヽヽ』
 安彦首を傾け、国依別の顔を見詰めながら、
『ヘーン、何とマア水臭い御方ですなア』
『何れ、谷川を渡り谷水の中へおちるのだもの。ちつたア、水臭からうかい。谷底には水の御霊が待つて居つて、はまつた所で、手を受けて助けて下さるから大丈夫だよ。そんな取越苦労はするものぢやないよ。あゝ待ち遠しい事だ。宣伝使様モウそろそろ出かけたらどうでせう』
『今二人が行つたばかしぢやないか。あの深い谷川の橋杭を取つたり、蔓をつけて引つ張る用意するのは、一時や二時の猶予で出来るものぢやない。茲でゆつくりしてアフンとさしてやる方が面白いぢやないか。別に半日位遅れたつて、遅刻の罰金を取られるのでもなし、マア先を楽ンで、ゆつくり休ンで行かう』
と言ひながら、大木の根を枕に寝てしまつた。
『何と宣伝使と云ふものは大胆な者ぢやないか、ナア宗彦。現在敵が落橋準備をやつてゐるのに、平気であの通り、横になるが早いか高鼾をかいて寝てしまはれた。俺達はまだ執着心が離れぬので、命が惜しくて、敵が前に殺人準備をやつて居ると思へば、どこともなしに心気興奮して寝られないがなア』
『国依別さまと安物の安彦と比べやうとするから、そンな疑問が起るのだよ。活神さまと製糞器とは同じやうにはいかぬワイ』
『俺が製糞器なら、お前も製糞器ぢやないか』
『お前は製糞器だよ、この宗彦は糞造器だ。同じ意味のやうだが、そこに一寸違う訳があるのだ。アハヽヽヽ』
と笑ひながら、大木の周囲をクルクルと繞りつつ夜明を待つ事にした。漸くにして、東は白み出し、百鳥の声、あたりの森林より、かしましく聞え来たる。青葉を渡る旦の風は、得も言はれぬ涼味を惜しげもなく、三人に向つて吹きつける。いよいよ一行三人は足仕度をなし、谷の細路を伝ひ、丸木橋に向ひ進み行く事とはなりにける。

(大正一一・八・一九 旧六・二七 松村真澄録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web