出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語31-1-61922/08海洋万里午 女弟子王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
ヒルの都
あらすじ
 紅井姫が気を失ったところへ、モリスがエリナを連れてくる。姫はエリナを見て、「国依別は独身だと思っていたが、妻が訪ねてきた」と狂いまわる。その混乱の中で、モリスは国依別と間違えて秋山別の金玉をつかんでしまい、秋山別は気を失う。
 紅井姫は侍女にほうきを持ってこさせて、秋山別とモリスを叩きだしてしまう。そして、国依別に向って「かなわぬ恋なら自害する」と叫び、短刀をのどにつき立てようとする。それを止めた国依別は、「自分の過去の悪行の報い」と反省する。姫はそれを聞き、「女房にしてくれなくてもよいので、弟子にして欲しい」と願う。エリナもまた弟子入りを願う。
 そこで、国依別は紅井姫とエリナを伴って、エス、マチ、キジを救うために日暮シ山に向う。
名称
秋山別 アリー エリナ 国依別 紅井姫 サール モリス
エス 楓別命 キジ マチ
アラシカ山 ウラル教 大地震 日暮シ山
 
本文    文字数=10174

第六章 女弟子〔八七二〕

 この乱痴気騒ぎの最中に、意気揚々としてモリスは国依別の居間を尋ね、姿の見えざるに、的切り此奴は紅井姫の居間に侵入し、脂下つてゐるに相違ないと、エリナを伴ひ、足音高く、現はれ来り、ガラリと襖を引あけて、
『国依別様、お前様の女房がはるばる尋ねてお出になりましたよ。サアどうぞトツクリとお楽しみなさりませ』
『ヤア、エリナ殿か、あなたのお母アさまはどうなりましたか。日々御案じ申して居りました』
『ハイ有難うございます。とうとう母はあの大地震に亡くなつて仕舞ました。今は、父は御存じの通り、日暮シ山に囚はれ、たよる所もなき女の一人身、あなた様のお後を慕ひ、お世話に預りたいと存じまして、茲まで尋ねて参りました。どうぞ先日の御無礼をお叱りなく、憐れな妾、どうぞお助け下さいませ』
 モリスはもどかしげに、
『コレコレ、エリナさま、そんな他人行儀の事を云ふに及ばぬぢやありませぬか。お前さま……ソレ私の前で雄健びしたように、ここで一つ売り出さぬかいな。ヤツパリ可愛い夫の顔を見るとグニヤグニヤになつてしまふから仕方がないワ。女と云ふ者は男にかけたら弱い者だなア、アハヽヽヽ』
 秋山別は言も荒らかに、
『姫様の御病気、今この通り御昏倒遊ばしてござる所だ。何を気楽な事を言つてゐるのだい』
『ヤア姫様が御病気だなア。コリヤ大変だ。ドレドレ、モリスが介抱をして進ぜよう。癪気を起してござるのだらう。こんな所へ国依別さまの奥さまがやつて来たものだから、益々大変だ。しかしながら姫様も結句諦めがついてよからう。サア一つお腹を取つてあげませう……癪に嬉しい男の力、身が粉になるまで抱いて欲しい……とか何とかヘヽヽ言ふ事がある。国依別さまだと都合が好いのだが、生憎奥さまの御臨検だからさうもならず……国依別さま、さぞお心の揉める事でせうなア』
とニヤリと笑ひながら、
『コレコレお姫様、内事司のモリスでございますよ。サア気をしつかりなさいませ』
『エヽ汚らはしい!』
と今迄性念を失つて居たと思つた大病人に、力一杯横腹あたりを、肱鉄砲で打たれ、肋の三枚目をしたたかやられて『アツ』とその場に目を剥いて倒れてしまつた。国依別は驚いて、
『コレコレお姫様、そりや余り乱暴ぢやありませぬか?』
『国依別さま、あなたは妾を騙しましたねえ。独身ぢやとおつしやつたが、現に立派な奥様が訪ねてござつたぢやありませぬか。エヽ残念ぢや口惜しい』
と歯切をかむで狂ひまはる。秋山別は紅井姫の体をグツと抱へ、
『モシモシ姫様、さう荒立ちなさつてはお体に障ります。どうぞ気をお鎮めなさいませ。世の中は広いものです。男の数も決して一人や二人ぢやございませぬ。そンな気の狭い事をおつしやるに及びませぬ。あなたに適当な男がこのお館にも一人や半分は居ますから、御世話を致します。どうぞお鎮まり下さいませ』
『エヽお前は秋山別か、またしてもまたしても好かぬたらしい、震ひが来る、退いておくれ!』
と云ひながら、かよわき手に拳骨を固め、力一杯鼻つ柱を擲りつける。秋山別は不意に鼻つ柱を打たれ、目から火を出しながら、ヨロヨロヨロとよろめき、モリスの頭の上にドスンと倒れた機みに尻を下せば、モリスは夢中になつて、秋山別の睾丸を力一杯握りしめ、
『コリヤ国依別、貴様は女房のある身を持ちながら、神様の御規則に背き、箱入娘の姫様を誑らかしチヨロまかして、風紀を紊す大罪人、サアこの玉さへ抜けば、発情は致すまい。モリスが、睾丸割去術でも施して去勢してやらうか』
と一生懸命に固く握りつめる。秋山別は真青になつて『ウーン』と云つたきり、ふん伸びてしまつた。
 エリナ姫は気をいらち、
『モシ国依別さま、どうかしてやつて下さらぬと、息が止まりは致しませぬか』
 国依別は、
『さうですなア』
と云ひながら、モリスの手を指一本一本力を入れて放させた。秋山別は漸くに気が付き、呆け面してポカンと口をあけて紅井姫の顔を恨めしげに眺めて居る。
『あのマア厭な男、妾の顔に何ぞ付いて居りますか?』
『ハイ、何だか知りませぬが、男の顔がひつついてますワイ。それもクの字が一番ハツキリ現はれ、つぎにアの字が現はれて居りますが、クの字は段々と色が黒くなり、アの字が赤く花のやうに現はれかけました。あのクの字の黒い事わいの』
『またしても厭な事を云ふ男だナ。サア早うあちらへお行き!汚らはしい、アリーは居らぬか、サールは何処ぞ、早く箒を持つて来ておくれ』
 次の間に息をこらして控えてゐた二人の侍女は、箒と塵取を持つて現はれ、跪いて姫の手に渡せば、姫は手早くその箒を取り、第一に秋山別に向ひ、
『エヽ煩雑い男奴』
と云ひながら狂人の如く髪ふり乱し、目を釣りあげ所構はず打据ゑたり。モリスは、
『コレコレ姫様、そンな乱暴をなさつてはいけませぬ』
と立あがるを、姫は、
『ナニこの睾丸掴み』
と云ひながら、また叩きつける。二人は流石に手向ひもならず、コソコソとして吾居間に引下り行く。
『お前さまは国依別さまの御家内でせう。紅井が永らく御厄介になりまして、さぞお待兼でしたらう。サア大事の婿さまを伴れて、勝手にお帰りなさいませ』
『これはしたり姫様、そりや大変な考へ違ひ、この方はアラシカ山の山麓にござるウラル教の宣伝使エスと云ふ方の娘さまでございますよ。フトした事から途中にお目にかかり、二三日御世話になりましたもの、独身主義の国依別に、女房があつて堪りますか』
『あなたは世界を股にかけて御歩き遊ばす宣伝使様、うち見る島の先々、掻き見る磯の先おちず、若草の妻を至る所にお持ち遊ばし、神生み、御子生みを遊ばすだけあつて、随分巧に言霊をお使ひ遊ばします。妾も最早観念致しました。妾の恋は真剣でござります。つまり九寸五分式の猛烈な恋なれば、最早あなたに見放された上は、この世に生きて何の楽みもございませぬ。恋の病に悩み一生苦むよりも、一層この場であなたのお目の前で自害して相果てまする。愚な女と一口にお笑ひ下さいますれば、それを冥途の土産に嬉しう帰幽致します』
と隠し持つたる短刀を閃かし、ガハと喉につき立てむとするにぞ、国依別は打ち驚き、直に飛びつき、姫の手を打叩きしその途端に短刀はバラリと前におちぬ。国依別は手早く短刀を拾ひあげ、熱涙を流しながら、
『あゝ困つた事が出来て来たものだワイ。これと云ふのも、若い時に女泣かせや、御家倒し、家潰しを数限りなくやつて来たその酬ゐだらう……モシモシお姫様、私は今こそこンな殊勝らしい顔をして宣伝使になつて居りますが、私の素性を洗つたら如何な姫様でも愛想をつかされるでせう。随分と女を泣かして来た代物ですよ。こンな男に心中立をしたつて直に放かされ、蛸の揚壺を喰はされますよ。どうぞこンな男の事は思ひ切つて下さいませ』
『自分の事を自分で悪くおつしやる、その正直なお心が妾には震ひつくほど好でございます。果してこのエリナ様があなたの女房でないのならば、是非茲に御逗留遊ばして、妾に神様の教を聞かして下さいませ。お気に入らぬ者を無理に女房にして下さいとは申しませぬ。お側においてさへ頂けば、それで満足致しますから……』
『それは困りましたねい。どうしても私は急にここを立たねばなりませぬから、姫様のお側において頂く事は到底出来ませぬ。どうぞ思ひ切つて下さいませ』
『そんなら、あなたのお弟子として、どンな所でも厭ひませぬからお伴れ下さいませ。お願でございます』
『どうぞこのエリナもお弟子として、あなたのお出で遊ばす所へお伴れ下さいませ。その代りに洗濯や針仕事は十分致しまして、御神徳が授かつたら宣伝も致します』
『あゝ仕方がありませぬ。それならお二人共、一所に参りませう。しかしながら紅井姫様、貴女は楓別命様のお許しを受けなくてはなりますまい。お許しさへあれば、何時でもお伴を致しませう』
 紅井姫は、『ハイ有難うございます』と機嫌顔。
 これより国依別は楓別命に暇を告げ、二人の女を伴ひ、神館を後に日暮シ山の岩窟に向ひ、エス、キジ、マチの三人の生命を救ふべく夜の明けぬ中より準備なし、日暮シ山指して男女三人進み行く。

(大正一一・八・一八 旧六・二六 松村真澄録)



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