出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語30-5-241922/08海洋万里巳 陥穽王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
日暮シ山
あらすじ
 マチとキジが現れ、「エスを出せ」と言うと、ユーズとアナンは部下を率いて応対したが、戦おうとしないで、「酒を飲もう」と懐柔策に出る。キジは「自分でエスを探す」と洞窟内に踏み込み、教主ブールを見つけて脅す。ブールは「マチを出す」と言い、二人をおびき出した。二人は落とし穴に落ちてしまう。
名称
アナン キジ ブール マチ ユーズ
エス
ウラル教 世界同胞主義 木乃伊
 
本文    文字数=6406

第二四章 陥穽〔八六六〕

 アナン、ユーズの領袖連はヘベレケに酔ひ、足も碌に立たず、舌もまはらぬ連中を数多引率し、石門のふちに現はれ、
アナン『その方は昨夜、丸木橋の畔において吾々に抵抗至した三五教の奴だらう。サア、良い所へ来やがつた。今貴様と戦争したおかげで凱旋祝の酒宴を催し、俺達は酔が廻つて気分が好い最中だ。何用があつて来たのか知らぬが、そんなむづかしい顔をしないで、酒でもくらつてゆつくりと談判をせうぢやないか? 固苦しいことばかり言つてると命が縮まるワ。たまには命の洗濯や睾玉の皺伸ばしをやらないと、人間のやうな気持がせぬワイ。そんな野暮な顔しないで、トツトと中へ這入つて機嫌よく一杯やらぬかい』
キジ『昨夜は脆くも泡を食つて逃げ失せ、到底正面の戦ひにては、われわれを如何ともすることが出来ないと思ひ、毒酒を呑まして俺達をよわらせる猾き考へだらう。そんな策に乗るこの方ぢやないぞ。ゴテゴテ吐かさずに、其方等が押込めて居る宣伝使のエスを牢獄から出して、俺たちに渡せ! グヅグヅ吐かすと、岩屋退治を始めようか』
マチ『サア、アナン、ユーズその他の奴原、早くエスを此処へ連れて来い!』
アナン『ヤイヤイ喧かましう言ふない。そんなことどこかい。今日は貴様に負たおかげで、結構な酒を鱈腹のんで、精神恍惚とし、何にもかも忘れてしまつて、極愉快になつてる所だ。天が下に酒さへあれば、別に敵だの味方だのと、せせこましいことは要らない。酒ほど親密なものはない。マア一杯這入つてやらぬかい。どんなエライ喧嘩でも和睦には酒だい。人と交際するのに小むつかしい牆壁を設けるものぢやない。世界同胞主義を盛に称へられる今日だ。マア、エスはエスでエスとしておいて、奥へトツトと通つてくれ』
キジ『貴様はどこまでもヅーヅーしい奴だなア。余程俺達二人が恐ろしいと見えるな』
アナン『そりやヅイ分恐ろしいよ。閻魔が亡者の帳面を繰るよな面付をして、やつて来るのだからなア。オイ、キジ公とやら、何と云ふ七六つかしいシヤツ面をして居るのだ。今の内に美顔術でも施しておかぬと、年が老つて皮が固くなり、皺が深くなつてからは駄目だぞ』
キジ『エヽ、要らぬことを云ふな。これから俺が岩窟内へふみ込んで直接にエスの所在を調べてやらう。邪魔いたすとためにならぬぞ。サア来い、マチ公!』
と云ひながら、アナン、ユーズを始め、その他の者共を押分け、突倒し、窟内深く進み入り、遂には教主ブールの居間に侵入し、ブルブル慄ひて居るブールの素首をグツと握り、
キジ『サア、モウこうなつては駄目だ。何をブールブール慄うてゐるのだ。早く宣伝使のエスをここへ出さぬか』
マチ『ウラル教の親方、グヅグヅして居ると生首を引抜かれてしまうぞ。お前は何時もこの娑婆を穢土だと云ひ、霊の国を天国浄土と云つて、憧憬してゐるのだから、今首を引抜かれて霊になり、天国へ行くのは満足だらうが、何程天国でも、首がなくては駄目だ。サア早くエスの所在を白状せぬか』
 ブールは慄ひながら、
『ハイ今出させますから、一寸待つて下さい』
マチ『早く出せ、出し次第天国へ褒美として、昇れるやうにしてやらう。どうだ首を持つたなり、天国へ死んで行くのは嬉しかろ、アハヽヽヽ。何と妙な教だなア。人には死んでからの世界が結構だと云ひながら、サア自分が死ぬと云ふ段取りになると、ヤツパリ厭だと見えて、ビリビリ慄うてござるワイ。さうすりやヤツパリ、口と心と裏表のことを言つてゐるんだなア。俺達も今迄はウラル教の熱心な信者であり、二度もここへ参り、お前をこんな腰抜とは知らずに、活神さまだと思つて跪き拝んで居つたかと思へば、馬鹿らしうなつて来た。サア俺達の案内をしてエスの所在を知らせ。隠し立てをすると最早了見はならぬぞ。俺達二人に夜前のやうに数百人もやつて来て泡を吹き逃げ散るやうな弱虫ばかり、幾万人連れて居つたつて、何なるか。どれもこれも酒にヘベレケに酔ひ、今のザマは何だ。肝腎のアナンやユーズまでが碌に舌も廻らず、腰はフラフラになつて、ひよろついてるぢやないか。こんな事で、三五教の吾々に対し、挑戦するとは片腹痛い』
ブール『仕方がありませぬ。吾々の命さへ助けて下さらば、エスを渡しませう』
と先に立つて行く。二人はブールを見失はじと飛耳張目十二分の注意を払つて岩窟内を進んで行く。向うよりアナン、ユーズの両人はヒヨロヒヨロしながら巻舌になり、アナンはキジ公に、ユーズはマチ公にワザとにぶつかつた。その途端に、二足三足ヒヨロヒヨロとひよろつき、深き企みの陥穽に脆くも落込んでしまつた。
 『サア失敗つた!』とキジ、マチの二人は陥穽の中で無念の歯がみをなし、一生懸命に神言を唱へて居る。ブールは陥穽を覗き込み、さも愉快げに、
ブール『アハヽヽヽ、気の毒ながら、万劫末代、穴の底で木乃伊になる所まで辛抱したがよからう』
 アナン、ユーズの両人は二人の落ちた穴を互に覗き込み、
『ワハヽヽヽ、ても心地よいことだなア』
と罵詈嘲笑を逞しくして居る。エスを始めキジ、マチの三人の運命は果して如何なり行くならむか。

(大正一一・八・一六 旧六・二四 松村真澄録)



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