出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語30-4-171922/08海洋万里巳 出陣王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
日暮シ山
あらすじ
 ウラル教は、ブールを教主として、ユーズやアナンが幹部で、秘露の国の日暮シ山の大岩窟を聖場としていた。この国のウラル教は、最初は優勢であったが、三五教の楓別命も侮ることができない勢力を保ち、また、バラモン教の石熊の進出により危機に瀕していた。そんなところへ、三五教の言依別と国依別によって御倉山で敗北してしまったのだった。
 一同は、対応策を話し合う。その結果、まず、ヒルの都の楓別命の館を襲うことにして、数百人の部下を従えて出陣した。
名称
アナン ブール ユーズ
石熊 ウラル彦 楓別命 国依別 言依別 常世彦命 紅葉彦命
荒しの森 ウラル教 カルの国 体主霊従 巴留の国 バラモン教 日暮シ山 秘露の国 ヒルの都 御倉山 霊線 ロツキー山
 
本文    文字数=11626

第一七章 出陣〔八五九〕

 秘露の国日暮シ山の山腹に広大なる岩窟を掘り、ウラル教の霊場を作り、ロツキー山の本山と相応じて、一旦亡びかけたるウラル教も再び頭を擡げ、巴留の国の西北部よりヒル全体にその勢力を拡大して居る。この岩窟を日暮シ山の聖場と称へてゐた。此処にはブールを教主とし、ユーズ、アナンの両宣伝使はブールを助け、数多の宣伝使を四方に派し、大いにウラル教宣伝に力を尽しつつあつた。
 奥の一間には教主のブールを始め、アナン、ユーズの二人、色麗しき香り高き林檎を堆く盛り、互に皮を剥き、舌鼓を打つて味はひながら、幹部会議を開いて居た。
ブール『このヒルの国には紅葉彦命の伜楓別命三五教を宣伝致し、その勢中々侮る可らず、しかのみならずバラモン教の石熊の一派、この頃またもや俄に頭を擡げ、吾々ウラル教の牙城に向つて突進し来り、数多の国人は去就に迷ひ、今は殆ど両教のために数百年のウラル教の努力も、根底より覆へされむとしてゐる。吾々は何とかして、彼等両教の徒を駆追せなくては、ロツキー山の本山に対し、申訳がござらぬ。吾々が日頃唱道して居た、世の終りは近づけり、悔い改めよ、天国の門はやがて開かれむと、予言せし神示空しからず、今年のこの大旱魃、大饑饉、山河草木、殆ど枯死せむとするこの惨状、如何なる頑迷不霊の徒と雖も、これを見て無情を感じ、現世を忌み天国を希求せざる者あらむ、この機逸す可らずとなし、国魂神を斎りたる御倉山の谷川に、数多の国人集まると聞き、遠路の所遥々宣伝のために、吾々出張し、大部分吾教理に服し、天国に救はれむとする折しも、三五教の宣伝使忽然としてその場に現はれ、体主霊従的教理を説き、再びウラル教をして根底より転覆せしめたるその腕前、かかる邪教を看過するは吾々ウラル教宣伝使として、教祖常世彦命に対し奉り、またウラル彦の教主に対し、陳弁の辞なし。加ふるに、またもや荒しの森にて、昨日の如き大敗を取りしは、返す返すも残念至極の至りではないか?……アナン殿、この頽勢を如何にして挽回せむと思はるるか、腹蔵なく述べられたい』
と覗くやうにして問ひかけた。アナンはしばらく双手を組み、差俯向いて思案にくれてゐたが、ハタと両手を打ち、ニタリと笑ひ、
アナン『教主殿、私に一切を御委任下さらば、三五教は申すに及ばず、バラモン教徒をして一人も残らず帰順させて見ませう。しかしながらこの機を逸しては、到底その目的を達することは出来ませぬ。やがてここ十日も過ぐれば、今日の天候より観察するに、大雨沛然として降り来り、山河草木忽ちにして元の如く青々として蘇生するは鏡にかけて見るようでございますれば、今の内に宣伝使を残らず四方に派遣し、国人の弱点につけ入り……汝等悔い改めざれば今や亡びむとす、今迄の心を悔い改め、ウラル教に身を任せよ、さすればやがて天に祈り慈雨をふり注ぎ、山河草木人類をして蘇生の喜びに酔はしめ、天国の楽みを再び地上に現はし与へむ、早く悔い改めよ、天国はウラル教を信ずる者の領分なり……と、この際獅子奮迅の活動を開始せば、数多の国人は今迄迷へるバラモン、三五の両教を弊履の如く抛棄して吾教に先を争ひ、潮の如く集まり来るは目に見る如き感じが致します。どうぞ吾々にこれを一任なし下さいますれば、数多の宣伝使を使役し、宣伝使長となつて一肌脱いで見る覚悟でございます』
ブール『成程、それも妙案だ。しからばアナン殿、宣伝の件に就いては、一切万事御任せ申す』
アナン『早速の御承知……否御信任、有難くお受け仕ります』
と喜色満面に溢れ、肩を怒らし、腕を振り、意気揚々として、期する所あるものの如く雄健びしてゐる。ユーズは少しく首を傾けながら、
『教主殿、アナン殿の御進言は至極妙案奇策と存じますが、敵の末は根を切つて葉を絶やすとか申しまして、どうしても根本的に両教を絶滅するには、幹部に向つて大打撃を与へなくては、到底駄目でせう。仮令一時ウラル教に帰順する共、またもや、彼れ三五教の言依別、国依別の如き勇者ある上は到底完全に教義を宣布することは不可能でせう。先づ第一に焦眉の急とする所は、言依別、国依別の両宣伝使を亡き者とし、ヒルの都の楓別命の本城に攻め寄せ、根底より転覆絶滅せしめなくては到底駄目でせう。私の考へとしては、どうしても、枝葉の問題を後にし、この大問題たる根幹を芟除せなくてはならないと存じます』
ブール『ユーズ殿の云はるる通り、吾れもその戦法を以て最も肝要なる手段と心得る。……アナン殿、如何でござらうか』
アナン『しからばかう致したらどうでございませう。この館に集まれる八十人の宣伝使を半割き、四十人を一先づヒル、カル両国に至急派遣し、残り四十人の宣伝使を吾々が引率し、教主殿はこの聖場におはしまし、少数の役員信徒と共に、お守りを願ひ、吾々はユーズ殿と先づ楓別命の館に向つて、夜襲を試み、ただ一戦に滅亡せしめ、神の力を天下に現はしなば、素より体主霊従の事大主義に囚はれたる人々は、一も二もなくウラル教の権威に畏服し、帰順致すは明かな活たる事実でございませう』
ブール『しからば両人にお任せ申す。どうぞ一切万事に違算なきやう頼み入る』
アナン『仰せまでもなく、目から鼻へつき抜けた、智謀絶倫のユーズ殿、私が後に控えさせられての作戦計画なれば、水一滴の遺漏もございませぬ。御安心下さいませ』
ブール『いやいやかくまで勢力を四方に張つたる、楓別命また言依別、国依別のあの腕前、到底一通りにては往生致すまい。何とか神策を考究致さねば、軽々しく進んで敵の術中に陥るやうな事あらば、それこそ挽回の道がつかぬ。この点においてブール、甚だ心許なく存ずる。一例を挙ぐれば、御倉山の渓谷において、数多の宣伝使が居乍ら、脆くも吾々は敗走致せし苦き経験に徴し、容易に侮るべからざる強敵なれば、吾々は最も深く神を念じ、神力を身に充実して進まねばなりませぬぞ。智謀絶倫と聞えたるユーズ、アナンの両将までがただ一言の言霊をも交へず、雲を霞と逃げ帰つたる無態さ、吾れは只一人ふみ止まるに忍びず、止むを得ず引返せしやうな仕末なれば、果して両人において、確固不抜の成算がござるかなア』
ユーズ『アハヽヽヽ、吾々の神算鬼謀は敵に向つて弱しと見せかけ、ワザとに敗走の体を装ひ、彼等両人を版図内に深く入り込ませ四方より取囲み、袋の鼠と致して本教に帰順せしむるか、但は滅亡せしめむかとの考へより退却を致したのでござる。仮令三五教の宣伝使慓悍決死にして、鬼神を拉ぐ勇あり共、たかの知れた一人や二人、何の恐るる所がございませう。これもユーズが一つの計略でござれば、必ず必ず御煩慮なく、ユーズ、アナンの実力を御信任あらむことを希望致します』
と諄々として愉快気に述べ立てたり。
ブール『荒しの森の味方の敗北、たかが一人の宣伝使に対し、実に何とも形容の出来ない無念さではなかつたか。今思ひ出しても、実に腹立たしい。汝等両人、吾前にのみ強く、敵の影を見れば忽ち軟化し、所謂陰弁慶の徒にはあらざるやと、聊か懸念せざるを得なくなつた』
アナン『アハヽヽヽ、これに就ても天機洩らす可らざる深遠なる吾々の戦略、必ず必ず御心配なさいますな。キツと大勝利を現はし、お目にかけるでございませう』
ブール『しからば、汝両人を信任し、一切を委託する。随分気を付けてくれ』
と一間に入つてしまつた。後に二人は顔見合して、思案顔、
アナン『オイ、ユーズ、実に困つたことになつたものだないか。楓別命は実に古今無双の神力を具備する大神将なり、言依別、国依別はこれまた不可思議なる力を持つてゐる。彼等両人が放射する五色の霊線は、到底吾々近寄る可らざる威力がある。またバラモン教の石熊も中々以て注意周到な奴、決して油断は出来ない。どうしたら、千騎一騎のこの場合、彼等を殲滅することが出来ようかと心配でならないワ』
ユーズ『それだから、俺達はユーズを利かして、教主様の前でいろいろと言葉を構へ、威張つて見せ、教主の心に力を与へたのだ。勇将の下に弱卒なしだ。弱将をしてよく勇将たらしむるは、両人の任務である。サア、アナン殿、これより宣伝使を全部引つれ、また数百人の信者を以て、先づ第一に楓別の宣伝使の館を夜陰に乗じ、襲撃することにせう。大刀竹槍の用意は出来て居るであらうか?』
アナン『大刀竹槍を使ふは変事に際してのみ用ゐることを、神明許させ玉へ共、未だ武器を以て立向ふべき時ではあるまいぞ』
ユーズ『さてユーズの利かぬそのお言葉、千騎一騎のこの場合は即ち大変事のことではござらぬか? 斯様な時に武器を用ゐざれば、何れの時に用ゐむや。仮令敵は少数と雖も、古今無双の勇者、到底、口先の弁舌を以て帰順せしむることは思ひも寄らざる事なれば、短兵急に暴力を以て彼等の牙城を屠むらなくては、ウラル教の休戚に関する大問題だ。危急存亡の分るる所、ウラル教国家の興亡この時にあり。……サア、アナン殿、早く決心あれ』
アナン『智謀絶倫と聞えたるユーズ殿の言葉、アナン賛成致しませう』
ユーズ『早速の御承諾、実に有難し』
と座を立ち、別室に入り、宣伝使の溜り所に在る宣伝使を吾居間に呼集め、ヒルの館の夜襲に時を移さず着手せむ事を厳命した。一同は一も二もなく、ユーズの言葉に服従し、武装を整へ、ヒルの都の楓別命が館をさして、数百人の部下と共に、旗鼓堂々と進み行く。

(大正一一・八・一六 旧六・二四 松村真澄録)



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