出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語30-3-121922/08海洋万里巳 マラソン競争王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
巽の池
あらすじ
 末子姫一行は、巽の池に大蛇が再び住みつかないように鎮魂をしてから珍の都に向った。この時、不思議にもカールの足の長短は癒えていた。
 石熊の足腰が立たなくなった。末子姫は「時節が来れば立つようになる」と言って先に進もうとする。カールは自分から石熊と共に残り、石熊の足を天の数歌を歌いながらなで、祈願の歌を歌った。歌の最後に、「石熊を残して行く」と歌い、立ち去ろうとする。それを聞いた石熊は、「無情なことをする」と怒りにまかせて立ち上がって、カールの後を追う。石熊を怒らせて足をたたせるのは、カールが大神から授かった神策であった。
名称
幾公* 石熊 カール 末子姫 捨子姫 鷹公* 春公
生国魂 艮鬼門金神 大蛇 竜世姫 月照彦神 転輪王 竜神
天津祝詞 天の数歌 ウヅの国 珍の都 高砂洲 巽の池 鎮魂 錦の綾の機
 
本文    文字数=14095

第一二章 マラソン競争〔八五四〕

 茲に末子姫は捨子姫、カール、春公、幾公、鷹公、石熊の一行と共に芽出たく巽の池の大蛇を言向け和し、解脱せしめ、池に向つて感謝の詞を述べ、向後決してこの池に、従前の如き竜蛇神の棲居して、世人を苦めざるやうと深く鎮魂を修し、災を封じおき、いよいよ珍の都に向つて進むこととなりにけり。
 この時不思議にもカールの足の長短は何時の間にか両足相揃ひ、行歩極めて容易になつてゐた。されどカールは少しも気付かず、依然として跛の不具者と信じてゐるものの如くであつた。末子姫は天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ、一同に向ひ、
末子姫『サア皆様、御苦労でございました。これからボツボツと参りませう』
と先に立つて進み行く。
石熊『モシモシ皆様! 待つて下さい。どうしたものか、チツとも足が動かなくなりました。どうぞ鎮魂をして下さいませ。何だか締つけられるやうで、仕方がございませぬ』
カール『もし、末子姫様、石熊の大将、足が立たないと云つてゐます。困つた者ですなア』
末子『イエイエ決して御心配には及びませぬ。キツと時節が参れば、立つやうになります……なア、カールさま、不言実行と云ふことを御存じですか?』
カール『ハイ、分りました。どうぞ、そんなら姫様、一足お先へお越し下さいませ。捨子姫様も御一緒に御願致します……オイ春、幾、鷹の三公、お前はお二人様のお伴して帰つてくれ。俺は少し石熊の大将の足を直してから帰るから……』
春『オイ、カール、いい加減にしとかぬかい。余り今迄悪党なことばかりやつて来た酬いで神罰が当つたのだ。お前がどれだけ言霊が上手でも御祈りが立派でも駄目だよ。神様が御許しがなければ到底足が立つ筈がないワ。余り汚れた身魂だから、神様がウヅの聖地へ来ないようと、不動の金縛りをかけてござるのだよ。いい加減に帰つたらどうだ』
カール『そんな訳に行くものか。人の難儀を見て、それを救はずに帰るやうなことで、どうして神様の取次が出来るものか。何はともあれ姫様の御命令だ。グツグヅ云はずに早く姫様の御伴をして帰つてくれ。すぐに俺は追ひ付くから……』
春『さうか、ソリヤ実に感心な心になつたものだなア』
と嘲るやうに言ひながら、二人の後に従ひ、ウヅの都をさして帰り行く。
 後に二人は稍少時、水面に向つて暗祈黙祷を続けて居た。
カール『オイ石熊の大将! 今迄俺はお前の弟子となつて、エライお世話になつたものだ。今日はその御恩返しと罪亡ぼしのために、邪が非でもお前の足を直して、やらねばならぬ。どうしても足が立たなければ、俺が背中に負うてでもウヅの都へ連れて行く覚悟だからマア安心せよ』
石熊『ソリヤどうも有難い。苦労をかけて済まぬなア』
カール『世の中は相身互だ。さう病気も直らない内から礼を云つてくれると、どう云つて良いやら、俺も返答に困つてしまふ。マアゆつくりと気をしづめたが良からう。マア待て、俺がこれから新規蒔直しの言霊を奏上するから、キツとお前の足が巽の池となるのは受合だ。さうなつたら二人手に手を取つて潔く宣伝歌を謡ひ、ウヅの都をさしてサツサと乾の池だよ。水も洩らさぬ二人の仲だ。池ないことは互に堤かくさず、打明けて、兄弟の如く親切を尽し合はうぢやないか。この池のやうに水がタツプリ過ぎて、水臭い交際は最早改めねばならないよ。サアこれから一つカールさまの生言霊だ。マアそこへ足をニヨツと出せ。一つ鎮魂を御願してやらう。さうして言霊歌を奏上することにせう。笑ふなよ!』
石熊『勿体ない、祈念をして貰つて笑ふ奴があるものか。しかしながら病気が直つたら、余り嬉しくて、笑ひ泣きをするかも知れないから、夫丈は前以てお断りをしておく』
カール『嬉し笑ひなら、ドツサリ笑つてくれ。俺も手を拍つて嬉し笑ひをするからなア』
 石熊は池の畔の芝生の上に足をヌツと揃へ、突出してゐる。カールは例により、叮嚀に大腿骨の辺りから爪先まで、天の数歌を謡ひながら、幾回となく撫でおろし、そろそろ祈願の歌を謡ひ始めた。その歌、

『天津神様八百万  国津神様八百万
 此奴は余り悪が過ぎた故  最早運命は月照彦の
 神様どうぞこの足を  カールに直して下さんせ
 高砂島を守ります  生国魂の神様よ
 石熊さまの両足が  一時も早く竜世姫
 立つて踊つてシヤンシヤンと  ウヅの国へと喜んで
 勇んで参りますやうに  お守りなさつて下さりませい
 一時も早くこの躄  巽の池の竜神の
 罪はほどけて天上に  立帰りましたその如く
 忽ち平癒さしてたべ  腰から上はどうもない
 なぜこの足が悪いだろ  ヤツパリあしき事をした
 深いめぐりが来たのだろ  悪きを払うて助け玉へ
 転輪王ではなけれ共  天にまします神様よ
 地にまします神様よ  カールが代つて御願
 完美に委曲にきこし召し  早く助けて下さりませい
 私もこんな男をば  連れにするのは厭なれど
 旅は道伴れ世は情  神の戒め恐い故
 せうことなさに介抱する  オツトドツコイ石熊さま
 これは私の冗談だ  瓢箪からは駒が出る
 冗談からは隙が出る  灰吹きからは蛇アが出る
 一時も早く石熊に  憑依致した悪霊が
 出るやうに守つて下さんせ  此奴の体に這入つた以上
 キツと入口あるであろ  出口の神さま一時も
 早く追ひ出し下さんせ  百人一首ぢやなけれ共
 足を痛めた足引の  山鳥の尾のしだり尾の
 長々しくも何時迄も  かうしてゐては堪らない
 どうで罪をば重ねた男  御無礼の数々いつとなく
 尽しましたでございませう  お腹の立つのは尤もぢや
 しかし神様私の  願を容れて腹立てず
 足の立つよにしておくれ  夜明けに立つは○○ぢや
 親と一度に生れたる  伜は見ん事立つなれど
 此奴の足はどうしてか  容易に立たうと致さない
 如何なる罪があらうとも  今度ばかりはお助けを
 たつて御願申します  こりやまた不思議何時の間に
 俺の一方の長い足  誰が盗んで帰んだのか
 いつの間にやら両足が  高低なしに揃うてゐる
 かうなる上は俺とても  採長補短の融通は
 コレから利かすこた出来ぬ  いやまてしばし待てしばし
 そんな不足は云はれない  これも尊き神様が
 一方の足を縮めたか  但は一方を伸ばしたか
 何ぢや知らぬが嬉しいぞ  心もカールなつて来た
 石熊さまよ! これ見やれ  誠が天地に通じたら
 一生病のド跛も  いつの間にやら神さまが
 頼みもせぬのに気を利かし  チヤンと直して下さつた
 お前の足は真直に  長い短いない足だ
 こんな所で腰ぬかし  立つも立たぬもあるものか
 気を引立てて立つてみよ  三五教の御教に
 経と緯との御仕組  艮鬼門金神の
 気勘に叶うたことなれば  錦の綾の機をあげ
 天晴れ神の太柱  下つ岩根に立て通し
 上つ岩根につきこらし  信仰の徳をつむならば
 どんな悪魔もたてつかぬ  立てよ立て立て早く立て
 立てと云うたら立たぬかい  お前は余程腰抜だ
 巽の池の竜神の  あの勢に辟易し
 肝玉つぶして腰をぬき  アタ恥かしい荒男
 腰をぬかして何とする  俺のぬかすは口ばかり
 何時もグヅグヅ吐す奴  黙つて居れよと何時の日か
 俺を叱つたことがあろ  あゝ惟神々々
 叶はぬなれば立あがれ  性のよくないこの病
 耆婆扁鵲が現はれて  忽ち直してくれまいか
 俺の言霊立所に  御兆候がなければならぬ筈
 恥しながら是程に  言霊車を運転し
 きばつて見れどまだ立たぬ  立つた 立つた 立つた 立つたラツパ節
 法螺貝吹いたその酬い  こんな憂目に合ふのだろ
 竜世の姫の神さまよ  お前の水火に生れた子
 なぜに立たして下さらぬ  私は痛うも痒ゆもない
 さは去りながら心の中は  ホンに歯痒い痛ましい
 いたつて口のやかましい  この石熊も今は早
 往生致して居りまする  最早慢心致すまい
 改心記念に今一度  足が立つよに頼みます
 衝き立つ船戸の神様の  御名を負へるこの杖を
 力にチヨツと立つて見よ  あゝ惟神々々
 どうして是程お前の病  しぶとう直らぬ事だらう
 末子の姫の御一行  立つて行かれたその跡で
 気が気でならぬ二人連れ  神さまたつて頼みます
 オイオイ石熊立つて見よ  立つて立てない事はない
 お前の心を引立てて  誠の道を立て通し
 猜疑の心を絶つならば  キツとこの足立つだらう
 たつからお前を眺めても  横から見ても気にくはぬ
 ハラの立つよなスタイルだ  これでは役に立つまいぞ
 ヤレ立て ソラ立て 早う立て  ドツコイドツコイ ドツコイシヨ
 転けつ輾びつ気を引立つて  カールの後に跟いて来い
 最早俺さまは立つほどに  石熊さまよ御ゆつくり
 そこで御隠居なされませ  お腹が立つかは知らね共
 立たねばならぬこの場合  早く帰りて姫様の
 お役に立つが俺の役  サアサア行かうサア行かう
 ドツコイドツコイ ドツコイシヨ  ウントコ立つたり石熊さま
 気張つて立つたり石熊さま  左のお足を一寸屈め
 右の御足を一寸屈め  神さま力に立つて見よ
 立つに立たれぬことはない  心一つの持様だ
 さらばさらば』と立帰る  後に石熊只一人

石熊『オイオイカール待つてくれ  俺達一人をこんな所に
 捨てておくのは胴欲ぢや  こんな無情な事されて
 腹が立たずにおかうかい  腹が立たずに済むものか
 残念至極思ひ知れ』  無念の歯がみしながらも
 怒りにまぎれて両足の  痛を忘れて立上がり
 『コラコラカール一寸待て  貴様は誠に済まぬ奴
 コレから素首引抜いて  命を取らねばおかうか』と
 尻ひつからげドンドンと  カールの後を追うて行く。
 あゝ惟神々々  神の御霊の幸はひて
 カールの願も竜世姫  完美に委曲に聞し召し
 助け玉ひし有難さ  足の立つたる石熊は
 始めて天地の神徳を  悟ると共に逃て行く
 カールの心をよく悟り  忽ち両手を合せつつ
 『コレコレカール待つてくれ  お前のおかげで立ちました
 忽ち神徳現はれて  俺の体はこの通り
 決してお前を恨まない  一口お前に追ひついて
 今の御礼が申したい  たつて頼みぢや待つてくれ』
 声を限りにドンドンと  後おつかけて走り行く
 カールは後を振返り  

カール『ここまでござれ早ござれ  甘酒飲まして上げませう
 ウヅの都に末子姫  捨子の姫の両人が
 首を伸して待つてござる  お前のやうなヒヨツトコに
 話する間があるものか  用があるなら従いて来い
 ウヅの都でトツクリと  お前の合点が行くやうに
 詳しう説明してやらう  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませ』と  二人はマラソン競争の
 決勝点を競ふよに  大地を威喝させながら
 阿修羅の荒たる勢で  進み行くこそ勇ましき。
 これぞカールが大神に  教へられたる神策を
 実地に活用致したる  千変万化の働きぞ
 いよいよ茲に両人は  ウヅの都に安着し
 互に胸を打割つて  慈愛の神の御心を
 涙と共に語り合ひ  感謝するこそ畏けれ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましませよ。

(大正一一・八・一五 旧六・二三 松村真澄録)



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