出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語30-2-71922/08海洋万里巳 提燈の光王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
テル山峠 楠の森
あらすじ
 末子姫一行は楠の森で野宿することにしたが、カールがはしゃいで喋り続けて、他の者は眠れない。それでも、他の三人は何とか寝たが、カールは眠れず、道端で涼んでいた。そこへ、松若彦の部下の春公、幾公、鷹公が末子姫達を迎えにくる。
名称
幾公 石熊 カール 末子姫 捨子姫 鷹公 春公
厳の御霊 シーナ 素盞鳴大神 テル ハル 松若彦 瑞の御霊
珍の都 楠の森 警察犯処罰令 高照山 テル山峠 バラモン教 霊界物語
 
本文    文字数=14895

第七章 提燈の光〔八四九〕

 楠の森のこかげに蓑を布き、木の間をもるる九日の月の光を浴びながら、早速眠りもならず、今日一日に起りし不思議の運命を物語りつつ、夜を更かした。はしやぎ切つたカールは末子姫、捨子姫の渡来に何となく心欣々として勇み立ち、またバラモン教の石熊教主が苦もなく、三五教に帰順した嬉しさに心気興奮して眠られぬままに、日頃の饒舌車を運転し始めた。
『空に飛ぶ天狗の鼻の高照山の谷底に、教の館を構へつつ、バラモン教を遠近に、開いて人を導きし、心も固き石熊が、館に仕へし神司、中にも分けて男振り、人に優れたカールさま、あまたの女にチヤホヤと、持囃されて朝夕に、姿をうつす水鏡、心の波も静まりて、教の庭に穿ちたる、鏡の池に立向ひ、イヽヽヽ、吾れと吾手にすかし見て、呆れ果てたる色男、田舎娘がガヤガヤとカールさまよと取り巻いて、騒ぐは強ち無理でない、げにも五月蠅き人の世や。何の因果でこのやうに、玉子に目鼻を付けたような、お色の白い好い男、惚られる男は見目よしと、立派に生れた身の因果、宅の女房が気を揉んで、悋気するのも無理でない。うるさの娑婆に永らへて、惚れた女の顔を見る、私の心のうるささよ。思へば思へば先の世に、如何なる善事を尽せしか、今更云ふも野暮ながら、なぜにモ少しヒヨツトコに、生れて来なんだであらう、朝な夕なに神の前、どうぞ煩雑いナイス奴が私の事を思ひ切り、後足で砂でもかけて唾吐いて、肱鉄砲の数々を喰はしてくれる醜男に、造り直して下さんせ、シーナのやうなヒヨツトコが、去年の秋の末つ頃、見目容よき二人の女、高照山の麓まで、漸う漸う進み来るのを、目敏く眺めて涎くり、目を細くしてにじり寄り、コレコレモウシ旅の人、どこの何方か知らね共、私はシーナと申す者、仮令姿はこのやうに、蜥蜴のやうな顔なれど、心の中のドン底に、誠の花は咲き乱れ、実に芳ばしき男ぞや、馬には乗つて見よ、人には添うて見よ、世の諺もあるなれば、バラモン教の神司、中にも分けて神徳の、備はりゐますこのわしに、秋波を送り一時も、早く私の側に寄り、麝香のやうな男の匂、一度は嗅いで見やしやんせ、男ひでりもない世の中に、お前のやうな鯱面男、いかに男にかつえたとて、どうしてこれが忍ばれよう、なんぞと野暮な撥ね言葉、言はしやんすかは知らね共、人は見かけに寄らぬ者、仮令南瓜と言はれても、色好い茄子に比ぶれば、天地隔つる味がある。いがで包んだ柴栗も、恐いようには見ゆれ共、開いて見れば芳ばしき、三つの御霊がござるぞえ。渋皮一つ剥いだなら、女の好きな薩摩芋、芝居蒟蒻南瓜より、百倍千倍いやまさる、云ふに言はれぬ味がある。私の願を一通り、聞いておくれとすり寄つて、口説けば二人は立止まり、どこの何方か知らね共、砂原夕立か土手南瓜、薬鑵頭に瓢箪面、万金丹を計るよな、デコボコだらけのその顔に、何程醜い女ぢやとて、どうして、どうして秋波が送られう。こればつかりはシーナさま、お許しなされて下さりませと、態よく打出す肱鉄砲、此方は中々屈せばこそ、情火の光炎々と、天に冲する凄まじさ、一旦男の言ひ出した、言葉をお前に反古にされ、どうして男が立つ者か、破れかぶれのこの私、ウンと言はさにやおきませぬと、またも執拗う摺寄つて、恋の涙の一雫、落せば二人はあざ笑ひ、コレコレシーナの爺さまへ、お前の顔と御相談、遊ばしませよ余りぢや、私の好なはカールさま、あんなお方と末永う、添はれる事はさて措いて、仮令一夜の仮枕、それも叶はぬ事なれば、せめてお側にさぶらうて、水仕事門掃きや、褌の洗濯喜んで、致しませうと朝夕に、頼む神様仏様、妙見様もチヨロ臭い、ガラクタ国の法螺貝山に、止まり給ふ天狗様に、お願を朝夕かけ巻も、畏き神の御利益で、どうぞ会はして会はしてと、思ふ女の真心を、仇になされたカールさま、恨めしいわいなと、目を拭ひイヽヽ、悔み歎けばシーナさま、ハツとばかりに腹を立て、男の意地はこの通り百里二百里三百里、筑紫の国の果までもお前の後を付け狙ひ、思ひ通さでおくものか、厭なら厭でシーナにも、覚悟があると云ひながら、無残や二人を谷川に、力限りに突落し、人の花と眺めむよりは一層殺してしまうたら、恋の亡執は晴れるだろと、無法を尽したその酬い、二人の女の怨霊は、夜な夜な青い火玉となり、或は髪を振乱し、あゝ恨めしや恨めしや、お前は気強いシーナさま、私は深い谷底に、突落されて死にました。恨みを晴らさでおくものかと、夜な夜な出づる幽霊姿、さすがのシーナも弱り果て、カールの館に尋ね来て、コレコレモウシ、カールさま、お前に済まぬ事ながら、テルとハルとの亡霊を、どうぞ鎮めて下さんせ、お前のやうな好い男、テルとハルとの亡霊に、たつた一言鎮まれと、云うてくれたら俺達が、千言万語を費して、言訳するより効がある。バラモン教のお経をば、千僧万僧寄り合うて、唱へるよりも喜んで、一度に成仏するであろ、一人の男のあつたら生命、助けてやらうと思ふなら、慈悲ぢや情ぢや聞いてたべ、などと五月蠅い矢の使、お門の広いこの男、どうして死んだ女にまで、応対してやる暇があらう。あちら此方の女奴に、袖を引かれて何時とても、女房の小言を聞くばかり、こんな詰らぬ事あろか、どうぞこの苦が逃れたさ、珍の都に現れませる、松若彦の神司に、一伍一什を打あけて、神の司に助けられ、やうやう此処まで安楽に、女難に逃れて来た男、思へば思へば夢ぢやつた……アハヽヽヽ』
石熊『アハヽヽヽ、喧しい奴だなア。丸で蜂の巣を側においたやうなものだ。モウいい加減に沈黙せぬか』
カール『ハーイ、ハイ、沈黙致すでございませう。時は早子の正刻何れも様も、早くお休みなされませい。某は少し用事もござらば、後程寝所に参りませう』
石熊『馬鹿ツ』
と大喝する。
末子姫『カールさまよく滑車が運転しましたねい』
カール『これが所謂カール口と申します。アハツハヽヽ』
 末子姫を始め三人は漸く寝に就いた。カールはどうしても眠られぬがままに森を立出で、路傍に涼みながら、小声に鼻唄を唄つて涼んで居る。向うの方より十曜の紋の印の入つた丸提灯をブラつかせながら、二三人の話声刻々と近寄つて来る。カールは透かし見て、
カール『ハハー、来よつたなア。ウヅの都から松若彦のお使として末子姫、捨子姫様を御迎へのため、出張したのらしい。一つこの木蔭に潜んで、からかつて見てやらう。余り暑くつて寝る訳にも行かず、三人の連中さまは寝てしまふなり、俺一人かうしてブラついてをつても仕方ない。狐でも狸でも来やがつたら、一つ相手になつて見ようと思つて居つた所だ。どうやら向うも三人と見える、ヤア面白い面白い』
と独言を云ひながら、三人の通りかかるを待つて居た。三人はカールがこんな所に潜んで居るとは夢にも知らず、行過ぎむとする。カールは俄に女の作り声、
カール『モシモシ旅のお方さま、あなたの提灯には十曜のお印が入つて居ります。もしや三五教のお方ではございませぬか? 妾ははるばると海原を渡り参つた者でございます。余りの急坂で思ひの外、暇取りまして、此処で一夜を明かさむと主従二人が心安き雨宿り、珍の都へはまだ余程里程がございますかなア?』
提灯持つた男『ハイ、お察しの通り、私は珍の都の松若彦様の身内の者でございます。そうおつしやる貴女様は失礼ながら、素盞嗚大神様の御娘子、末子姫様ではございませぬか?』
カール『御察しの通妾は末子姫でござんす。さう云ふあなたは何方へお越し遊ばすのでございますか?』
甲『ハイ、良い所でお目にかかりました。実は御神勅によつて貴女様主従、ウヅの都へお越し下さる事を教主様がお伺ひ遊ばされ、吾々三人に……サアこれからお迎ひに参れキツとテル山峠の近辺でお出会ひ申すであらう……と仰せられましたので、実は足の達者な者ばかりお迎へに参りました。……サアこれからお伴を致しませう』
カール『それはそれは御親切に有難うございます。しかしながら妾は生れ付き一方の足が長過ぎますので、あなた方の御伴は到底叶ひませぬ。何程カールでも草臥果てて、お足が重くなりまして、森蔭に休息……否安眠致して居りまする。どうぞ明日にして下さいませ』
乙『それはまた妙な事を仰せられます。安眠してござるお方が立つてものをおつしやるとは、少しく合点が参りませぬ』
カール『所変れば品変る、お家変れば風変る、嬶が変れば顔変ると申しまして、妾の国では立つたまま安眠を致し、寝ながらものを申すのが国の習慣でございます』
乙『何と妙でございますなア。さうするとあなたは女でゐらつしやいますけ共、厳の御霊の御守護でございますか? 瑞の御霊の守護神とか申して、霊界物語を作る男は、横にねたまま、鼾をかきながら話をするとか云ふ事を聞きましたが、ヤツパリそんな、国によつて風俗があるのでございますかなア』
カール『それはいろいろと国によつてカール……オツトドツコイ、アールさうでございますワイ。何分三人の連中が白河夜船で森の中にお休みになつたものですから、仕方なしに一寸此処まで、末子姫様の守護神が出張店を開いてゐられる所でございます。アハヽヽヽ』
甲『ヤアその声はカールさまぢやないか』
カール『カールだから、声もカール、末子姫様に一寸カール(代る)と云ふ言霊だ、オツホヽヽヽ』
甲『何だチツト可怪しいと思つて居つた。一方の足が長すぎると云つた時から、チと臭いと考へて居つたが、まさか貴様がそんな洒落をするとは思はなかつた』
カール『足引のチンバのカールが、したり顔、中々甘く人をたばかる……アハヽヽヽ。これが新派の百人一首だ……否悪人一首だ。アハヽヽヽ』
甲『さうして、姫様はどこに休んでござるのだ。案内してくれないか』
カール『馬鹿云ふな。とうに暮れてしまつて、最早子の刻だ。くれない……なんて、何を言ふのだ』
乙『相変らず馬鹿口を叩く男だなア。早く御所在を知らしてくれぬか』
カール『御知らせ申したいは山々なれど、何分御存知の通り、暗夜の事とて御行方を見失ひ、どこにどうしてござるかと、暗にさまよふ、いぢらしさ、せめて提灯一つあつたなら、そこらブラブラ ブラついて、見付け出したいとは思へ共、何を云うても、畜生ならぬ人の身は、悲しや夜は目が見えぬ、推量あれや旅の人』
甲『何を吐かすのだ。真面目に云はないか』
カール『折角お草臥になつて、お休みの最中だ。お前達がガサガサとお側へ寄らうものなら、お目をさましては済まないから、俺がこうして一息でも御安眠遊ばすやうに、喰ひ止めてゐるのだ。マア茲でゆつくりしたらどうだ。お前は春に、幾に鷹の三人ぢやないか』
甲『オウさうだ。しかしながら折角此処まで来たのだから、一寸御挨拶をしたいものだなア』
カール『分らぬ奴だなア。明日になつたら、いやと云ふほど御挨拶をさしてやる。今頃にお目をさまして安眠妨害をすると、警察犯処罰令でやられるぞ。それ共御挨拶がしたけら、お前達提灯を持つてるのだから、勝手に捜索隊を組織して捜したがよからう』
 四人は路傍に立つて喧ましく掛合うて居る話声が、夜敏い末子姫の耳に響いた。末子姫はやをら身を起し、向うを見れば十曜の紋の記された丸提灯が一張、二三人の影が、森の中の木間をすかして見えてゐる。末子姫は折角よく寝入つてゐる捨子姫、石熊の両人に眼をさまさしては気の毒と思ひ煩ひながら、明りを目当に探り足にて、街道に漸く姿を現はした。
末子姫『あなたはカールさまぢやございませぬか。そのお提灯のお光は何れのお方でございますかなア』
 この声に四人は驚き、
『ハイ只今松若彦様の命令によつて、あなた様御一行をお迎へに参つた使の者でございます』
末子姫『それはそれは御親切に、遠方の所、よくマア来て下さいました。どうぞ此方へお越し下さいませ』
カール『誠に御一同様、見るもいぶせき茅屋なれど、カールの住宅、サア御遠慮なうトツトと奥へ御通り遊ばせや』
末子姫『ホヽヽヽ』
三人『アハヽヽヽ』
と笑ひながら、末子姫の後に従ひ、二人の眠れる森蔭に探り行く。

(大正一一・八・一四 旧六・二二 松村真澄録)



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