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原著名出版年月表題作者その他
物語29-4-171922/08海洋万里辰 途上の邂逅王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
ゼムの港
あらすじ
 高姫一行はゼムの港に着き、マールとボールに会う。二人はモールバンドに襲われたところを鷹依姫一行に助けられて、鷹依姫達に高姫の話を聞き、彼らに同情しての恨みを晴らしてやろうと高姫一行を待ち構えていたのだった。高姫はその二人から鷹依姫一行の無事を知る。
 実は、マールとボールはカーリン島では無頼漢で島を逃げ出したのだった。知り合いのヨブの説得に、二人は高姫を許して入信する。
*モールバンド***
○玉の森に沢山住んでいる。
○長い尾が剣のようになっていてそれで突き刺す。また、尾は伸びたり、縮んだりする。
名称
高姫 常彦 春彦 ボール マール ヨブ
カーリンス 鷹依姫 竜国別 テーリスタン 天地の神 モールバンド
アマゾン河 自転倒島 カーリン島 カーリン丸 神の因縁 ゼムの港 高砂洲 玉の森 チンの港
 
本文    文字数=12097

第一七章 途上の邂逅〔八三九〕

 高姫一行は、海上波も静かに神徳著しく、漸くにしてゼム港に安着した。この地は船着きの事とて相当に人家も稠密であつた。老若男女は高姫一同の宣伝使姿を見て、物珍らしげに目送しながら、口々に囁き合うて居る。
甲『去年の恰度この頃だつた。婆アの宣伝使が一人と、男の宣伝使が三人、尾羽打枯らして、淋しさうな恰好で、宣伝歌とやらを唄ひ、ここを通りよつたが、今年もまた廻つて来よつただないか。しかしながらあの婆アは少し若うなつてるぢやないか。一生懸命宣伝歌を唄つてると、年寄りでもヤツパリ若くなると見えるなア』
乙『馬鹿言ふな。去年通つた宣伝使は、三五教の鷹依姫と云ふ婆アだ。一人は息子で、後二人はあの婆アの従僕といふ事だつたよ。カーリン丸から海中に堕ちて、婆アを始め四人の行方が不明となつて、大捜索をしたものだが、何時の間にか、大きな亀の背中に乗つて四人共ゼムの港に悠々と浮みあがり、大勢をアツと言はした婆アさまに比ぶれば、余程見劣りがするよ。大方彼奴ア、あの婆アの弟子位なものだらう。しかし妙な事があるものぢやないか。丁度去年の今日ぢやつた。日と云ひ刻限までチツとも違はずに、婆ア一人男三人の宣伝使が、この街道を通ると云ふ事は実に不思議なものだなあ』
甲『それが所謂神の因縁と云ふものだらうかい。何でも婆アのお伴をしてゐたテーとか、カーとか云ふ男の話では、可哀相に年が老つてから、自転倒島を追ひ出され、こんな所迄出て来て、艱難苦労をしてると云ふ事だ。そのまた追出した高姫とか云ふ奴、聞いても憎らしいよな婆アだなア。人の事でも腹が立つ。彼奴は大方その高姫と云ふ奴ぢやなからうかなア』
乙『さうかも知れぬな。何でも高姫は鷹依姫より十歳ばかり年が若いと聞いてゐたから、ヒヨツとして、的さまかも知れぬぞ』
と聞えよがしに、大きな声で喋つてゐる。高姫はこれを聞くより、二人の男の側に、ツカツカと進み寄り、
高姫『モシモシ今あなたの御話を耳にしますれば、三五教の鷹依姫さまとやらが、ここを御通りになつたとおつしやいましたが、本当でございますか』
乙『本当だとも、本島には三五教の高姫のやうな出鱈目を云つたり、都合が悪ければ嘘をつくと云ふやうな者は一人もございませぬワイ』
高姫『あゝ左様でございますか。有難うございます。さうしてその鷹依姫さまの一行はどちらへ行かれましたか、御存じなれば、御知らせ下さいませぬか』
乙『噂に聞けば天祥山の瀑布で、しばらく荒行をし、それから山越しにチンの港へ出て、何でもアマゾン河を溯つて、モールバンドの沢山に棲ゐしてをる玉の森とかへ行つたとか云ふ話だ』
高姫『あゝ左様でございましたか、どうも御邪魔を致しました。……サア皆さま、参りませう』
甲『コレコレ婆アさま、一寸待つた。お前は鷹依姫を追つ放り出した、意地悪婆アの高姫ではあるまいかなア』
乙『オイそんな事を尋ねるに及ばぬぢやないか。意地くねの悪い三五教の高姫とチヤンとあの顔に印が入つてるぢやないか。お前も余程察しの悪い男だなア』
甲『お前の云ふ通りだ。いくら頭脳の悪い俺でも、一見して高姫だと云ふ事は分つてゐるワイ。……コリヤ高姫一寸待て!貴様に申渡すべき仔細があるのだ』
高姫『御察しの通り、妾は高姫に間違ありませぬ。さうしてまたお前は鷹依姫様の事に付いて、エロウ御詳しいやうだが、一体あの方とは、どう云ふ御関係があるのですか』
甲『有るの無いのつて、鷹依姫さまは俺達の生命の親だ。あの御方が去年天祥山の滝へ来てくれなかつた位なら、俺達二人は今頃はこの世の明りを見る所か、白骨になつて居る所だ。その命の恩人を虐待して、無理難題を申し、このやうな所まで追放しよつた高姫こそ生命の親の仇敵だ。サア高姫、モウこうなつた以上は天運の尽きだ。冥途の旅立をさしてやらう。覚悟せ』
と懐よりピカツと光る物を取出し、両方から突いてかからうとする。高姫はヒラリと体をかはした。ヨブは二人の真ん中に大手を拡げ、
ヨブ『マア待つた待つた。これには深い訳があるのだ。俺も今迄この高姫を見付け次第、生首引抜かにやおかぬと、附け狙うて居つたが、事情を聞いて、今は俺も高姫さまの御弟子となつたのだ。マア待つてくれ。お前はカーリン島のマールにボールぢやないか』
マール『さう云ふお前はヨブさまか、久し振りだつたなア』
ヨブ『チツとお前等両人、改心が出来たかなア』
 マール、ボールの二人は、
『ハイ』
と俄に態度を改め、
両人『先年は誠に済まぬ事を致しました。こう云ふ所でお目に係るのも、ヤツパリ天罰が循つて来たのでせう』
ヨブ『イヤ過去つた事は云ふに及ばぬ。高姫さま始め二人の方が居られる前だから、俺は何にも言はぬ。その代りにこれから俺が高姫さまの因縁を説いて聞かしてやるから、しつかり聞いてくれ。今迄の罪はスツカリと帳消しにしてやるから……』
マール『ハイ有難うございます』
ボール『改心致しまして、御話を聞かして貰ひませう』
ヨブ『最前お前は鷹依姫さまを命の親だと云つたが、そりやまた如う云ふ理由だ。その訳を聞かしてくれ』
マール『実の所はカーリン島では無頼漢と言はれ、悪漢と罵られ、誰一人相手になつてくれる者もなし、余り面白くないのでお前の家へ夜中に忍び込み、三百両の金をボツたくり、首尾克く逃ようとする所、お前が外から帰つて来るのと門口で出会ひ……ヤアお前はマール、ボールの両人だないか……と言はれた時の恐ろしさ。コリヤきつと島の規則にてらして、明日は両人共締め首の刑に遇はねばならぬと、小舟を盗み出し、暗に紛れて夜を日に継いで、どうやらこうやら、ゼムの港まで風に吹きつけられ……ヤアこれで一安心だ。しかしながらどうも自分の後から追手が来さうで、恐ろしくてたまらないものだから、コリヤ天祥山の滝に打たれて、一つ修行をし、神様に罪を赦して戴かうと、それから毎晩滝にひたつて、修業をやつて居りました。そした所が、何時の間にか、モールバンドがバサリバサリと長い尾をツンと立てながら、赤裸で二人が滝に打たれてる前へやつて来て、尻をブリブリ振り立てて尾の先の剣にて吾々を打たうと身構して居る。此奴アたまらぬと一生懸命に天地の神様を念じて見たが、中々容易に退却する所か、益々その尾を振り動かし、今や二人の体は尻尾の剣に切られて、真二つにならむとする所、俄に宣伝歌が聞え出した。その声を聞くと共に、モールバンドの奴そろそろ尾を縮めて短くし出した。宣伝歌の声は段々と高くなつて来る。モールバンドの怪獣は尾を垂れ、首を垂れ、バサリバサリと傍の森林目蒐けて姿を隠してしまつた。そこへやつて来られたのは三五教の鷹依姫様を始め、竜国別、テー、カーと云ふ宣伝使の一行であつた。あの時にもしも、鷹依姫様がそこへ来て下さらなかつたならば、吾々は最早この世の人ではないのだ。そこで俺達は鷹依姫さまを命の親と仰ぎ、直に入信してお弟子となつたのだ。テー、カーと云ふ二人の男から高姫と鷹依姫さまとの関係を残らず聞かされ、腹が立つてたまらなくなり、神様のお指図によつて、今日はキツと高姫がゼムの港へ上陸すると云ふ事を悟つた故、私の命を助けて貰つた今日は記念日だ、命の親の敵を討つのは今日だと、刃物を用意し、研ぎすまして待つてゐたのだ。そした所神のお指図に違はず、高姫一行がここへ見えたのだから、どうしても命の親様の御恩に酬ゆるため、高姫の命をとり、仇敵を討つてお上げ申さねばならない。……どうぞヨブ様、私の目的を立てさせて下さいませ』
ヨブ『お前の命を助けてくれたのはそりや鷹依姫であらう。しかしながらその鷹依姫を高砂島へ出て来るようにしたのは誰だと思うてゐるか。ここにござる高姫さまぢやないか、そうすれば直接間接の違こそあれ、高姫さまがお前の命を助けてくれたも同様ぢやないか』
マール『さう聞けばさうですなア』
ボール『如何にもヨブさまのおつしやる通り、高姫さまが鷹依姫さまを、無茶を云うて追出さなかつたら、こんな所へお出でになる気遣はなし、また俺達も助けて貰ふ訳にも行かなかつたのだ。さう思へば余り高姫さまを悪く思ふ訳には行かぬワイ』
ヨブ『何事もすべて神様の御心から出来て来るのだから、人間の考へである一部分を掴まへて、善だの悪だの、敵だの味方だのと云ふのは第一間違ぢや。ただ何事も、人間は、神様の御意思に任すより仕方がないのだよ。高姫様に御無礼を働かうとした、その罪をお詫するがよからう』
マール『コレハコレハ高姫様、誠にエライ取違を致しまして、どうぞ憎い奴ぢやと思召さずに、神直日大直日に見直し聞直し、お赦し下さいませ。今ヨブさまの御意見によりましてスツカリ改心致しました。貴女こそ鷹依姫様にも優る私等に対しての、生命の御恩人でございます』
ボール『高姫様、どうぞ御許しを願ひます。……ヨブさま、どうぞあなた様から、よろしくお執成しを御願致します』
高姫『あゝ皆さま有難う。ようそこまで鷹依姫様に対し、お心を掛て下さいます。妾は何よりあなた方のその美はしきお心が嬉しうございます。妾もあなたの御聞の通り随分我情我慢の強い女でございました。さうして鷹依姫様その外の方々に対し、実に無残な仕方を致しましたが、今日では最早スツカリと改心を致しまして、真心一つで神様の御用をさして頂いて居りますから、どうぞ今後はよろしく、御互に御世話を願ひます』
マール『有難うございました。これにて私もヤツと安心致しました』
ボール『高姫さま、ヨブさま、御一同様、どうぞ私のやうな愚者、何卒御見捨てなく、今後の御指導を御願申します』
 常彦、春彦両人は奇妙なる因縁の寄合ひに今更の如く感じ入り、呆けたやうな顔をして、この光景をまんじりともせず眺めて居る。

(大正一一・八・一三 旧六・二一 松村真澄録)



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