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原著名出版年月表題作者その他
物語29-3-141922/08海洋万里辰 カーリン丸王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
アイル河 カーリン丸
あらすじ
 一行は玉の湖のほとりで竜国別が改心の記念に刻んだ石像を見つけ、高姫はそれを自分の罪滅ぼしと背に負ってゆく。これが地蔵の濫觴となった。
 次に、玉の湖で錦魚(金魚)を見て、縦と緯の協力の大切さを教えられた。
 一行は、ゼムの港よりカーリン丸に乗り込む。船上では男が、「去年の今頃、鷹依姫と言う女がこの船上から海に落ちて、それを助けようと竜国別という男と後二人も飛び込んで行方不明だ。これは、高姫という悪い女が、四人を追い出したのが原因だそうだ。高姫を見つけたら、その首を引き抜く」と怒っていた。
 高姫はそれを聞き、自ら名乗り出て、「罪滅ぼしのために、自分をいかようにもしていくれ」と言う。そのいさぎよい態度に、男は張り詰めた気持ちもどこかへいってしまい、ついに高姫を許す。
名称
タール 高姫 常彦 春彦 ヤコブ ヨブ
厳の御霊 カーリンス 金毛九尾の悪狐 黒姫 鷹依姫 竜国別 テーリスタン 変性男子 八岐の大蛇
アマゾン河 アリナの滝 アルゼンチン! アルの港 ウヅの国 自転倒島 カーリン丸 金魚 檪ケ原 黄金の玉 ゼムの港 高砂洲 玉の湖 地蔵 テルの国 南米! 錦魚 錦の機 如意宝珠 利己主義
 
本文    文字数=16655

第一四章 カーリン丸〔八三六〕

 三人は湖水の傍なる椰子樹の森に一夜を明かした。その夜は比較的風強く、湖水の波の音は雷の如く時々ドンドンと響いて来た。この湖水の名を玉の湖と云ふ。東西五十里、南北三十五里位の大湖水であつた。そしてこの湖水の形は瓢箪を縦に割つて半分を仰向けにしたやうな形をしてゐる。地平線上より新に生れ出で玉ふ真紅の太陽はニコニコとして舞ひ狂ひながら、刻々に昇天し給ふ。一同は湖水に顔を洗ひ、口を滌ぎ手を清め、拍手感謝の詞を奏上し、蔓苺を掌に一杯むしり取つて朝飯に代へた。よくよく見れば傍に神の姿した石が立つて居る。さて不思議と裏面を見れば、軟かき石像の裏に、『鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスの一行四人、改心記念のためにこの石像を刻み置く……』と刻り附けてあつた。常彦はこの文面を読み上げて高姫に聞かした。高姫は驚いて、
高姫『あゝ矢張鷹依姫さまも竜国別さまも、テー、カーも、つまりこの荒原を彷徨うてござつたと見える。ホンにお気の毒な、あるにあられぬ苦労をなさつたであらう。この高姫が無慈悲にも、黒姫さまが黄金の玉を紛失したと云つて、鷹依姫さまや、外三人の方にまで難題を云ひつのり、聖地を追ひ出したのは、何と云ふ気強いことをしたのであらう。今になつて過去を顧みれば、私の犯した罪、人さまの恨みが実に恐ろしくなつて来た。せめては鷹依姫さま一同の苦労なさつて通られた跡を、こうして修業に歩かして貰ふのも、私の罪亡ぼし、また因果の循り循りて同じ処を迂路つき廻るやうになつたのだらう。諺にも……人を呪はば穴二つ……とやら、情は人のためならずとやら、善にもあれ、悪にもあれ、何事も皆吾身に報うて来るものだ……と口にはいつも立派に人様に向つて、諭しては居たものの、かうして自分が実地に当つて見ると、尚更神様の教が身に沁々と沁み亘つて、有難いやら恐ろしいやら、何とも申上げやうがございませぬ。……あゝ鷹依姫様、竜国別様、テー、カーの両人さま、高姫のあなた方に加へた残虐無道の罪、どうぞ許して下さいませ。あなたがこんな遠国へ来て種々雑多と苦労をなさるのも、皆この高姫に憑依してゐた、金毛九尾の悪狐のなせし業、どうぞ赦して下さいませ。この石像は、鷹依姫様、竜国別様の心を籠められた記念物、これを見るにつけても、おいとしいやら、お気の毒やら、お懐かしいような気が致します。何程重たくても罪亡ぼしのためにこの石像を、鷹依姫様、外御一同と思ひ自転倒島まで負うて帰り、お宮を建てて、朝夕にお給仕を致し、私の重い罪を赦して戴かねばなりませぬ』
と念じながら、四辺の蔓草を綯つて縄を作り、背中に括りつけ、その上から蓑を被り、持重りのする石像を背中に負うて、たうとうアマゾン河の森林まで帰つてしまつたのである。これが家々に、小さき地蔵を造り、屋敷の隅に、石を畳み、その上に祀ることとなつた濫觴である。
 さて高姫は石像を背に負ひ、エチエチしながら草野を分けて湖畔を東へ東へと二人の同行と共に進み行く。
 高姫は玉の湖畔を進みながら、湖中に溌溂として泳げる、何とも云へぬ美しき五色の、縦筋や横筋の通つた魚を眺め、
高姫『コレコレ、一寸御覧なさい、常彦、不思議な魚が居ります。これが噂に聞いた、玉の湖の錦魚といふのでせう。一名金魚とか云ふさうですが、本当に綺麗なものぢやございませぬか』
常彦『成程、天火水地結と青赤紫白黄、順序よく縦筋がはいつて居りますな。これが所謂縦魚でございませう。あゝ此処にも横にまた同じやうな五色の斑の附いた魚が泳いでゐます。どちらが雄で、どちらが雌でせうかなア』
春彦『定まつた事よ。縦筋の方が雄で、横筋のはいつた方が雌だ。経と緯と夫婦揃うて錦の機を織ると云ふのだから、錦魚と云ふのだ。この鰭を見よ、随分立派な鰭ぢやないか』
常彦『しかしこの魚には目が無いぢやないか。此奴アどうも不思議ぢやないか』
春彦『この縦筋のはいつた盲魚は一名高姫魚と云ひ、横筋のはいつたのは春彦魚と云ふのだ。どちらも盲だから、マタイものだ。それこの通り逃げも何もせぬぢやないか。しかし手に取ると、やつぱりピンピン撥ねよるワ。ヤア其処へ本当の錦魚がやつて来たぞ。此奴ア縦横十文字、素的滅法界、綺麗な筋がはいつて、ピカピカ光つてゐる。目も大きな目があいてゐる。……なア高姫さま、これを見ても経と緯と揃はねば、変性男子の系統ばかりでも見えず、女子の行方ばかりでも後先が見えぬと云ふ神様の御教訓ですな』
 高姫頻りに首を振り、
高姫『ウーン、なんとまア神様の御経綸と云ふものは恐れ入つたものでございます。これを見て改心せねばなりませぬワイ。今迄の三五教のやうに、経緯の盲同士が盲縞を織つて居つては、何時迄も錦の機は織り上がりませぬ。それに就いては私が第一悪かつた。経糸はヂツとさへして居れば良いのに、緯糸以上に藻掻くものだから、薩張ワヤになつてしまうたのぢや。あゝ何を見ても神様の教訓ばかり、何故今迄こんな見易い道理が分らなんだのだらう。ヤツパリ金毛九尾に眼を眩まされてゐたのだ』
と長大嘆息をしてゐる。これより一行は夜を日に継ぎ、漸くにしてアルの海岸に着いた。幸ひ船はゼムの港に向つて出帆せむとする間際であつた。高姫は慌しく『オーイオーイ』と呼止めた。船頭は今纜を解いて港を少しばかり離れた船を引返し、三人を乗らしめ、折からの南風に帆を孕ませ、ゼムの港を指して波上ゆるやかに辷り行く。
 長き海上の退屈紛れに船客の間にあちらこちらと雑談が始まつた。高姫一行は船の片隅に小さくなつて控へてゐる。
甲『去年の事だつたか、この船に乗つてゼムの港へ渡る時の船客の話しに、テルの国のアリナの滝とやらに大変な玉取神さまが現はれ、彼方からも此方からも、種々雑多の玉をお供へに行つて、いろいろの願事を叶へて貰はうと、欲な連中が引も切らず参拝してゐたさうぢや。さうすると何でもヒルとか夜とか云ふ国の偉いお方が黄金の玉をお供へになつた。玉取神さまはその黄金の玉が気に入つたと見えて、夜さりの間に玉を引つ担ぎ、何処へ逃げ出し、ウヅの国の櫟ケ原とかで、折角持出した玉を、天狗に取上げられ、這々の体でウヅの国(アルゼンチン)の大原野を横断し、アルの港から船に乗つて、アマゾン川の河上まで行つたと云ふ事だ。しかし神さまの中にもいろいろあつて、欲な神さまもあればあるものぢやなア。その玉取神さまの大将は、何でも自転倒島の鷹とか鳶とか烏のやうな名のつく、矢釜しい女神があつて、大切に守つて居つた玉を玉取神が失うたので怒つて叩き出し、その玉を手に入れるまで、帰つて来な……とこの広い世の中に玉の一つ位、何程捜したつて、分りさうなことがないのに、無茶を言うて、いぢり倒したと云ふ話を聞いたが、随分悪い神もあればあるものだなア。屹度其奴には八岐の大蛇やら、金毛九尾の狐が憑いてをつて、そんな無茶なことを言はしたり、さしたりすると云ふ話しだ。本当に神さまだと云つても、無茶苦茶に信神出来ぬものだ。鷹鳶姫とか玉取姫とか云ふケチな神もある世の中だからなア』
乙『玉取姫位なら屁どろいこつちやが、世間には沢山、嬶取彦や爺取姫が現はれて、随分社会の秩序を紊し、この世の中に悪の種を蒔く神も、この頃は大分に出来て来たぞよ。アハヽヽヽ』
と他愛なく笑ふ。高姫は真赤な顔して小さくなつて、甲乙の談を聞いて居た。
 常彦は高姫の耳に口を寄せ、
『高姫さま、どうも世間は広いやうで狭いものですな。海洋万里のこんな所まで、自転倒島の出来事が、仮令間違ひにもせよ、大体が行渡つて居るとは実に驚きましたねえ。玉野原の玉の湖の椰子樹の下に、竜国別さまが刻んでおいた四人の石像、仮令何万年経つたつて、貴女や私達の目にとまる筈がないのに、何百里とも際限のない野の中に、こんな小つぽけな物がただの一つ、それがかうして貴女の背に負はれるやうになると云ふも、不思議ぢやありませぬか。これを思うと人間も余程心得なくてはなりませぬなア』
高姫『サアそれについて、私は胸も何も引裂けるやうになつて来ました。私が変性男子様の系統々々と云つて、それを鼻にかけ、金毛九尾に誑惑されて、今迄は一生懸命に厳の御霊の御徳を落とすことばかりやつて来たかと思へば、どうしてこの罪が贖へやうかと、誠に恐ろしく、悲しくなつて来ました』
と涙ぐむ。船客はまたもや盛んに喋り出した。
丙『オイお前の云うて居つた鷹鳶姫と云ふのは、ソリヤ高姫の間違ひだらう。そして玉取姫と云ふのは鷹依姫の間違ひだらう。高姫と云ふ奴はなア、徹底的我慢の強い奴で、変性男子とか云ふ立派なお方の腹から生れて、それはそれは意地の悪い頑固者の、利己主義の口達者の、論にも杭にもかからぬ化物ださうな。そして金剛不壊の如意宝珠とか云ふお宝物を腹に呑んだり、出したり、丸で手品師のやうなことをやる、悪神の容物だと云ふ事だ。噂を聞いて憎らしうなつて来る。どうで遠い自転倒島の話しだから、到底吾々には一代に会ふことは出来まいが、もしも出会うたが最後、世界のために俺は素首引抜いてやらうと思つてゐるのだ。何だか高姫の話しが出ると、腹の底からむかついて来て堪らないワ。去年の今頃だつた。高姫に仕へて居つた鷹依姫、その息子の鼻の素的滅法界に高い竜国別、それに一寸人種の変つた、鼻の高い細長い、色の少し白いテーリスタンとかカーリンスとか云ふ四人連れが、アリナの滝の……何でも近所に鏡の池とか云ふ不思議な池があつて、そこに長らく居つた所、俄にどんな事情か知らぬが、居れなくなつて、たうとうアリナ山脈を越えて、ウヅの国の櫟ケ原を横断し、アルの港からヒルへ行く途中、誤つて婆アはデツキの上から海中へ陥没し、皆目姿がなくなつてしまつた。そこで息子の竜国別が、婆アさまを助けようとドブンとばかり飛込んだが、これもまた波に捲かれて行き方知れず、テ、カの二人も続いてドブンとやつたが、此奴もテンで行方が知れなくなつてしまつた。彼奴は悪人か何か知らぬが随分親孝行者だ。母親が陥つたのを助けようと思うて、伜の竜国別が飛込んで殉死し、また弟子の二人が助けようと思つたか、殉死の覚悟だつたか知らぬが、共に水泡と消えてしまつた。随分この航路では有名な話しだ。お前まだ耳にして居らぬのか』
乙『成程、親子主従の心中とか云つて、随分有名な話だが、その……何だなア、宣伝使の一行のことか、俺やまたどつかの親子主従の心中かと思つてゐた。ホンに可哀相なこつたナア』
丙『それと云ふのも元を糺せば、ヤツパリ高姫と云ふ奴が悪いからだ。彼奴が無理難題を云ひかけて、自転倒島から高砂島(南米)三界まで追ひ出したものだから、たうとうあんなことになつてしまつたのだ。四人の宣伝使は可哀相でたまらぬ。俺やモウその話しを聞いてから、空を翔つてる鷹を見ても癪に障つて堪らぬのだ。人間にでも鷹と云ふ名の附いてる奴に会うと、其奴が憎らしくなつて来て、擲りつけたいやうな気がするのだよ。赤の他人の俺が、何故鷹依姫や竜国別の、それだけ贔屓をせにやならぬかと思うと、不思議でたまらないワ。大方あの陥る時に、アヽ可哀相だと思うて見てゐたものだから、その亡魂でも憑依したのか……。今日は何だかそのタカと云ふ名のついた奴が乗つて居やせぬかなア。何だかむかついてむかついて仕方がないのだ』
と目を真赤にし、歯噛みし、拳を握り、形相凄じく息を喘ませてゐる。
甲『ハヽヽヽヽ、他人の疝気を頭痛に病むと云ふのはお前のことだ。そんなことはイヽ加減にしておけ。何程力んでみた所で、肝腎の本人は海洋万里の自転倒島に居るのだから駄目だよ』
丙『何だか俄に体が震ひ出した。何でもこの船に高姫と云ふ奴、乗つてゐるのぢやあるまいかな。オイ一寸女客の名を、御苦労だが、一々尋ねて来てくれぬか』
甲『馬鹿を言ふない、おれが尋ねなくても、船長さまに聞けば、チヤンと帳面に附けてあるワ』
丙『それもさうだ、そんなら尋ねて見やうかな』
と立上がらうとする。高姫は、丙の袖を控へて、
高姫『モシモシ何処の方かは知りませぬが、鷹依姫、竜国別一行のために、ようそこまで一心に思うてやつて下さいます。定めて四人の者も冥土から喜んで居ることでございませう。あなたは最前から承はれば、四人の海へ落ちたのを見て居なさつたさうですが、後に何か残つてゐませなんだか。私があなたの憎いと思召す自転倒島から来た高姫でございますよ。罪の深い私、サアどうぞ貴方の存分にして下さいませ。さうすれば、四人の者も定めし浮かぶことでございませう。今私の負うて居ります石には、右四人の姿が刻り込んでございます。かやうなことがあらうとて虫が知らしたのか、チヤンと自分から石碑を拵へて残しておいたと見えます。あゝ因縁と云ふものは恐ろしいものだ。天網恢々疎にして漏らさず、こんなことと知つたら、あんな酷いことを云ふのぢやなかつたに』
と云ひながら、背中の石像を前に据ゑ、手を合せ、
高姫『コレコレ四人の御方、どうぞ怺へて下さい。三千世界の御神業に参加せなくてはならぬ大切な体なれど、私は今この御方に生首を引抜かれて国替を致し、お前さまの側へ行つて、更めてお詫を致します。あゝ惟神霊幸倍坐世。鷹依姫、竜国別、テーリスタンにカーリンス、頓生菩提、あゝ惟神霊幸倍坐世』
と一生懸命に念じてゐる。丙は高姫の真心より悔悟したその言葉と挙動とに、今迄張り切つた勢もどこへか抜け、今は却て、高姫崇拝者と心の中で知らず知らずの間になつてしまつてゐた。

(大正一一・八・一二 旧六・二〇 松村真澄録)



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