出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語29-3-111922/08海洋万里辰 日出姫王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
宇都の国 檪ケ原
あらすじ
 神前に上がった高姫の前に狭依彦霊があらわれ高姫を投げ飛ばす。国と玉が介抱しようとするのを常彦は「改心のためには苦しませた方がよい」と言って止める。
 高姫は月照彦神の化身によってなぶりものにされ、アリナの山に逃げ、鷹依姫が黄金の玉を梢に引っかけた白楊樹の根元まで走って来て、疲れて眠ってしまった。
 そこへ、日の出姫神が現れ、高姫を諭し、梢にかかっていた黄金の玉を渡す。高姫は改心して、「形のある玉には未練はない、無形の心の玉こそが大切だ。御神徳をとらせてもらった」と言う。
 日の出姫神は「高姫にはこれまで金毛九尾白面の悪狐が憑いていたのだ。一行はアマゾン河へ向い、鷹依姫や竜国別らと共に大修行を行い、言依別命と国依別命の命に従い、自転倒島に戻り、冠島、沓島の麻邇の玉を掘り出し神業に奉仕せよ」と告げて、天教山に帰った。
名称
国公 国玉依別 狭依彦 高姫 竜公 玉公 玉竜姫 常彦 白髪の大怪物 春彦 日の出姫神
鬼神 金毛九尾白面の悪狐 国依別命 黒姫 言依別命 木の花姫神 鷹依姫 竜国別 月照彦神 日の出神 日の出神の生宮
アマゾン河 アリナの山 アルの港 自転倒島 鏡の池 懸橋の御殿 冠島 沓島 黄金の玉 ゼムの港 高砂洲 チンの港 テーナの里 天教山 常世会議 常世の国 錦の宮 如意宝珠 白楊樹 麻邇の玉
 
本文    文字数=10208

第一一章 日出姫〔八三三〕

 高姫は矢庭に神前に駆け上り、扉に手をかけた。忽ち頭の光つた脇立の狭依彦神、煙の如く朦朧と現はれ、高姫の首筋をグツと握つて壇上より、蛇を大地に投げつけたやうに、ポイと撥ね飛ばした。高姫はしばらく虫の息にてそこに打倒れ、何事か切りに囈言を言つてゐる。国、玉は驚いて『水ぢや水ぢや』と立騒ぐを、常彦は制し止め、
『モシモシ皆さま、構立をせずに、少時放つといて下さいませ。御存じの通御神前の脇に朦朧として御神体が現はれ、こらしめのために高姫を取つて投げられたのですから、余り高姫を構うと、またへらず口を叩き慢心を致しますから、十分改心する所まで放つといてやつて下さいませ。高姫の身のためですから……一人前の誠の宣伝使にしてやらうと思召さば、十分に苦ましておく方が高姫に対する慈悲になりまする』
と真心から語り出したるを、一同は常彦の言に従ひ、高姫が自然正気に復るまで、そこに放任しておき、各自別間に入つて、神徳を戴き、昼飯などを喫し、悠々として世間話に耽つてゐた。しばらくすると神殿において、高姫の金切声が聞えて来た。常彦、春彦、国、玉等一同はこの声に驚いて、神殿に駆けつけ見れば、高姫は何とも知れぬ大きな男に、毬つくやうに、放り上げられたり、おとされたり、なぶりものに会はされ、悲鳴を上げゐたりける。
 常彦、春彦の姿を見るより、大の男は煙の如くに消えてしまつた。この大の男と見えしは、鏡の池に現はれました月照彦命の出現であつたとの事なり。
 高姫は真青な顔をしながら、懸橋の御殿を表に駆け出し、一生懸命にアリナの山を指して登つて行く。常彦、春彦は見失うては大変と、高姫の後を一生懸命に追つかけて行く。国玉依別命の命令によつて、竜、玉の両人は常彦、春彦の後より、『オーイ オーイ』と呼ばはりながら、アリナの峰を駆け登り行く。
 高姫は漸くにして、鷹依姫一行が野宿したる白楊樹の傍まで駆け着いた。何とはなしに身体非常に重たくなり、疲労を感じ、グタリと横になつて、大蜥蜴の沢山に爬行して居る草原に横たはり、他愛もなく寝てしまつた。
 夜半に目を醒まし、そこらあたりをキヨロキヨロと見廻し、
高姫『ハテナア、ここは何処だつたいなア。鏡の池の懸橋御殿の中だと思つてゐたのに、そこら中が萱野原、人の子一匹居りはせぬ。アハー、やつぱり鏡の池のスツポン奴、この野原を、あんな立派な御殿と見せて、騙しよつたのだな。悪神と云ふものは油断のならぬものだ。禿頭の神が出て来て、取つて放かしたり、大きな男が現はれて、この高姫を毬つくやうにさいなめよつたと思つたが、ヤツパリ騙されて居たのかなア。昔常世会議の時にも、八百八十八柱の立派な国魂神が、泥田の中で狐に魅まれ、末代の恥をかいたと云ふことだが、ヤツパリこの高砂島も常世の国の陸つづきだから、居ると見えるワイ。アヽドレドレ眉毛に唾でも付けて、しつかり致しませう。……時に常や春の周章者は、どこへ沈没しよつたのか、テンで影も形も見えなくなつてしまつた』
と独語を云つて居る。
 俄に大粒の雨パラパラパラと降り出して来た。満天黒雲に包まれ、次第々々に足許さへ見えなくなつて来た。獅子、虎、狼の吼えたけるやうな怪しき唸り声は、暴風の如く耳をつんざく。寂寥刻々に加はり、流石の高姫も茫々として際限もなき原野の中に只一人投げ出され、足許さへ見えなくなり、心細さに目を塞ぎ、腕を組み、大地に胡坐をかき思案に暮れて居る。
 パツと雷光の如き光が現はれたと思ふ途端に、雲突くばかりの白髪の怪物、耳まで引裂けた口から、血をタラタラと垂らしながら、高姫の前にのそりのそりと浮いたやうに進み来り、
怪物『アハヽヽヽ、人肉の温かいのが一度食つて見たいと、常がね希望して居たが、アヽ時節は待たねばならぬものだ。少し古うて皺がより、肉が固くなり、骨も余り軟かくないが、これでもひだるい時にまづい物なし、辛抱して食つてやらうかな。イヒヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エハヽヽヽ、オホヽヽヽ。甘いぞ甘いぞ』
とニコニコしながら、高姫の髻をグツと握つた。高姫は猫に掴まつた鼠のやうに、五体萎縮し、ビリビリと震ひ戦いて居る。この時何処ともなく、嚠喨たる音楽の音が聞えて来た。この声の耳に入ると共に、高姫は俄に心晴れ晴れしくなり、強力なる味方を得たやうな気分に充された。怪物は高姫の髻を握つた手をパツと放した。目をあけて見れば、容色花の如く、水のしたたるやうな黒髪を背後に垂らし、梅の花を片手に持ち、片手に白扇を拡げて持つた女神、厳然として現はれ、言葉静かに宣り玉ふやう、
女神『その方は高姫であらうがな。今迄我情我欲の雲に包まれ、少しも反省の念なく、日の出神の生宮を標榜し、随分大神の御神業に対し妨害を加へ来りし事を悟つて居るか。その方は力一杯神界の御用を努めた積りで、極力神界の妨害を致し、神のよさしの教主言依別命に対し、悪言暴語を以て向ひ奉り、黒姫を頤使して今迄聖地を混乱致したその方の罪、山よりも高く、海よりも深し。さりながら、汝今茲にて悔い改めなば、今一度その罪を赦し、身魂研きし上、神界の御用に使うてやらう。高姫、返答は如何であるか』
と宣らせ玉ひ、高姫の顔を熟視し給ふ。高姫は女神のどこともなく身体より発する光輝に打たれ、
『ハイハイ、今日限り改心致しまする。どうぞ今迄の罪はお赦し下さいませ。如何なる事でも、神様の仰せとあらば承まはりませう』
女神『しからば汝に申し付くる事がある。この白楊樹の空に、錦の袋止まりあり、その中には、テーナの里の酋長が鏡の池に献りたる黄金の宝玉あり。今これを汝の手に相渡す。汝が手より明朝茲に現はれ来る懸橋御殿の神司、玉、竜の両人に相渡し、持帰らしめよ。金色燦爛たるこの玉を眺めて、再び執着心を起す如きことあらば、最早汝は神界の御用には立つ可らず。よく余が言葉を胸に畳みて忘るるな』
高姫『ハイ、決して決して忘れは致しませぬ。今日限り、玉に対する執着心は放棄致します』
 女神は白楊樹に向ひ、
『来れ来れ』
と招き玉へば、不思議や、白楊樹は暗の中に輪廓明く現はれ、錦の袋はフワリフワリと女神の前に降り来たりぬ。
女神『高姫、この錦の袋の中には黄金の如意宝珠が包まれあり。披見を許す。早く撿め見よ』
 高姫は、
『ハイ』
と云ひながら、袋の紐を解き、中を覗き見てハツとばかり、その光に打たれ居る。
女神『どうぢや、その玉は欲しくはないか』
高姫『イエもう決して、何程立派な玉でも、形ある宝には少しの未練もございませぬ。無形の心の玉こそ、最も大切だと御神徳をとらして頂きました。決して決して今後は、玉に対して、心を悩ますやうなことは致しませぬ』
女神『また後戻りを致さぬやうに気をつけて置く。就いては、汝これより常彦、春彦と共にこの原野を東へ渉り、種々雑多の艱難を嘗め、アルの港より海岸線を舟にて北方に渡り、ゼムの港に立寄り、そこに上陸して、神業を修し、再び船に乗り、チンの港より再び上陸して、アマゾン河の口に出で、船にて河を遡り、鷹依姫、竜国別の一行に出会ひ、そこにて再び大修業をなし、言依別命、国依別命の命に従ひ、直様自転倒島に立帰り、沓島、冠島に隠されてある、青、赤、白、黄の麻邇の珠を取出し、錦の宮に納めて、生れ赤子の心となり、神業に参加せよ。少しにても慢神心あらば、最前の如く、鬼神現はれて、汝が身魂に戒めを致すぞよ。ゆめゆめ疑ふ勿れ。余れこそは言依別命を守護致す、日の出姫神であるぞよ。今日迄その方日の出神の生宮と申して居たが、その実は金毛九尾白面の悪狐の霊、汝の体内に憑りて、三五の神の経綸を妨害致さむと、汝の肉体を使用してゐたのであるぞや』
高姫『ハイあなた様から、さう承はりますと、何だか、そのやうな心持が致して参りました。それに間違はございますまい』
女神『最早夜明けにも近ければ、妾は天教山に立帰り、日の出神、木花姫神に汝が改心の次第を申し上げむ。高姫さらば……』
と言ふより早く、五色の雲に乗り、天上高く昇らせ玉うた。高姫はホツと一息しながら、あたりを見れば、夜は既に明け放れ、東の空は麗しき五色の雲靉き、太陽は地平線を離れて、清き姿を現はし給ふ間際なりけり。

(大正一一・八・一二 旧六・二〇 松村真澄録)



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