出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語29-2-81922/08海洋万里辰 高姫慴伏王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
鏡の池
あらすじ
 高姫と常彦、春彦は鏡の池へ着いた。高姫は供えられている玉を無断で調べる。国、玉は国玉依別に知らせるために、懸橋の御殿へ向った。
 鏡の池の月照彦神が高姫に怒り、高姫と「あ」から「ん」の言霊問答となる。最後に、高姫が鏡の池に石を投げ込むと、池の底より激しいうなり声がして、大地が震動する。高姫は恐怖にへたり込むが、他の者は平気であった。
名称
牛童丸 国公 国玉依別 高姫 玉公 常彦 春彦
カーリンス 懸橋の御殿 金毛九尾の悪狐 国治立命 国依別 黒姫 木常姫 探女 狭依彦 醜女 鷹依姫 竜国別 玉能姫 月照彦神 テーリスタン 日の出神の生宮 変性男子 変性女子 瑞の御霊
天津日継天皇 アリナの滝 生田の森 ウラナイ教 自転倒島 大江山 鏡の池 かささぎ かささぎの橋 鬼城山 沓島 真如の月 高天原 高砂洲 立替へ 立直し 大極殿 竹生島 血筋 帝陵 南洋諸島 如意宝珠 筆先 魔窟ケ原 麻邇の宝玉 みささぎ 御幸橋 大和魂
 
本文    文字数=27955

第八章 高姫慴伏〔八三〇〕

 高姫一行は漸くにしてアリナの滝に着いた。四五人の信者らしき者滝壺の前に赤裸のまま跪いて何事か一生懸命に祈願してゐる。されど轟々たる瀑布の音に聞き取ることは出来なかつた。高姫一行は身を浄め、それより、瀑布の右側を攀登り、漸くにして鏡の池に着いたのは恰度夜明けであつた。群鴉は前後左右に飛交ひ、『カアカア』と潔く鳴いてゐる。
 因に云ふ、朝なく烏は最も冴えたる声にて、『カアカア』と鳴く、これを鵲と云ふ、少しく普通の烏よりは矮小である。夕べに鳴くのをこれを真の烏と云ふ。夕べの烏は鵲に比べては余程体格も大きく、どこともなしに下品な所があり、鳴声は『ガアガア』と濁つて居る。また百人一首の歌に……鵲の渡せる橋におく霜の白きを見れば夜ぞ更けにける……とある鵲の橋は大極殿の階段を指したものである。カと云ふ言霊は輝き照る意、ササギは幸ひと云ふ意義である。天津日継天皇様の御昇降遊ばす、行幸橋と云ふ意味である。また帝陵をみささぎと云ふのは、水幸はふと云ふ意味であつて、神霊の脱出し給ひたる肉体は即ち水である。それ故、崩御して行幸遊ばす所を御陵と云ふのである。鵲のカは火の意義であり御陵のミは水の意義である。今鳴いた烏は即ち鵲の声であつた。
 鏡の池の傍には狭依彦命の神霊が新しき宮を立てて斎られてあつた。さうして、岩窟の前方左側の方に鏡の池に向つて、竜国別等の住まつてゐた庵が残つてゐる。そこには国、玉の両人が鏡の池の番を兼ね、狭依彦神社の奉仕にかかつて居た。諸方より献上したる種々の玉石や瑪瑙などの玉は山の如くに積み重ねられてある。少しく上の方には例の懸橋の御殿が新造され、木の香香ばしく、あたりに漂ひゐたり。
 高姫は鏡の池に向ひ、拍手しながら、うづ高くつまれたる種々の玉に早くも目をつけ、如意宝珠、麻邇の宝玉などはなきかと、隼の如き眼を光らせながら眺め入つた。鏡の池は俄に永年の沈黙を破つて、
『ブクブクブク、ウンウンウン』
と唸り出した。国、玉の神司は顔色を変へて、懸橋御殿へ国玉依別の神司の前に報告のために走つて行く。池の中より、
『アヽヽ、綾の聖地をあとにして、玉の所在を尋ねむと、執着心の魔につかれ、ここまで出て来たうろたへ宣伝使。
イヽヽ、意久地なしの常彦、春彦を力と致し、海原を渡り、漸うここまでやつて来た意地悪同志の三人連のイカサマ宣伝使。
ウヽヽ、うろたへ騒いで南洋諸島はまだ愚、高砂島まで、小さき意地と欲とに絡まれて、ド迷ひ来る高姫のデモ宣伝使。
エヽヽ、遠慮会釈もなく人の門戸を叩き、沓島の鍵を盗み出し、如意宝珠の玉を呑み込み、ウラナイ教を立てて三五教の瑞の御霊に刃向ひたる没分暁漢の宣伝使。
オヽヽ、大江山の山麓魔窟ケ原に土窟を作り、また庵を結び、庵の火事を起してうろたへ騒いだ肝の小さい、口ばかり立派なデモ宣伝使。
カヽヽ、烏の鳴かぬ日があつても、玉に執着心の離れた日のない執念深き、高、黒、二人の宣伝使。
キヽヽ、鬼城山の木常姫の再来、金毛九尾の悪狐に憑依された外面如菩薩、内心如夜叉のイカサマ宣伝使。
クヽヽ、国依別の偽天狗に誑かされ、三人連にて竹生島まで玉捜しに参り、よい恥を曬して、スゴスゴ聖地へ帰つて来た高、黒、宣伝使。
ケヽヽ、見当の取れぬ仕組ぢやと申して、行つまる度に逃げを張るズルイ宣伝使。
コヽヽ、小面憎いほど自我心の強い、困り者の宣伝使。今日限り直日の身魂に立帰り、我を折らねば、その方の思惑は何時になつても成就致さぬのみか、万劫末代の恥を曬さねばならぬぞよ』
高姫『あゝゝ、何れの水神さまか知りませぬが、こう見えても私は日の出神の生宮、水神さま位に御意見を受けるやうな高姫とは一寸違ひますワイ。
いゝゝ、意見がましい事を云つて威張らうと思つても、いつかな いつかなそのやうなイカサマ宣示はいつになつても、聞きませぬぞや。
うゝゝ、うさんな声を出して、ウヨウヨと水の中から泡を吹くよりも、天晴れと正体を現はして言ひなされ。日の出神が審神をして、善か悪かを調べて改心さして上げませうぞや。
えゝゝ、得体の知れぬ神の云ふ事は、高姫の耳には這入りませぬぞや。
おゝゝ、鬼でも蛇でも悪魔でも、誠一つの生粋の大和魂で改心させるこの高姫でございますぞ。余り見違をして下さるなや。
かゝゝ、かけ構へのないことを、傍から干渉して貰ふと癇癪玉が破裂致しますぞ。
きゝゝ、鬼城山だの、金毛九尾だのと何を証拠に、そんな悪口雑言をおつしやるのです。
くゝゝ、苦労なしのヤクザ神では誠のお仕組は分りませぬぞや。
けゝゝ、気もない間から世界の事を神、仏事、人民に説いてきかす変性男子の系統の生宮でございますぞ。見当違ひをして下さるな。
こゝゝ、ここまで言うたら、お前も曲津か何か知らねど、チツとは合点がいつたでせう。今後はこんな馬鹿な真似はなさらぬがよろしいぞや』
 池の中より、
『サヽヽ、逆理窟ばかりこねまはす、探女醜女の宣伝使、サアサア今日よりサツパリと了見を直し、月照彦神の命令を奉ずるか、さなくばその方の職名を剥奪せうか』
高姫『さゝゝ、何ぼなつと、勝手に喋つておきなされ。審神の随一と聞えたるこの高姫、指一本さへる者は、神々にも人民にもございませぬぞえ』
 池の中より、
『シヽヽ、渋とい執着心のどこまでも取れぬ、負けぬ気の強い女だのう。何程言うても、その方の耳は死人も同様だ。叱つてもたらしても、どうにもかうにも仕様のない厄介者だ』
高姫『しゝゝ、知りませぬワイナ。お前こそしぶといぢやないか。これだけ誠一筋の神の生宮が分らぬやうなことで、エラソウに知つた顔をなさるな。百八十一通りの神様の階級の中でも、第三番目の日の出神の生宮でございますぞ。お前さまは百八十段以下の神様だから、こんな池の底に何時までもひつ込んで……ヘン月照彦なんて、愛想が尽きますワイ。大方運がつきてる彦だろ。オホヽヽヽ』
 池の中より、
『スヽヽ、すつたもんだと理窟ばかりこねまはし、そこら中を飛まはり、法螺をふきまはし、玉に現を抜かす、玉抜宣伝使。チツと胸に手を当てて考へたらどうだ』
高姫『すゝゝ、好かんたらしい。いい加減に水の中で庇こいたやうな事を云うておきなさい。こつちの方から愛想が月照彦だ。何程月がエロウても日の出神の日に叶ふまい。日は表、月は裏ぢやぞえ。そんな事を云ふのなら、モツト外の没分暁漢の人民に言つたがよろしい。酸いも甘いも透きとほつたほど知りぬいた高姫に向つて言ふのは、チツと天地が逆さまになつて居るやうなものですよ』
常彦『コレコレ高姫さま、余りぢやありませぬか。神様に向つて何と云ふ御無礼な事をおつしやるのです。チツと心得なさい』
高姫『エーお前は常か、こんな所へ口嘴を出すとこぢやない。すつ込んで居なさい』
 池の中より、
『セヽヽ、先生顔を致して、何時もエラソウに申して居るが、牛童丸の牛に乗つて、常彦、春彦がアリナの滝へ先へ参ると申した時には、随分せつなかつたであらうのう。せんぐりせんぐり屁理窟を並べて、ようマア良心に恥しいとは思はぬか。雪隠虫の高上がり奴』
高姫『せゝゝ、精出して、何なつとおつしやれ。そんな事聞いて居るやうな暇人ぢやございませぬワイ。三千世界の立替立直しの御神業に対し、千騎一騎のこの場合、チツト改心して、お前さまも池の底にカブリ付いて居らずに、私の尻へついて、世界のために活動なさつたらどうだ。神、仏事、人民、餓鬼、虫ケラまで助ける神だぞえ』
 池の中より、
『ソヽヽ、そんな事はその方に聞かいでも、よく分つて居る。どこまでも改心を致さねば神は止むを得ず、そぐり立ててツツボへ落してやらうか』
高姫『そゝゝ、ソリヤ何を吐すのだ。うるささを怺へて相手になつて居れば、どこまでも伸し上つて、粗相な事を申す厄雑神、大方池の中に居る神だから、ドン亀か、スツポンがめ、ズ蟹の劫経た奴だろ。其奴が神の真似して、昔の月照彦さまの芝居をしてをるのだろ。グヅグヅ申すとこの団子石を池の中へ放り込んでやらうか』
 池の中より、
『タヽヽ、玉盗みの高姫、また玉を隠されて、玉騒ぎを致す魂抜女、その方の尋ねる玉は自転倒島の中心地に隠してあるぞえ。その方が改心さへ致せば麻邇の玉の所在が知らして貰へるのだが、まだ中々その方へ教へてやる所へは行かぬワイ。早く魂を研いて改心を致せよ』
高姫『たゝゝ、叩くな叩くな頬桁を、高天原の神司、誰が何と云つても、日の出神の生宮に楯つかうと思うても駄目だから、お前こそ改心を致し、高姫の申す事を神妙に聞きなされ。玉の所在は自転倒島の中心にあるなんて、……ヘン知らぬ者の半分も知らぬ癖に、何を云ふのだ。こんな池の中にすつ込んでゐるスツポンのお化に、そんな事が分つて堪るものかい』
 池の中より、
『チヽヽ、血筋だ系統だと申して、それを鼻にかけ、威張りちらすものだから、お山の大将おれ一人式だ。誰一人としてその方の力になる者は一人もあるまいがな。
ツヽヽ、月照彦神が申す事、心の波を静めてよつく承はれ。その方の心の海の波さへ静まらば、真如の月は皎々として、心の空に照りわたり、玉の所在位は一目に見え透き、天晴れ神界の御用が出来るやうになるのだ。
テヽヽ、天狗のやうに鼻ばかり高くして、天狗の鼻の高姫と皆の者が譏つてゐるが、気がつかぬか。天地の道理をチツとは弁へて見よ。
トヽヽ、トボケ面して遠い国まで玉捜しにウロツキ廻り、何時も失敗ばかり致して居るではないか』
高姫『ちちち、近くの者より遠くから分りてくる仕組だ。燈台下暗がりと云ふことを、お前さまは井中の蛙……ではない…スツポンだから、世間が分らぬので、そんな時代遅れのことを云ふのだよ。
つゝゝ、月並式のそんな屁理窟を並べたつて、聞くやうな者は広い世界に一人もありませぬぞえ。
てゝゝ、テンで物にならぬ天地顛倒のお前の世迷言。
とゝゝ、トンボリ返りを打たねばならぬことが出て来ますぞや。チト日の出神の御託宣を聞きなさい。途方もない訳の分らぬ、トツボケ神だな』
 池の中より、
『ナヽヽ、男子の系統を楯に取り、何でもかでも無理を押し通し、人に難題を吹つかけ、何遍も何遍も人に生命を助けられて、反対に不足を申す難錯者。
ニヽヽ、西東北南と駆まはり、憎まれ口の限りを尽し、二進も三進もゆかぬやうになつては改心を標榜し、またしても執着心の悪魔に縛られて、悪に逆転し、
ヌヽヽ、糠喜びばかり致して、一度も満足に思惑の立つた事はあるまいがな。
ネヽヽ、年が年中、日の出神の生宮を楯に取り、ねぢけ曲つた小理窟を云うて、人を困らす奸佞邪智のその方の行方。
ノヽヽ、野天狗に脅かされ、安眠もようせず、テル街道をスタスタと痛い足を引ずつてここまで出て来た口の大きい、肝の小さいデモ宣伝使。
ハヽヽ、早く改心致さぬと、誰も相手がなくなるぞよ。
ヒヽヽ、日の出神の生宮も、世界の人民がウンザリして居るぞよ。モウそんな黴の生えたコケおどしは使はぬがよからう。
フヽヽ、古臭つた文句を百万ダラ並べて新しがつてゐるその方の心根が愛しいワイ。
ヘヽヽ、下手に魔誤付くと命がなくなるぞよ。
ホヽヽ、時鳥喉から血を吐きもつて、国治立命はその方の慢心を朝夕直したいと思つて御苦労を遊ばしてござるぞよ。
マヽヽ、曲津の容物となつて居乍ら、誠の日の出神ぢやと思うて見たり、時には疑つて見たりしながら、どこまでも日の出神でつつぱらうと致す横着者。
ミヽヽ、蚯蚓の這うたやうな文字を列ねて、長たらしい日の出神の筆先だと申して、紙食ひ虫の墨泥棒をいたし、世界の経済界を紊す身のほど知らず奴。
ムヽヽ、昔の昔の去る昔、まだも昔のその昔、ま一つ昔のまだ昔、大先祖の根本の、誠一つの生粋の大和魂の御種、変性男子の系統、日の出神の生宮とは、ようも云へたものぢやぞよ。
メヽヽ、冥土の鬼までが愛想をつかし、腹を抱へて、その方の脱線振りを笑つてゐるぞよ。
モヽヽ、百千万の身魂の借銭を、日日毎日つみ重ね、地獄行きの用意ばかり致してをるその方、今の間に神の申すことを聞いて、心を洗ひ替へ立直さぬと、未来が恐ろしいぞよ。
ヤヽヽ、ヤツサモツサと朝から晩まで、騒ぎまはり、
イヽヽ、意久地を立通し、威張り散らし、己一了見で教主の意見も聞かず、可愛相に黒姫や鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスに対し、国外に放逐致した横暴極まるその方の行方。
ユヽヽ、雪と墨とほど違つてゐる瑞の御霊を、酢につけ味噌につけ悪く申し、自分の勢力を植付けようと致す横着者。
エヽヽ、エライ慢心を致したものぢやのう。
ヨヽヽ、世の中に吾ほどエライ者はないやうに申して独り燥いでも、世の中は割とは広いぞよ。お前の云ふやうな事は二十世紀の豆人間の没分暁漢の中には、一人や二人は一度や二度は聞いてくれるであらうが、四五遍聞くと、誰も彼れも内兜をみすかし、愛想をつかして逃げてしまうぞよ。
ラヽヽ、楽な道へ行きよると道がテンと行き当つて、後戻りを致さねばならぬ変性女子の行方を見よれ、人の苦労で徳を取らうと致し、楽な方を行きよるから、あの通りだと、自分が後から潰しに廻つておいては、愉快相にふれ歩く、悪垂れ婆の宣伝使。
リヽヽ、悧巧相な事ばかり申して居るが、テンで理窟にも何にも、お前の云ふ事はなつて居らぬぢやないか。
ルヽヽ、留守の家へ剛情ばつて押入らうとし、生田の森に玉能姫に剣突をくわされて往生致したヘボ宣伝使。
レヽヽ、連木で腹を切れと云ふやうな、脅し文句を並べて信者を引込まうと致しても、そんな事を食ふやうな馬鹿者はこの広い世界にただの一人もありはせぬぞよ。
ロヽヽ、碌でもない真似をするよりも、一時も早く聖地へ立帰り、改心致して神妙に神の御用を致すがよからう。
ワヽヽ、分り切つたる団子理窟を並べて、人を煙に巻く
ヰヽヽ、イカサマ宣伝使。そこら中を
ウヽヽ、ウロつき廻つて、いつも糞をたれ
ヱヽヽ、枝の神と知らずに、根本の日の出神ぢやと誤解を致し
ヲヽヽ、おめも恐れも致さず、世界を股にかけて、法螺吹きまはる、ガラクタ宣伝使、口の悪い神ぢやと申すであらうが、昔からスツポンに尻を抜かれたやうだと云ふ事があらうがな。その方が池の底のスツポンと認めたこの方が、その方が悪事の一切をスツポ抜いてやりたぞよ。ウヽヽ、ブルブルブルブル』
高姫『なゝゝ、何でも碌な奴ぢやないと思うて居つたら、とうとう鼈ぢやと白状致しよつた。
にゝゝ、二人の家来共、この高姫の眼力を見て感心したであらうなア。
ぬゝゝ、抜かつた面付では到底こんな時に出会したら、到底審神は出来ませぬぞえ。
ねゝゝ、熱心にお筆先を研究なさいと云ふのは、こう云ふ時に間に合すためぢやぞえ。常公、春公、どうだえ、分つたかなア。
のゝゝ、野天狗の生宮に仕られておつてはサツパリ駄目ですよ。
はゝゝ、早く改心致して、高姫の云ふ通りにしなさいや。
ひゝゝ、日の出神の生宮に間違ひないぞえ。
ふゝゝ、不足があるなら、何ぼなつとおつしやれ、どんな事でも説き聞かして、得心さして上げる。
へゝゝ、返答はどうだえ、常公、春公。
ほゝゝ、呆け面して何うつそりして居るのだ。池の底のスツポン神がそれほど恐ろしいのかい。
まゝゝ、まさかの時の杖となり、力となるのは誠信仰の力ぢやぞえ。
みゝゝ、身欲信心ばかり致して居ると、肝腎の時になりて、アフンと致さねばならぬぞえ。
むゝゝ、昔からの根本の因縁を知つた者は、この広い世界に高姫だけよりないのだから、今日からスツパリと心を立直して、絶対に服従するのだよ。
めゝゝ、めつたに神は嘘は申さぬぞえ。これが違うたら、神はこの世に居らぬぞえ。世の変り目、世界の事を人民に説いてきかさねばならぬから、この高姫は昔からの尊い因縁があつて筆先を書かせ、口で言はせ、人民を改心さす役に、神がお使ひ遊ばしてござるのだ。しつかり聞いておきなされや。
めゝゝ、目から鼻までつきぬけるやうな、先の見えすく神の生宮、メツタに間違はありませぬぞえ。
もゝゝ、盲碌神を誠の神と信じて盲従して居ると、取返しのならぬ事が出来ますぞえ。
やゝゝ、大和魂の生粋の身魂の申す事に一事でも横槍を入れて見よれ、その場で見せしめを致すとお筆に現はれて居るぞえ。
ゐゝゝ、幾ら云ひ聞かしても、生れ付の魂が悪いのだから、云ひごたへがないけれど、云ふは云はぬにいやまさる。お前が可愛相だから、チツトばかり改心のために言うておくぞえ。
ゆゝゝ、幽霊のやうにあちらへブラブラ、此方へブラブラとよう気の変る、落つかぬ身魂では到底三千世界の御神業の一端に加へて貰ふ事は六かしいから、余程腹帯をしつかりしめなされ。
ゑゝゝ、えぐたらしい、高姫の言葉と思はずに、大慈大悲の大神様の救ひの言葉だと有難く思つて戴きなさい。
よゝゝ、余程お前は身魂が曇つて居るから、一寸やソツとに研きかけが致さぬので、この高姫も骨が折れるぞえ。
らゝゝ、楽の方へ行かうとお前はするから、牛童丸とやらに気を引かれて、牛に乗せられたのだよ。
りゝゝ、理窟云ふのは今日限り止めなされや。これだけ、神力を受けた能弁家の高姫に対しては、何と云うても駄目だからなア。
るゝゝ、累卵の如く危ふくなつたこの暗雲の世の中を、万劫末代潰れぬ松の世に立直さねばならぬ神界の御用だから、並や大抵の艱難や苦労では勤め上りませぬぞえ。
れゝゝ、蓮華の花はあの汚い泥の中から、パツと一度に開いて、香ばしい香を現はすぢやないか。それによく似た身魂は誰ぢやと思うて居なさる。
ろゝゝ、論より証拠、池の中のスツポン神でもへこました、この高姫さまの事ぢやぞえ。
わゝゝ、吾身良かれの信心ばかり致して居ると、神の御きかんに叶はぬ事が出来て、ジリジリ舞を致して逆トンボリを打たねばならぬ事が出来るから、早く改心なされよ。
ゐゝゝ、威張りちらして、意地くね悪く、国依別から玉の所在をきかして貰ひながら、いつまでもイチヤイチヤと申して、日の出神に報告せぬやうないけ好かない、奴根性は綺麗サツパリと立直して、これから素直に白状するのだぞえ。
うゝゝ、売言葉に買言葉と云ふやうに、この高姫が一口お気に入らぬ事を申せば、すぐに何だかんだと小理窟を申すが、これからその態度をスツクリと改めなされや。
ゑゝゝ、偉相に云ふぢやなけれど、誰が何と云つても、ヤツパリ日の出神の生宮に楯つく者は、この広い世界に一人もなからうがな。
をゝゝ、お前も、今日が善になるか、悪になるかの境目だ。善になりたければ、国依別から聞かして貰つた玉の所在をチヤツと言ひなされ。渋とう致すと万劫末代帳面につけておきますぞえ。常彦はこれこれの事を致し、神に叛いた悪人だと、日の出神の筆先に末代書残しますぞや』
常彦『アハヽヽヽ、黙つて聞いて居れば、随分あなたも池の中の神の真似が上手ですな。とうとう五十音を並べなさつた。それほどの頬桁を持つて居れば、世界中に阿呆らしうて、一人も楯突く者はありませぬワ。ウツフヽヽヽ、……のう春彦、お前も感心しただらうのう』
春彦『イヤもう、ズツトズツト感心しました。ホンにようまはる口車だなア。……時に高姫さま、これだけ沢山のお玉がつみ上げてあるのに、目的の御宝はないやうですな』
高姫『ここはホンの露店だから、どうで良い物はこんな所に雨曬しにしてあるものか。キツと懸橋御殿の中に隠してあるにきまつてゐる。これから高姫が懸橋御殿へ行つて取調べて来るのだ』
 池の中より、
『ブクブクブクブク』
と泡立ち上り、大きな声で、
『アツハヽヽ、阿呆らしい、そんな物があつてたまるかい。
イヒヽヽ、何時までも何時までも執念深い婆アだなア。
ウフヽヽ、うるさい婆アだ。モウいゝ加減に此処を立退かぬか』
高姫『エー、やかましいワイナ。スツポンはスツポンらしくスツ込んでゐなさい。オヽヽお前達の嘴を容れる所ぢやありませぬぞえ』
常彦『モシモシ高姫さま、いゝ加減にしておきなさらぬかいな。神様に怒られたら仕方がありませぬで』
高姫『怒る勿れと云ふ神界の律法がチヤンとありますワイナ。ここで怒るやうな神なら、それこそ悪神ですよ』
常彦『さうすると、貴女はヤツパリ、悪神ですか』
 高姫は目を釣り上げ面をふくらし、
高姫『コレ、常彦、何と云ふ事をおつしやる。私がどこが悪神だ。モウ了見しませぬぞえ』
と胸倉をグツと掴む。
常彦『それだから悪神ぢやと云ふのですよ。直に怒るぢやありませぬか』
高姫『私がどこに怒りました。チート体を急に動かしたり、声を高うしただけの事ぢやありませぬか。これでもお前の目から見ると怒つたやうに見えますかな』
春彦『アハヽヽヽ』
高姫『コレ春彦、何が可笑しいのだ。チト心得なされ』
春彦『アハヽヽヽ、イヒヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エヘヽヽヽ、オホヽヽヽ、怒つた怒つた。面白い面白い。恐ろしい御立腹だ』
高姫『コレ春彦、シツカリしなさらぬかいな。池の底のスツポン神の世迷言が伝染しかけましたよ』
春彦『タヽヽヽヽ、高姫さまの世迷言が、チヽヽチツとばかり伝染致しました、ウフヽヽヽ』
 かかる所へ、国、玉の両人は国玉依別の神司を守りつつ、この場に現はれた。
国玉依別『お前さまは何処の方か知りませぬが、この鏡の池へお参りになるのならば、一応懸橋御殿に伺つた上の事にして下さらぬと、池の底の神様が、大変に御立腹遊ばしては困りますから、チト心得て下されや』
高姫『お前は懸橋御殿とやらの神司だと、今おつしやつたが、この池の底の神が、それほど恐ろしいのかい。此奴アお前、偉相に月照彦神だなんて言つて居るが、池の底の劫を経たスツポンのお化けだよ。いゝ加減に迷信しておきなさい。これから懸橋御殿へ行つて、天地の道理を、昔の根本から説いて聞かして上げませうぞ。コレ御覧なさい。今この石を一つ池の底へぶち込んで見ませうか。キツとスツポンが浮上つて来ますよ』
国玉依『何んと云ふ乱暴なことを、お前さまは宣伝使でありながら言ふのですか。チツと御無礼ではありませぬか』
高姫『マア論より証拠だ。御覧なさい』
と言ひながら、堆く積みあげたる玉の形したる石を右手に握り、ドブンとばかり投げ込んだ。忽ち池の底より烈しき唸り声、大地は大地震の如く震ひ出し、高姫は真青な顔になり、ビリビリと慄ひながら、叶はぬ時の神頼みと云つたやうに、一生懸命に両手を合せ、その場に平太張つてしまつた。国玉依別を始め、国、玉の従者並に常彦、春彦は平気の平左で、この音響を音楽を聞くやうな心持で、愉快気に両手を合し感謝し居たり。高姫は益々慄ひ出し、歯を喰ひ締め、歯の間から赤い血をにじり出し、慄ひ戦き居たりける。

(大正一一・八・一一 旧六・一九 松村真澄録)
(昭和一〇・六・八 王仁校正)



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