出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語29-2-61922/08海洋万里辰 玉の行衛王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
暗間山
あらすじ
 常彦は、「高島丸の船上で国依別に会って玉のありかを教わったが、高姫には知らせられない」と言う。それを、高姫がしつこく迫るので、常彦と春彦は逃げ出す。追いかけた高姫は石につまづいて、倒れてしまう。
 数人の男が高姫を介抱したが、その男達が玉の話をしているのを聞いた高姫は、金を払って「アリナの滝の鏡の池の前にたくさんの宝玉が供えてある」と聞き出し、アリナの滝へ急ぐ。
名称
乙 甲 高姫 常彦 春彦 丙
国依別 言依別命 日の出神の生宮 変性男子
アリナの滝 一厘の秘密 鏡の池 黄金の玉 テルの国 錦の宮 如意宝珠 麻邇の玉 五六七の世 大和魂
 
本文    文字数=16469

第六章 玉の行衛〔八二八〕

 高姫は言葉を軟らげ、
『コレコレ常彦さま、ヤツパリお前は私が三五教の宣伝使の中でも、一番気の利いた立派な方だと思うて連れて来たが、……ヤツパリこの高姫の目は違ひませぬワイ。ようマア目敏くも、言依別や、国依別の船に乗つてるのが気がつきましたなア』
常彦『蛇の道は蛇ですからなア。どうも言依別や国依別の臭が船に乗つた時から、鼻について仕方がないものですから、一寸考へてゐましたが、いよいよ此奴ア変だと思うてかぎつけました』
春彦『まるで犬のやうな鼻の利く男だなア。蛇の道は蛇でなくて、猪の道は犬ぢやないか。さうして本当に言依別さまや国依別が立派な玉を持つてござつたのか』
常彦『貴様が海へ踊つて落込んだ時に、綱を投げてくれた船客が国依別だつたのだ。つまりお前は国依別さまに生命を助けて貰うたのだよ』
春彦『アヽさうか、それは有難い。一つ御礼を言うぢやつたに、お前が云つてくれぬものだから、つい御無礼をした。ヤツパリ国依別さまは親切だなア。二つ目には足手纏ひになるの、エヽ加減にまいてしまはぬと、あんなヒヨツトコは邪魔になるとかおつしやる生神もあるなり、世は種々だ。そして立派な玉をお前は拝見したのか』
常彦『天機洩らすべからずだ。大きな声で云ふない。そこに高姫さまが聞いてござるぢやないか。高姫さまのござらぬ所で、トツクリとお前だけに一厘の秘密を知らしてやるワ。オツとしまうた、余り大きな声でウツカリ喋つてしまつた。……モシ高姫さま、今私が何を言うたか聞えましたか。余りハツキリとは聞えては居やせぬだらうな。聞えたら大変ぢやからなア。アヽ桑原々々、慎むべきは言葉なりけりぢや、アハヽヽヽ』
高姫『コレ常彦さま、お前、そんなにイチヤつかすものぢやありませぬぞえ。トツトと有体におつしやい。そしたらこの高姫は云ふに及ばず、錦の宮の教主となり、お前を総務にして立派な神業に使つて上げます。五六七の世でも出て来て見なさい。それはそれはあんな者がこんな者になつたと云ふ御仕組ですから、それで神には叶はぬとおつしやるのぢやぞえ』
常彦『ハヽア、さうすると最前アンナ、カナンに化けたのも、強ち徒労ではありませぬな。私がアンナ、春彦はカナン、私はアンナ者がコンナ者になり、春彦は立派な人間になつて、高姫さまでも何人でも、到底カナンと云ふ立派な人間になると云ふ前兆ですか、ハツハヽヽヽ。これと云ふのも国依別さまが御親切に、玉の所在を決して他言はならぬと固く戒めておつしやつて下さつたのは、本当に有難い。よく私の魂を悟つて下さつた。士は己を知る者のために死すとか云つて、自分の真心を見ぬいてくれた人位、有難く思ふものはない。私も男と見込まれて、大事の秘密の玉の所在を知らされ、実物まで拝見さして頂いたのだから、この首が仮令千切れても、国依別さまが云つてもよいとおつしやるまで申されませぬワイ。アヽ云はな分らず、云うてはならず、六かしい仕組であるぞよ……とお筆先に神様がおつしやつてゐるのは、大方こんな事だらう。お筆先の文句がキタリキタリと出て来て、身に滲みわたるやうでございますワイ』
高姫『お前は言はねばならぬ人には隠して云はぬなり、言うて悪い人には言はうとするから、国依別さまが厳しく口止めをしたのだよ。よう考へて御覧なさい。私の供になつて来て居るお前に秘密を明かすと云ふ事は、つまり高姫に知らせよと云ふ謎ですよ。この事を詳しう高姫に伝へてくれと云つたら、却て心易う思ひ、忘れてしまふだらうから、言ふな……と云つておけば、大事な事と思ひ、お前が念頭にかけ、コッソリとお前が私に云うだらうと、先の先まで気をまはし、お前に言うたのだよ。国依別も中々偉いワイ。よう理窟を云ふ男だが、どこともなく香ばしい所のある男だと思うた。……コレコレ常彦、言ひなさい、キット後は私が引受けますから……』
常彦『メッサウな、そんな事言うてなりますかいな。お前さまは私を、甘くたらして云はさうと思ひ、巧言令色の限りを尽して、うまく誘導訊問をなさるが、マア止めておきませうかい。こんな所でお前さまに言はうものなら、あとは尻喰ひ観音、そこに居るかともおつしやらせないだらう。マア言はずにおけば常彦の御機嫌を損はぬやうに親切に目をかけてくれるに違ひない。言ひさへせなきや、桜花爛漫と常彦の身辺に咲き匂ふといふものだ。言うたが最後、明日ありと思ふ心の仇桜、夜半に嵐の吹かぬものかは……と忽ち高姫颪に吹きおろされ、ザックバランな目に遇はされるに定つてる。花は半開にして、長く梢に咲き匂ふ位な所で止めておきませうかい。イッヒヽヽヽ。アヽこんな愉快な事がまたと再び三千世界にあらうかいな。三千世界一度に開く梅の花、開く時節が来たら秘密の倉を開けて見せて上げませう。それも一寸でも私の御機嫌を損ねたが最後駄目ですよ』
高姫『コレ常彦、情ない事を云うておくれな。なんぼ私だつてさう現金な女ぢやありませぬぞえ。今の人間は思惑さへ立ちや、後は見向きもせぬのが多いが、苟くも、善一筋の誠生粋の大和魂の根本の性来の、しかも日の出神の生宮、変性男子の系統、これだけ何もかも資格の揃うた高姫がそんな人間臭い心を持ち、行ひを致さうものなら、第一神様のお道が潰れるぢやありませぬか。変性男子の身魂に対しても、お顔に泥を塗るやうなものなり、日の出神さまに対しても申訳がありませぬ。さうだから大丈夫ですよ。先で云ふも今云ふも同じことだ。さう出し惜みをせずと、お前の腹の痛む事ぢやなし、一口、かうだとお前の口に出してくれたら良いぢやないか。サア常彦、ホンにお前は気の良い人だ。そんなにピンとすねずにチヤツとおつしやつて下さいナ』
常彦『猫があれほど好な鼠を生捕にしても中々さうムシヤムシヤと食ひはしますまい。くはへては放り上げ、くはへては放り上げ、追ひかけたり押へたり、何遍も何遍もイチヤつかして、終局には嬲殺にして、楽んで食ふように、この話もさう直々に申上げると、大事件だから値打がなくなる。マア楽しんで私に従いて来なさい。その代りにある時期が来たら知らして上げますから、一つ約束をしておかねばなりませぬ。高姫さま、物を教へて貰ふ者が弟子で、教へる者が先生ですなア』
高姫『きまつた事だよ。教へる者が先生だ。さうだからお前達は私の弟子になつて居るぢやないか』
常彦『あゝそれで分りました。その御考へなれば、行く行くは玉の所在を教へて上げませう。その代り今日から私が先生でお前さまは弟子だよ。サア荷物を持つて従いて来なさい』
高姫『コレ常彦、おまへは何と云ふ事を云ふのだい。天地顛倒も甚しいぢやないか。誰がお前の弟子になる者があるものか。苟も日の出神の生宮ですよ。余り馬鹿にしなさるな』
常彦『これはこれは失礼な事を申し上げました。そんならどうぞ何もかも教へて下さいませ。私は教へる資格がありませぬから、モウこれ限り何も申上げませぬ。教へて上げやうと云へばお目玉を頂戴するなり、その方がよろしい。モウこれ限り、夜前あなたのおつしやつたやうにこの国の人を弟子にして、半鐘泥棒や蜥蜴面の吾々に離れて活動して下さい。……なア春彦、半鐘泥棒や蜥蜴面が従いて居ると高姫さまのお邪魔になるから、これでお別れせうかい』
春彦『何が何だか、俺やモウサツパリ訳が分らぬやうになつて来たワイ。……オイ常彦、そんな意地の悪い事言はずに、男らしう薩張と高姫さまに申し上げたらどうだ』
高姫『コレコレ春彦、流石はお前は見上げたものだ。さうなくては宣伝使とは言へませぬワイ。……コレ常彦、言はな言はぬでよろしい。お前の行く所へ従いて行きさへすればキット分るのだから……』
常彦『ソラ分りませう。しかしながら私は出直してくる共、お前さまの従いてござる限りは、玉の在る方面へは決して足は向けませぬワ。そしたらどうなさる。オホヽヽヽ』
高姫『エヽ気色の悪い、しぶとい奴だなア。ヨシヨシ今に神界に奏上して、口も何も利けぬやうに金縛りをかけてやるから、それでもよろしいか』
常彦『どうぞ早うかけて下さい。お前さまに玉の所在を言へ言へと云うて迫られるのが、辛うてたまらぬから、物が言へぬようにして下されば、それで私の責任が逃れると云ふものだ。どうぞ早うかけて下さいな。不動の金縛りを……』
と云ひながら、舌を一寸上下の唇の間に挟んで高姫の前に頤をしやくり、突き出して見せる。
高姫『エヽどうもかうも仕方のない、上げも下ろしもならぬ動物ぢやなア』
常彦『オイ春彦、駆足々々。高姫さまをまくのだよ』
と尻引まくり、一生懸命に地響きさせながら、降り坂を駆出した。高姫は後より一生懸命に二人の姿を見失はじと追つかけて行く。
 高姫は高い石に躓きパタリと大地に倒れ、額をしたたか打ち、血をタラタラ流し、かつ膝頭を打つて、頭を撫で足を撫で、身を藻掻いてゐる。二人は高姫が必ず追つかけ来るものと信じて、一生懸命に南へ南へと走り行く。
 ここを通りかかつた四五人の男、高姫の疵を見て気の毒がり、傍の交り気のない土を水に溶かし、額と足とに塗りつける。高姫は、
『何方か知りませぬが、ようマア助けて下さいました。これも全く日の出神さまのお神徳でございます。貴方方も結構なお神徳を頂きなさつたな。高姫と云ふお方は、誠に結構な身魂であるから、この身魂に水一杯でも、茶一滴でも供養した者は、大神様のお喜びによつて、家は代々富貴繁昌、子孫長久、五穀豊饒、病気平癒、千客万来の瑞祥が出て参ります。皆さま、結構な御用をさして貰ひなさつた。サア、これから、三五教の神様に御礼をなさい。私も一緒に御礼をしてあげます』
甲『何と妙な事を言ふ婆アぢやのう。人に世話になつておいて、反対にお礼をせい、御礼をして上げるのと、訳が分らぬぢやないか。大方これはキ印かも知れぬぞ。うつかり相手にならうものなら大変だ。イヽ加減にして行かうぢやないか』
高姫『コレコレ若い衆、キ印ですよ。三千世界の大狂者の大化物の変性男子の系統の生神様ぢや』
乙『それほどエライ生神さまが、何でまた道に倒れて怪我をなさるのだらう。この点が一寸合点が行かぬぢやないか』
高姫『そこが神様の御仕組だ。縁なき衆生は度し難しと云ふ事がある。日の出神様が、一寸この肉体を道に倒してみせて、ワザとお前等に世話をさせて、手柄をさして、因縁の綱を掛け、結構にして助けてやらうと遊ばすのだ。分りましたかなア』
乙『根つから分りませぬワイ。……オイ皆の連中、早く玉を御供へに往かうぢやないか。結構の玉を供へたら、結構にしてやらうと云ふ神があるから、早く何々まで急がうぢやないか』
丙『随分沢山にお参りだから、ヤツと玉も種々と集つて居るだらうなア』
乙『ソリヤお前、一遍俺も参つて来たが、それはそれは立派な玉が山の如くに神さまの前に積んであつたよ。金剛不壊の如意宝珠に黄金の玉、竜宮の麻邇宝珠の玉とか云つて、紫、青、白、赤、黄、立派な玉が目醒しいほど供へてあつたよ』
高姫『コレコレお前、その玉はどこに供へてあるのだ。一寸云つて下さらぬか』
乙『その玉の所在ですかいな。ソリヤ一寸何々して貰はぬと、何々に何々が納まつて居ると云ふ事は云はれませぬなア』
高姫『そんならお金を上げるからおつしやつて下さい』
乙『私も実は貧乏で困つてをるのだ。金儲けになる事なら云つてあげようかな。ここに五人も居るけれど、玉の場所を知つた者は俺だけだから儲け放題だ。一口にナンボ金を出しますか』
高姫『一口に一両づつ上げよう。成るべく二口位に詳しう云つて下さいや』
乙『中々一口や二口には云ひませぬで、一口云うたら一両づつ引替に致しませう。それも先銭ですよ』
高姫『サア一両』
と突き出す。
乙『ア……』
高姫『後を言はぬかいな』
乙『モウ一両だけ、一口がとこ云つたぢやないか。モ一両下さい。その次を云うて上げよう』
高姫『あゝ仕方がない、……それ一両』
とまた突き出す。
乙『リ……』
と云ひながら、また一両をくれと手を突き出す。
高姫『何と高い案内料ぢやなア。モチト長く言うておくれぬかいな』
乙『元からの約束だ、ア……と云へば一口かかる。リ……といへばまた一口ぢやないか』
高姫『エヽ欲な男ぢや。……それ一両、今度はチト長く言うてくれ』
 乙はまた一両懐にねぢ込み、
乙『今度は長く言ひますよ。……ナーー……』
 かう云ふ調子に『アリナの滝の水上、鏡の池の前に沢山の宝玉が供へてある』と云ふ事を教へられ、高姫は勢込んでテルの国のアリナの滝を指して、一生懸命に駆けり行く。
 道傍の木蔭に休んで居た常彦、春彦は、高姫の血相変へて行く姿を眺め、
『オイオイ高姫さま、一寸待つて下さいなア』
と呼びかけた。高姫は後を一寸振向き、上下の歯を密着させ、ニユツと口から現はし、頤を二三遍しやくつて、
高姫『イヽヽ、大きに憚りさま。玉の所在は日の出神さまから知らして貰ひました。必ず従いて来て下さるなや』
と一生懸命に走り行く。常彦は、
常彦『本当に玉がこの国に隠してあるのかな。こりや一つ高姫さまの後から従いて行つて、白玉でも黄玉でも、一つ拾はぬと、はるばる出て来た甲斐がないワ。……オイ春彦、急げ』
と尻ひつからげ大股にドンドン、髪振り乱し砂煙を立てながら、高姫の通つた後を一目散に走り行く。

(大正一一・八・一一 旧六・一九 松村真澄録)



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