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原著名出版年月表題作者その他
物語29-2-51922/08海洋万里辰 引懸戻し王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
暗間山
あらすじ
 高砂洲のテルの国へ渡っていた高姫は、常彦、春彦を遠ざけて、二人の悪口を言っていたが、最後には二人を再び供とした。
名称
高姫 常彦 春彦
アンナ? カナン? 金毛九尾 国治立大神 国依別 黒姫 言依別命 日の出神の生宮 変性男子
自転倒島 暗間山 黄金の玉 コブラ 台湾 高砂洲 高島丸 タルチール テルの国 テルの港 天教山 如意宝珠 ヒルの国 フーリン島 麻邇の玉 紫の玉 琉球
 
本文    文字数=14573

第五章 引懸戻し〔八二七〕

 三五教の大教主  言依別や国依別の
 神の司の後を追ひ  心も驕る高姫が
 如意の宝珠や紫の  珍の宝を始めとし
 黄金の玉や麻邇の玉  言依別が携へて
 高砂島に渡りしと  寝ても醒めても思ひ詰め
 常彦、春彦両人を  甘くたらして供となし
 潮の八百路を打渡り  高島丸に救はれて
 朝日もテルの港まで  漸く無事に安着し
 数多の船客押分けて  先頭一の高姫は
 雲を霞と細くなり  体を斜に山路を
 勢込んで進み行く。  常彦、春彦両人は
 高姫司の後を追ひ  グヅグヅして居て高姫を
 見失うなと言ひながら  老木茂る山路を
 縫ひつ潜りつ谷川を  数多渡りて暗間山
 その山口に追ひ付きぬ。  

 高姫は暗間山の山口の雑草茂る松原に横たはり、
『サア、モウ此処まで来れば大丈夫だ。よもや常彦、春彦は追ひかけてはよう来まい。何程探すと云つても、この広い高砂島、滅多に出会す気遣ひはない。あゝモウこれで安心だ。海上は船を操らせねばならぬから、どうしても二人の連中が必要だつたが、あんな頓馬な男が二人も附いて居ると、国人に対し、余りお里が見え透いて肝腎の御用が完全に勤めあがらぬ。サアこれから日の出神の神力を現はし、神変不思議の神術を以て、仮令曲津でも構はぬから、金毛九尾さまに御厄介になつて、一つ不思議を現はし、新しい弟子を沢山に拵へ、そして、勝手を知つた国人に、遠近隈なく、喜んで玉捜しを致すやうに仕向けさへすれば、余り苦労せず共、キツと玉は集まつて来るに違ない。また言依別の所在を見つけて、直様報告致した者は、褒美は望み次第と、一つ、大芝居を始めるのだなア。それに付いては、あのやうな間抜けた面した気の利かぬ、半鐘泥棒の常彦や、蜥蜴面の貧相な春彦を連れて居ると都合が悪い、甘くまいたものだ。あゝ日の出神の生宮は、ヤツパリ変つた智慧を持つてござるワイ。余りに智慧が出るので、この高姫も吾と吾が手に感心を致しますワイ。それだから願望成就するまでは、黒姫さまのやうに周章てハズバンドを持ちませぬのだ。わしの夫にならうと云ふ人物は、三千世界の悧巧者でないと、一寸はお気に入りませぬからなア』
と得意になつて独言を喋くり、思はず調子に乗つて、段々声が大きくなつて来た。常彦、春彦二人はソツと後から走つて来て、灌木の茂みに姿を隠し、高姫の独言を一口も残らず聞取つてしまひ、互に顔見合して目をまるくし、舌を出し、ニヤリと笑つて居る。高姫は少しも気が付かず、
『サアこれからが性念場だ。しかしこのテルの国へ来て、只一人の顔馴染もなし、どうして国人に甘くひつかかつて見ようかなア。始めに引つかかる人間が一番大切だ。国中でもあの人なら……と持囃されてゐる立派な人間を弟子にするのと、常や春のやうなヘボ人間を弟子にするのとは、国人の信仰上非常な影響がある。どうぞ神様、一つ、立派なテルの国でも一か二と云ふ人間を妾の弟子に授けて下さいませ。お願ひ致します』
と拍手を打ち、天津祝詞を奏上し始めた。日は漸く暗間山の頂きに没し、あたりは追々と暗くなり来たる。
高姫『あゝモウ日が暮れた。仕方がない。ここで一つ、一夜を明かし、また明日の思案にせうかなア。アヽそれも良からう』
と自問自答しながら、ゴロリと横になつた。されど何とはなしに心落ちつかず、甘く眠られないので、いろいろの瞑想に耽つて居る。
 常、春の両人は俄にウーツと唸りながら、ガサガサ ガサガサと音を立て、慌だしく森の彼方に向つて姿を隠した。
『なんだ、四つ足かなア。油断のならぬものだ、最前から高姫の独言を聞いてゐやがつたかも知れぬ。仮令四つ足にしても霊はヤツパリ神様の分霊だから、あんな事を聞かれると余り気分のよいものだない。あゝ慎むべきは口なりだ。ドレこれから口をつまへて無言の行でも致しませうかい』
とまたゴロンと横になる。少時あつて、高らかに話ながら、ここを通り過ぎむとする二人の旅人があつた。
甲『あなたはこれから何処までお出になりますか』
乙『ハイ私はテルの都のカナンと申す男でございます。一寸暗間山へ玉が出るとか聞きまして、行つて来ましたが、モウ既に誰かが掘出した後でしたよ』
甲『テルの都のカナンさまと云へば、国王様のお側付のカナンさまと違ひますか』
乙『ハイ左様でございます』
甲『これはこれは、一度お目にかかりたいかかりたいと憧憬て居りましたが、これはまた良い所でお目にかかりました。これと云ふも全く三五の神の御引合せでございませう。私はヒルの都のヤツパリ国王の近侍を致して居ります、アンナと云ふ男でございます』
乙『アヽあなたがあの有名なアンナさまでございますか。何とマア奇遇でございますなア』
と立話しをして居る。高姫はこの話を聞き、
『ヤレ良い奴がやつて来よつた。アンナにカナンと云ふ有名な男、同じ供に連れるのでも、偉い違だ。一人と万人とに係はる拾ひ者だ。万卒は得易く一将は得難し、何と神様も甘くお繰合せをして下さる事だ。有難うございます』
と口の奥で感謝しながら、暗の中より涼しき若い声を出して、
高姫『ヤアヤア、アンナ、カナンの両人、しばらく待ちやれよ。天教山に現はれたる日出神の生宮、変性男子の系統、高姫の神司、国治立大神の神勅により、汝等両人此処を通る事を前知し、この神柱がただ一柱、此処に海山を越えて高砂島に渡り、暗間山口に待つて居たぞよ。これより両人は高姫が部下となし、宣伝使の職を授ける。有難う思へ』
甲『ハイ誠に以て有難う存じませぬ』
乙『余り有難うてお臍が茶を沸します』
高姫『コレコレ、アンナ、カナンとやら、日の出神の生宮の申す事、何と心得なさる』
甲『日の出神の生宮もモウ聞き飽きました』
高姫『アヽさうだろう。お前さまが聞飽くほど、生宮の名はこの高砂島に響き渡つて居るだらう』
乙『日の出神様の御仕組は、何時も御失敗だらけで呑み込んだ玉まで紛失をなされ、常彦、春彦の家来までが最前も途中に私に出会ひ、アンナ阿呆らしい事はカナンと申してゐましたよ。ウフヽヽヽ』
『コレコレ段々と声の地金が現はれて来た。お前は常、春の両人ぢやないか。この日の出神を暗がりで騙さうと思つたつて、……ヘンだまされますかい。人がワザとに呆けて居れば良い気になつて、アンナぢやの、カナンぢやの、何を言うのだい。本当に好かぬたらしい。どこどこまでも悪性男が女子の尻を追ひまはすやうに、よい加減に恥を知りなさらぬか』
常彦『実の所は常彦、春彦でございます。お前さまが最前から水臭い独言を云つてゐましたから、私も返報返しに一寸お気をもませました。誠に済みませぬ。お前さまが余り水臭いから、私には一つの面白い秘密があるのだけれど、魚心あれば水心ありだ。モウ云ひませぬワ。なア春彦、ソレ、高島丸の船中で、言依別さまと国依別さまに出会つて、玉の所在をソツと言つて貰つたから、この島にキツト隠してある。何々に往つて一日も早く掘出し、何々へ持つて行つて手柄をせうかい。高姫さまは随分水臭いことをおつしやつて、俺達を邪魔者扱ひなさるから、俺達の方も却て結構だ。その言葉を聞かうと思つてワザワザ隠れて従いて来たのだ。二人で聞いた以上は、なんぼ言訳なさつたつて駄目ですよ。左様なら……』
春彦『常彦、早う逃げろ逃げろ、また高姫に追ひつかれては険呑だぞ。早く早く』
と同じ所を足踏みならして、逃げる真似してゐる。
高姫『コレコレ二人の御方、一寸待つて下され。今のは嘘だよ。こんな遠い所へ来て一人になつてたまりませうか。一寸待つておくれいなアー』
春彦『オイ常公、高姫さまが半泣きになつて頼まつしやるから、旅は道連れ世は情だ。玉の所在さへ知らさにや良いのだから、待つて上げてくれ』
 常彦は側に居乍ら、遠い所に居るやうな声を出して、
『オイ、そんなら仕方がないなア。待つて上げやうかい』
と足音を段々高くし、
常彦『アヽ此処だつたか、そんならマア此処でゆつくりと夜明かしをせうかい。また明日、高姫さま、面白い話を聞かして上げますワ』
高姫『アヽそれで安心しました。余り仲がよすぎると、心易すぎて、互に罪のない喧嘩をするものだ。オホヽヽヽ』
と笑ひに紛らす。常彦は暗がり紛れに、寝るにも寝られず、平坦な芝生を幸ひ、盆踊りのやうな恰好で、口から出放題を喋りながら踊り始めたり。

常彦『日の出神の生宮と  いつもおつしやるエライ人
 変性男子の御系統  高姫さまに欺かれ
 自転倒島をあとにして  琉球の島まで漕ぎ渡り
 槻の大木の洞穴に  這入つて散々からかはれ
 言依別の大教主  国依別と一所に
 万里の波濤をうち渡り  高砂島へ七種の
 玉を隠しに行かしやつた  高姫さまはどうしても
 言依別を引捉へ  取返さねばおかないと
 目をつり頬をふくらして  ブウブウ泡を吹きながら
 フーリン島や台湾島  左手に眺めて海原を
 波押切つて渡る折  思はぬ暗礁に乗上げて
 船は忽ちメキメキと  木端微塵に粉砕し
 取り付く島も沖の中  尻ひつからげ波の上
 コブラを没する潮水を  遥にかすむテルの国
 山を合図に歩き出す  忽ち吹来る荒風に
 山岳の波寄せ来り  アワヤ三人の生命は
 水泡と消えむとする所  神の恵の幸はひか
 高島丸がやつて来て  吾等三人を救ひ上げ
 船長室に導かれ  タルチルさまに国所
 いろいろ雑多と尋ねられ  高姫さまが頑張つて
 日の出神を楯に取り  屁理窟言うたを船長は
 逆上してると思ひ詰め  矢庭に手足を縛り上げ
 クルリクルリと帆柱に  吊り上げられて高姫は
 目を剥き出した可笑しさよ  そこへ国依別神
 言依別が現れまして  高島丸の船長に
 一言いへば船長は  二つ返事で高姫を
 マストの上から吊下し  そのまま姿を隠しける
 それから種々面白い  高姫さまの御説教
 辻褄合はぬ御示しも  却て皆のお慰み
 国依別が現はれて  コレコレ常彦、高姫が
 デツキの上に居る故に  言依別や国依別がこの船に
 乗つて居るとは云うてくれな  代りにお前に肝腎の
 玉の所在を知らしてやらう  コレこの通り美しい
 七つの玉と吾が前に  差出し玉うたその時は
 如何な俺でもギヨツとした  高姫さまが鯱になり
 玉々云つて騒ぐのも  決して無理はあるまいと
 私も本当に気が付いた  オツトドツコイ高姫さまの
 ござる前とは知りながら  ウツカリ口が辷りました
 ヤツパリこれは夢ぢやつた  嘘でも本真でもかまやせぬ
 夢にしておきや別状ない  アヽ夢ぢやつた夢ぢやつた
 高姫さまよ春彦よ  必ず俺が麻邇宝珠
 その他の玉の所在をば  知つて居るとは思ふなよ
 国依別に頼まれた  オツトドツコイまた違うた
 国依別が居つたなら  言依別と一所に
 七つの玉を嬉しそに  抱えてニコニコしとるだろ
 それに相違はあろまいと  思うて寝たらこんな夢
 毎晩続けて見たのだよ  夢の浮世と言ひながら
 不思議の夢もあるものぢや  高姫さまよ春彦よ
 この常彦が申すこと  ゆめゆめ疑ふこと勿れ
 あゝ惟神々々  私の毎晩見た夢は
 嘘ではあるまい誠ぢやなかろ  ホンに分らぬ物語
 ドツコイシヨノドツコイシヨ  ウントコドツコイ高姫さま
 ヤツトコドツコイ春彦さま  ドツコイドツコイ常彦さま
 ウントコセーのヤツトコセー』  

と口から出放題、真偽不判明の歌を唄つて、高姫にからかつて見た。高姫は玉に関する話ときたら、どんな嘘でも聞耳立て、目を釣り上げ、一言も洩らさじと体を斜に構へ、この歌もヤツパリ大部分誠の物と信じ切り居たり。

(大正一一・八・一一 旧六・一九 松村真澄録)
(昭和一〇・六・七 王仁校正)



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