出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語29-2-101922/08海洋万里辰 国治の国王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
鏡の池
あらすじ
 高姫は国玉依別が言依別命や国依別と共謀して玉を隠していると疑う。国玉依別は、「黄金の玉は竜国別らが持っていってしまい、今あるのは瑪瑙の玉など形体的には取るに足らない玉だが、神徳は頂いている」と答える。
 高姫が我を張っていろいろ言うので、国玉依別夫婦は別殿に去った。
 残った国公が高姫と言霊問答をしているうちに神懸りになって、「玉は自転倒島の冠島、沓島に隠してあるので、竜国別らと共に掘り出し錦の宮に祭り、言依別命の留守番をせよ」と告げる。高姫は、この言葉を信じようとはせず、神殿に入り込んだ。
名称
国公 国玉依別 高姫 竜公 玉公 玉竜姫 常彦 春彦 依公 別公
アール アルナ姫 カーリンス 金毛九尾の狐 国治立命 国依別 言依別命 鷹依姫 竜国別 月照彦神 テーリスタン 常世姫 日の出神の生宮 変性男子 八岐の大蛇
生田の森 自転倒島 鏡の池 懸橋の御殿 冠島 沓島 黄金の玉 神人合一 高砂洲 テーナの里 常世国 錦の宮 如意宝珠 ヒルの国 筆先 秀妻国 麻邇の玉 大和魂
 
本文    文字数=20441

第一〇章 国治の国〔八三二〕

 高姫は一同の不思議さうな顔をして高姫を見つめ居るに、何となく気分面白からず、またもやソロソロ憎まれ口を叩き出した。
高姫『あのマア折角言依別や国依別と腹を合せ、ウマウマとこんな御殿を造りて、三千世界のお宝を隠し、よもや高姫はこんな所迄、後追ひかけて来る筈はないと安心をしてござつたのに、梟鳥が夜食に外れたやうな、皆さまのあのむつかしい顔ワイの。ホヽヽヽヽ、……悪は一旦は思惑が立つやうなけれど、九分九厘まで行つた所でクレンと返してやるぞよと、変性男子のお筆先に出てゐませうがな。善は苦労が永くて分るのが遅いけれど、分りて来たら、万劫末代しほれぬ花が咲くぞよと、変性男子のお筆先に出て居りますぞえ。チツト四股を入れてお筆先をいただきなさい。何程われほど偉い者はない、甘く高姫を瞞してやつた、ここに納めておけば、堅城鉄壁と思うて居つても、神様は遠近、明暗、広狭の区別なく、一目に見すかしてござるから、到底悪の企みは長続きは致しませぬぞえ。素直に改心するのが、お主のお得策だ。サア、早く玉番さま、素直にお出しなされ。素直にさへすれば、どう云ふ深い罪科でも、大慈大悲の神様がお赦し下さいますぞや』
国玉依別『これはこれは存じもよらぬ迷惑でござる。私はヒルの国テーナの里の酋長アール、アルナと云ふ夫婦者でございまして、祖先代々三五教の教を信じ、朝夕に神様のお給仕を致して居る者でございました。所が鏡の池に月照彦神さまが再び現はれ玉うて、玉を献じたき者は、一日も早く持来れよと御宣示あらせられると聞き、先祖代々より大切に保護致して居つた黄金の玉を献上せむと、鏡の池へ来て見れば、竜国別と云ふ審神者様や、テーリスタン、カーリンスと云ふお側付、それにまた月照彦神様は勿体ない、お婆アさまの姿となり、現はれ玉うて、吾々夫婦に尊き名を賜はり、それより朝夕神のお道を宣伝致し、遂には信者の真心によつて、かような立派な御殿まで出来上り、吾々は朝夕に真心をこめて神前にお仕へいたしてをる者でございます。玉と申せば鏡の池の傍に積み重ねてあるものばかり、そして吾々の献つた黄金の玉は竜国別様がお持帰りになり、その代りに瑪瑙の玉を御神体とし、この御神殿に祀つてございます。金剛不壊の如意宝珠とか麻邇の玉とかは、此処に祭つてをりませぬ。また私共は拝んだこともありませぬ。もしその玉をお捜しならば、外をお捜し下さい。ここには決して決して左様な玉は一個もありませぬ』
高姫『何、竜国別が黄金の玉を持つて帰つたとは、ソラ何時のこつてございますか。そして、テー、カー、の両人が従いて来て居りましたかなア。お前の目に婆アの生神と見えたのは、そりやキツと竜国別の母親で鷹依姫と云ふ身魂の大変に悪い婆ですよ。ヨウお前も騙されたものだなア。オツホヽヽヽ』
国玉依別『鰯の頭も信心からと申しまして、何程だまされても、神徳さへ立てば結構でございます。私のやうな者は一通や二通で神界へ入れて貰ふことは出来ませぬから、いろいろと神様が人の手をかり、口をかつて導いて下さつたのだと、朝夕神様に感謝いたしてをります。しかしながら鷹依姫さまは悪人かは知りませぬが、こう申してはすみませぬが、お前さまに比ぶれば、幾層倍と知れぬ人格の高いお婆アさまでした。あの人ならば、私は月照彦神だとおつしやつても誰一人疑ふ者はありませぬ。お前さまは何程日の出神の生宮だと自家広告をなさつても、私のやうな素人の目より見れば、どうしても金毛九尾の容物とより見えませぬ。すべて縁は合縁奇縁と申しまして、虫の好く方と虫の好かぬものとございます。アハヽヽヽ』
と円滑な辞令を以て、高姫を罵倒して居る。
高姫『ヘン、あなたのお目は偉いものですな。悪魔は光明を忌み、悪人は善人を嫌ふとやら、世の中はようしたものだ。……お前嫌でもまた好く人が、なけりや私の身が立たぬ、捨てる神があれば、拾ふ神もある。お気に入らねばモウ日の出神は居つてやりませぬぞえ』
国玉『ハイどうぞお願ひでございます。一時も早く居つてやらぬやうになさつて下さいませ。御願致します』
高姫『ナニ、お前は変性男子の系統のこの高姫を追ひ出さうと云ふのかい。この懸橋御殿は三五教の神様の物、三五教の大神様は国治立命様、変性男子と現はれて、世界の御守護を遊ばす、その系統の高姫を追ひ出さうとは、ソリヤまた、何と云ふ心得違だ。左様な了見では三五教の取次は許すことは出来ませぬ。今日限り系統の生宮が免職を言ひつけます。サアトツトと早く、三五教の神の館を、夫婦共立退いて下さい。これから高姫がここに居すわり、そして、立派に立派に日の出神の神力を現はし、三千世界の大立替大立直しを致しますぞ。訳の分らぬガラクタ役員が沢山居ると、足手纏ひになつて御神業がはかどりませぬ。誠の分りた者が、三人ありたら、神の仕組は立派に成就致すものでございますぞや』
国玉『誠の分つた方は、モウ三人揃ひましたか』
高姫『確に揃ひました』
国玉『そのお方の御名は何と申しますか』
高姫『変性男子の系統が一人、日の出神の生宮が一人、三五教の神司高姫が一人、三位一体の世の元の大神の御用を致す、三人世の元、結構な結構な神柱さへあれば、ガラクタ神は一人も居なくても、よろしいわいな。ホヽヽヽヽ……余り盲聾の世の中で、神も骨が折れますワイ』
 国玉依別は高姫の勝手気儘な議論に愛想をつかし、こんな連中にかかり合つてゐては、却て馬鹿を見なくてはならない、また国、玉、竜、別、依などの幹部に対しても、信用を落す訳だと、玉竜姫を伴ひ、
国玉『高姫様、しばらく失礼を致します。どうぞユルリと遊ばしませ。御思案が付きましたら、一時も早く御退場を御願致します。……常彦さま、春彦さま、あなたも大抵ぢやございますまいが、どうぞそこはよろしきやうに御取計らひを願ひます』
と云ひ捨て、逃げるやうにして、玉竜姫の手を取り、睦じげに別館に立つて行く。高姫は少しく目の上の瘤のやうに迷惑がつてゐた夫婦が別館に姿をかくしたのに、ヤツと胸を撫でおろし、ソロソロ言霊の連発を始めかけた。
高姫『コレコレ懸橋御殿に御奉公致す皆さま達、これから誠生粋の大和魂の因縁を説いて聞かしますから、私の云ふ事が分つたら、この館に隠してある金剛不壊の如意宝珠を始め、麻邇の宝の所在を綺麗サツパリと、素直に白状しなされや。……アレ御覧なさい、宮番夫婦は日の出神の御威勢に恐れて、別館へコソコソと逃げてゐたぢやありませぬか』
常彦『モシ高姫さま、自惚するにもほどがありますよ。御夫婦の方々は貴女の御威勢に恐れて逃げられたのぢやありませぬ。余り脱線だらけの事を、ベラベラと際限もなく、お前さまがまくし立てるので、うるさがつて逃げて行かしやつたのですよ。慢心すると嫌はれて居つても、恐れて逃げられたやうに見えますかいな。いかに善意に解する教だと云つても、高姫さまの善意は一寸趣が違ふ。……コレコレ皆様方、必ず気にさへて下さいますな、御存じの通の代物ですから……』
高姫『コレ常、ソラ何を言ふのだ。人民のゴテゴテ云ふ幕ぢやありませぬぞや。世界のことは隅から隅まで、イロハ四十八文字で解決のつく三五教の教ですよ。この高姫は、人民共の作つた学は知りませぬが、正真正銘の神直々の知慧が、無尽蔵に湧いてくるのだから、皆さま、心を清め身を謹んでお聞きなさい。
いゝゝ一番この世の中で尊い宝は誠と云ふ一つの大和魂ですよ。それさへあれば三千世界の物事はキタリキタリと何の躊躇もなく、成就致しますぞや』
国『いゝゝ一番尊いお宝が大和魂なら、なぜお前さまは無形の魂を尊重せずに、高砂島三界まで金剛不壊の如意宝珠を捜しに来たのだい。ヤツパリ形ある宝の方がお前さまにはお気に入ると見えますな』
高姫『ろゝゝ碌でもない理窟を云ふものでない。金剛不壊の如意宝珠は、神様の御宝、大和魂は人間の宝だよ。神と人とを一緒にしてはなりませぬぞえ』
国『ろゝゝ論より証拠、お前さまは何時も神人合一と云ふことを称へてゐるぢやありませぬか。神人合一は神さまと人と一緒になつた事ぢやありませぬか』
高姫『はゝゝはしたない人間の知慧を以て、神の申す事をゴテゴテと云ふものぢやありませぬワイ。花は桜木人は武士と云つて、潔うするものだ。女の腐つたやうに何をツベコベと小理窟を云ひなさる。何とか、かとか云つて、如意の宝珠を渡そまいとしても駄目ですよ』
国『はゝゝゝゝ腹がよれるワイ。これだけ脱線されては、安心して汽車に乗る事も出来ませぬワイ』
高姫『にゝゝ日本の神の道さへ歩いてをれば脱線する気遣ひはありませぬ。……走り行く汽車の足許眺むれば、ヤハリにほんの道を行くなり。……日本の道を大切に守り、外国の教をほかしさへすれば脱線所か一瀉千里の勢で希望の都へ達しますぞや。外国とは外れた国と書きませうがな。脱線は即ち外れるのだ。分つたかなア』
国『にゝゝ二本の道か四本の道か知らぬが、お前さまのおつしやる事は、どうも四本足が云うとるやうに聞えますぞや。四本足は所謂四つ足だ。ゴテゴテと六でない事を七むつかしく、八かましう、九ちから出任せにこきちらし、十りとめもなく、百千万遍喋り立てる、百舌鳥か雲雀の親方がこの頃一匹高砂島へ飛んで来たと云ふ事だ。百舌鳥かと思へば小鳥を取つて食ふ目玉の鋭い鷹ぢやさうな。ワツハヽヽヽ』
高姫『ほゝゝ吐くな吐くな、深遠無量の神の御経綸がお前たちに分るものか。不言実行だ、ゴテゴテ云はずに、ホヽヽ宝玉を早く渡して、素直に改心なさるが第一の得策ぢやぞえ。お前はここの総取締ぢやないか。お前から改心せねば皆の者が助かりませぬぞや。一人さへ改心いたしたら外の者は皆一度に改心致す仕組だから、人間界の理窟はやめて、神の生宮の言ふ事に絶対服従しなさい。ゴテゴテと理窟の云ひたい間は、まだ御神徳が充実してゐないのだよ』
国『ほゝゝ放つといて下され、私には立派な国玉依別様と云ふお師匠さまがございます。別にお前さまに下らぬ事を教へて貰ふ必要もなければ、仮令宝玉が有つたとしても、お前さまに渡す義務がありませぬ。オツホヽヽヽ』
高姫『へゝゝ屁理窟ばかり、よく垂れる男ぢやな。流石は国依別の仕込みだけあつて、偉いものだワイ』
国『へゝゝ臍が茶を沸かしますワイ。如何に私の名が国ぢやと云つて、見た事もない国依別さまとやらの仕込みぢやなどとは、よくも当推量したものだ。私の国は国依別さまの国ぢやありませぬぞ。この世の御先祖の国治立命様の国でございますワイナ。ヘン……ちつと済みませぬが、秀妻国と常世国とほど国が違うのだから、余り人の事までクニ病んで下さいますな。余りクニクニ思うと寿命がちぢまりますぞえ。早くクニ替へをせにやならぬ事がないようにクニクニも気をつけておきますぞよ』
高姫『とゝゝとへうもない事を言ひなさるな。国治立命様の国ぢやなんて、慢心するにもほどがある。慢心は大怪我の元ぢやぞえ』
国『とゝゝ途方途徹もない駄法螺を吹く、唐変木、トチ呆けの尻切蜻蛉の捉へ所のない、団子理窟を囀る、常世姫の身魂の性来を受けた罪人の身魂の宿つた肉の宮を日の出神の生宮ぢやなんて、とつけもない法螺を吹いてをると、今に化が現はれて、栃麺棒を振り、途方に暮て吠面かわかねばならぬことが出来致しますぞや。
ちゝゝちつと胸を手を当て考へて御覧。
りゝゝ理窟ばかり並べたつて、神徳のない者に誰が往生するものか。
ぬゝゝ糠に釘、豆腐に鎹だ。
るゝゝるるとして千万言を連らねても誰も聞き手がありませぬぞや。
をゝゝをどし文句を並べ立てて、我意を立通し、玉を吐き出さそうとしても、お前さま等の口車に乗る馬鹿はありませぬワイ』
高『わゝゝ吾よしの守護神奴、人の言霊を横取して、先言うと云ふ事があるものか。今言うたチリヌルヲどうしてくれるのだ。訳が分らぬと云うてもほどがあるぢやないか、この高姫が言うた後で力一杯、辻褄の合はぬ言訳を致すのならまだしもだが、人より先へ先へ行かうと致す、その我慢心が所謂四つ足根性ぢやぞえ。本当に性来の悪い男だなア』
国『わゝゝ悪かろが善かろが自由の権、放つといて下され。
かゝゝ構立にはして下さるなや。
よヽヽ善からうが悪かろが、誠の神様が裁いて下さるぞや。
たゝゝ高姫の干渉する問題ぢやありませぬぞ。
れゝゝ礼儀も作法も知らずに
そゝゝそそつかしい、人の館へ這入つて来て、挨拶も碌に致さず
つゝゝ月照彦神様に戒めをくひながら
ねゝゝねぢけ曲つた魂は何時までも直らず
なゝゝ何も分らぬ癖に、三千世界の事はどんな事でも知つてをるとか、知つて居らぬとか、駄法螺を吹き、
らゝゝ乱脈振と云つたら、到底御話しのしかけが出来ませぬ。
むゝゝ六かしい面をして、人が聞いても
うゝゝウンザリするやうな、身勝手な事ばかり並べ立て
ゐゝゝ意地の悪い事ばかりまくし立て
のゝゝ野天狗、野狐、野狸の囀るやうな脱線理窟を喋々と弁じ
おゝゝ恐ろしい執着心を極端に発揮し
くゝゝ国さまに向つて玉の所在を知らせと何程云つても、駄目ですよ。そんな馬鹿な事は
やゝゝ止めておきませうかい。八岐の大蛇の金毛九尾の狐の霊の憑つた、どこやらのお方には、仮令天地がかへる共、この玉ばかりは渡す事は罷りなりませぬワイ。
まゝゝ誠一つの心の持様で、手に入らぬ玉も手に入る事があり、罷り誠をふみ外せば、目の前にある玉でも握れぬやうな事が出てくるし、
けゝゝ毛筋の横巾でも、この国さまの御機嫌を損ねたら、立派な玉を上げたいと思うても、中途でひつこめてしまひますぞ。
ふゝゝふくれ面して威張つてをる間は、高姫さまも駄目ですよ。
こゝゝ是丈道理を解き聞かしても分らぬやうな御方なら、トツトと帰つて下され。
えゝゝ枝の神や末の神の分際として、この御殿に納まつてをる御神宝を、持帰らうとは身のほど知らずと云ふものだ。
てゝゝテンから物にならぬ企みをするより
あゝゝアツサリと思ひ切つて
さゝゝサツサと帰つて下さい。
きゝゝ気分が悪なつて来た。アハヽヽヽ、イヒヽヽヽ、ウフヽヽヽ、エヘヽヽヽ、オホヽヽヽ』
と体を面白くゆすつて、キヨくつて見せる。
高姫『ゆゝゝ言はしておけばベラベラと際限もなく、こけ徳利のよに、口から出任せに、泥水を吐く醜魂だな。
めゝゝ盲の垣覗きと云ふ事はお前の事だ。盲万人目明一人の世の中だから、日の出神のやうな目明はまたと二人、三千世界にないのだから、無理はないけれど、盲なら盲らしうして居なさい。盲蛇におぢずと云うて、恐い事知らぬ奴になつたら、仕方のないものだ。お前さまのやうな盲に、手引せられる盲信者こそ気の毒なものだ。今の取次盲聾ばかり、そのまた盲が暗雲で、世界の盲の手を引いて、盲めつぽに地獄の暗へおちて行く……と神様のお筆に出てをりますぞえ。チツとしつかり目を醒ましなさい。
みゝゝ見えもせぬ節穴のやうな団栗目をキヨロつかしても、足許の溝が分りますまいがな。
しゝゝしぶといどうくづの身魂ほど、改心さしてやりたいと思うて大慈大悲の神様が御心配をなさる、そのお心根がおいとしいわいの、勿体ないわいの。オンオンオン』
国『ゑゝゝゑらう御心配遊ばして下さいますな。しかしながら、泣くのだけは止めて下さいませ。
ひゝゝ日の出神の生宮ともあらうものが、余り見つともよくありませぬぞ。
もゝゝ諸々の邪念を去つて、今日限りこの館に納めてある、結構な御神宝に対する執着心を綺麗サツパリと脱却なさいませ。
せゝゝ雪隠で饅頭食うたよな顔をして、人の苦労で得をとり、自分が発見したやうな顔して聖地へ帰り、威張りちらさうと思うても駄目ですよ。
すゝゝ澄み渡る月照彦神の申す事、よく耳へ入れて、高砂島を一日も早く立去り、自転倒島の中心地、冠島沓島に麻邇の宝玉隠しあれば、その方は、鷹依姫、竜国別等と共にその玉を掘出し、錦の宮に持帰り、言依別命の留守番を神妙に致すがよからう。ウンウンウン』
 ドスンと飛び上り……
『あゝ何だか随分、喧しう囀つたやうですなア。皆さま、私はどんな事を云ひましたな。覚えて居つて下さいますやらうねエ』
高姫『コレ、国さまとやら、人を盲にしなさるのか。本当の神様か神様でないか、世界一のこの審神者が見届けたら間違ひありませぬぞえ。そんな嘘の神懸をして、国依別が生田の森で私を騙さうとしたやうな、古い手は食ひませぬぞえ。ホヽヽヽヽ、もし誰が何と云つてもこれから家探しして、玉の所在を捜すのだ。……サア常、春、ここが千騎一騎の性念場だ』
と云ひながら、つかつかと神殿目がけて走せ上りけり。

(大正一一・八・一二 旧六・二〇 松村真澄録)



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