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原著名出版年月表題作者その他
物語29-1-41922/08海洋万里辰 野辺の訓戒王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
宇都の国 檪ケ原
あらすじ
 カーリンスに続いて竜国別も白楊樹の下に倒れてしまった。元気なのは鷹依姫だけだ。倒れた三人は閻魔の庁で地獄を見たという。
 鷹依姫は自分で木に登ろうとするが、木にはムカデ、大蛇が取りまいているので、あきらめて、持久戦をすることにして、草庵を建てた。
 そこへ猿世彦の副守護神である怨霊の凝固したものが現れ、「自分を解脱させてくれるものがないので迷っている」と言う。鷹依姫が天津祝詞と神言を唱えてやったが、「執着心の鬼の濁った言霊ではだめだ。黄金の玉は言依別命が神界の命によって保管しているので、玉の詮議はするな。四人はアマゾン河を通って玉の森林へ向え」と告げた。実は、この猿世彦の怨霊は、本物ではなく、一行の執着を解こうとした木の花姫命の計らいであった。
名称
カーリンス 鷹依姫 竜国別 テーリスタン
閻魔 怨霊 国治立大神 国依別 黒姫 言霊別命 言依別命 木の花姫命 狭依彦神 猿世彦 神素盞鳴大神 高姫 月照彦神 常世姫 日の出神 湊彦 美濃彦 元照彦命
アマゾン河 天津祝詞 アリナの滝 アルプス教 桶伏山 鏡の池 神言 檪ケ原 黄金の玉 スペリオル湖 高砂洲 玉の森林 テーナの里 天教山 常世城 常世の国 如意宝珠 白楊樹 ハルの国 バラモン教 副守護神 筆先 本守護神 ポプラ! 木乃伊 紫の玉 黄泉津比良坂
 
本文    文字数=18907

第四章 野辺の訓戒〔八二六〕

 白楊樹の下に立寄つたカーリンスは幹に手をかけるや否や『アツ』と叫んでその場に倒れてしまつた。テーリスタンは腰をしたたか打つたため、少しも歩む事は出来ず、元の所に横たはつてゐる。竜国別は驚いて、樹下に立寄り、またもや『アツ』と一声叫んだまま、カーリンスと枕を並べて南向けに倒れてしまつた。後には鷹依姫只一人、元より気丈の女とて、少しも騒がず、泰然として天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ、二人の恢復を祈つてゐた。
 竜国別、カーリンスの両人は掛合に『ウンウン』と虎の嘯くやうな厭らしい声を出して唸りつづけてゐる。鷹依姫はこの声を聞いて……アヽ生命に別条はない、マア大丈夫だ。夜が明けたら何とか工夫がつくだらう……位に思つて、切りに祝詞を奏上し、黄金の玉を策略を以て集め、うまくチヨロまかして此処まで来りしその罪を大神に謝罪しつつ、夜の明くるを待つた。
 東の空を紅に染めて漸く天津日の神は地平線上に、円き姿を現はし玉うた。テーリスタンは漸くにして腰の痛みも癒り、稍元気づき、鷹依姫と共に四辺の苺をむしり、両人の口に含ませ、一生懸命に鎮魂を施した。二人は漸くにして正気づき、起き上つて、
竜国『あゝ大変に恐ろしい事だつた。たうとう閻魔の庁まで引出され、大きな蜥蜴や毒蛇の責苦に遭はされ、黄金の玉を幾十となく背中に負はされ、骨も砕くるばかり、その重さと苦さに、体は段々と地の中へ落ち込んでしまひ、何とも云はれぬ責苦に会うて来た。あゝ執着心位恐ろしいものはない。……モウ玉の事は、お母アさま、断念したらどうでせう』
カー『竜国別さま、お前さまもさうでしたか。私も同じやうな目に遭はされましたよ。そして横の方にウンウンと苦しさうに呻く声が聞えたので、ソツと覗いて見ましたら、恐ろしや恐ろしや、高姫さまと黒姫さまが、如意宝珠や紫の玉に取囲まれ、押へられ、紙のやうな薄い体になり、鰈のやうに目が片一方の方へ寄つてしまひ、随分エグイ顔をして、口から黒血を吐き、見られた態ぢやございませなんだよ。吾々の霊は生きながら地獄へ落ち込んでゐると見えますワイ。……あゝ神様、どうぞ許して下さいませ。キツと今日限り心を改めます』
と合掌し、涙を滝の如くに流してゐる。
テー『おいカー、貴様は目を眩かしてそんな夢を見てゐたのだよ。夜前から俺は腰が痛いので、横になつたまま、ヂツとして貴様の倒れたのを見てゐたが、別に地獄へ往た様子もなし、ただこの木の下で竜国別さまと掛合にウンウンと唸つてゐたのだ。そんな気の弱い事を云ふな。そりやキツト心の迷ひだ。鬼も蛇も、地獄も極楽も、皆自分の心の船の舵次第で、どないでも転回するのだ。そんな迷信臭い事を言はずに、チトしつかりしてくれ』
竜国『イヤそれでも夢とは思はれない。また俺達の決して心の迷ひではない。日頃思つてゐる事を見るのなら、夢幻と判断しても良いが、吾々はそれほど悪事だとも思つてゐない。世界のため、神様のため、最善の努力をしてゐる考へで、寧ろ吾々のやつた事を誇りと思つてゐた位だから、決して幻想でも妄想でもないよ。ともかく吾々は今迄の行方に無理があつたに違ない。神様は一つ間違へば直に懲戒をして気をつける……と筆先に御示しになつてゐるのだから、ウツカリ疑ふ訳には行かないよ』
カー『竜国別さまのおつしやる通りだ。俺やモウ未来が恐ろしくなつて来たワイ』
鷹依『お前達は一丈二尺の褌を締た一人前の堂々たる男ぢやないか。仮令如何なる事があらうとも、初一念を貫徹するのが男子の本分だ。妾はこの通り年を老つた女の身だ。けれ共そんな弱い心はチツとも持つて居ない。仮令地獄の底に落されて如何なる成敗に遇はされよう共、世界のため、お道のためになる事ならば、断乎として初心を曲げる事は出来ませぬ。それほど夢位が恐ろしいやうな事で、この夢の浮世にどうして暮す事が出来ませうか。大神様はお前達の心を試すために、いろいろと気をお引き遊ばすのだ。……エヽチヨロ臭い、もう仕方がない。妾は仮令この木の上から踏み外して墜落し、頭を割つて国替をせう共、あの玉を取つて来ねば措きませぬ。妾が上から、あの袋を下げおろすから、お前達は下に居つて、ソーツと手を拡げて鄭重に受けるのだよ』
と云ひながら、一抱ばかりの白楊樹の根元に手をかけた。白楊樹の幹には三尺四尺もだけのある大蜈蚣が一面に巻ついて居る。さうして太き一尺ばかりの亀甲形の斑文のある蛇、赤い舌をペロペロと出し、目を怒らして、木の周囲に幾十匹とも数限りなく控えて居る。根元から梢まで、蜈蚣と蛇とが空地なく、幹も枝も絡んで居るその厭らしさ。流石の鷹依姫もこれには辟易し、二三間後しざりしながら、
『コレコレ竜国別、テーに、カー、如何にもこれは容易に登る事は出来ませぬワイ。幸にこの通り苺が沢山に生つてゐる。食物に何時まで居つたつて不自由はないから、あの玉が、風でも吹いて自然に落ちて来るか、蜈蚣や蛇が根負して逃げていぬか、どちらなりと埒の付くまで、此処で持久戦をやりませう。……サアサア皆さま、雨が降つては困るから、今の間にそこらの萱を刈り集めて、草庵を結び、あの蛇、蜈蚣と根比べを致しませう』
 三人は鷹依姫の言に従ひ、俄に木や草を刈り集めて庵を結び、籠城の準備に取かかつた。漸くにして雨蔽のための、形ばかりの草庵は出来上つた。四人は夜露を凌ぎつつ、庵の中にて祝詞を奏上し、一時も早く玉の都合よく吾手に帰り、且また、蛇、蜈蚣の悪虫の退散せむ事を昼夜間断なく祈願して居た。
 外面に当つて『ケラケラケラ』と厭らしき笑ひ声が聞えた。竜国別、テー、カーの三人はこの声が耳に入るや否や、寒水を頭から幾百石ともなく浴ぶせかけられたやうな感じがし、ビリビリと慄ひ出し、歯をガチガチと鳴らして居る。鷹依姫は平気な顔して、
鷹依『コレコレお前達、なぜ斯様な真青な顔をして怖ぢけてゐるのだ。何が一体恐いのだい。大方、今の笑ひ声が恐かつたのだらう。オホヽヽヽ、何と臆病たれだなア。ドレドレ妾が一つ外へ出て、何者か知らぬが、言向け和して参りませう』
とムクムクと立上がり、萱製の莚戸を押開けて出て行かうとする。竜国別は驚いて、鷹依姫の腰をシツカと抱止め、
『モシモシお母アさま、あなたがそんな危険な事をなさらいでも、若い者が三人も控えて居ります。どうぞお待ち下さいませ』
 この時またもや『ケラケラケラ』と厭らしき声が連発的に聞えて来た。三人の男は首筋がゾクゾクし出し、またもや歯がガチガチと鳴り出したり。
鷹依『ホヽヽヽ、化物の奴、ケラケラケラなんて、ナアニ悪戯をするのだ。用があるのならば、犬の遠吠のやうに、遠くから相手にならずに、なぜ此処へ這入つて来ぬか。奴甲斐性なし奴が』
テー『モシモシ鷹依姫さま、そんな事言つて貰うてはたまりませぬ。あんな奴に這入つて来られてどうなりますか』
と慄ひ声で半泣きになつてゐる。
鷹依『エーエ、どいつも此奴も弱虫ばつかりだな。今の若い者は口ばかり達者で、実地になつたら、この態、それだから、何程畑水練の学問をしたつて駄目だ。実地に当つて苦労を致さねば誠は出て来ぬぞよ……と神様がおつしやるのだ。サアお前達、立派な男三人も居つて、外へ出て化物を言向け和す事をようせぬのなら、ようせぬでよいから、妾が独り出て来て談判をして来るほどに、必ず止めては下さるなや』
とまたもや立上り、莚戸を押し開けて出ようとする。竜国別は周章て抱止め、
『コレコレお母アさま、貴女が自らお出ましにならなくても、荒男が三人も居ります。どうぞ私に任して下さいませ』
 最前の怪しき声追々と近付き来り、一層厭らし相な音調にて、
『ガツハヽヽヽ、ギヒヽヽヽ、グフヽヽヽ、ゲヘヽヽヽ、ゴホヽヽヽ、ギヤハヽヽヽ、ギイヒヽヽヽ、ギユフヽヽヽ、ギエヘヽヽヽ、ギヨホヽヽヽ』
と益々烈しくなつて来た。竜国別はテー、カー二人に向ひ、
『おいテー、カー、お前御苦労だが、俺はお母アさまの側に守つて居るから、お前、一つ様子を考へに出て見てくれぬか』
テー『ハイ、お易いこつてございますが、何分この間天狗に取つて放られ、腰の骨を折つて、思ふやうに足が動けませぬので、どうぞカー一人に仰せ付けて下さいな』
カー『俺だつてこの間転倒した時に、大腿骨を痛めて居るから、体が思ふやうに動かない。マア仕方がない。此処にしばらく籠城して、化物と根比べをしたらどうでせう』
竜国『アヽそれもさうだ。……なアお母アさま、テー、カーもあの通り、体を痛めて居りますから、一層の事、化物と根比べを此処でする事にしませうか』
 鷹依姫は、
『エヽ腰抜共だなア』
と云ひながら、吊り戸を押し開け、外に飛び出してしまつた。三人はその勇気に舌を巻き、コワゴワながら外面を、萱壁の隙間から覗いて居る。
 鷹依姫はこう云ふ時には無茶苦茶に肝の太くなる女である。平気の平左で怪しき声を尋ねて、あちらこちらと探し廻つた。前かと思へば後に聞え、右かと思へば左に聞へ、一向掴まへ所のないのに劫を煮やし、大音声をはりあげて、
鷹依『ヤアヤア、何者の妖怪変化ぞ。畏れ多くも国治立大神、木の花姫命、日の出神、神素盞嗚大神の御神業に仕へまつる三五教の宣伝使鷹依姫その他に対し、無礼千万にも、外面より罵詈嘲弄的態度を取るは、心得難き憎き曲者、サア早く正体を現はせ。天地の道理を説き諭し、汝が修羅の妄執を払拭し、その霊魂を天国浄土に助けてやらう。違背に及ばば、三五教の神司鷹依姫、神に代つて、汝を根の国底の国に、吾言霊の威力を以て追落してやらうぞ。サアどうぢや、返答を聞かせ。一二三四五六七八九十百千万……』
と大音声に、天の数歌を歌ひ上げた。萱の株を隔てて、少しばかり前方に白煙立ち上り、その中からボンヤリと現はれた頭の光つた蛸入道、赤黒い細い手をニユツと前に出し、招き猫のやうな恰好をしながら、
『フツフヽヽヽ、その方はバラモン教の神司、転じてアルプス教の教主となり、再転して三五教の宣伝使と変り、高姫に無実の難題を吹きかけられて、遥々と高砂島まで迂路つきまわり、小人窮して乱をなす譬に洩れず、所在策略をめぐらし、テーナの里の酋長が家宝と致せる、黄金の玉をウマウマ手に入れたであらうがなア』
鷹依『大功は細瑾を顧みずと云つて、天下国家のためならば、少々位の犠牲は見越しておかねば、何事も成就するものではありませぬワイ。大魚小池に棲まず、清泉には魚育たず、春の夜の月は朦朧として居るのが却て雅趣があるやうなもので、人間として神業に奉仕する上において、チツと位過ちがあつた所で、天津祝詞の功力により、科戸の風の朝霧夕霧を吹払ふ事の如く、罪も穢も、消え失せるは神界の尊き御恵み、何処の枉神か知らぬが、そのやうなせせこましい小理窟を云つて、吾々をへこまさうと思つても、左様な事に尾を巻いたり、旗を巻いたり、鉾を戢めて退却するやうなヘドロイ女宣伝使ではござらぬぞや。お前は一体何者だ。大方黄金の玉に執着があつて、折角吾々が手に入れたものを横奪せうと思ひ、あの白楊樹の上まで持つて上つたのだらう。サアもうこうなる以上は、この鷹依姫が承知致さぬ。サア早く木登りをしてここへ持つてござれ。お前と云ふ奴は、怪しからぬ悪戯を致す者だ。アハヽヽヽ、油断も隙もあつたものぢやないワイ。オツホヽヽヽ』
禿化『この方は、昔の神代に常世の国の常世姫の部下となり、言霊別命、元照彦命などの神将を、縦横無尽に駆悩ましたる猿世彦の勇将であつたが、言霊別命、元照彦命両人が風を喰つて常世城を逃げ失せたる後を追ひ、スペリオル湖の湖辺まで追ひかけ到り見れば、両人の姿は雲を霞と北方へ遠く逃げ去つた様子、それ故、この猿世彦は元照彦、美濃彦の間者なる、船頭の湊彦に船を操らせ、寒風吹き荒ぶ湖上を渡る折しも、退引ならぬ湊彦の強談に赤裸となり、とうとう吾肉体は木乃伊になつてしまつた。しばらくあつて、三五教の神司に言霊を以て助けられ、蘇生へり、茲に身魂は二つに分れ、一方の身魂は猿世彦の肉体を使つて、遂には日の出神の教訓を受け、宣伝使となつて、アリナの滝の水上、鏡の池にて神界の御用を勤める事となつたが、この方はスペリオル湖の湖上において、木乃伊となつた苦しき時の思ひが凝つて、今にこの高砂島の山中に彷徨ひ、三五教の奴原に対し、恨みを返さねばならぬと、汝等四人アリナの滝に現はれしを幸ひ、如何にもして、恨を晴らさむと、心は千々に砕いたなれど、何を言うても、鏡の池に月照彦神の神霊守りあれば、容易に汝等を悩ますの余地なく、隙を窺ひ、汝の後に引添ひ、錦の袋にブラ下りながら、ここまでやつて来た猿世彦の副守護神、怨霊の凝固であるほどに、モウこうなる上は、何程藻掻いても、この櫟ケ原は悪霊の集合地帯だ。飛んで火に入る夏の虫、覚悟を致して、一時も早く元へ引き返し、この玉をこの猿世彦に渡して帰るがよからう。グズグズ申すと、寝首を引掻き、むごい目にあはしてやるぞよ。ウツフヽヽヽ』
 鷹依姫は声を励まし、
『猿世彦の怨霊とやら、よつく聞け。その方の本守護神は狭依彦神となり、立派に神業に古より奉仕して、黄泉比良坂の戦ひにまで出陣し、抜群の功名を立てたでないか。なぜその方は左様な怨霊となつて、何時までもまごつきゐるか。チツと胸に手を当て、善悪正邪の道理を考へて見たらどうだえ』
禿化『私だとて本守護神が神になつてゐるのに、何時までも斯様な曲神に落ちてゐたい事はないのだ。しかし吾々を済度し助けてくれる宣伝使が出て来ないので、今に身魂は世に落ち、曲神の群に入つて、日夜艱難辛苦を嘗めてゐるのだ』
鷹依『そんならこの鷹依姫が有難き神文を聞かしてやるから、これにて綺麗サツパリと成仏致し、誠の神に立帰れよ』
と言ひながら、天津祝詞と神言を二三回、一生懸命に繰返し唱へ上げ、
『サア是丈結構な祝詞を上げた以上は、最早解脱したであらう。早くこの場を立去らぬか』
禿化『何程結構な神文を唱へてくれても、お前の心に執着心と云ふ鬼が潜んで居る以上は、その言霊が濁り切つて居るから、解脱所か苦しくて苦しくて、益々迷ひが深くなるばかりだ。黄金の玉の事は今日限りフツツリと思ひ切つて善心に立返つてくれ。お前の尋ねる桶伏山の黄金の玉は既に既に発見されて、言依別神様がある地点に、人知れず、神界の命によつてお納めになつてゐるぞ。最早玉の詮議は無用だ。お前達の心中を憐み、頓て言依別命様が、国依別を伴ひ、お前の所在を尋ねてお越し遊ばすから、お前はこれより東を指して海岸に出で、海ばたを通つて、巴留の国のアマゾン河の河口に出で、それより、河船に乗つて、玉の森林に向へ』
鷹依『如何にも、さう承はらば、どこともなしに妙味のある言葉だ。一つコリヤ考へる余地が充分にある。何れ三人の者とトツクリと相談をしておいて、返事をするから、今晩はこれで帰つて下さい。また明日の晩お目にかかりませう』
 禿頭の化物はジユンジユンと怪しき音を立て、濛々と白煙を起し、忽ちその怪しき姿を隠してしまつた。
 これより鷹依姫一行はこの玉に対する執着心を除去し、櫟ケ原を東にとり、海岸に出で、北へ北へと進んで行く。
 因にこの怪物は決して猿世彦の怨霊では無い。天教山の木花姫が、一行の執着心を払ひ、誠の宣伝使に仕立て上げむとの周到なる御計らひなりける。

(大正一一・八・一一 旧六・九 松村真澄録)



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