出口王仁三郎　文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語28-4-211922/08海洋万里卯 喰へぬ女王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
高島丸
あらすじ
　タルチールの船長室で船長、言依別命、国依別が高姫の話をしている。言依別命は「玉を高姫に探させ、今までの失敗を回復させるために、神素盞嗚大神の思召しにより、玉を自分が持ち逃げしたことにして、自分は犠牲になって聖地を離れ､高砂洲、常世国、フサの国の斎苑館からコーカス山に至る計画だ。玉は自転倒島に隠してあるので、高姫が、無駄骨を折らないように諭してください」と、船長に頼む。
　船長は高姫を呼んで話をする。やはり、高姫は船長の言う事を信じず、「言依別命と国依別は高砂洲に渡った」と執着する。
名称
国依別　言依別命　高姫　タルチール
神素盞鳴大神　曽富登の神　日の出神の生宮　変性男子　変性女子
天の岩戸　斎苑館　一厘の仕組　ウブスナ山脈　自転倒島　冠島　沓島　コーカス山　諸教大統一の大光明　台湾　高砂洲　高島丸　テルの都　天火水地　常世国　如意宝珠　バラモン教　フサの国　富士　麻邇宝珠　山子
 
本文    文字数=16056

第二一章　喰へぬ女〔八二一〕

　タルチールの船長室には、言依別命、国依別三人鼎座して、神界の経綸談に就いて、熱心に意見を戦はして居た。
船長『只今三五教の宣伝使高姫と申す者、甲板上にて、取りとめもなき事を申して居りましたが、如何にも教主様の御言葉の通り、執着心の深い偏狭な人物ですなア。何とかして彼を救うてやる訳には参りませぬか。何でもあなた様を非常に恨みかつ疑ひ、麻邇の宝珠を御両人が懐中にして、高砂島へ逃げたに違ひないから、どこまでも追つかけて取返さなならぬと、それはそれは大変な逆上方でございましたよ。あなたも良い加減に実を吐いて、あの高姫を安心さしておやりになつたらどうでせう』
言依別『麻邇宝珠の替玉事件は全く大神様の御経綸に出でさせられたものでありまして、吾々としてはその一切を高姫に対し、明示することは出来ない事になつて居ります。また高姫は吾々の申すことは決して信ずる者ではありませぬ。何程誠の事を言ひ聞かしましても、心の底からひがみ切つて居りますから、到底本当には致しませぬ。どうも困つたものです』
船長『あなたでいかなければ、国依別様を通してお示しになつたらどうですか』
言依別『到底物になりませぬ。国依別は随分高姫に対し、幾回となくからかひ、かつ玉の所在を知らせて失敗をさせた事がありますから、なほなほ聞く道理はございませぬ』
船長『その玉は一体どうなつてゐるのですか』
言依『何人にも口外することは出来ないのですが、あなたに限つて他言をして下さらねば申上げませう。如意宝珠の天火水地の宝玉は、自転倒島の中心地、冠島、沓島に大切に隠してあります。それを高姫が、吾々が持逃したものと思ひ、私の後を追うて此処までやつて来たのでせう。御存じの通り吾々両人は玉などは一個も所持してはゐませぬでせう』
船長『仰せの通り何も御持ちになつて居られませぬ。一層の事、高姫に直接御会ひになつて、これこの通り、吾々は玉なんか持つてゐない、と御示しになつたらどうでせう』
国依別『それは駄目ですよ。ここに持つてゐなくても、どつかに隠したのだらうと、どこどこまでも疑つて、尚更手きびしき脅迫を致しますから、自然に気のつくまで棄てておく方が利益だと思ひます』
言依『吾々両人が何程誠を申しても、高姫に限つて信用してくれませぬから、あなた、誠に御苦労をかけますが、高姫をソツと何処かへ御招きなつて、高砂島には決して玉なんか隠してない、自転倒島を探せよ……と云つて貰つた方が、却て信用するかも知れませぬ。下らぬことに無駄骨折らすも、可哀相でたまりませぬから……実の所はその玉は高姫に探させ今迄の失敗を回復し、天晴れ聖地の神司として恥かしくないやうにしてやりたいとの、神素盞嗚大神の思召により言依別が持逃したことに致し、私は犠牲となつて聖地を離れ、これより高砂島、常世国を宣伝し、遂にフサの国ウブスナ山脈の斎苑の館に参り、コーカス山に至る計画でございます。どうぞあなたより、高姫に対して、無駄骨を折らないやうによく諭して下さいませぬか』
船長『ハイ、私もあなたより宣伝使の職を命ぜられたる上は、高姫さまに対し、宣伝の初陣を試みませう。もしも不成功に終つたならば、宣伝使を辞職せねばなりませぬか』
言依『そんな心配は御無用です。成るも成らぬも惟神ですから、成否を度外に置いて、一つ掛合つて見て下さい』
船長『ハイ左様ならば、一つ初陣をやつて見ませう』
　茲に船長は、高姫を吾一室に招き、私かに高姫に向つて注意を与ふる事とした。
　船長は繁忙なる事務を繰合せ、真心より顔色を和げ、言葉もしとやかに高姫に向つて話しかけた。
船長『高姫さま、先程は、誠に尊き御身の上とも知らず御無礼を致しました。今更めて御詫をいたします』
高姫『お前は高島丸の船長、それ位なことが気がつかねばならぬ筈だ。何故に今迄この日の出神の生宮が分らぬのだらうかと、実は不思議でたまらなかつた。しかし賢明なるお前、滅多に分らぬ筈がないのだが、つまりお前にバラモン教の悪神が憑依してゐて、あのような下らぬ事を云はしたのですよ。日の出神がチヤンと一目睨んだらよう分つてゐます。流石の曲津神も、日の出神の威勢に恐れて、波を渡つて逃てしまひよつたのです。今のお前の顔と、最前の顔とは丸で閻魔と地蔵ほど違つてゐます。あなたもこれからこの高姫の教を聞いて、三五教の信者におなりになさつたら、益々御神徳が現はれて立派な人格者におなり遊ばし、これから先、高砂島の国王にもなれまいものでもございませぬ。同じ一生を暮すなら、船頭になつて、日蔭者で了るよりも、チツとは気苦労もあれど、あの広い高砂島の国王になつて、名を万世に轟かしなさるが、何程結構ぢや分りますまい』
船長『ハイ有難う、私は御察しの通りバラモン教の信者でございます』
とワザと空呆けて、言依別命より宣伝使の職名を与へられたことを絶対に包みかくしてゐる。
高姫『バラモン教なんて駄目ですよ。あんな邪教に首を突込んで何になりますか。あなたも立派な十人並秀れた男と生れながら、そのやうな教にお這入りなさるとは、チト権衡がとれませぬ。早く三五教にお這入りなさい。キツと御出世が出来ますぞえ』
船長『私は国王なんかにならうとは夢にも思ひませぬ。船長は船長として最善の努力を尽し、吾使命を完全に遂行すれば、これに勝つた喜びはありませぬ、また三五教とか、バラモン教とか云ふやうな雅号に囚はれてゐては、本当の真理は分りますまい。雨霰雪や氷とへだつ共、おつれば同じ谷川の水……とやら、大海は細流を選ばずとか云つて、真理の光明は左様な区別や雅号に関係なく皎々と輝いて居ります。善とか、悪とか、三五とか、バラモンとかに囚はれて宗派心を極端に発揮してゐる間は、却てその教を狭め、その光を隠し、自ら獅子身中の虫となるものです。三五教は諸教大統一の大光明だとか聞いて居りました。しかるに貴女は世界を輝きわたす三五教の宣伝使の中でも、一粒よりの系統の御身魂しかも日の出神さまの生宮でありながら、偏狭な宗派心に駆られて他教を研究もせず、ただ一口に排斥し去らうとなさるのはチツと無謀ではありませぬか。猪を追ふ猟師は山を見ず……井中の蛙大海を知らず……富士へ来て富士を尋ねつ富士詣で……とか云ふ諺の通り、余り区別された一つの物に熱中すると、誠の本体を掴むことは出来ますまい。如何がなものでございませうか。しかし私は未だバラモン教の教を全部究めたと云ふのではございませぬ。未成品的信者の身分を以て、錚々たる宣伝使の貴女に斯様なことを申上ぐるは、恰も釈迦に向つて経文を説き、幼稚園に通ふ凸坊が大学の教頭に向つて教鞭を執るやうな矛盾かは存じませぬ。どうぞ不都合な点はよろしく御諭し下さいまして御訂正を御願ひ致します』
と極めて円滑に言依別仕込みの雄弁を揮ひ、下から低う出て、高姫の心を改めしめむと努めて居る。
高姫『何とお前さまはお口の達者な方ですなア。丁度三五教にもあなたのやうなことを申す、ドハイカラがございますワイ。そのドハイカラがしかも教主となつてゐるのですから、幽玄微妙なる神界の御仕組を、智慧学や理屈で探らうと致すから、何時も細引の褌であちらへ外れ、こちらへ外れ、一つも成就は致しはせぬぞよと、変性男子のお筆に出てをる通り、失敗だらけになつて了らねばなりませぬぞや。お前もそんな小理屈を云はないやうになつたら、それこそ誠の信者ですよ。ツベコベと善悪の批評をしたり、日の出神の生宮に意見をするやうな慢神心では、誠の正真は分りませぬぞえ。智慧と学と理屈と嘘とで固めた世の中の身魂が、変性女子の言依別に映写して居るやうに、お前も人間としては、実に立派なお方だが、神の方から見れば、丸で赤ん坊のやうな事をおつしやる。人間の理解力で、どうして神界の真相が分りますか。妾のやうに生れ赤子のうぶの心になつて、神さまのおつしやる通りに致さねば、三五教の一厘の御仕組は到底分りはしませぬぞや』
船長『成程、言依別さまに……ウン……オツとドツコイ言依別さまと云ふ方は、私のやうな理屈言ひでございますか。さぞお道のためにお困りでせうなア』
高姫『さうです共、言依別は有名な新しがりで、ドハイカラで、仕舞の果には大それた麻邇の玉までチヨロまかし、今頃は高砂島で何か一つ謀叛を企んでゐるに違ひありませぬ。それだから言依別の思惑がチツとでも立たうものなら、それこそ世界は暗雲になつてしまひ、再び天の岩戸をしめねばなりませぬから、日の出神が活動して、言依別のなす事、一から十まで、百から千まで、茶々を入れて邪魔をしてやらねば世界の人民が助かりませぬ。ホンにホンに神界の御用位気の揉めたものはございませぬワイ』
船長『あなたは日の出神の生宮だとおつしやいましたが、世界のことは居ながらにして、曽富登の神のやうに、天が下のことは悉くお知りでございませうなア』
高姫『三千世界のことなら、何なつと聞いて下され。昔の世の初まりの根本の、大先祖の因縁性来から、先の世のまだ先の世の事から、鏡にかけたやうにハツキリと知らしてあげませう』
船長『さうすると、貴女の天眼通力で言依別命、国依別のお二方は今何処にござると云ふ事は御存じでせうなア』
高姫『ヘン、阿呆らしい事をおつしやるな。モツトらしい事を御尋ねなされ。言依別は今テルの都に、国依別と二人、何か大それた謀叛を企んで、四つの玉を飾り、山子を始めて居りますよ』
船長『あゝ左様でございますか。実に日の出神様と云ふお方は偉いお方でございますなア。ソンならこれからテルの都へ私を連れて行つて下さいませ。そして、言依別命様に御会ひ申して、あなたの教を以て御意見を致して見ませう。キツト、テルの都にござるに間違はありませぬなア』
高姫『神の言葉に二言ありませぬ。今日只今の所は、テルの都に居りますが、この船が向うにつく時分にはまた、向うも歩きますから、テルの都には居りますまい。こちらが歩くだけ、向うも歩きますから、今どこに居ると云つた所で、会ふことは出来ませぬよ』
船長『そんなら神様の御神力で、言依別さまを、テルの都を御立ちなさらぬやうに守つて頂くことは出来ますまいか』
高姫『その位なことは、屁の御茶でもありませぬが、言依別は妾の嫌ひなドハイカラでございますから、どうも妾の霊が感じにくいので気分が悪うてなりませぬから、言依別や国依別に対しては例外と思うて下さいませ。あゝモウこの事は言つて下さいますな、胸が悪うなつて来ました。オツホヽヽヽ』
船長『あゝそれで分りました。言依別の教主に関する事は御気分が悪くなつて、身魂がお曇り遊ばし、何事も御分り憎いとおつしやるのでせう。実の所はこの少し前、私の船に図らずも、言依別さま、国依別さまが乗つて下さいまして、おつしやるのには、実はこの通り立派な麻邇の玉を四つまで聖地から持出して来たが、どうも高姫と云ふ奴、執念深く附け狙ふので、高砂島へ往つてもまた追かけて来るだらうから、ヤツパリ自転倒島の冠島沓島へ隠しておかうと、慌だしく私の船から他の船へ乗替へ自転倒島へ引返されましたよ。キツと其処に隠してあるに違ありませぬぜ。お前さまもその玉を探す積りならば、高砂島へ御出でになつても駄目ですよ。それはそれは美しい、青赤白黄の四つの立派な、喉のかわくやうな宝玉でした』
高姫『エヽ何とおつしやる。言依別にお会ひになりましたか。そして本当に玉を持つてゐましたか』
船長『それはそれは立派な物でしたよ。現にこの船に乗つてゐられたのですもの、モウ今頃は余程遠く台湾島附近を航海して居られるでせう』
　高姫しばらく首をかたげ、思案にくれてゐたが、俄に体をビリビリと振はし、
高姫『船長さま、あなた言依別に幾ら貰ひましたか。コンだけですか』
と五本の指を出して見せる。
船長『言依別さまに別に口止め料を貰ふ必要もなし、ただ実地目撃しただけの事を、お前さまに親切上御知らせしたまでの事だ。貰うのなら高姫さまから貰ふべきものだよ』
　高姫は船長の顔を穴のあくほど眺め、いやらしき笑を浮かべながら、
『何とマア悪神の仕組は、どこから何処まで、よう行届いたものだなア。言依別が自転倒島へ帰つたと見せかけ、外の船に乗替へ、キツと高砂島に渡つたに相違ない、どうも高姫の天眼通には彷彿として見えてゐる。……コレ船頭さま、イヽ加減になぶつておきなさい。外の者ならいざ知らず、日の出神の生宮がさう易々とチヨロまかされるものですかいな。そんなアザとい事をおつしやると、人が馬鹿に致しますで、ホヽヽヽヽ』
と首を肩の中に埋めて、頤をしやくりながら、両手を垂直に下げ、十本の指をパツと開いて腰を前後に揺りながら笑うて見せた。
船長『高姫さま、マアゆるりと貴女の御席へ帰つて休息して下さい。また後ほどゆるゆると御話を承りませう』
　高姫は舌を巻出し、目をキヨロツと剥いて、
『ハーイ』
と云つた限り、チヨコチヨコ走りに船長室を出でて行く。

（大正一一・八・一〇　旧六・一八　松村真澄録）



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