出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語28-3-131922/08海洋万里卯 唖の対面王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
サワラの都
あらすじ
 日楯、月鉾、ユリコ姫の三人は奥へ通された。照代姫と八千代姫が出て、「照彦王と照子姫は神勅を受けて天啓山へ登った。戻るまでは全員が無言無食無飲の行を行わなければならない」と告げる。三人の前には石の食物が並べられ、城の者が交替で壬生狂言のような滑稽な踊りを踊るが、笑うことは許されなかった。
 三日して照彦と照子姫が戻り、三人に一つづつ封書を渡した。中には種々の神示が示されてあった。日楯一行は、神示により、照代姫と八千代姫に案内されて、常楠仙人のいる向陽山へ向う。
名称
セル 月鉾 照代姫 日楯 八千代姫 ユリコ姫
清彦 国彦 常楠 照子姫 照彦 広宗彦
エルサレム エルの港 向陽山 球の島 サワラの都 玉藻山 天啓山 十曜の神紋 壬生狂言 無言無食無飲の行 八重山島 琉球
 
本文    文字数=9174

第一三章 唖の対面〔八一三〕

 千早振る神代の昔エルサレム  厳の都に仕へたる
 神の司の国彦が  霊の御裔と生れたる
 心も固き常楠の  流れを汲みし清、照の
 二人の御子は琉球の  双児の島を北南
 相受持ちて永久に  この浮島を守ります
 中にも別けて照彦は  遠き神代のその昔
 貴の都の天使長  広宗彦のその御裔
 照子の姫を娶りつつ  南に当る八重山島の
 神の司と国王を兼て  風さへ清き高原地
 サワラの土地に神都を開き  四方の国人愛撫して
 神の如くに敬はれ  世は太平に治まりて
 宛然神代の如くなり  サワラの城を繞らせる
 清泉漂ふ水垣に  真鯉緋鯉の数多く
 溌溂として金鱗を  旭に照らしキラキラと
 泳ぎ楽しむ光景は  昔聖地を繞りたる
 黄金の海の如くなり。  城頭高く金色の
 十曜の神紋輝きて  神威は四方に鳴り渡り
 小鳥の声も何となく  長閑な春を歌ひつつ
 実に神の御稜威も照彦や  照子の姫の功績を
 高く御空に現はしぬ。  無事太平の球の島
 民は互に睦び合ひ  争ひもなく病なく
 凶作もなく国人は  安喜和楽の夢に酔ひ
 歌舞音曲の艶声は  国内隈なく響きけり。
 かかる所へ台湾の  玉藻の山の聖地より
 日楯、月鉾、ユリコ姫  始めて三人神司
 波押切つて球の島  エルの港に漕ぎ付けて
 樹木茂れる高原を  心の駒に鞭ちて
 悩みも知らぬ膝栗毛  漸う都に辿り着き
 長き橋梁打渡り  東の門より徐々と
 百日紅や日和花  咲き誇りたる道の上
 心欣々三人は  サワラの城の表門
 やうやう月鉾、ユリコ姫  日楯は門の傍に
 肱を枕に眠りゐる  サワラの城の門番に
 礼を尽して掛合へど  皆太平の夢に酔ひ
 昼の日中に真夜中の  夢か現か囈言を
 並べて起きぬもどかしさ  茲に三人は止むを得ず
 佇む折しも門の戸を  中より左右に開きつつ
 照彦王の側近く  仕へ奉りしセルの司
 数多の男女を引きつれて  いと慇懃に出で迎へ
 奥殿指して進み入る。  三人の司は何となく
 心いそいそしながらも  セルの後に従いて行く。

 三人はセルの司の後に従ひ、奥殿深く進み入つた。美はしき琉球畳を布き詰めたる広き一間には、数多の男女威儀を正し、行儀よく端坐して、一行の入り来るを待ち迎へて居た。セルは三人に向ひ、
セル『どうか、これへ御坐り下さいませ』
と最上壇の間に、三人を導いた。三人は円座の上に端坐し、一同に向つて目礼を施した。
 数十人の男女は威儀を正し、行儀よく列を作りて端坐しながら、無言のまま、目礼を返した。少時あつて、隔ての襖を押あけ入り来る妙齢の美人、一人は照代姫、一人は八千代姫、三人の前に丁寧に両手をつき、言葉淑やかに八千代姫は、
『これはこれは日楯様、月鉾様、ユリコ姫様、遠路の所、はるばるとようこそ御越し下さいました。二三日以前より照彦王様の御差図により、あなた方御一行の御着城を、今か今かと、首を伸ばして御待受致して居りました。どうぞ長途の御疲れの直りますまで、御ゆるりと御休息下さいませ』
 三人一度に、
『ハイ有難うございます。いろいろと御心配をかけまして、誠に済みませぬ』
照代姫『折角御越し下さいましたが、照彦王様は照子姫様と、今朝より俄に神勅を奉じて天啓山に御登りになりました。何れ御帰りは二三日の後でございませう。王様の御言葉に、三人の御方が御いでになつたらば、吾々が帰城するまで、御待ちを願つて置けとの御命令でございました。どうぞ王様の御帰城まで此処にてゆるゆる御待ちのほどを願上げ奉ります。吾々一同は王様の無事お帰りになるまでは各謹慎を表し、無言無食無飲の行を致さねばなりませぬ。それ故あなた様に御挨拶が終れば、後は何事も無言でございますれば、どうぞ御気に支へないやうにして下さいませ』
三人『ハイ承知仕りました。さうして王様は何日頃お帰りでございますか』
 八千代姫、照代姫は一旦挨拶を了りし事とて一言も答へず、サラサラと畳に足を辷らせながら再び襖を押あけ、スツと閉ぢて一間に姿を隠した。並ゐる一同の男女は何れも無言のまま、行儀よく円座の上に端坐して、王の不在中絶対的謹慎を表して居る。
 三人も已むを得ず、無言のまま、膝もくづさず、昼夜の区別なく円座の上に安座し、膝も踵もむしれる如き痛さをジツと怺へ、汗をブルブルかきながら、一同の手前を憚り、顔をも得拭はず、
『ヤアえらい修業をさせられたものだ。こんな事なら、モウ二三日どつかで遊んで来たらよかつたに……』
と心の内に思ひながら、苦しさを怺へて居る。
 以前の八千代姫、照代姫は三人の侍女に膳部を運ばせ、恭しく三人の前に無言のままつき出した。見れば飯も平も汁も生酢も一切団子石や砂ばかりが盛つてある。三人の侍女はしづしづとして、無言のまま立去つた。照代姫、八千代姫は盛装をこらし、二人各銀扇を開いて無言のまま、壬生狂言のやうに三人の馳走の心持か、品よく、手拍子足拍子を揃へ、一時ばかり汗をたらして踊つて見せた。その手つき足つき、尻の振りやう、腰の具合、実に滑稽を極め、吹き出すやうに思はれたが、無言の行のこの席には吹き出す事も出来ず、可笑しさを無理に怺へて居る苦しさ。厳しき暑さに喉は渇いて来る。腹は空いて来る。され共石を食らふ訳にもゆかず、恨めし相に膳部を眺めてゐるのみであつた。照代姫、八千代姫は一時ばかり踊つた末、次の間に姿を隠した。
 交る交る男女入り来りて、面白き物真似を演じ、一同の腮をとき、笑ひ倒さむと努むるものの如くであつた。されど何れも、そんな事が何が可笑しい……と云つたやうな渋り切つた顔をして、可笑しさを隠して居る。
 かくして漸く三日三夜を過ぎた。俄に騒々しき人の足音、何事ならむと三人は心を配る折、数多の従臣に守られて、帰り来りしは照彦王、照子姫の一行であつた。
 矢庭に奥殿に進み入り、これまた無言のまま、三人に軽く目礼し、夫婦は目と目に物言はせながら、別館に足早く姿を隠した。
 照彦王の御供に仕へし男女も同じく無言のまま、一同に軽く目礼し、その場に行儀よく列を正して端坐して居る。稍少時あつて別館より、照彦王、照子姫の奏上する天津祝詞の声響き来る。一同はこの声に連て、待兼てゐたやうな調子で、天津祝詞を奏上し天の数歌を唱へ上げた。されど日楯、月鉾、ユリコ姫は依然として無言のまま、合掌して暗祈黙祷を続くるのみであつた。
 しばらくあつて照彦王、照子姫は、以前の美人八千代姫、照代姫に三宝を持たせながら、三人の前に厳然として現はれ、軽く目礼して物をも言はず、照代姫、八千代姫に目配せすれば、二人は三宝を三人の前に差出した。見れば三通の封書である。一通は日楯に、また他の二通は月鉾、ユリコ姫の宛名が記してあつた。三人は無言のまま押戴き、直に封を押切つて開き見れば、種々の神示が示されてある。三人は喜びの色を現はし、無言のまま感謝の意を示した。照彦王、照子姫は悠々としてまたもや別館に姿を隠した。
 茲に日楯の一行は一同に目礼しながら急ぎ館を立出で、表門を潜り、城外に走り出た。後より八千代姫、照代姫は息もせきせき追つかけ来る。漸くサワラの都の南の門にて、二人は追ひ付き、ここに二男三女は常楠仙人の立籠る向陽山を指して進み行く事となつた。

(大正一一・八・九 旧六・一七 松村真澄録)



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