出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語28-2-91922/08海洋万里卯 当推量王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
泰安城
あらすじ
 テールスタンは、泰安城で真道彦命の神軍に撃退された恨みを晴らそうとして、エールと共に、カールス王に真道彦命一派を讒訴した。真道彦命はカールス王が怒っているとは知らず、使者を送り、ついには自分でヤーチン姫を連れて王の元に出向いた。
 てぐすね引いていたエールの一味はヤーチン姫と真道彦命を牢獄に投じた。尋問に対して、マールエースだけは「真道彦命とヤーチン姫に怪しい関係はない。真道彦命は政治的な野心はない」ことを証言したが、ホーレンス他の者は王の意を迎えるために嘘の証言をした。
 カールス王は、テールスタンの軍を率いて、三五教の守る泰安城に攻め込む。これにより、真道彦命の神軍、マリヤス姫は遁走して、三五教は壊滅状態に陥った。カールス王はふたたび城主となり、テールスタン以下の重臣の甘言に誤られ、バラモンの教えを布いたので、国民の怨嗟の声が高くなった。
名称
ユウトピヤール エール カールス王 シーリンス セールス姫 セウルスチン ツーレンス テールスタン ハーレヤール ホーレンス マールエース 真道彦命 マリヤス姫 ヤーチン姫
閻羅王 サアルボース シヤーカルタン トロレンス
アーリス山 泰安城 台湾島 玉藻山 淡渓 新高山 バラモン教
 
本文    文字数=8360

第九章 当推量〔八〇九〕

 テールスタンは泰安城において、真道彦命の神軍より手厳しく撃退されたる無念を晴らさむがために、エールと共にカールス王に向つて口を極めて、真道彦命一派を讒訴した。
 真道彦命はかかる王の怒りに触れ居ることは夢にも知らず、マールエースをして、王を泰安城に迎へむと、誠意をこめて遣はしたるにも関はらず、エール等の讒訴を固く信じたるカールス王は容易に怒り解けず、真道彦の使者を悉く牢獄に投じ、日夜エールをして厳しく訊問せしめつつあつた。真道彦命は幾度使を遣はすも、一人として帰り来らざるに不審を抱き、ヤーチン姫と共に、王の陣屋に伺候し、誠意をこめて王を泰安城に迎へむと、遥々訪問したりける。
 手具脛ひいて待つて居たエール一味の者は、有無を言はせず、ヤーチン姫、真道彦命を牢獄に投じ、日夜訊問を続けたり。第一に王の前に堅く両手を縛められて引出されたるは、マールエース、ホーレンスの二人であつた。正面にカールス王は閻羅王の如く厳然として眼を光らせ、エール、テールスタンは左右に赤面を曝し、目を怒らして、訊問の矢を放ちゐる。王はマールエースに向ひ、
カールス王『汝は玉藻山の聖地に永らく入り込みて、真道彦命と何事かを企画しつつありしと聞く。委細を詳さに陳弁せよ』
と厳しく問ひかくれば、マールエースは、
『ハイ私は王が御病気のため、淡渓の館に御退去の後はセールス姫、セウルスチンその他の悪人輩の行動、見るに忍びず、時を待つてカールス王様の御親政に復帰し奉らむと心を決し、玉藻山に身を逃れて、時機の到るを待ちつつありましたのでございます。しかるにこの度泰安城の大変事を聞き、王の御身辺を危み、救援のために神軍を率ゐ参りました。外にそれ以上の目的は何もございませぬ。何卒公平なる御判断を願ひ奉ります』
カールス王『汝の申す事、よもや間違はあるまい。それに就いて、汝に尋ねたき事がある。ヤーチン姫と真道彦命二人の間の関係は存じて居るや』
マールエース『ハイ御両人共忠実に御神務に奉仕されて居られました。別に噂にのぼつて居る如き醜関係は、私としては認められませぬ』
カールス王『テールスタンやエールも永らく汝の如く聖地に入り込んで、幹部に列して居た者、彼れら両人の言ふ所によれば、真道彦はヤーチン姫と怪しき関係を結び、時を得て泰安城を占領し、台湾島の主権を握り、自ら王と称する計画を立てて居つたではないか。かくの如く歴然たる二人の証人ある上は、隠すも無駄であらう。有態に白状せよ』
マールエース『真道彦命に限りて、決して左様な政治的野心も、また醜行も、毛頭ございませぬ。三五教の古来の主義として、教主たる者は政治的野心を持つべからずと云ふ厳しき掟がございまする。信心堅固なる真道彦命において、どうして左様な御心を抱かれませう。全く人々の邪推より出でたる噂でございますれば、何卒神直日大直日に見直し聞直し、公平なる御判断を願ひ奉ります』
 王は烈火の如く憤り、
カールス王『汝、マールエース、その方は真道彦と心を協せ、泰安城を占領し、政治の全権を握り、かつ吾れを排斥せむとの悪虐無道の一類であらう。……ヤア、エール、一刻も早くマールエースが事実を白状致すまで、牢獄に投じ、水責め火責めの責苦に会はしても、事実を吐露せしめよ』
 エールは傍の従卒に命じ、目配せすれば、従卒はマールエースを荒々しく引立て、暗黒なる牢獄の中に投込んでしまつた。
 カールス王は、続いてホーレンスに向ひ、
カールス王『汝はホーレンス、久しく玉藻山の聖地に参り居りし者、エール、テールスタンの申した事に間違はあるまいなア』
ホーレンス『ハイ決して間違はございますまい。ヤーチン姫様と真道彦命の醜関係は、私は実地目撃は致しませぬが、これは随分喧しき噂でございます。御両人の間柄はつまり公然の秘密も同様、三歳の童児に至るまで知らぬ者はございませぬ』
カールス王『真道彦はヤーチン姫と関係を結び、将来は泰安城の国王となり、ヤーチン姫を妃とし、日頃の野心を遂行し、かつこのカールスを目の上の瘤と忌み嫌ひ、排斥せむとの計画を立て居りしと云ふ事、事実であらうなア』
ホーレンス『ハイ、それも私の考へでは事実だと信じて居ります。この度神に仕ふる身でありながら数多の部下を引率し、泰安城へ救援の名の下に攻寄せ来りしは、全く王者たらむとの、野心より起つたる出陣と考へるより途はございませぬ』
王『あゝさうであらう。その方は正直な奴だ。サア只今より縛めの縄を解いてやらう』
 エールは従卒に命じ、ホーレンスの縛めを解いた。ホーレンスは大いに喜び、三拝九拝して、王の意を迎ふる事のみに熱中し、それがために真道彦命の寃罪は容易に拭ふ可らざるものとなりにける。
 続いてユートピヤール、ツーレンス、シーリンス、ハーレヤールその他数多の嫌疑を受けて投獄されたる三五教の幹部は、ホーレンスと略同様の陳述をなし、遂に縛めを解かれ、再び王の寵臣として深く用ゐらるる事となりけり。
 茲にカールス王はエールをしてこの岩城の総監督たらしめ、かつ真道彦命、ヤーチン姫を牢獄につなぎ、数多の従卒をして監視せしめつつ、テールスタンの部下を引率れ、数多の幹部と共に、泰安城に堂々として乗り込んだ。この勢に真道彦の率ゐ来れる神軍を始め、マリヤス姫は思ひ思ひに遁走し、再びアーリス山の東南方に避難する者、或は各自の郷里に帰りて、何喰はぬ顔にて樵夫、耕しなどに従事し、しばらくは玉藻山の霊地にも、大部分足を向けなくなり、カールス王の威力と真道彦教主の投獄とに萎縮して、一時三五教は火の消えし如く淋しくなりにけり。
 カールス王は再び泰安城の城主となり、テールスタンを宰相としその他の一同を重用して、万機の政事を執り行ひつつあつた。され共何となく国内の情勢は穏かならず、サアルボースはセールス姫を奉じて、日ならず泰安城へ攻来るべしとか、シヤーカルタン、トロレンスの一派、同志を集め捲土重来、再び戦闘は開始さるべしとか、種々雑多の噂にて持切つて居た。されどカールス王はテールスタン以下の重臣の甘言に誤られ、少しも国内の不穏なることを知らず、天下は無事太平にて、国民はカールス王の徳に悦服するものとのみ確く信じつつありしなり。
 テールスタン、ホーレンス、ユートピヤール、その他の重臣は王に諂ひ、下を虐げ、我利我欲にのみ耽り、バラモンの神を祀り、今迄信じ居たりし三五教を塵芥の如く振棄てて、新高山以北の地には、再びバラモンの教を布き、以て国政の輔助となしつつあつた。国民怨嗟の声は以前に倍加して、何時動乱の勃発するやも計り難き危機に迫りつつあつた。

(大正一一・八・八 旧六・一六 松村真澄録)
(昭和一〇・旧五・七 王仁校正)



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