出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語28-2-71922/08海洋万里卯 無痛の腹王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
玉藻山
あらすじ
 ヤーチン姫、真道彦命に仕えている三五教の幹部のホールサース、マールエース テールスタン、日楯、月鉾は「革命騒擾に対してどのような処置をとるか」を協議した。
 ホールサースは「革命派のシヤーカルタンやトロレンスが権力を握れば、バラモン教的な暴政を布き、混乱に混乱を重ね、三五教も蹂躙されるので、こちらか攻め寄せるべし」と主張する。テールスタンも「泰安城を攻め、セールス姫一派を言向け和し、革命派も帰順させ、カールス王を擁立しヤーチン姫を妃としよう」と言う。
 セールス姫の間者のハールは「ヤーチン姫は真道彦命に心変わりをしているのだから、真道彦命を王として立てよう」と提案する。テールスタンは「吾々は泰安城の主権者を選び、元の位地に帰れさえすれば良いので、主権者は誰であってもよい」と本音をもらす。
 真道彦命は「自分はヤーチン姫と怪しい関係は無い。自分は神に仕える者であるから、政治的欲望はない」と言う。それに対して、セールス姫の間者のカントンは「真道彦命は本音を隠しているのだ」と煽動する。
 頑固派のエールは「真道彦命はヤーチン姫をたぶらかし、カールス王の地位を狙っている」と憤然とする。カントンが「主権者は誰でも、国民の歓迎する主権者であれば良い」とエールを批判する。エールは怒り、カントンを殴り、姿を隠してしまった。

名称
エール カントン 月鉾 テールスタン ハール 日楯 ホールサース ホーレンス マールエース 真道彦命 ヤーチン姫
カールス王 サアルボース シヤーカルタン セールス姫 セウルスチン トロレンス ホーロケース
革命 日月潭 政治的救世主 泰安城 台湾 玉藻山 バラモン教 無抵抗主義
 
本文    文字数=17221

第七章 無痛の腹〔八〇七〕

 泰安城はセールス姫、サアルボース、ホーロケース、セウルスチン等の横暴極まる悪政に、国民怨嗟の声は、日に月に高まり来り、漸く革命の機運熟す。シヤーカルタンの一派とトロレンスの一派は、東西相呼応して、泰安城に攻め寄せ、今やセールス姫以下の身辺は、最も危急の地に迫つて来た。この事早鐘の如く台湾全島に響き渡り、玉藻山の聖地には一しほ早くある者の手よりその真相を報告されたり。
 茲にヤーチン姫、真道彦命の部下に仕へたる神司ホールサース、マールエース、テールスタン、その他数多の幹部連は八尋殿に集まつて、この度の泰安城における大革命的騒擾に対して、如何なる処置を取るべきかを協議したりけり。
 真道彦命を始め、日楯、月鉾は八尋殿の中央なる高座に現はれて、この会議を監督する事となりぬ。
 ホールサースは、先づ第一に高座に登り、一同に向つて開会の挨拶を述べ、徐に降壇した。次でマールエースは、今回の恰も議長格として意気揚々と登壇し、一同に向ひ、
『皆様、今日この八尋殿に炎暑を構はず、御集会下さいましたのは、吾々発起人として実に感謝の至りに堪へませぬ。就きましては諸君においても略御承知の通り、セールス姫その他の暴政によつて、国民塗炭の苦しみを受け、今やこの苦痛に堪へ兼ねて、新進気鋭の国民の団体は、シヤーカルタン、トロレンスの首領に引率され、泰安城へ攻め寄せたりとの事でございます。承はればシヤーカルタン、トロレンスはバラモン教の錚々たる神司との事、彼破竹の勢を以て泰安城を乗り取り、またもや、バラモン的暴政を布くにおいては、世は益々混乱を重ね、遂には三五教の聖地までも蹂躙され、吾々はこの島より放逐されねばならなくなるのは、火を睹るよりも明かな事実でございませう。これに就て私は考へます……一日も早く三五教の信徒を率ゐ、泰安城に向つて言霊戦を開始し、シヤーカルタン、トロレンスの一派を言向け和し、三五教の部下となし、その機に乗じて全島の支配権を握らば、三五教は万世不易の基礎が建ち、また国民も泰平の恩恵に浴する事と考へます。……皆さまの御意見は如何でございませう。どうぞこの演壇に登りて、御感想を述べて頂きたうございます』
と言つて、壇を降り吾席に着いた。この時肩を揺り両手の拳を握り締め、堂々として登壇したのはテールスタンであつた。満場を睥睨しながら声を励まして言ふ。
テールスタン『これの聖地は遠き神代より、真道彦命様の遠祖茲に鎮まり玉ひ、至仁至愛の三五教を樹立し、無抵抗主義を遵守して、ここに国魂神の神力を以て数多の国民を教へ導き玉ひつつ、多く年所を経玉ひました。しかしながら、余り極端なる無抵抗主義のために追々その領域は狭められ、僅に日月潭の附近にのみその勢力を維持して居られたのは、諸君も御承知の通りでございます。しかるに泰安城においてセールス姫を中心とする悪人輩の日夜の行動に慊きたらず、吾々始めこの席に列し玉ふ幹部の方々は、顕要の地位を棄てて、現世的に無勢力なるこの聖地に集まり、信仰三昧に入り、殆ど政治欲を絶つて、花鳥風月を友となし、その日を送り来りしも、決して無意味に吾々は光陰を費やして居たのではありませぬ。時来らば国家のために全力を発揮し、カールス王を助けて、元の地位に復やし奉り、完全無欠なる神政を布き、再び元の地位に立たむと欲するの念慮は一日も忘れた事はありませぬ。諸君においても、この席に列せらるる方々は、十中の八九まで元は泰安城の重要なる地位に立たせ玉ひし方々なれば、吾々と御同感なるべし。吾々はこの聖地に来りてより、三五教は蘇生せし如く、日々に隆盛に赴きたるも、全く人物の如何による事と考へられます。諸君は瀕死の境にありし三五教をして、かくの如く隆盛に赴かしめたる能力者でございますれば、キツとこの腕前を活用して泰安城に向ひ、シヤーカルタン、トロレンスの向うを張つて、この際一戦を試み、セールス姫を言向け和し、且またシヤーカルタン、トロレンスの一派を吾等の言霊に帰順せしめ、全島の政教両権を掌握するは、この時を措いて何時の日か来るべき。曠日、瀰久徒に逡巡して、彼等に先を越されなば、吾々は何時の日か頭を抬ぐるを得られませうか。何卒皆様においても御熟慮……否御即考あつて、速かに御賛成あらむ事を希望致します』
と云ひ終つて悠々と壇を降る。拍手の声は雨霰の如く場の内外に響き渡つた。
 この時末席よりセールス姫の間者として入り込み居たるハールは壇上に現はれ、
ハール『皆さまに、末席の吾々恐れげもなく、この高座に登りて、御意見を承はりたしとかく現はれました。マールエース、テールスタンの幹部方の御意見は、末輩の私においても、極めて賛成を致します。就いては三五教の信徒を以て言霊軍を組織し、泰安城へ攻め寄せ玉ふ目的はこの度の暴動を鎮定し、シヤーカルタン、トロレンスの一派に対して痛棒を加ふるにあるか、但はセールス姫を中心とする泰安城の重役に対して、大痛棒を与ふるの覚悟でござるか、この点を、何卒明瞭に御示し頂きたうございます。先づ出陣に先立ち、敵を定めておかねばなりますまい』
と心ありげに述べ立てた。この時ホールサースは再び壇上に現はれて言ふ。
『天は必ず善人に組す。吾々は正義のために戦ふのである。セールス姫にして悪ならば、彼を懲し、また善ならば彼れを輔けん。シヤーカルタン、トロレンスにしてその目的、国家民人のためならば吾は彼を助けむ。未だ何れを善とも悪とも定め難し。さりながら、カールス王の御病気を楯に、淡渓の畔に小さき館を造り、これに幽閉し、セウルスチンの如き賤しきホーロケースの伜を重用して、悪政を布くセールス姫の行動に居たたまらず、吾等一同はこの聖地に逃れ来りし者なれば、この度の大騒動もその原因は、セールス姫一派の暴政によりて勃発せしものたる事は察するに余りあり。要するにこの度の神軍はカールス王を御助け申上げ、再び元の泰安城に立て直す目的と思へば間違なからうと思ひます』
とキツパリ言つてのけた。ハールは再び口を開いて、
『この度の神軍幸にして勝利を得、カールス王を救ひ出だし、再び王位に立たしめなば、セールス姫を正妃となし玉ふ御所存なるか。但はヤーチン姫を以て正妃と定め玉ふ考へなりや承はりたし』
と呼はつた。ホーレンスは始めて登壇し、
『吾々の考ふる所は、カールス王を救ひ奉り、ヤーチン姫を正妃となさむ事を熱望して居ります。さうなればカールス王もヤーチン姫も日頃の思ひが遂げられて、円満に政事が行はれ、国民の父母と仰がれ玉ふ瑞祥の来る事と信じて居ります』
ハール『ヤーチン姫様は最早昔とは御心が変つて居るやうに思はれます。この事は第一教主の真道彦様の御意見によらねばなりますまい。一般の噂によれば、内面的に御夫婦の関係が結ばれ居ると云ふ事、むしろ神軍の勝利を得たる暁は真道彦様を政教両面の主権者となし、ヤーチン姫様をその妃と公然遊ばしたら如何でございませう。それの方が余程治まりが良きやうに考へられます』
テールスタン『吾々は要するに泰安城の主権者を選みその幕下に仕へて元の位地に帰りさへすれば良いのである。主権者がカールス王であらうと、真道彦命であらうと、問ふ所ではありませぬ。吾々の考ふる所では、真道彦命様必ず心中に泰安城の王たるべきことを御期待遊ばされある事と確信致し、泰安城を棄てて茲に集まつて来た者でございます。真道彦命様にして、ただ単に教法上の主権者を以て甘んずるの御意志ならば吾々は元より斯様な所へ首を突込む者ではありませぬ。諸君におかせられても、吾々と同感ならむと察します』
 一堂は拍手の声に満たされた。
 真道彦は憤然として身を起し、壇の中央に現はれ、慨歎の情に堪へざるものの如く、しばらくは壇上に目を閉ぎ悄然として立つたまま、両眼よりは涙さへ流して居る。漸くにして口を開き、
真道彦『只今の幹部方の御話を聞き、この真道彦におきましては、実に青天の霹靂と申さうか、寝耳に水と申さうか、驚きと慨歎とに包まれてしまひました。世の中に誤解位恐ろしきものは有りませぬ。各自の心を以て人の心を推し量ると云ふ事は、実に対者たるもの恐るべき迷惑を感じます。吾々は祖先以来、国魂の神を斎り、三五教の教を確く遵守し、少しも政治に心を傾けず、万民を善道に教化するを以て最善の任務と衷心より確く信じ、かつ神慮を万民に伝ふるを以て、無限の光栄と存じて居ります。しかるに只今の幹部方の御意見を承はり見れば、私を以て政治的救世主の如く思つて居られるやうでございます。また王族たるヤーチン姫様と私の間に、何だか怪しき関係でも結ばれあるやうな語気を洩らされました。私は実に心外千万でなりませぬ。どうぞ三五教の精神と、吾々の誠意をよく御諒解下さいまして、大慈大悲の大神様の御旨に叶はせらるるやう、神かけて祈り奉ります。重ねて申して置きますが、決してこの真道彦は物質的の野心も無ければ、政治的欲望は毫末も有りませぬ。また皆様に推されて政治的権威を握らうとは、夢寐にも思ひませぬ。この事は呉々も御承知をして頂きたうございます』
と云ひ終り、憮然として、吾居間に姿を隠した。真道彦の退場に連れて、日楯、月鉾の兄弟もまた満場に目礼し、悄然として父の後に従ひこの議席を退場したり。
 後には気兼なしの大会場は口々に勝手な議論が沸騰し出した。セールス姫の間者として予てより入り込み居たりしカントンと云ふ男、忽ち壇上に現はれ衆に向つて言ふ。
カントン『皆さま、只今真道彦命が仰せられた御言葉、何と御観察なされますか。吾々の貧弱なる智識を以て教主の御心中を測量致すは、少しく烏呼の沙汰ではございますが、あの御言葉は、吾々は心にも無き嘘言を云つて居られるのだと思ひます。政治的に野心は毛頭無いと仰せられたのは、要するに大に有りといふ謎でございませう。注意周到なる教主はセールス姫の間者、もしや信徒に化けて忍び入り居るやも知れずと心遣ひ、……ヤアもう英雄豪傑の心事は容易に計り知れないものでございます。吾々はキツと真道彦命、泰安城に現はれ、自ら主権者となり、最愛のヤーチン姫を妃として君臨せむと心中企画し居らるる事は、少しも疑ふの余地なき事と確く信じます。幹部の方々の御意見は如何でございまするか』
 一同は『賛成々々、尤も尤も』と拍手して迎へた。カントンは得意の鼻を蠢かしながら両手を鷹揚に振りつつ、壇を降りて自席に着く。
 幹部の一人と聞えたる頑固派の頭領株エールは、慌しく壇上に立上り、
『吾々は素より泰安城の重臣としてカールス王に仕へ、殊恩に浴したる者、しかるにサアルボース、ホーロケース一派の悪臣のために大恩あるカールス王を御病気を楯に、淡渓の畔に幽閉し奉り、悪鬼の如きセールス姫、権を恣にし、暴虐日々に増長し、無念の涙やる瀬なく、如何にもしてカールス王を救ひ奉り、元の泰安城に立直さむと肺肝を砕きつつあつた者でございます。しかるに天の時未だ到らず、涙を呑んで時の到るを待つ内、この玉藻山の聖地に、現幽二界の救世主現はれたりと聞き、城内を脱出して、茲に三五教の信徒となり、幹部に列せられ、時を得てカールス王のために全力を尽し、忠義を立てむと決意し、顕要の地位を棄て、無抵抗主義の三五教に身を寄せて居たのであります。しかしながら吾々日夜真道彦の挙動を偵察するに、畏れ多くもヤーチン姫と怪しき交際を結ばれたる如く感ぜられ、憤怒の情に堪へませぬ。また一般の噂もヤハリ教主とヤーチン姫との交際の点に就て、ヒソビソと怪しき噂が立つて居ります。火の無い所には決して煙も立つものではありませぬ。これに付いて吾々は考へまするに、教主は最早ヤーチン姫を内縁の妻となし居らるる以上は、仮令カールス王を救ひたりとて、一旦汚されたるヤーチン姫をして、堂々と王妃に薦めまつる事は、吾々臣下の身として忍びざる所でございます。また教主はヤーチン姫を自己薬籠中の者となし、カールス王を排斥して自ら治権を握る野心を包蔵さるるは、一点疑ふの余地は無からうかと信じます』
と憤然として壇上に雄健びし、足踏みならして鼻息荒く降壇した。
 カントンは再び壇上に上り、
『吾々は時節の力と云ふ事を確く信じて居る者でございます。泰安城の主権者が、カールス王だらうが、真道彦命であらうが、但はセールス姫であらうが、国民の歓迎する主権者であらば良いのでございます。天下公共のためには些々たる感情のために左右されてはなりますまい。只今エールさまの御言葉は一応御尤もではございまするが、それはエールその人を本位としての議論であつて、天下に通用しにくい御話だと思ひます。カールス王に殊恩を蒙つたその御恩に酬いむために種々と肺肝を砕かせらるるは、それは主従としての関係上、主恩に酬いむとする真心より出でさせられたる感情論であつて、言はば乾児が親分の贔屓をするやうなものであります。国民一般より見れば余り問題とならない議論だと、私は思ふのであります。吾々の如き無冠の太夫は別にエール様の如く、特別の恩寵を被つた覚えもなければ、またカールス王に対して一片の恨みも持ちませぬ。ただこの際は国家のために善良なる主権者を得、万民鼓腹撃壌の享楽を得るやうに、世の中が進みさへすれば、それで満足であります。諸君の御考へは如何でございますか。小田原評定にあたら光陰を空費し、時機を失するよりは、手取早く話を決めて、早く救援に向はねば、国家は益々修羅の巷の惨状を極め、国民の苦しみは日を逐うて烈しくなるでせう。何はともあれ、出陣か非出陣か、一時も早く諸君の誠意によつて御決定を願ひます』
と言ひ終るや、以前のエールは烈火の如く憤り、忽ち壇上に駆上がり、弁者の面上を目あてに鉄拳を乱打したるより、満場総立ちとなりて、
『ヤレ乱暴者を捉へよ』
とひしめき立ちぬ。エールは敏捷にも混乱の隙を窺ひ、何処ともなく、この場より姿を隠したりける。

(大正一一・八・八 旧六・一六 松村真澄録)



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