出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語28-2-111922/08海洋万里卯 木茄子王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
テルナの里
あらすじ
 日楯、月鉾、ユリコ姫はアーリス山から須安の山脈を通りテルナの里に着いた。三人は空腹に耐えかねていたが、都合よく木茄子があったので、食べて寝てしまう。ところが、この木茄子はバラモン教の神に捧げるためのものたっだので、テルナの里人は怒る。
 ユリコ姫は「一時の妻となれ」と迫るテルナの酋長をなだめ、「バラモン教の修行をする」という条件で日楯と月鉾を許してもらった。日楯と月鉾は神助があり、火渡りの行を無事に終える。ユリコ姫は美しい衣装を与えられ、酋長と並んで立たされていたが、そこへ、大火光が落下爆発して、酋長達は空に巻き上げられ、竜世姫の訓戒を受け改心する。
 一行は無事キールの港に到着した。
名称
ゼームス 月鉾 テルナの里人 日楯 ユリコ姫
大国彦 竜世姫 大自在天 曲津神
アーリス山 木茄子 キールの港 須安の山脈 高砂島 テルナの里 バラモン教
 
本文    文字数=15226

第一一章 木茄子〔八一一〕

 日楯、月鉾、ユリコ姫の三人は、人目を避けて峰伝ひに、アーリス山より須安の山脈を渡り、石の枕に青雲の夜具を被ぶり、幾夜を明かしながら、漸くにしてテルナの渓谷に辿り着いた。時しも日は山に隠れ、黄昏間近くなつて来た。茲一日二日の山中の旅行は、峰の尾の上のみを伝つて居たので、思はしき木の実もなく、食料に窮し、空腹に苦み、歩行も自由ならず、喉は渇き水は無く、弱り切つて居た。
 この時遥の谷間に黄昏の暗を縫うて、一塊の火光が瞬いて居る。三人はその火光に力を得、疲れた足を引ずりながら進んで行く。火光を中心に数多の厭らしき面構の毛武者男幾十人となく赤裸のまま、何事か大声に笑ひさざめいて居た。
 三人は木蔭に身を横たへ、しばし谷水に喉をうるほし、息を休めて居る折柄、サツと吹き来る谷風に揺られて三人の頭に障つたものがある。月鉾は思はず手を頭上にあげた途端に手に触つたのは、水の滴るような木茄子であつた。三人は天の与へと喜び勇んで矢庭に木茄子をむしり、腹を拵へた。長途の疲れに腹は太り、俄に眠気を催し、三人共その場に他愛もなく熟睡してしまつた。
 今日はテルナの里のバラモン教の大祭日にして、数多の里人集まり、夜祭りをなさむと、種々準備の相談をして居る最中であつた。今日の祭典に奉らむと、この里にただ一本よりなき木茄子を、今迄一個もむしり取らず、大切に保存して居た。それを三人の者に残らずむしり取つて喰はれてしまつたのである。愈祭典の時刻となり、四五の里人は白衣を着し、大麻を打振り、バラモン教の神歌を称へながら、大切なる木茄子をむしり取り、供物にせむと来て見れば、大切なる木茄子は何者にか盗み取られ、一個も枝に留まつて居ない。一同は驚きながら、あたりを透かし見れば、雷の如き鼾をかいて三人の男女が傍に寝て居る。
 里人は忽ち大騒ぎをなし、松明を点じ来り、よくよく見れば、一人の男木茄子を片手に持ち、半分ばかりかぢつたまま、熟睡してゐる。
甲『オイオイ皆の連中、大変な奴が出て来やがつて、神饌用の木茄子を、皆取つて食ひ、腹をふくらせ、平気でグウグウ寝てゐやがるぢやないか、怪しからぬ奴だ。……オイ誰か一時も早くこの由を、テルナの酋長様に報告して来い。さうせなくては俺達が取つて食たやうに疑はれ、酋長よりどんなお目玉を食ふか分らないぞ』
 その中の一人は『オイ』と答へて、韋駄天走りに、群集の集まる斎場に向つて酋長に報告すべく走り去つた。
 甲は杖の先にて三人の頭をコンコンと打ちながら、
甲『コラツ、大それた大盗人奴、早く起きぬか』
と呶鳴りつけた。三人は驚いて起きあがり四辺を見れば、松明を持つた四五人の男、傍には白衣を着けた男と共に、鬼のやうな顔に団栗眼を剥き出し、唇をビリビリ震はせながら睨みつけてゐる。
日楯『何人ならば……吾々三人の頭を、失礼千万にも…杖の先にて打叩くとは何事ぞ』
と言はせも果てず、甲は毛だらけの腕を伸ばし、日楯の首筋をグツと握つた。日楯は首の千切れるやうな痛さに顔色青ざめ、唇まで紫色にして苦んで居る。大の男は声を荒らげ、
大男『その方共は大方三五教の宣伝使であらう。今日はバラモン大神の大祭日、里人が大切に致して今日の祭典の供物にせうと守つて居た、木茄子を残らず取り食ひ、この聖場において不行儀千万にも寝さらばひ、大胆不敵のその方等の振舞、待つて居れ、今に酋長様がこの場に御越しになるから、何分の御沙汰があるであらう』
と云ひ了つて、日楯の首を握つた手を放した。日楯は余りの痛さに物をも言はず、そのまま大地に獅噛ついて苦痛を怺へてゐた。月鉾は一同に向ひ丁寧に両手をつき、
月鉾『吾々三人は決して三五教の宣伝使ではございませぬ。バラモン教の聖場を巡拝致す巡礼でございます。馴ぬ途とて山奥にふみ迷ひ、空腹に苦みつつありし所、谷間に当つて一点の火光を認め、それを便りに此処まで出て参り、休息致して居る際、フト木茄子が頭に触り、左様な大切な物とは知らず、別に盗むと云ふ心もなく、頂戴致しました。誠に申訳のない事でございます。どうぞ酋長様によろしく御執成しを願ひます』
甲『今日はバラモン教の大祭日で、人間の犠牲を献らねばならぬ大切な日である。され共人命を損するは如何にも残酷だと、酋長様が大神に御願遊ばし、この谷間に一本よりない木茄子を、人間の代りとして大神様に献りますから、人身御供だけは御許し下されと御願ひになり、それからこの果物は神様の御物として、里人は指をもさへず、大切に夜廻りをつけて守つて居たのだ。それを汝等三人ムザムザと取食うた以上は、仕方がない、その方の腹中にはまだ幾分か残つて居るであらう。直に腹をかき切つて木茄子をゑぐり出し、汝の体を贄として神に献り、神の怒りを解かねばならぬ。皆の者共、その覚悟を致したがよからうぞ』
月鉾『それはまた大変な事でございますなア。しかし神は人を助くるが神の心、人間の命を取り、或は贄を献らせて喜ぶやうな神は誠の神ではありますまい。吾々は及ばずながらその神に向つて、一つ訓戒を与へて見ませう』
甲『ナニ、馬鹿な事を申すか。神様に対して、人間が訓戒を与へるなどとは、不届き千万な申条、左様な事を申すと、神の怒りにふれて、このテルナの里は果実稔らず、暴風雨大洪水のために苦しまねばならぬ。いよいよ以て差赦し難き痴者』
と言ひながら、力に任せて杖を振上げ、三人の背骨の折れるほど敲きつけた。
 しばらくあつて、テルナの里の酋長ゼームスは四五の従者に鋭利なる青竜刀を持たせながら、この場に現はれ来り、三人の姿を見て、声も荒らかに云ふ。
ゼームス『その方は大切なる果物を取喰ひし大罪人、このままにては差赦し難し。汝等三人、これより神の贄とし、神の怒りを和らげなくてはならぬ。サア覚悟を致せよ』
と言ひ渡した。ユリコ姫は両手を合せ、ゼームスの前ににじり寄り、悲しさうな顔をあげて涙を流し、
ユリコ姫『何卒、知らず知らずの不都合なれば、どうぞこの度は御見逃しを願ひます』
と頼んだ。ゼームスはユリコ姫の顔を一目見るより、忽ち顔色をやはらげ、
ゼームス『赦し難き罪人なれ共、汝は吾妻となる事を承諾するにおいては、汝の生命だけは助けてやらう。どうぢや…有難いか』
と稍砕けた相好しながら、ユリコ姫の顔を覗き込んだ。
ユリコ姫『どうぞ、妾のみならず、二人の男も生命ばかりは助けて下さいませ。それさへ御承諾下さらば、如何なるあなたの要求にも応じまする』
酋長『イヤ、さうはならぬ。どうしても一人だけは生命を取つて、贄に致さねばならぬ。この中に汝の夫があるであらう。その方に免じて、夫だけは助けてやらう』
日楯『ゼームスとやら、吾々は仮令木の実を知らず知らず取喰ひたればとて、汝等如きに命を取らるる理由が何処にある。生命取るなら勝手に取つて見よ』
 ゼームス大口をあけて、
『アハヽヽヽ』
と高笑ひしながら、
ゼームス『汝、いかに神力あればとて、僅に二人や三人、この大勢の中に囲まれながら、如何ともする事は能ふまじ。神妙にその方は覚悟をきはめて贄となれ』
ユリコ姫『もしもし酋長様、あれは妾の夫でございます。さうしてモウ一人は吾夫の弟でございます。妾は如何なる事でも承はりませう。その代りどうぞ二人の命を御助け下さいませ』
ゼームス『あゝ仕方がない。可愛いその方の申す事、無下に断る訳にも行こまい。しからば生命だけは助けてやらう。バラモン教の、今日は大祭日、両人共烈火の中を渡り、剣の橋を越え、釘の足駄を履き、赤裸となつて茨の叢を潜れ。これがバラモン教の第一の神に対する謝罪の途である。生命を取らるる事を思へば易い事である。吾々は斯様な行は年中行事として、別に辛しとも思つて居ない。その方も巡礼ならば、これ位の修業は堪へられるであらう』
 両人一度に、
『承知致しました。生命さへ助けて頂けるならば、どんな行でも…喜んで致しませう』
ゼームス『最早祭典の時期も迫つた。サア早く此方へ来れ。さうして裸、跣足のまま、烈火の中を渡り、神の怒りを解くがよからう』
と三人の前後を大勢に警固させながら、斎場に導いた。
 斎場に到り見れば、数多の果物小山の如く神前に飾られ、前方の広庭には山の如き枯柴を積み、これに火を放てば炎々として燃えあがるその凄じさ。二人は大勢の者に投げ込まれて、火中に止むを得ず飛び込んだ。一生懸命に天の数歌を唱へつつ、猛火の中を少しも火傷もせず、幾度となく巡つて元の所に帰つて来た。一同はその神力に肝を潰し、二人の顔を眺めてゐる。
 ユリコ姫は酋長の俄妻として美々しき衣裳を与へられ、酋長と相並んで斎壇に立つた。忽ち何処よりともなく、一塊の火光飛び来つてこの場に爆発し、ゼームスの身体は、中空に捲きあげられてしまつた。一同はこれに肝を潰し、右往左往に逃げ惑ひ、或は腰を抜かし、顔の色さへ紫色になつて半死半生の態に呻吟して居るものもあつた。
 ユリコ姫は美々しき衣裳を矢庭に脱ぎ捨て直ちに火中に投じ、日楯、月鉾と共に三人祭壇の前に立ち、感謝祈願の祝詞を奏上し、宣伝歌を歌ひ始めたり。

ユリコ姫『朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈む共  誠の力は世を救ふ
 神が表に現はれて  善と悪とを立別る
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 身の過ちは宣り直せ  天が下なる民草は
 何れも貴き神の御子  力の弱き人の身は
 いなで過ちあらざらめ  誠を知らぬバラモンの
 神の司のゼームスや  それに従ふ者共の
 暗き心のいぢらしさ  尊き人の命を取り
 神の御前に贄を  献るとは何の事
 果して神が贄を  望むとすればバラモンの
 大国彦は曲津神  かかる怪しき御教を
 高砂島に布き拡め  国魂神の竜世姫
 外所になしたる天罰は  忽ちその身に酬い来て
 猛火の中を打渡り  茨の叢に投げ込まれ
 剣を渡り釘の下駄  穿ちて神の御前に
 重き罪をば詫ながら  楽しきこの世を苦みて
 暮す世人の憐れさよ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  仁慈無限の三五の
 神の教の拡まりて  怪しき教を逸早く
 海の彼方に追払ひ  至治太平の神の代を
 築かせ玉へ天津神  国津神達八百万
 竜世の姫の御前に  三五教の神司
 天に輝く日月の  名を負ひ玉ひし吾夫の
 日楯の神や月鉾の  尊き教に国人を
 一人も残さず服従はせ  暗黒無道の世の中を
 天国浄土と化せしめよ  あゝ惟神々々
 御霊の幸を賜へかし』  

と祈り終つた。何時の間にやら、中天に捲き上げられたる酋長のゼームスは、礼服を着飾り、四五の従者と共に、珍らしき果物を持ち来り、三人の前に恭しく捧げ、
ゼームス『私は最前のゼームスと申すこの里の酋長でございます。尊きあなた方等に対し、御無礼な事を申上げました。勿体なくも生神様に対し、吾々如き賤しき者の女房になれとか、火渡りをせよとか、いろいろの難題を申上げました無礼の罪、何卒御赦し下さいませ。これも全くバラモン教の掟を遵奉致しての言葉でございました。ただ済まなかつたのは尊き女神様に対し、女房になれと申上げた事のみは、バラモン教の方から申しても大なる罪悪でございます。そのため、大自在天様の御怒りに触れ、天より戒めの大火弾を投げつけられ、私はその途端に中空に捲あげられ、最早命は無きものと覚悟致して居りましたが、国魂神竜世姫様とやらの、厚き御守りによつて大切なる生命を救はれ、かついろいろの訓戒をうけました。それ故取る物も取敢ず、あなた様に御詫を申上げむと参りました。どうぞこの杖にて、私の身体を所かまはず、腹のいえるまで打据ゑ下さいますれば、罪の一部は贖へられるものと心得ます。どうぞよろしく御願ひ致します』
と熱涙を流し、真心より頼み入るのであつた。逃げ散つた数多の里人は、追々と集まり来り、何れも一つの負傷もなきに、不審の思ひをしながら、酋長のこの態を見て、一同は三人に向ひ手を合し、神の如く尊敬の意を表し、合掌して拝み倒して居る。
 三人は三五教の教理を諄々と説き諭し酋長以下数十人に守られて数日の後、漸くキールの港に着いた。

(大正一一・八・八 旧六・一六 松村真澄録)
(昭和一〇・六・八 王仁校正)



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