出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語28-1-51922/08海洋万里卯 難有迷惑王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
玉藻山
あらすじ
 日楯と月鉾は玉藻山の聖地に帰って行く。真道彦命はヤーチン姫、ユリコ姫、キールスタンを伴って、その後を追った。聖地で、真道彦命は日楯と月鉾の前に姿を現わしたので、一同は喜んだ。その後、天嶺、泰嶺、玉藻山が三つの聖地となり、三五教は盛況となった。
 泰嶺で月鉾と一緒にいたマリヤス姫は月鉾に恋心を抱く。天嶺を守る日楯はユリコ姫と夫婦となった。ヤーチン姫は真道彦命をカールス王と勘違いして、恋心を抱き、病気となる。真道彦命はヤーチン姫を元気つけるため、「夫婦の関係は結ばないが、夫婦気取りで神業に参加する」と言う。これが、三五教の信者に伝えられ真道彦命は誤解を受ける。
 しばらくして、ヤーチン姫は「真道彦命はカールス王ではない」と悟り、二人は誤解のない関係となった。
名称
キールスタン 月鉾 日楯 真道彦命 マリヤス姫 ヤーチン姫 ユリコ姫
エーリス カールス王 サアルボース セールス姫 高国別 玉手姫 花森彦命 ホーロケース
エルサレム オレオン星 泰安の都 泰嶺 玉藻の湖 玉藻山 淡渓 天嶺 新高山
 
本文    文字数=14651

第五章 難有迷惑〔八〇五〕

 日楯、月鉾の両教主は数多の取次信徒等に取巻かれ、数多の松明を点じながら、湖の畔を長蛇の陣を作り、蜿蜒として玉藻山の聖地を指して帰り行く。松明の火光は湖面に映じ、恰も水中に火竜の泳ぐが如く、壮観譬ふるに物なき眺めなりけり。
 真道彦命は松明の後より、ヤーチン姫、ユリコ姫、キールスタンと共に一行に従ひ、聖地に帰り着いた。されど、夜中の事と云ひ、最後より来りし事とて、気の付く者は一人もなかりけり。
 日楯、月鉾の二人は新に建造されたる神殿に進み入り、『父真道彦命の一日も早く行方の分りますよう』……と一心不乱に祈念をし居たり。
 そこへ衆人を掻き分け、悠々として現はれ出でたる真道彦命は、先づ第一に神前に向つて拍手し祝詞を奏上し始めた。二人の兄弟はその姿と云ひ、声と云ひ、かつ……吾が前に出でて祝詞を奏上する者は、三五教に一人もなし、正しく神の顕現か、但は吾父の帰りませしにあらずや……と心中にかつ疑ひ、かつ歓び、祝詞の終るを待つて居た。
 真道彦命は拝礼を了り、一同に目礼をなし、兄弟の手を握り、涙を流しながら、
『吾れは久しくこの聖地を逃れ居たる汝が父なるぞ。よくマア無事に生き永らへしのみならず、再び聖場を復興し得たるは、全く汝等が信仰の真心を、三五教の大神御照覧遊ばし、厚く守らせ玉ふものならむ。あゝ有難や、辱なや』
と落涙に咽び、嬉しさ余つて、その場にハタと打倒れけり。
 これを聞きたる数多の取次、信徒等は一斉に神徳を讃美し、神恩を感謝し、欣喜雀躍の余り、夜の明くるも知らずに、直会の宴に、日三日、夜三夜を費やしけるが、玉藻の聖地開設以来の大盛宴なりける。
 真道彦命は日楯、月鉾二人の兄弟に、美はしき館を作られ、そこに老の身を養ふこととなりぬ。されど真道彦は年齢に似合はず、神徳、霊肉共に充実して若々しく、元気もまた壮者を凌ぐばかりなり。
 玉藻の湖水は東西十五里、南北八里、山中にてはかなり大なる湖水なり。玉藻山の霊地は殆どその中心に位し、東の端に天嶺といふ小高き樹木密生せる景勝の山地があつた。そこに日楯をして守らしめ、神殿を新に造り、政教一致の道を布かしめた。さうしてユリコ姫を宮司とし、聖地の東方を固めしめ、真道彦命は玉藻山の霊場に在つて、老後を養ひつつヤーチン姫を奉じ、神業に奉仕して居た。
 玉藻湖の西端には泰嶺と云ふ霊山があつた。そこには月鉾を配置し、マリヤス姫を神司として奉仕せしめつつありき。玉藻山以東を日潭の聖地と称し、以西を月潭の霊地と称へ、オレオン星の如く三座相並びて、三五教の神業に奉仕し、その稜威は台湾全島に轟き渡り、新高山の山麓なる泰安の都にまで、その勢力は轟いて居た。
 泰嶺の鎮守として使へたる月鉾は神の命により独身生活を続け居たり。マリヤス姫は何時とはなしに月鉾に対し恋慕の念起り、矢も楯もたまらず、神業を閑却して昼夜の区別なく、月鉾に対し心を奪はれ、隙あるごとに寄り添ひて、種々と思ひの丈を述べ立つるのであつた。されど月鉾は信心堅固にして、神の命をよく守り、かつマリヤス姫は泰安の都にましますカールス王の妹たる尊き身の上なる事を知り居たれば、手厳しく戒むる事も得せず、また放逐する事も得ずして、心の限り尊敬を払つて居た。マリヤス姫の恋路は益々猛烈となり、遂には取次信徒等の端に至るまで、月鉾とマリヤス姫の間に温かき関係の結ばれある事を固く信じいたりけり。月鉾は神命と姫との板挟みとなつて、日夜苦慮しつつその日を送り居たり。また日楯はユリコ姫と共に夫婦となり睦まじく神業に参加し居たり。
 老たりとは云へ、未だ元気旺盛なる真道彦命は妻に先立たれ、独身の生活を続けて、余生をこの聖地に送り居たるが、ヤーチン姫は危き生命を救はれたる真道彦に対して何時とはなしに恋に落ち、昼夜煩悶の結果、面やつれ、身体骨立し、遂には重き病の床に就きける。
 侍女のユリコ姫は天嶺の聖地にあつて、日楯の妻となり、早くも妊娠の身となり居たり。それ故ヤーチン姫の重病を看護することさへ出来ざりき。キールスタンは昼夜の別なく、忠実に姫の看護に全力を尽し居たれ共、姫の病は日に日に重るばかりなりける。
 真道彦命は姫の大病を救はむと、朝な夕な神前に祈願をこらしつつありしか共、少しもその効験現はれず、尊きエーリスの姫君、如何にもして、元の身体に回復せしめむと心胆を砕きながら、病床を見舞つた。キールスタンは真道彦命の来れるに打喜び、挨拶も碌々になさず、あはてふためきて、ヤーチン姫の枕許に走り寄り、耳に口を寄せ、
キールスタン『あなたの日頃恋はせ玉ふ真道彦命様が、今茲におみえになりました』
と囁きしこの声に、姫はムツクと起上り、さも嬉しげに、真道彦命に向ひ、
ヤーチン姫『真道彦様、ようこそ御親切に御訪ね下さいました。モウ妾、これぎり国替致しても、後に残る事はございませぬ。どうぞ妾の死後において、夢になりとも妾の事を思ひ出し玉ふ事あらば、ただ一言なりと吾名をお呼び下さいませ。これが妾の一生の願ひでございます』
と恥かしげに言ひ終つて、枕に顔を伏せた。真道彦は稍当惑の体にて、少時ためらひ居たりしが、かくまで吾を慕へるこの婦人に対し、今はの際に、余り没義道にあしらふべきに非ず、何れ死に行く運命の人ならば、優しき言葉をかけて、潔くこの世を去らしむるに若かじ……と決心し、厳然として身を構へ、
真道彦『ヤーチン姫殿、あなたの尊き御心、木石ならぬ真道彦も満足に存じます。今迄の貴女に対する無情の罪、御赦し下さいませ』
とキツパリ言ひ放つた。ヤーチン姫はこの言葉に何となく元気づき、病の身を忘れて身を起し、膝を摺り寄せ、命の顔を打みまもり、感謝の涙をハラハラと流しながら、
ヤーチン『日頃恋ひ慕ふ真道彦命様、それならあなたは今日只今より、ヤーチン姫の夫、よもや御冗談ではございますまいなア』
と念を押したりしに、
真道『エー勿体ない、私も神に仕ふる身の上、決して嘘は申しませぬ』
ヤーチン『そんなら……あなたは妾の夫、モウこうなる上は、病位は物の数ではございませぬ』
と痩こけたる体も俄に元気づき、顔の色さへ仄紅く、直に井戸端に歩み寄り、身を浄め、自ら衣服を着替へ、身繕ひを終つて、再び真道彦の前に現はれ来り、
ヤーチン『あゝ吾夫様、吾居間へ御越し下さいませ。いろいろと申上げたき仔細がございます』
と無理に手を曳き、吾居間に姿を没したり。
 ヤーチン姫は吾居間に真道彦命を伴ひ、あたりを密閉して両人端坐し声を私めて、
ヤーチン『カールス様、泰安の都の様子は如何なりましたか。セールス姫はどう遊ばされました。どうぞ包まず隠さず、御漏らし下さいませ』
真道『これはまた異なることを承はるものかな。私は祖先代々この玉藻の聖地に住居して、三五教を開く者、畏れ多くも泰安の都のカールス王などとは思ひも寄らぬ御言葉、永の御病気のために、精神に御異状を御来し遊ばされ、カールス王に、私が見えたのでせう。決して私は左様な尊き身分ではございませぬ。どうぞトツクリと御検め下され』
とヤーチン姫の面前にワザとに顔をつき出して見せた。ヤーチン姫は、兎見こう見しながらニヤリと笑ひ、
『如何に御忍びの御身の上なればとて、さう御隠しなさるには及びますまい。妾が淡渓に投げ込まれ、生命危き所へ貴方は妾を助けむと、先に廻つて御救ひ下さつた生命の恩人カールス様に間違ひはございますまい。最早こうなる上は、御隠しなさるには及びませぬ。どうぞ打解けて誠の事をおつしやつて下さいませ。何程御隠し遊ばしても、どこから何処まで、毛筋の横巾も違はぬあなたの御姿、これがどうして別人と思へませうか』
真道『これは聊か迷惑千万、よく御考へ遊ばしませ。カールス様は未だ御年三十に成らせ玉はず、吾は最早五十路の坂にかかつて居る老ぼれ者、何程よく似たりとは言へ、老者と壮者、皮膚の色、声の色、決して決して同じ筈はございませぬ。仮令姿はよく似たりと雖も、月に鼈、尊卑の点において雲泥の相違ある私何卒御心を鎮められ、真偽の御判断を下し遊ばすやう、御願致します』
ヤーチン『どこまでも用心深いあなたの御言葉、女は嫉妬に大事を漏すとの諺を信じ、分り切つたる秘密を、どこまでも包み隠さむと遊ばすあなた様の御心根が恨めしうございます。どこまでも御隠し遊ばすならば、最早是非もございませぬ。真道彦命ならば真道彦命でよろしうございます。王様に間違はございませぬ。どうぞ此処に改めて結婚の式を御挙げ下さいますやうに御願致します』
真道『アヽ困つたなア。どうしたら姫様の疑が晴れるであらうか。他人の空似とは云ひながら勿体ない、カールス王様によく似て居るとは………真道彦の何たる光栄であらう。否迷惑であらう。アヽどうしたらこの難関が切り抜けられようかなア』
とさし俯いて溜息をつき居る。
ヤーチン『何程御隠し遊ばしても、カールス王様に間違はありませぬ。あなたはサアルボースやホーロケース両人の悪者に恐れて、淡渓の畔に身を隠し、真道彦命と名を変へて、この世を偽る卑怯未練の御振舞、御父上の許し玉ひし夫婦の仲、未だ一夜も枕を交さね共、親と親との許し玉ひし夫婦の間柄、誰に遠慮がございませう。あなたは昔はエルサレムに仕へ玉ひし、天使花森彦命の御末孫、高国別や玉手姫の悪神の腹より生れ出でたる、サアルボースや、ホーロケースを父や叔父に持つ、セールス姫が御気に入らぬのは御尤もでございます。さりながら何を苦んで、泰安の都を脱け出で、あのやうな処に身を隠し遊ばしたのでございますか……それはさうと、妾の生命を助け下さつたのもヤツパリあなた様、都を出でさせ玉ひしその御蔭、尽きぬ縁の証にて、恋しきあなたに助けられ、この里に参りましたのも、結ぶの神の引合せ、これより夫婦心を合せ、三五教の信徒を引つれ、時を見て泰安の都に攻め寄せ、父の業を御継ぎ遊ばす御所存はございませぬか。それさへ承はらば、妾はこのまま帰幽致す共、あなたの雄々しき心を力として、幽界より御神業を御助け申す覚悟でございます。生ても死しても、決してあなたの御側を離れぬヤーチン姫の真心、どうぞ仇に思召し下さいますな』
真道『私には日楯、月鉾と云ふ二人の息子がございます。私の妻は既にこの世を去り、今はこの通り位牌となつて、この神殿に御祭りしてございますれば、どうしても妻を持つことは、私として出来ませぬ。しかしながらあなたの御志を無にするも情なく存じますれば、夫婦の交はりのみは御許しを頂きまして、夫婦気取で御神業に参加させて下さいませ。カールス王様の御身の上に就て、変事あらば時を移さず、吾々は数多の強者を引具し、泰安の都に乗込んで御助け申し、貴女の望みを達し参らす覚悟でございます。この事ばかりは御安心遊ばしませ。決して私はカールス王ではございませぬ。正真正銘の真道彦でございます』
ヤーチン『エーもどかしや』
と言ひながら、矢庭に真道彦の利腕にしがみつき、涙と共に泣き口説き、身をもだえ居る。
 この時何気なく、隔の襖をおし開き、入り来るキールスタンはこの態を見て驚き、物をも言はず一目散にこの場を駆出したり。これより真道彦命とヤーチン姫の間には、情意投合の契約が結ばれたるものとして、窃に三五教の一般に伝へらるる事となりぬ。されど真道彦命は将来を慮り、姫に対して一指だにも支へざりける。
 姫はその後病気追々快復して元の如く容色端麗なる美人となり、聖地の大神殿に朝夕奉仕して、神の威徳は益々四方に輝き亘りぬ。真道彦命は飽くまでもヤーチン姫を尊敬し、主人の如く待遇して、至誠を尽したるに、ヤーチン姫も漸くにして、真道彦命のカールス王に非ざりしことを悟り、かつ命の信仰の堅実なるに感歎し、互に胸襟を開きて神業に参加し、時の到るを待ちつつありける。惟神霊幸倍坐世。

(大正一一・八・六 旧六・一四 松村真澄録)



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