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原著名出版年月表題作者その他
物語28-1-31922/08海洋万里卯 玉藻山王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
玉藻山
あらすじ
 真道彦命は代々その名を引き継いできた。バラモン教が台湾島に入ってからは、アークス王もバラモン教に帰順していた。しかし、日月潭に住んでいた真道彦命は三五教を守っていた。
 サアルボースとホーロケースが真道彦命に攻め寄せた。真道彦命はホーロケースに刺し殺される刹那、木の花姫に救われて姿を隠す。玉藻山はバラモン教に占領された。
 真道彦命の息子、日楯と月鉾は竜の島に姿を隠し再起を願う。二人が断崖から飛び降り運を試そうとしていたそのとき、言依別と国依別が現れ二人に力を与える。言依別と国依別はすぐに消えてしまった。その後、日楯と月鉾は玉藻山を取り戻した。
 マリヤス姫は玉藻山に身を寄せていたが、月鉾を恋しく思っていた。しかし、マリヤス姫はホーロケースに捕らえられ、横恋慕されていた。その恋しい月鉾がマリヤス姫を救う。
名称
国依別 言依別 サアルボース 月鉾 日楯 ホーロケース 真道彦命 マリヤス姫
アークス王 エンゼル カールス王 国治立大神 木の花姫 セールス姫 竜世姫 花森彦命
エルサレム 日月潭 高天原 高砂島 竜の島 玉藻山 新高山 バラモン教 神国魂 琉球の玉
 
本文    文字数=14549

第三章 玉藻山〔八〇三〕

 真道彦命は国治立大神の時代より、この島に鎮まり、子孫皆真道彦の名を継いで、新高山の北方に、聖場を定め、三五の道を全島に拡充し、神国魂の根源を培ひつつあつた。しかるにバラモン教の一派この島に漂着してより、花森彦命の子孫なるアークス王は、三五の教を棄ててバラモン教に帰順せしため、住民は上下の区別なく、残らずバラモンの教に帰順してしまつた。されど新高山の以北にのみアークス王の権力も、バラモンの教権も行はれて居たのみで、新高山以南は少しも勢力が及ばなかつた。
 真道彦は遠く新高山を越えて、東南方に当る高原地日月潭に居を構へ、東南西の地を教化しつつありき。しかるにアークス王の宰相たるサアルボース兄弟は、この地点をも占領し第二の王国を建てんと、時々兵を引連れ、玉藻山の聖地に向つて攻めよせた。されど竜世姫の永久に鎮まり玉ふ大湖水を南へ越ゆることは容易に出来なかつた。
 ある時ホーロケースはバラモンの信徒を数多引連れ、三五教の巡礼に身をやつし、玉藻山の聖地に、雲霞の如く押寄せ、隙を覗つて真道彦命を生擒し、一挙に全島を占領せむと試みつつあつた。真道彦命はホーロケースの悪竦なる計画を前知し、数多の信徒を駆り集め、言霊戦を以て、これに向ふこととなし、玉藻山の山頂に、祭壇を新に設けて、寄せ来る敵に向つて、言霊線を発射しつつあつた。され共、バラモン教のホーロケースは少しも屈せず、獅子奮迅の勢を以て各隠し持つたる兇器を振り翳し、鬨を作つて一挙に亡ぼさむと斬り込んで来た。
 真道彦の子に日楯、月鉾と云ふ二人の信神堅固なる屈強盛りの二児があつた。父真道彦はホーロケースに向つて、言霊を奏上するや、ホーロケースは怒つて、真道彦の胸板を長剣を以て突き刺し、この場に打殪し、凱歌を奏し、その勢天地も震ふばかりであつた。突刺されてその場に倒れた真道彦の身体より白烟忽ち濛々として立あがり、美はしき女神となつて、雲の彼方に姿を隠した。
 日楯、月鉾の兄弟は父真道彦の行方不明となりしを歎き、如何にもして、ホーロケースの一族を亡ぼし、父の仇を報じ、三五教の教を再び樹立せむと苦心の結果、湖中に泛べる竜の島に夜秘かに漕ぎつけ、祈願をこらして居た。この時既に玉藻山の聖地は、ホーロケースの占領する所となつて居た。真道彦の部下は四方に散乱して、その影さへも止めなかつた。
 竜の島は樹木鬱蒼として、湖水の中心に浮び、周囲殆ど一里ばかりもある霊島であつた。二人は島山の頂上目蒐けて登り行く。此処に高大なる巨岩壁の如く立並び、中央に人の入れるばかりの岩穴が開いて居た。兄弟はその岩窟に思はず足を向けた。炎熱焼くが如き夏の空に得も言はれぬ涼しき香ばしき風、坑内より頻りに吹き来る。二人は何となくこの窟内を探険したき心持となつて、思はず知らず四五丁ばかり奥へ進んで行つた。
 俄に強烈なる光線何処よりかさし来たる。振かへり見れば、最早岩窟の終点と見えて、両方に円き天然の穴が穿たれ、そこより太陽の光線が直射してゐた。あたりを見れば、階段の如きもの自然にきざまれてゐる。日楯、月鉾の二人は、この階段を登り詰め、前方を遥かに見渡せば、紺碧の波を湛へた玉藻の湖水、小さき島影は彼方此方に浮み、白き翼を拡げたる数多の水鳥は前後左右に飛び交ふ様、実に美はしく、二人はこの光景に見惚れて居た。遠く目を東南に注げば、玉藻山の聖地は以前のままなれど、ホーロケースが襲来せしより、バラモン教の拠る所となり、何となく恨めしき心地せられて、稍今昔の念に沈み居たり。
日楯『オイ弟、かくの如き聖場を敵に蹂躙され、父上は行方不明とならせ玉ひ、吾々兄弟は身の置所なく、漸くにしてこの竜の島に逃げ来りしものの、未だ安心する所へは往かない。罷り違へばバラモン教の奴原、この島まで吾等が後を追跡し来るやも計られ難し、吾等兄弟は今此処において、三五教の大神に祈願をこらし、運を一時に決せば如何に。見下せば千丈の断崖絶壁、神に祈願をこめ、この青淵に飛び込み、生死のほどを試し見む。万一吾等両人生命を取り止めなば、再び三五教は元の如く勢力も盛返し、バラモン教の一派を新高山の北方に追返し得む。月鉾、汝如何に思ふや』
と決心の色を顕はして話しかけた。
月鉾『兄上の仰せの如く、これより天地神明に祈願をこめ、この断崖より湖中に飛び込み、神慮を伺ひ見む』
と同意を表し、二人は天津祝詞を奏上し、この世の名残と天の数歌を数回繰返し唱へて居た。傍の密樹の蔭より、

『神が表に現はれて  善と悪とを立別る
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 身の過ちは宣り直せ  三五教の宣伝使
 言依別や国依別の  神の司は此処に在り
 国治立大神の  教を伝ふる真道彦
 脆くも敵に聖地を追はれ  玉藻の山を後にして
 雲を霞と逃げ去りぬ  後に残りし兄弟は
 力と頼む父には別れ  教の御子には見棄てられ
 寄辺渚の捨小船  泣く泣く聖地を立出でて
 ここに荒波竜の島  涙の雨に濡れながら
 この岩窟に尋ね来て  玉藻の湖面を打眺め
 感慨無量の思ひ出に  今や生死を決せむと
 思ひ煩ふ憐れさよ  日楯、月鉾両人よ
 必ず心を悩ますな  琉と球との宝玉の
 御稜威を吾が身に負ひ来る  三五教の宣伝使
 汝等二人に玉藻山  元の昔に恢復し
 誠の道にバラモンの  敵を言向け和すてふ
 珍の神宝授けなむ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』  

と歌ひながら、この場に二人の宣伝使は現はれ来り、兄弟の前に直立して、軽く目礼した。
 兄弟は夢かとばかり打驚き、平身低頭稍少時、何の応へもなくばかり。やうやうにして両人面をあぐれば、こはそも如何に、二人の宣伝使の影は何処へ消え失せしか、山の尾の上を通ふ風の音颯々と響き亘るのみなり。
 これより二人の兄弟は、勇気日頃に百倍し、天の数歌を歌ひながら、湖上に泛べる島々を残る隈なく駆巡り、二人の宣伝使の所在を尋ねたれ共、何れへ行きたりしか、その影さへも見ることは出来なかつた。されど二人は何となく勇気に充ち、再び玉藻山に向つて言霊戦を開始せむと、湖水に浮きつ沈みつ、七日七夜の御禊を修し、言霊の練習に全力を尽す事となつた。
   ○
 セールス姫の侍女として永く仕へ居たるアークス王の落胤なるマリヤス姫は、サアルボースの館を脱け出で、夜を日に次で、新高山を東南に越え、玉藻の湖辺を巡つて、玉藻山の聖地に救はれて居た。しかるに、この度のホーロケースの襲来によりて、真道彦命は行方不明となり、数多の部下は四方に散乱し、日楯、月鉾の二人はこれまた、行方不明となり、進退谷まる折しも、ホーロケースに捕へられ、散々な責苦に会ひ、遂には一室に厳重なる監視人をつけ、幽閉されにける。
 ホーロケースは兄のサアルボースと相応じて、この全島の主権を握らむと、意気昇天の勢にて、玉藻山にバラモン教の聖場を開き、吾物顔に振るまつて居た。さうしてマリヤス姫を幽閉し、時々その居間に到りて、強談判を開始することもあつた。
 話し変つて、マリヤス姫は、悲歎の涙に暮れながら、独ごちつつ、心の憂さを歌ひ居たり。

『水の流れと人の行末  変れば変る世の中よ
 遠津御祖のその源を尋ぬれば  高天原のエルサレム
 花森彦のエンゼルと  仕へ玉ひし吾御祖
 美しの命の御裔なる  アークス王が子と生れ
 浮世を忍ぶ落胤の  吾は果敢なき身の因果
 高砂島を所知食す  カールス王の妹と生れ
 心汚なきサアルボースが娘  セールス姫の侍女となり
 醜の企みを探らむと  父の御言を畏みて
 心を尽す折柄に  セールス姫のあぢきなき
 その振舞に追ひ立てられ  今は果敢なき独身の
 行方も知らぬ旅枕  神の情に助けられ
 真道彦神の開きます  三五教の霊場と
 音に聞えし玉藻山  これの館に救はれて
 楽しき月日を送る折  月に村雲、花には嵐
 浮世の風に煽られて  今日は悲しき幽閉の身
 あゝ何とせむただ泣く涙  かはき果てたる夕まぐれ
 恋しと思ふ月鉾の  神は何れにましますか
 親子兄弟諸共に  夜半の嵐に散らされて
 行方も分かぬ旅の空  仮令何処にますとても
 マリヤス姫の真心は  山野海河幾千里
 隔つるとても何のその  尋ねて行かむ君が側
 とは言ひながら情無や  心汚なき醜神の
 ホーロケースに捉へられ  暗き一間に幽閉されて
 面白からぬ月日を送る吾身の上  朝に夕に涙の袖を絞りつつ
 恋しき人の行方を尋ね  夢になりとも吾恋ふる
 月鉾神に会はせかしと  木花姫の御前に
 祈りし甲斐もあら悲しや  ホーロケースの横恋慕
 牢獄の暗き吾居間に  夜な夜な来りてかき口説く
 その言の葉の厭らしさ  消え入りたくは思へ共
 神ならぬ身の如何にせむ  逃るる由もなくばかり
 恋しき人は来まさずに  蝮の如く忌み嫌ふ
 醜の曲霊の執念深く  朝な夕なに附け狙ふ
 バラモン教の神司  吾身に翼あるならば
 牢獄の窓を飛び越えて  恋しき主が御許に
 天翔り行かむものを  あゝもどかしや苦しや』と
 小声になつて涙と共に掻口説く。  

   ○

 折しもあれや館内俄に騒々しく  数多の人々右往左往に逃げ惑ふ
 その様子の一方ならざるに  マリヤス姫は『真道彦命
 味方を数多引連れて  弔戦に向ひ玉ひしか
 但は日楯、月鉾の二人  数多の神軍を引率して
 茲に現はれ玉ひしか  何とはなしに吾が心
 勇ましくなりぬ  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』  

と思はず合掌する。其処へ密室の戸を荒かに押開けて、形相凄まじく入り来れるホーロケースは、
『ヤア、マリヤス姫、変事突発致した。サア吾れに続いて来れ』
と無理に引つ抱へ、この場を逃げ出さむとするその周章加減、マリヤス姫はキツとなり、
『仮りにもバラモン教の神司、数多の部下を引率し玉ふ御身を以て、その周章方は何事ぞ。先づ先づ鎮まり玉へ。様子を承はりし上にては、あなたの御後に従ひ、参らうも知れませぬ』
とワザとに落付払つて、時を移さうとする。ホーロケースは、
『時遅れては一大事』
と有無を言はせず、小脇にひんだき、密室を駆出さむとする時しも、日楯、月鉾の両人は、琉、球の玉の威徳に感じたりけむ、身体より強烈なる五色の光を放射しながら、この場に現はれ来り、
両人『ヤア、ホーロケース、しばらく待たれよ』
と声をかけた。ホーロケースは転けつ輾びつ、マリヤス姫を後に残し、数多の部下と共に、雲を霞と夜陰に紛れ、何処ともなく姿を隠した。
月鉾『あゝマリヤス姫殿、御無事でござつたか、芽出度い芽出度い。これと云ふも全く、大神様の御恵み』
と両手を合せて、感謝の涙を流して居る。
 マリヤス姫は夢か現か幻かと、飛び立つばかり喜び勇み、あたりをキヨロキヨロ見廻しながら、ヤツと胸を撫でおろし、
マリヤス『悲しき恐ろしき苦しき所へお越し下さいまして、妾を救ひ賜はり、嬉しいやら、有難いやら、何とも申上ぐる言葉はございませぬ。……日楯様、月鉾様、最早館の内は別状はございませぬか』
と云ひつつ、月鉾にすがり着いた。
月鉾『マリヤス姫殿、御安心なさりませ。最早敵は残らず散乱致しました。今後の警戒が最も肝要でございます。まづまづ御心を落着けられよ』
日楯『サアサア、皆さま、打揃うて神前に天津祝詞を奏上致しませう』
 茲に玉藻山の聖地は再び、三五教に返り、宏大なる神殿は造営され、日楯、月鉾の声名は遠近に押し拡まり、旭日昇天の勢となり来たれり。あゝ惟神霊幸倍坐世。

(大正一一・八・六 旧六・一四 松村真澄録)
(昭和一〇・六・六 王仁校正)



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