出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語28-1-11922/08海洋万里卯 カールス王王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
台湾島
あらすじ
 花守彦命の子孫にアークス王とエーリスの兄弟があった。アークス王の子供がカールス王、エーリスの子供がヤーチン姫で、二人は将来結婚する予定であった。高国別と玉手姫の子供サアルボースとホーロケースは、心善くなく、アークス王の部下に仕え暴政を布いていた。
 ある時、アークス王は玉手姫の怨霊に憑依され、谷に落ちて帰幽した。それからは、サアルボースとホーロケースの勢いますます強くなり、二人は「あわよくば、カールス王にとって変わろう」と策謀をめぐらせていた。
 ある日、ヤーチン姫は玉手姫に憑かれて病気になった。サアルボースの娘セールス姫がヤーチン姫を見舞う。ヤーチン姫は精神錯乱状態となり、セールス姫に暴力を加えた。カールス王もヤーチン姫を見舞ったが、やつれた姿に恋もさめてしまった。
 セールス姫の副守護神が、高照姫命を詐称してヤーチン姫を見舞い、毒を渡した。しかし、侍女ユリコ姫の機転でヤーチン姫は助かる。キースルタンの提言で、ヤーチン姫は密かに三五教を祭ると、病気は癒えた。
 セールス姫は館に帰り、父サアルボースに「ヤーチン姫に乱暴された」ことを伝え、従臣のタールスにマリヤス姫に尋問させるが、マリヤス姫は何も答えなかった。セールス姫は怒り、マリヤス姫に暴力を加える。
名称
カールス王 キールスタン サアルボース セールス姫 タールス 高照姫命? 狆 テーレンス ハルマーズ ホール ホーロケース マリヤス姫 ヤーチン姫 ユリコ姫
アークス姫 アークス王 エーリス エールス! 金狐 国魂神 国治立大神 高国別 竜世姫 玉手姫 花森彦命 副守護神 真道彦
胞衣 日月潭 台湾島 高砂洲 高砂島 玉藻山 淡渓 豊葦原の瑞穂国 錦の機 新高山 バラモン教 木瓜 霊主体従寅の巻
 
本文    文字数=14756

第一章 カールス王〔八〇一〕

 千早振る遠き神代のその昔  国治立大神は
 豊葦原の瑞穂国を  堅磐常磐に治めむと
 心を尽し身を尽し  綾と錦の機を織る
 その糸口の竜世姫  永遠に鎮まるこの島は
 神の御稜威も高砂島の  胞衣となり出でし台湾島
 清く正しき真道彦  神の子孫は今も猶
 栄え栄えて新高の  山のあなたの神聖地
 清鮮の波を湛へし日月潭の  湖面を見下ろす玉藻山
 国治立大神や  瑞の御霊の神霊を
 斎き祀りて高砂の  島の老若男女をば
 三五教の大道に  導き救ふぞ健気なる。

 全島第一の大高山、新高山の北麓に花森彦命の子孫、カールス王の鎮まる都が古くより建設され居たり。
 花森彦命の子にアークス、エーリスの二人があつた。兄のアークスは花森彦の後を襲うて国王となり、アークス姫と夫婦の間にカールス王を生んだ。弟のエーリス夫婦の間に生れたるをヤーチン姫と云ふ。ヤーチン姫は性質温厚篤実にして、容色衆に優れ、高砂島の花と謳はれ、将来はカールス王の后たるべしと自らも信じ、国人もこれを認めて居た。カールス王もまたヤーチン姫の吾妃となるべき者たることを、堅く心中に期待して居た。
 時に高国別、玉手姫の間に生れたるサアルボース、ホーロケースの二人の、心善からざる兄弟ありき。玉手姫は悪神の化身たりし事は、「霊主体従」寅の巻の物語において示したる通りである。その水火より生れたるサアルボース、ホーロケースの二人の心魂は恰も猛獣毒蛇の如く、アークス王の部下に仕へて暴政を全島に布き、民の怨恨を買ひ、国家は益々攪乱紛糾して収拾す可らざる情勢となり居たり。
 しかるにアークス王は或時新高山の淡渓に清遊を試みたる際、玉手姫の怨霊に憑依されて、誤つて渓流に陥り上天した。茲においてその子カールス王をしてその後を継がしむる事となつた。就てはエーリスの娘ヤーチン姫を容れて妃となさむと、数多の群臣は全力を尽して奔走し居たりける。
 しかるにアークス王の上天後はサアルボース、ホーロケースの勢益々烈しく、あわよくばカールス王を排除し自らその位置に直らむと、計画して居た。サアルボース、ホーロケースの勢力は旭日昇天の如く、カールス王を殆ど眼中に置かざるの概があつた。されど天使花森彦命の子孫たるカールス王を排除するは、国民全体の反感を買ひ、暴虐無道の譏を受けむことを恐れて、表面はカールス王の臣となり、これを敬遠し居たり。カールス王はただ単に名義を存するのみ。その宮殿もその生活もサアルボース兄弟に比べて、実に比較にもならぬほどの質素さなりける。
 時にカールス王の従妹に当るヤーチン姫を妃となす事は、国民一般の熱望する所であり、かつアークス王の旧臣は残らず婚儀の成立を希望して居た。サアルボースは自分の娘セールス姫を王妃となし、ヤーチン姫を何とかして却け、自らカールス王の外戚となりて、完全に政権を左右せむ事を企画してゐたのである。ヤーチン姫の身辺の危険は実に風前の灯火に均しかりける。
 アークス王の上天後はその長子カールス王を立てて、万機を総裁せしむる事とし、ヤーチン姫を一日も早く王妃の位地に据ゑむことを謀り、別殿を造り、ヤーチン姫にユリコ姫を従へ、キールスタンをしてヤーチン姫の守護職となさしめた。しかるにヤーチン姫は新造の館に移りてより、俄に急病を発し苦悩甚しく、呻吟の声遠近に聞ゆるばかりなり。
 サアルボースの娘セールス姫はマリヤス姫を従へてヤーチン姫の病床を見舞ひけるに、ヤーチン姫はセールス姫を見るより忽ち目を釣り上げ髪を逆立て、恰も狂乱の如く荒れ狂ひ、セールス姫に飛びかかつて、矢庭に髻を掴み痩こけたる病躯をも顧みず、室内を引摺り廻し、
ヤーチン姫『汝は吾れを悩ます金狐の邪神、一刻も早くこの場を立去れツ』
とわめき狂ふ。キールスタンはヤーチン姫の荒れ狂ふを背後より抱きとめ、且セールス姫に対し言葉を低うして、その無礼を謝し、従臣のホールをしてセールス姫主従をサアルボースの館へ送り帰らしめたり。
 セールス姫の立帰りし後のヤーチン姫は精神稍鎮静したりと見えて、スヤスヤと眠に就いた。されど時々『玉手姫々々々』と連呼し、その度ごとに発熱苦悶の状益々烈しく、身体の肉は日に削るが如く痩衰へ、見る影もなき状態に陥りぬ。
 この時カールス王はヤーチン姫の重病と聞き、病床を見舞ふべく、テーレンス、ハルマーズの重臣を従へヤーチン姫の館に到り、痩せ衰へて見る影もなき姫の姿に呆れ果て、日頃の恋愛の心も漸く薄らぎ来たりぬ。されどエールスの娘にして、切つても切れぬ従妹の間柄、如何にもしてヤーチン姫の病気を回復せしめ、元の美はしき容貌となつて吾妃となし、永く偕老同穴を契らむと心の奥深く希求し居たりける。テーレンス、ハルマーズは一生懸命淡渓の畔に出でて水垢離を取り、ヤーチン姫の病気全快を祈願しける。
 ユリコ姫はヤーチン姫の枕頭に侍し、看護に余念なかりし折しも、夜中堅き戸締りを風の如くに押開けて入り来る一人の美人、数多の侍女を伴ひ、この場に現はれ、眉間より金色の光を放ち、ユリコ姫に向つて言ふ。
『妾は新高山を守護致す高照姫命なり。ヤーチン姫の病気危篤と聞きて、座視するに忍びず、姫が生命を救はむものと、起死回生の薬を持参したり。一刻も早くこれを飲ませよ』
と言ひつつ、紫色の木瓜をユリコ姫に与へ、烟の如く立去りにけり。ユリコ姫は合点行かず、木瓜の一部を割いて狆の子に与へたるに、狆は尻を振り頭を振り、一口に呑み込みしと思ふ間もなく、忽ち室内を前後左右に狂ひまはり、七転八倒、黒血を吐き悲鳴をあげてその場に殪れける。
ユリコ姫『今の女神は如何なる魔神なりしか。ヤーチン姫様を毒殺せむと企みたるセールス姫の間者ならめ』
とかつは驚き、かつは怒り、直に新高山の南方に立昇る雲気を目標に、汗みどろになつて祈願をこらしけり。忽ち身体動揺して帰神となり、今の高照姫と称する女神は、金狐の化身にして、セールス姫の副守護神なることを口走り、初めて女神の正体を感知したり。ヤーチン姫は衰弱甚しく、殆ど虫の息となり居たるが、キールスタンはこの場に慌だしく走せ来り、
キールスタン『ユリコ姫さま、姫様には御異状はござりませぬか。只今この館より怪しき光現はれしと見る間に、悪狐の姿現はれ、暗に紛れて山上高く駆去りました。私はこれを見るより取る物も取り敢ず、姫の身辺に異状なきやと、急ぎ御伺ひに参りましてございます』
ユリコ姫『ハイ、あなたの御推量にたがはず、怪しき女が突然現はれ、姫様の病気本復致すやうにこの木瓜を与へよと渡して、直様立帰へりました。どうも腑に落ちませぬので、狆の子に木瓜の一片を切り取り与ふれば、狆は忽ち苦悶の結果、黒血を吐いて斃れましてございます』
キールスタン『油断のならぬ悪神の仕業……すべて台湾島は高砂島の胞衣と昔の神代より定められ、竜世姫命国魂神として、御守護遊ばす以上は、竜世姫命を丁重に奉斎し、敬神の大道を再興致し候はば、妖怪変化の災は、忽ち払拭する事でござりませう。アークス王の不慮の御上天も全く国魂神をおろそかにし、バラモンの教を国内に奨励したる神の戒めでございませう。カールス王はともかくも、ヤーチン姫様の御居間だけなりと、三五教の大神を祀り、竜世姫の国魂神を奉斎致さば、初めて御安泰に渡らせられ、流石の難病も必ず本復遊ばす事と考へるのです』
ユリコ姫『キールスタン様いい所へ心付かれました。妾も貴方の御意見通り、国魂の神を祀るべき事は承知致して居りまするが、何を言うても、この国はバラモン教の教を以て政治の助けとなしあれば、三五教の神を念ずる事、世間に現はれなば、如何なる戒めに遭ふやも計り難く、実は内々にて妾一人信仰を致して居りました。しからばあなたと妾と心を協せ、竜世姫命の御前に御祈願致しませう』
 キールスタンは嬉しげに打諾き、両人声を潜めて、
『三五教の大神、殊更に国魂神竜世姫命、守り給へ幸はひ玉へ』
と祈願を凝らしけるに、不思議にもヤーチン姫の病気は刻々と快く、四五日を経て元の如くに全快したりけり。
 これよりヤーチン姫は俄に三五教を信ずる事となり、三人密かに館の一方に斎壇を設けて日夜祈願をこらしつつありける。
   ○
 セールス姫はマリヤス姫を従へ、髪ふり乱し、顔色青ざめ父の館に慌しく立帰り、奥の間に駆入り、大声をあげ泣き倒れ居たり。
 サアルボースの館の司タールスは、セールス姫の悲しげなる声を聞きつけ、恐る恐るその居間に駆つけて、両手をつき頭を下げ、
タールス『恐れながら姫様に御伺ひ致します。あなた様はヤーチン姫の館へおこし遊ばし、御帰りになるや否や、俄に変りし御様子、如何なる事が出来致しましたか、どうぞ包まず隠さず私まで仰せ付けられ下さいませ。あなたの御為ならば、仮令このタールス、身命を抛つても御無念を晴らし、御希望を叶へまゐらす覚悟でございます』
 セールス姫は漸々に顔をあげ、鬢の縺れ毛を撫で上げながら、半巾にて涙を拭ひ、声もきれぎれに、
セールス『タールス、よく聞いてくれた。妾は終生拭ふ可らざる侮辱を受け、且九死一生の虐待に遭ひました。アヽ残念や、口惜や』
と声を限りにその場に泣き伏しぬ。
タールス『モシ御姫様、泣いてばかり居られましては、一向訳が分かりませぬ。どうぞ詳しく御示し願ひます』
セールス『委細はマリヤス姫に聞いておくれ。余り残念さと恐ろしさに心も顛倒し、言ふ事が出来ませぬ』
とまたもや泣き倒れる。
タールス『マリヤス姫さま、あなたは姫様の御供をしてヤーチン姫の館へ御出でになつた以上は、一切の様子残らず御存じの筈、一伍一什包まず隠さず、言つて下さい。此方にもそれに対する覚悟をせなくてはなりませぬから』
マリヤス『ハイ』
と言つた限り、言ひ渋つて居る。マリヤス姫はセールス姫の侍女なれ共、平素よりセールス姫の嫉妬と猜疑と悪虐無道の行為とに愛想を尽かして居た。されど主人の事なれば、無理に戒め諭す訳にも行かず、今迄幾度か命を賭して諫言せしことあれ共、いつも馬耳東風に聞き流して居た。今回のヤーチン姫に打擲されしは、全く天の戒め玉ふ所と深く心中に感謝して居た位であるから、その実状をタールスに物語りし結果ヤーチン姫の如何なる災厄に陥り玉ふやも計り難しと、躊躇して居たのである。
 タールスはマリヤス姫に向つて、短兵急に訊問の矢を放つた。マリヤス姫は僅かに小声で、
『ヤーチン姫様は御病気の勢にて、セールス姫様の御肉体に少しばかり御手をかけられました。さりながらヤーチン姫様はカールス王の御従妹、セールス姫様は臣下の御身の上、仮令如何なる事を遊ばしても彼是申上げる訳のものではございませぬ。妾はこの事ばかりは申上げる事は出来ませぬ。セールス姫様に、後でゆるゆる御聞き遊ばせ』
 セールス姫は、矢庭に起ち上り、眼光凄じく夜叉の如き勢にて、マリヤス姫の髻をひつ掴み室内を引摺り廻し、身体所構はず、打つ、蹴る、殴る、殆ど息の根も絶えむばかりに打擲した。そしてセールス姫は声を荒らげ、
『不忠不義のマリヤス姫、臣下の身分として、主人より如何なる乱暴を加へらるる共、一言も申上げられないと言つたであらう。「我身を抓つて人の痛さを知れ」と云ふ事を覚えて居るか。妾がヤーチン姫より被つた虐待はこの通りだ。……タールス、妾がなす業をよつく覚えて居れよ。この通りなりしぞ』
とまたもやマリヤス姫の髻を掴んで室内を引摺りまはし、頭髪は房の如くに肉のついたまま、血に染つてむしり取られた。マリヤス姫は苦みをこらへ、セールス姫のなすがままに任してゐた。最早虫の息となつてしまつた。セールス姫は心地よげにニタリと笑ひ、
『イヤ、タールス、汝はこの由御父上、叔父上の前に報告されよ』
 タールスは『ハイ』と答へて、慌しくこの場を立ち去つた。

(大正一一・八・六 旧六・一四 松村真澄録)
(昭和一〇・六・五 旧五・五 王仁校正)



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