出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語27-5-171922/07海洋万里寅 沼の女神王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
琉球の島
あらすじ
 言依別命、国依別、若彦、照子姫、清子姫が立ち去った後の清彦と照彦は常楠と共に島に残され寂しさを感じた。ある夜、清彦の夢の中に、琉球沼にいる清子姫と照子姫が現れた。清彦と照彦はエムとセムに琉球沼に案内させる。
 清彦と照彦が宣伝歌を謡い沼の中に入ると、沼の水深が増して、もう進めないというところで、八尋鰐が橋となって、二人を珊瑚礁の島へ案内してくれた。清彦は女神を呼ぶ宣伝歌を謡う。その歌で「国に残した妻は、別の男の妻になっていて、天則違反にはならない」とも謡う。
 そこに四人の男が現れ、二人を岩窟に案内する。そこには、清子姫と照子姫にうり二つの二人の女神がいた。清子姫は「自分と清彦とは身魂の因縁があるので夫婦になろう」と謡いかけて、手を握る。そうされた清彦はにわかに清子姫が恋しくなった。照彦も照子姫が恋しくなり、二組は夫婦の契りを結んだ。
 これより、清彦と清子姫は琉の島の守り神となり、照彦と照子姫は球の島の守り神となった。
名称
エム 清子姫 清彦 セム 常楠 照子姫 照彦
国彦 国姫 国依別 言依別命 木の花咲耶姫 広宗彦 八尋鰐 若彦
生日足日 エルサレム 自転倒島 球の島 金銀銅の三橋 児島半島 三五の月 セークス山 台湾 高砂洲 天教山 芙蓉山 真玉手玉手 身魂の因縁 桃の実 八重山群島 琉球沼 琉の島 離久の闇
 
本文    文字数=20566

第一七章 沼の女神〔七九九〕

 言依別命、国依別は高砂島へ、若彦は自転倒島へ、照子姫、清子姫は言依別の後を慕うて立去つた後の清彦、照彦は、父の常楠と共にこの離れ島に残され、恰も遠島に流されし如き淋しみを感じた。これより親子三人の交際は益々親密を加へ、よく父子兄弟の順序行はれ、数多の土人の益々崇敬の的となつて居た。
 この島に琉球沼と云ふ至つて広き藺の密生した沼がある。ある夜清彦の夢に……清子姫照子姫の二人、沼の対岸に現はれ、白き細き手をさし延べて清彦に向ひ、
『琉球へおじやるなら、草鞋穿いておじやれ、琉球は石原、小石原』
と歌つて踊りしと夢見て目が醒めた。
 土人のエムとセムとの従者に向つて清彦は、
清彦『この島に琉球沼と云ふ広大無辺な清泉を湛へた沼があるか』
と尋ねて見た。エム、セムの二人は言下に首を縦にふりながら、
エム『有ります有ります、確に立派な沼があつて、藺が周辺に密生し、比較的浅く、さうして外の沼とは違つて、水底は小砂利を以て敷つめたやうな気分の良い沼です。その中央に珊瑚礁で作られた立派な岩があり、その岩には大きな穴が明いて居る。その穴を這入ると中は千畳敷で、時々立派な美人がその穴より二人現はれ、金扇を拡げて踊り狂ひ舞ふとの事です』
セム『この里の者は伝説に聞くばかり、恐れて近寄つた者はありませぬ』
清彦『お前知つて居るなら、そこまで案内をしてくれないか』
エム『御案内は致しますが、うつかり沼の中へでも這入つて貰つたら大変です』
清彦『照彦、お前も行かうぢやないか。清子姫、照子姫と寸分違はぬ美人が扇を拡げて我々兄弟両人を待つて居るぞよ』
照彦『兄貴、それは夢だないか。余り清さま照さまに精神を取られて居るものだから、そんな夢を見たのだよ。キツと大蛇の御化にきまつてゐる。私はマア止めておかうか』
清彦『ハテ気の弱い。ともかく経験のために行つて見たらどうだ。別に外に忙しい用があると云ふのではない。物は経験ぢやないか。将来この島の覇王とならうと思へば、隅々までも探険しておく必要があるだらう。……お父さま、どうでせう。我々兄弟、エムとセムを案内者として一度探険に行つて来たいと思ひますが……』
常彦『何を言つても、ここは世界の秘密国だ。御苦労だが一つ調べて貰ひたい。……エム、セムの両人、お前御苦労だが、二人の案内をしてやつてくれ』
 エム、セムの二人は一も二もなく承諾をした。茲に四人は常楠と共に天津祝詞を奏上し、成功を祈願し終つて、草鞋脚絆の軽装にて、一本の杖を携へ、芭蕉の葉で編んだ一文字笠を頭に頂きながら、一天雲なき青空を草を分けて、琉球沼の畔に辿り着いた。里程は殆ど今の十里位である。湖辺に着いた頃は太陽は既にセークス山の頂きに没し、山の影は湖面を蔽ふ頃であつた。
 清彦は沼の畔に立つて、湖面を眺め歌つて見た。

清彦『神の教に清められ  魂を研いた清彦や
 身魂も四方に照り渡る  照彦宣伝使
 琉球の沼に永久に  鎮まりゐます心も清き清子姫
 身魂もてれる照子姫  清と清との清い仲
 照と照との明い仲  エムとセムとの案内にて
 お前に会はんとこがれこがれて  出て来たやさしい男
 セークス山に日が隠れ  早烏羽玉の夜は近づいた
 清い清い朝日の如く  明き明き天津日の
 照り輝く如く  実に麗しき男と男
 夢の中なる女を尋ね  夢に夢見る心地して
 此処まで訪ねて来た男  沼の女神よ心あらば
 男の切ない思ひを汲めよ  夢の中とは言ひながら
 お前は私を清い心で  呼んだでないか
 白きただむき淡雪の  若やる胸を素だたき
 たたきまながり真玉手玉手  互にさしまき腿長に
 水火を合してこの島の  守りの神とならうでないか
 夢の中なる清子姫  照子の姫よ遥々と
 訪ね来れる清彦や  照彦の真心を
 仇に思ふな沼の主』  

と歌つた。
 照彦は清彦の歌の終るを待ち兼ねたやうに、

照彦『かくれた かくれた日輪様は  セークス山の頂きに
 沼を包んだ涼しい影に  我等が心も涼しくなつた
 心は照る照る身魂は清く  小石の並んだ沼の底
 小魚の躍りもよく見える  踊るは小魚のみでない
 照彦心も勇み立ち  思はず手足が踊り出す
 照れよ照れ照れ心の光  清い身魂に宿つた神の
 分の霊魂の清彦兄貴  兄弟二人が姉妹を
 訪ねて来たのも外でない  昨夜兄貴が見た夢の
 沼の女に会ひたさに  木の丸殿を立出でて
 エムとセムとに送られて  草野を分けてやつて来た
 男心を汲み取つて  早く姿を現はせよ
 沼に泛んだ珊瑚礁  エムとセムとの話を聞けば
 黄金の扇打ひろげ  天女のやうな乙女子が
 何時も現はれますと聞く  私等二人は琉球の
 国の頭に任けられて  此処に現はれ照りわたる
 月日の光を身に受けて  二人と二人の心を合せ
 北と南の夫婦島  千代の契を結ばうと
 お前にこがれて来た男  仇に返すな沼の主』

と歌ひ終つて、四人は美はしき砂の布きつめたやうな浅き沼を、小さき雑魚を驚かせながらバサバサと、時ならぬ波を立てて進んで行く。
 遥彼方に黒ずんで浮いて居る珊瑚礁の影、日は漸く地平線下に没し、そろそろ暗の帳は下されて来た。涼しき風は一行の面を撫で、水深は最早太腿の所まで浸された。忽ち島はポーツと明くなつた。四人は何となく心勇み明りを目当に進んで行く。
 忽ち現はれた八尋鰐、此処よりは水深俄に増して到底前進する事が出来ない。ハタと当惑して居る矢先、八尋鰐は橋のやうになつてその前に横たはつた。幾十とも知れぬ鰐は珊瑚礁を基点として、長き橋を架けたやうに単縦陣を作り、四人の男にこの上を渡れ……と言はぬばかりの意思を示した。
 清彦外三人は神言を奏上しながら、鰐の背を覚束なげに踏みこえ踏みこえ、漸くにしてポツと明い珊瑚礁に辿り着いた。振りかへり見れば今迄現はれた八尋鰐の姿は水泡の如く消え果て、後には波静かに魚鱗の如く漂うて居た。
 清彦は珊瑚礁に安着した祝ひに、心も何となくいそいそしながら、またも歌ひ踊つて居た。

清彦『ここは琉球の中心地点  夢の中なる恋妻の
 堅磐常磐に隠れたる  高砂島か珍島か
 珍の女神の御玉の住処  琉球へおじやるなら
 草鞋穿いておじやれ  琉球は石原小石原
 唄つて聞かした二人のナイス  今はいづくに身をかくす
 はるばる訪ねて来た男  出迎へせぬとは無礼ぞや
 私も男の端ではないか  竜の化身か天女の果か
 但は清子照子の幻像か  真偽のほどは我々の
 恋に迷うた眼には  ハツキリ分らない
 夢に踊つたお前の姿  白い肌や白い腿
 太い乳房をブラブラと  見せたる時の心持
 俺はどうしても忘られぬ  恋の暗路に迷うた男
 琉球の沼で兄弟が  恋の虜とならうとは
 夢にも思はぬ清彦が  赤き心を知るならば
 夢を破つて現実の  清子の姫や照子姫
 早く姿を現はせよ  お前に会ひたさ顔見たさ
 千代も八千代も添ひたさに  父の前にて言挙げし
 弟までも誘うて  やつて来たのは阿呆らしい
 清姫、照姫心あらば  夢の姿を現実に
 早く現はせ自転倒の  神の島をば後にして
 遥々訪ねて来た男  児島半島の磯端近く
 波に揉まれて暗礁に  船を乗りあげ玉の緒の
 消ゆる命を助けた俺達兄弟  瑞の宝座に仕へて居つた
 お前二人を女房にしようと  兄弟二人が目星をつけて
 互に恋を争ひつ  その煩さに烏羽玉の
 暗に紛れて逃げ出した  お前は清さま照さまだらう
 言依別の後追うて  万里の波濤を横ぎりつ
 高砂島へ渡り越したと思うたお前  やはり琉球が恋しうて
 五月蠅い二人を振棄て  水で囲んだこの沼の
 珊瑚礁をば宝座とし  千代に八千代に永久に
 この岩窟に身を潜め  恋を葬るお前の心
 とは言ふものの魂は  ヤツパリ我々兄弟を
 忘れかねてか昨夜の夢に  黄金の扇子を打ひろげ
 心も清き清彦を  笑を湛へて招いたぢやないか
 神の結んだ尊い夫  出迎へせぬとは没義道だ
 恋に上下の隔てはなかろ  三国一の婿が来た
 早く鉄門を押しあけて  二人の男を迎へ入れ
 お前の初恋うまうまと  叶へてやらうまた私の
 初恋ならぬ二度目の恋路  国に残した妻子はあれど
 何時の間にやら人の妻  行方も知らぬ妻子の身の上
 かうなる上はよもや  天則違反に問はれはすまい
 何の躊躇も要るものか』  

と歌ひ終つた。この時岩窟の中より、岩の戸を取外して現はれ出でた、ダラダラ筋の被衣をつけた四人の男、四人の前に目礼し、無言のまま差し招き、うす暗い岩窟を先に立つて下つて行く。四人は後に従ひ、細き岩窟を稍腰を屈めて、右に左に上りつ下りつ、パツと明るい広場に辿り着いた。
 迎への男は手真似で、ここにしばらく休息せよと示した。四人は恰好の岩の突起に腰を打ちかけ、しばらく息を休むることとなつた。迎への男はそのままどこともなく姿を隠した。嚠喨たる音楽の音四辺より響き来る。
 しばらくあつて二人の美人桃色の顔容に纓絡の付いたる冠を戴き、玉串を両手に捧げ、悠々としてこの場に現はれ来り、一人は稍丸顔に少しく身体太り、一人は少しく年若く顔は細型に体もそれに応じて稍細く、三十二相の具備したる観自在天の如き容色端麗にして、その崇高き事譬ふる物なきばかりであつた。清彦、照彦は余りの美はしさと荘厳さと、どこともなく犯す可らざる威厳の備はるあるに、稍怖気づき、呆然としてその姿を看守るのみであつた。先に立つた女神は清子姫である。花の如き唇を淑やかに開いて清彦に向ひ、歌つて言ふ。

清子姫『妾は聖地エルサレム  神の都に仕へたる
 天使の長と現れませる  広宗彦が四代の孫
 身魂も清き清子姫  汝が父の常楠は
 国彦、国姫が三代目の曾孫  元を糾せば古より
 切つても切れぬ神の綱  恋の懸橋永久に
 落ちず流れず清彦が  妻となるべき清子姫
 お前は身魂の因縁を  顧みずして照子姫に
 思ひをかけし恋男  モウかうなる上は
 定まる縁と諦めて  清子姫の夫となり
 夫婦仲よくこの島に  いや永久に住居して
 国の司とならうでないか  槻の洞にて出会うた女
 姿も顔も少しも変らぬ清子姫  最早お前の怪しの夢は
 醒めたであらう  あなにやし好男
 あなにやし好乙女よと  八千代を契る玉椿
 幾千代までも添ひ遂げて  神の御旨に叶へまつれよ
 我恋ふる清彦の司  これぞ全く言依別の
 教主の定め玉ひし  二人の縁
 よもや否応ありますまいぞ  色好き応答を松虫の
 泣いて暮した我心  仇には棄てな三五の
 神の司の清彦よ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 神の結んだこの縁  お前が心の怪しき曲者に
 破られさうな事はない』  

 『サアサアおじや』……と手を執れば、清彦は案に相違の面持にて、清子の姫をよつく凝視め、俄に姫が恋しくなり、手を引かれながら歌ひ出した。

清彦『神の結んだ二人のえにし  深い仕組は知らずして
 汚れ果てたる身魂を持ちながら  お前は好ぢや嫌ひぢやと
 小言を云うた恥かしさ  照子の姫に弥まさる
 今のお前の姿を眺め  頓に恋しくなつて来た
 ホンニお前は美しい  実に愛らしい妹ぢやぞえ
 夢に牡丹餅、地獄で仏  何に譬ん今日の喜悦
 夢の中なるナイスに出会ひ  未だ夢見る心地して
 胸の鼓動はドキドキと  まだ治まらぬ清彦が
 心の切なさ嬉しさよ  これも夢ではあるまいか
 夢なら夢でも是非はない  いついつまでもこのままに
 夢は醒めざれ夢に夢見る  浮世の夢は
 天国浄土のパラダイス  芙蓉の山に永久に
 鎮まりゐます木花咲耶姫  神の恵の露にぬれ
 このまま此処で我と汝と  夫婦の契いや永く
 相生の松の色深く  褪せずにあれや惟神
 御霊幸はひましまして  心清彦、清子姫
 幾久しくも夢の浮世の  夢は覚めざれ』

と歌ひつつ奥深く導かれ行く。音楽の声頻りに響き来り、得も言はれぬ芳香四辺を包む。
 照子姫は莞爾として照彦に向ひ、

照子姫『アヽ好男好男  心の色も照彦が
 離久の暗を吹き払ひ  神の結びし妹と背の
 えにしを契る今日の生日の足日こそ  神の都のエルサレム
 源遠く広宗彦の  珍の血筋と生れたる
 照子の姫は今茲に  汝の来るを待受けて
 心も清き藺草をば  刈り干し来り香も高き
 藺草の畳織りなして  今迄待ちし恋の淵
 心に浮ぶ日月は  沼の清水の面清く
 照子の姫の真心を  いとも詳さに現はしぬ
 離久の夢も今さめて  神の結びし我夫に
 巡り会ひしも古の  深きえにしの循り来て
 汝と再び添臥しの  夢路を辿る新枕
 身魂の筋を白浪の  淵に沈んだお前の心
 照子の姫を余所にして  心も清き清子姫
 秋波を送り玉ひたる  心の空の情なさよ
 恨み歎つぢやなけれども  尽きぬえにしに搦まれて
 結ぶの神の結びてし  二人の仲はこの沼の
 いと浅からぬ契合ひ  久遠の夢は今ここに
 漸く晴れてたらちねの  神の身魂のいそいそと
 歓ぎ玉へる今日の日よ  千代も八千代も永久に
 汝は我身の背となりて  いつくしみませ吾れもまた
 汝をこよなき夫となして  神のよさしの神業に
 仕へ奉らむあが願ひ  汝が心の岩の戸を
 開いて語れ胸の奥  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  この岩窟のいや堅く
 弥永久に変りなく  天の御柱つき固め
 国の御柱永遠に  固く契らん夫婦仲
 あゝ照彦よ照彦よ  天津御空に月は照る
 日は照る曇る世の中に  二人の仲は永久に
 心に浮ぶ日月は  互に照彦、照子姫
 月日は照る照る常世は曇る  愛と愛との互の胸に
 神の情の雨が降る』  

と言ひ終つて、照彦の手を取り奥深く導き入る。照彦は手を曳かれながら、このやさしき美はしき女神の後に従ひ、精神恍惚として、前後も弁へず、只々感謝喜悦の涙に咽びながら歌ひ出した。

照彦『琉球の沼の水清く  塵をも止めぬ清子姫
 心の色も清彦が  水火を合せて神業に
 仕へ奉るぞ目出度けれ  汝の心も照子姫
 引かれて進む照彦は  初めて晴れた恋の暗
 二人の妻に手を引かれ  黄金の橋を渡るよな
 涼しき心地の二人の男の子  雲井の空に弥高く
 神の救ひの舟として  金銀銅の三橋を
 昔の神の渡りたる  清き思ひに充たされて
 天教山に降るごと  日頃恋ひたる我思ひ
 ここに愈撞の御柱巡り合ひ  あなにやし好男
 あなにやし好乙女をと  千代の契の礎固めたる
 清けき神の行ひを  繰返す如き心地して
 引かれ行く身ぞ楽しけれ  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  三五の月の御教は
 堅磐常磐に照れよかし  我等二人のその仲は
 三五の月の何時までも  天津御空にいと円く
 琉球の沼に影映し  天に輝く照彦や
 沼に映りし照子姫  天と地とは永久に
 照る照る光る花は咲く  弥永久に桃の実の
 落ちずにあれや夫婦仲  神の結びしこのえにし
 幾億万年末までも  二人は手に手を取りかはし
 天津御空の星の如  浜の真砂の数多く
 御子を生め生め永久に  人子の司となりなりて
 この浮島の守り神  あゝ惟神々々
 御霊幸はひましまして  二人の夢は何時までも
 醒めずにあれや永久に  神の御前に願ぎまつる』

と歌ひ終つた。忽ち奥の間の隔ての戸を引開けて中より現はれた、清彦、清子姫の二人、顔色麗しく笑を湛へて、清子姫は照子姫の手を取り、清彦は照彦の手を取り、琉球畳を布きつめた、岩窟に似合はぬ美はしき居間に導いた。バナナ、いちご、柿、木茄子、林檎その外種々の美はしき果物、沼の特産物たる赤貝の肉、石茸なぞ数多並べられ、ここに二夫婦は芽出度く夫婦の契を結ぶ事となつた。
 これより清彦、清子姫の二人はこの沼を中心として、さしもに広き琉の島の守り神となり、子孫永遠に栄へて、神の如くに敬はれ、数多の土人はその徳に悦服し、世は太平に治まつたのである。次に照彦は照子姫と共に、南の島に渡り、同じくこの島の守り神となつて子孫繁栄し、土人に神の如く、親の如く尊敬された。
 南の島を一名球の島と云ふ。今の八重山群島は球の島の一部が残つて居るのである。照彦夫婦は時々球の島より、遠く海路を渡り、台湾島の北部にまで、その勢力を拡充して居た。

(大正一一・七・二八 旧六・五 松村真澄録)



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