出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語27-4-121922/07海洋万里寅 湖上の怪物王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
ハーリス山
あらすじ
 言依別命と若彦は湖に着いたが、湖面が荒れている。二人は「国依別が何か悪いことをして竜神を怒らせたのではないか」と話す。そこに常楠が追いつき、国依別が竜神の柿を食べたことを報告する。そこへ、国依別、チヤール、ベースが追いつく。国依別の茶目はますますひどくなったようだ。
 一陣の暴風水面より起こり。国依別だけが風を感じている。他のものは平気であった。国依別は「烈風により大岩石が頭上に落ちそうだから祈願してくれと」頼むが、一同に「風などない」と言われ、「過去か未来の烈風の惨状が時間空間を超越して、私の目に映ったのでしょう」と言う。言依別は「これかぎり真面目になれ」と命じる。
 夜がふけると、白い頭髪に、紅の顔、二本の黄金の角を生やした、妙な顔をした怪物、竜若彦が現れ、「玉を渡そうと思っていたが、国依別が竜神の柿を食べたから許せないので出直せ」と言う。国依別は「鬼面人を驚かすようなやり方は承知できない。柿は人間、猿、烏の食すべきものだ。人にも食わさず、天与の珍味を毎年腐らせ、天恵を無視する大逆無道」と言霊を奏上する。この時、国依別の顔面は崇高な権威に満たされていた。
名称
国依別 言依別命 竜若彦 チヤール 常楠 ベース 若彦
大竜姫 大竜別 玉照彦 玉照姫 副守護神 竜神
太平柿 ハーリス山 琉と球の宝玉
 
本文    文字数=12608

第一二章 湖上の怪物〔七九四〕

 言依別は若彦と共に、途中に国依別の身に対し、かかる変事ありとは夢にも知らず一心不乱に神言を奏上しながら、千畳敷の岩石、彼方此方に伍列する谷間に、漸く辿り着き、目を放てば紺碧の淵、際限もなく山と山との谷間に押し拡がり、風も無きに波高く立ち騒いで居る。一見して実に凄惨の気に襲はるる如くである。言依別は後振り返り、
言依別『若彦さま、ここは琉と球との宝玉を持つて居る竜神の棲処でせう』
若彦『ハイ左様でございます。今日は大変に浪が荒れて居ります。屹度途中において国依別、常楠が、何か神慮に叶はぬ事をやつたのではあるまいかと、気にかかつてなりませぬ。………アレアレ御覧なさいませ。この無風地帯に浪は増々荒くなつて来たではありませぬか。アレアレ山の如き波が立つて来ました』
言依別『成程、この湖水は余程趣きが違つて居ります。この波の立つ様子から考へても、貴き竜神が潜伏して居られるのは明かであります。しかしながら国依別や常楠その他の方々は、どうなつたのでせうか。大変に遅いぢやありませぬか』
若彦『途中において、竜神の守護すると云ふ太平柿が、枝もたわわに実のつて居りましたが、大方彼の柿でも国依別さまが取つて喰ひ、竜神の怒りに触れて、一騒動をオツ始めて居るのではありますまいかと気が気でなりませぬ』
言依別『あの男は茶目式で、揶揄専門より外に芸能のない男だ。しかし淡白で正直で面白い奴だから、人の恐れる柿を取つて見ようなぞと、痩我慢を出したのかも知れませぬよ。常楠翁は実に真面目な人だから、矢張国依別の巧い口に乗せられて、犠牲を喰つて居るのでせう。何はともあれ一同無事なやうに此処で祈願を致しませう』
と両手を合せ、湖面に向つて両人は天津祝詞を奏上し、天の数歌を唄ひ上げて稍時を費やした。
 木の間を漏れて笠が揺ついて来る。よくよく見れば常楠はただ一人、息せききつて登り来り、二人の前に手を突いて、
常楠『ドウも御待たせ致しました。嘸御退屈で居らせられたでせう。これには少し訳がございますので、ツイ時間を潰しました。どうぞ御赦しを願ひたうございます』
言依別『大方国依別が、竜神の柿を採つて喰つたのぢやありませぬか』
常楠『ハイそのために大変な珍事突発致し、イヤもう気を揉みましたが、稍安心する事が出来ましたので、取るものも取り敢ず、此処迄急いで登つて参りました』
と息をつぎつぎ苦しさうに物語る。言依別は膝を進め猶も次から次へと、詳細に尋ねた。常楠は有りし事ども一切包まず隠さず物語つた。
 三人はまたもや国依別の無事を祝し、再び感謝祈願の祝詞を奏上しつつあつた。其処へ以前の歌を歌ひながら、意気揚々として国依別は、チヤール、ベース外五人を引き連れ、三人の前に現はれ、頭を掻きながら、
国依別『イヤどうも、長らく御待たせ申して申訳がございませぬ。様子は残らず常楠翁から御聞取の事と存じますれば、何も申上げませぬ。これにて私も副守護神の茶目坊が悉皆退散致しまして、本当に真摯な、率直な、清廉な、潔白な、勇壮活溌な人物に生れ代りました』
若彦『アハヽヽヽ、国依別さま、茶目坊は……益々猛烈なつたぢやありませぬか』
国依別『灯火の滅せんとするやその光殊に強し……とか云つて、副守の奴、今や滅亡の断末魔の悲痛の叫びでございます。実に悲痛こい守護神で、国依別も誠に迷惑千万。チヤール、ベースの両人も、鰒の如く腹膨れ、臨月の女房が三ツ児腹を抱へたやうな体裁、ウンウンキヤアキヤア唸り通し、揚句にや皮癬掻いて、おまけに疳瘡で、陰金たむしで………』
若彦『国依別さま、また脱線しましたぞ。好い加減に茶目坊を追ひ出しなさらぬか』
国依別『何程チヤール、ベース坊を追ひ出さうと思うても、私に引付いて生命の親ぢやと思うて、副守が放れぬのですから仕方がありませぬ……なア、チヤール、ベース、若彦さまのおつしやる通り、モウ私の副守護神になる必要はないから、トツトと離れて下さい』
常楠『オホヽヽヽ、何とまア、戦場に臨んで気楽な事を言うて居る方だ事』
国依別『強敵を前に控へて横笛を吹き、悠揚迫らざるその態度、これで無くては本当の言霊戦に参加し、大勝利を羸ち得る事は不可能でせう。アハヽヽヽ』
 この時一陣の暴風水面より吹き起り、巨大なる岩石まで空中に巻き上げる勢となつて来た。「コリヤ大変」と国依別は、大木の幹に抱付き、一生懸命に声まで震はせて祈念して居る。何故か言依別、若彦、常楠その他一同は、さしもの暴風に裾さへも吹かれず依然としてその場に端坐して居た。
言依別『国依別さま、強敵を前に控へて、余裕綽々たる貴下の態度、実に感じ入りました』
 若彦可笑しさを耐へて「キユーキユーキユープー」と吹き出して居る。常楠は真面目な顔をして控へて居る。
国依別『綽々として根つから余裕は有りませぬ。神直日、大直日に見直し聞直して下さいませ。どうぞこの烈風を止まるやうに御祈念して下さい。あのやうな大岩石が頭上に落下しようものなら、それこそ五体は微塵になりませう。何だか体躯の筋肉が細密に活動し初めました』
若彦『国依別さま、何処に烈風が吹いて居りますか。少し風が欲しい位だ。余り暑いからなア……貴下の目には風が吹くやうに見えますか』
国依別『アヽどうしても……コリヤ……私はどうかして居るワイ。ほんに矢張風は吹いて居りませぬなア。大方過去か未来の烈風の惨状が時間空間を超越して、私の目に映つたのでせう』
若彦『何処迄も徹底した何々ですな、アハヽヽヽ』
と笑ふ。
 言依別命は厳然として、
言依別『サア、国依別さま、これからが正念場だ。今晩はこの谷間の湖水を眺めて祈願を凝らし、竜神の宝玉を受取らねばならない、大切な用でありますぞ。これ限り真面目になつて善言美詞の一点張り、気を付けなされませ』
国依別『ハイ』
と淑やかに夢から覚めたる如く、両手を突き真面目くさつて、頭を下げて居る。一同は三間ばかり距離を隔てて、谷川の湖辺に伍列する岩影に身を忍ばせ、暗祈黙祷しながら時の移るを待つ事とした。
 夜は追々と更けて来る。西から東から延長した、山と山との谷間は、二十三夜の利鎌のやうな月、漸く雲を押し分けて昇つて来た。一同は月光に向つて祈願を凝らし居る際、礫の雨、まばらにパラパラと石を撒くやうに降つて来た。湖面を見れば幾つともなく、水鉢を並べたやうに水面に凹みを印し、円き波紋は互に重なり重なりて、時計の蓋の生地のやうに見えて来た。しばらくにして大粒の雨は止まつた。湖底に得も言はれぬ蜒々たる火柱の如きもの横たはり輝き初めた。一同は声を潜めて、この光景を見守つて居る。微妙の音楽に引かへ、四辺の谷々山々より何とも云へぬ殺風景な怪音が一時に響いて来た。大地は唸りを立てて震動し、一同の体までがビリビリと響き出した。忽ち四辺は暗澹として咫尺を弁ぜざるに立至つた。
 その時忽然として波の上を歩みながら、此方に向つて進み来る白色の長大なる怪物がある。近づくに従つてよくよく見れば、頭髪飽迄白く背後に垂れ、髯は臍の辺まで垂らし、顔は紅の如く目は鏡の如く、金色燦然たる二本の角四五寸ばかりのもの、額の左右に行儀よく並立し、耳まで引裂けたる鰐口に金色の牙を剥き出し、何とも言へぬ妙な石原薬鑵声で、
怪物『我こそはハーリス山の竜神、大竜別命、大竜姫命の一の眷属、竜若彦神であるぞよ。その方事聖地において、玉照彦、玉照姫命より神命を奉じ、琉、球の宝玉を大竜別命、大竜姫命より受取らんと、遥々此処に来れる事、大神様においても止むを得ずとして、御満足遊ばしてござる。しかしながら言依別命の幕下に仕ふる、国依別命、竜神の柿を盗み喰ひしそのために、我眷属共大に立腹致し、かかる天地の道理を弁へざる家来を持つ言依別に渡す事は、一つ考へねばならぬと大変な大評定でござる。も一度聖地へ帰り、出直して修行を一からやり替へ、改めて二つの宝玉を御迎ひに参つたがよからうぞ』
若彦『それ見よ、国依別さま、お前一人で皆の者が総崩れになつたぢやないか。それだから一匹の馬が狂へば千匹の馬が狂うと云ふのだ』
国依別『八釜敷う云ふな。俺が竜若彦に直接談判をやつて、見ん事受取つて帰る。……コラコラ竜若彦とやら、汝は三五教の宣伝使に向つて、礼儀を知らず不届きな奴だ。種々と化様もあらうに、その方の失敬千万なる顔は一体何だ。人に対する時は最も美はしき顔色を以て、笑顔を十二分に湛え、挨拶するが神の礼儀なるに、鬼面人を驚かすと云ふ、その方のやり方、国依別中々承知仕らぬぞ。これに返答有らば承はらう。……また竜神の柿を採り喰ひしを、汝は非常に罪悪の如く今申したが、彼の柿なるもの、竜神の平素食すべきものなるや返答聞かう。柿は人間の喰うべきもの、人間に次いでは猿、烏の食すべき物だ。人にも喰はさず、棚にも置かず、あたら天与の珍味を毎年木に腐らし、天恵を無視する大逆無道、国依別…サアこれより言霊の神力を以て、汝等は申すに及ばず、大竜別命、大竜姫命を言向け和し、天晴、琉、球の玉を奉らせくれん。この方の言に向つて一言の弁解あるか……一二三四五六七八九十百千万………』
と国依別は自暴自棄になり、背水の陣を張つて力限りに言霊を奏上した。竜若彦命と称する怪物は、次第々々に容積を減じ、遂には豆の如くになつて消えてしまつた。国依別は、
国依別『アハヽヽヽ、コレ若彦さま、御心配御無用になされませ。これより国依別、飽迄も言霊を以て奮戦し、目的の琉、球の宝玉を受取つて見せませう。最早吾々に渡すべき時機が到来したのだ。さうでなくては大神の直司なる、玉照彦様、玉照姫様が何しに教主に御命令あるものか。この竜神執着心未だ晴れやらず、小さき事にかこ付けて、すつた揉んだと一日なりとも永く手に持たんと、吝嗇な奴根性から申して居たのである。………ヤアヤア湖底にある竜神、よつく聞け。三五教の神の司言依別命、国依別命、若彦、常楠の四魂揃うて玉受取りに向うたり。時節には叶ふまい、速かに我前に持来り目出度く授受を終れツ』
と大喝した。この時の国依別の顔面は、四辺を射るが如く崇高なる権威に、何処となく充されて居つた。

(大正一一・七・二五 旧六・二 谷村真友録)



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