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原著名出版年月表題作者その他
物語27-2-51922/07海洋万里寅 玉調べ王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
聖地 錦の宮
あらすじ
 錦の宮では、全員が集まって、高姫の玉調べが始まった。杢助は「後任に東助を推薦して、総務を辞職する」と告げる。高姫は「自分と黒姫が仕組をしておいたのだから玉を調べるのが当然だ」と言う。
 高姫は最初黄色の玉から見る。しかし、玉は石であり、「高姫、黒姫の身魂はこのとおり」と書いた紙が一緒に入っていた。高姫は、玉の御用をしたお民、テールス姫に怒りの矛先を向ける。次に白色の玉を調べるが同じであった。高姫は友彦を侮辱するが、友彦は怒って高山彦にけがをさせてしまい、退場させられた。
 青玉、赤玉も同様であったので、高姫と御用をした者といさかいがいがあった。
 ところが最後に調べた紫の玉だけ本物であった。高姫は喜ぶ。そこへ、佐田彦と波留彦がやって来て、「言依別命が、『7つの玉は自分が隠した』との書置きを残して聖地を立ち去った」と知らせる。
名称
秋彦 五十子姫 梅子姫 お玉 お民 音彦 亀彦 久助 国依別 黒姫 佐田彦 高姫 高山彦 玉照彦 玉照姫 玉能姫 玉治別 常彦 テールス姫 友彦 夏彦 初稚姫 波留彦 英子姫 ムカデ姫 杢助 黄竜姫
厳の御霊 お節! 言依別命 神素盞鳴尊 東助 日の出神(高姫) 瑞の御霊 竜宮の乙姫
赤玉 淡路島 青玉 生田の森 国城山 小雲川 諏訪の湖 高天原 錦の宮 二十世紀 如意宝珠 白色の玉 引つかけ戻しの経綸 ブラツクリスト 麻邇宝珠 魔谷ケ岳 五六七神政 紫の玉 八雲琴 竜宮洲 竜宮の一つ洲 黄色の玉
 
本文    文字数=24027

第五章 玉調べ〔七八七〕

 仰げば高し久方の  高天原の若宮を
 地上に写し奉り  大宮柱太知りて
 高天原に千木高く  仕へ奉りし珍館
 錦の宮に連なりし  稜威も広き八尋殿
 英子の姫を始めとし  梅子の姫や五十子姫
 初稚姫や玉能姫  音彦亀彦始めとし
 杢助総務その外の  役員信者は粛々と
 八尋の殿に寄り来り  早くも殿の内外に
 溢るるばかりなりにけり。  

 かたの如く祭りも無事に終了した。上段の間には杢助の総務を始めとし、英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、玉能姫、お玉の方、最高座には玉照彦、玉照姫扣へられ、亀彦、音彦、国依別の幹部連、秋彦、夏彦、常彦を始め、英子姫と相並んで黄竜姫、蜈蚣姫、テールス姫末端に扣へ、友彦は幹部の上席に顔を並べて居た。群集を分けて意気揚々と登り来る高姫、黒姫、高山彦の三人は、今日玉調べの神務奉仕の役として、盛装を凝らし、英子姫よりも一段と上座に着いた。
杢助『私は素より鈍魂劣器至愚至痴なる身魂の持主でございまして、総務なぞをお勤め申す柄ではありませぬが、神命黙し難く心ならずも拝命致し、皆様のお助けによつて御用の一端を勤めさして頂いて居りますは、これも全く皆様の御同情のお蔭と厚く感謝致します。就ては私も少しく思ふ所あつて、神界のために、もう一働き致したうございまするので、後任者を推薦致して置きました。教主様は今日は急病でお引籠もりでございますから、御意見を伺ふ事は出来ませぬが、私の後任者として淡路島の東助様を、御苦労に預りたいと思うて、内々伺ひは出してございます。就きましては、今日は実にお目出度い日柄でございまして、竜宮島より、お聞及びの通り、五色の麻邇宝珠納まり、言依別命様がともかく御主管なされて居られましたが、今日、高姫、黒姫のお取調を願ひ、信者一同に拝観をさせよと、教主のお言葉でございますから、そのお心算で、ゆつくりと御拝観を願ひます。再び拝観する事は出来ぬのでございますから、この際充分御神徳を戴かれるやうに、一寸一言申上げて置きます』
 一同は雨霰のごとく拍手する。杢助は初稚姫、玉能姫、五十子姫、梅子姫を伴ひ、社殿の奥深く進み、黄金の鍵をもつて傍の宝座を開き、各一個の柳筥を、頭上高く差し上げながら、静々と八尋殿の高座に現はれ、五個の柳筥は、段上に行儀好く据ゑられた。
 高姫は段上にスツクと立ち、一同を見廻しながら、
高姫『皆さま、今日は誠に結構なお日柄でございます。今迄は瑞の御霊の三種の神宝此処に納まり、今日また厳の御霊の五色の神宝無事に納まり、皆様が拝観の光栄に浴さるる空前絶後の第一吉祥日でございます。神様は引掛け戻しのお経綸をなさいますから、肝腎の厳の御霊の経を後に出し、瑞の緯を先に出したり、変幻出没究極す可らざる事を遊ばすのは、皆様御承知の事でございませう。今日まで三つの御玉を私共南洋あたりまで、捜索に行つたと申すのは、決して左様な緯役の玉を求めに行つたのではありませぬ。玉には随分モンスターの憑依するものでありますから、この高姫等は三つのお宝を探すやうに見せて、その方に総ての精神を転じさせ、その時に日の出神、竜宮の乙姫の礎になるお方様が、一つ島に人のよう往かないやうな秘密郷の諏訪の湖に深く秘し、さうして仕組を遊ばしてござる事は、最初から我々両人の熟知する所、否仕組んで居る所でございます。今日初稚姫、玉能姫、黄竜姫、梅子姫、蜈蚣姫その他五人の神司に、この御用をさせたのも日の出神の仁慈無限のお取計らひと、竜宮の乙姫様の御慈悲ですよ。それが分らぬやうでは、三五教の五六七神政の仕組は到底、分るものではありませぬ。幸ひに賢明なる英子姫、稍改心の出来た言依別命の神務奉仕の至誠が現はれて、竜宮の麻邇の宝珠が聖地へ納まる事が出来るやうになり、それを受取りかつ調べるお役は特にこの高姫、黒姫両人が致すべきものでございます。よつて只今より御玉の改めを致しますから、皆さま、謹んで拝観なさるがよろしい。三つの御玉はどうならうとも私は知りませぬ。今度の五つの御玉こそ肝腎要な大望な御神業大事のお宝、就ては玉治別やその他の半研けの身魂が取扱つたのですから、少しは穢れて居ないかと心配を致して居るのでございます。身魂相応に玉の光が現はれるのですから、実に恐いものでございますよ。サアサこれから、お民が預つてテールス姫に手渡した、黄色の玉を函から出して調べる事と致しませう。……黒姫さま、御苦労ながら一寸これへお越し下さい。さうしてお民さま、テールス姫さま、貴女は直接の関係者、此処にお扣へなされ』
 『ハイ』と答へて両人は高姫の傍に立寄る。高姫は口をへの字に結び、柳筥の桂馬結びの紐を解き、恭しく玉函を捧げ、八雲琴の調子に合して体躯を揺り、手拍子を取りながら、機械人形のやうに柳筥の蓋を、シヤツチンシヤツチンと取つて見た。黄色の玉が出るかと思ひきや、中より団子石がゴロリと出た。よくよく見れば何か文字が記してある。高姫は眉を顰め光線にすかし見てるに、「高姫、黒姫の身魂はこの通り、改心致さねば元の黄金色の玉にはならないぞ」と記されてあつた。高姫は顔色烈火の如く、声を震はせ、
高姫『コレお民さま、テールス姫さま、お前さま達は偉さうな面をして、海洋万里の一つ島まで何しに往つて居つたのだ。アタ阿呆らしい。コンナ玉なら小雲川には邪魔になるほどあるぢやありませぬか』
お民『ハイ、どんな玉でございます』
高姫『どんな玉もこんな玉もありますかい。お前の身魂の感化によつて、折角の玉もこんな事になつてしまつた。……コレ、ジヤンナの土人の阿婆摺女テールス姫とやら、何の態だ、これは……阿呆らしい、早く改心なされ』
テールス姫『ハイハイ改心を致します。どうしてマアこんな玉になつちやつたのだらう、いやな事』
黒姫『それだから瑞の御霊は憑り易いと言ふのだ』
玉治別『瑞の御霊は憑り易いとおつしやつたが、これは五の御玉ぢやありませぬか』
黒姫『何れも憑り易い身魂だ』
玉治別『そんなら貴女の身魂が憑つたのでせう。どれどれ、私が調べて見ませう』
高姫『お構ひなさんな。お前さまのやうな瓢六玉が見ようものなら、ただの玉になつて終ひます』
 群集はワイワイと騒ぎ出した。
 国依別は段上に立つて、
国依別『皆さま、お騒ぎなさるな。今日の玉調べは高姫さま、黒姫さまの身魂調べも同様ですから、決してテールス姫やお民さまの身魂が黒いのではありませぬ。最前も高姫さまがおつしやつた通り、何と云うても御両人が、自分でお仕組なさつたのですから心配は要りませぬ。皆見る人の心々に写りますから……如意宝珠、また見る人の随意々々替はるから麻邇の宝珠といふのです。これが本物に違ひありませぬ。どうぞお騒ぎなさらないやうに願ひます。一度高姫さまのメンタルテストをやる必要がありますからなア』
高姫『コレ国さま、お前さま、ゴテゴテ言ふ資格がありますか』
国依別『ありますとも、そんなら何故私に生田の森で、玉の所在を知らせ知らせと云つたのですか』
高姫『お前さまの言ふ事は、チツトより信用が出来ぬ。ブラツクリストに登録されて居る注意人物だ。お黙りなさい』
国依別『高姫署のブラツクリストに記されて居る私でも、チツト位信用が出来るのですか。私はまた大いに信用が出来ぬとおつしやると思つたに……それはさうとして次の白色の玉を早く調べて見せて下さい』
高姫『八釜しう云ひなさるな。お前さまがツベコベ嘴を容れると、また玉が変化するかも知れませぬぞ。エヽ穢はしい。其方に往つて下さい。……サア今度は久助さま、友彦さま、お前さま達の責任だ。早く此処へお入来なさい』
 両人は「ハイ」と云ひながら高姫の左右に寄り添うた。高姫はまたもや以前の如く、恭しく柳筥を開いて見た。中には前同様の団子石に同様な事が書いてある。高姫はへの字に結んだ口をポカンと開けてしばし見詰めて居た。群集はまたもやワイワイ騒ぎ出した。国依別はまたもや段上に押し上り、
国依別『皆さま、お騒ぎなさいますな。コリヤこれも屹度以前の通り団子石ですよ。丸で狐につままれたやうですが、これも心の随意々々変化する玉ですから、驚くに及びませぬ。小人玉を抱いて罪ありと云うて、どんな立派な玉でも小人物が扱うと、その罪が直に憑つて団子石になるのですから、団子石だと言うて力を落してはなりませぬぞ。これでも身魂の磨けたお方が見れば本真物になります』
黒姫『コレコレ国さま、いらぬ事をおつしやるお前こそ小人だ。お前のやうな小人が居るものだから、この通り玉が変化する。私が竜宮で久助に渡した時は、こんなものぢや無かつた。久助と友彦の慢心の身魂が憑つてこんなに変化したのですよ。大勢の前に、此様身魂ですと曝されて、誠に誠にお気の毒様ですけれどもお諦めなされ』
 友彦は大いに怒り目をつり上げながら、黒姫の頸筋をグツと握り締め、
友彦『コラ黒姫、失敬な事を言ふか、大勢の前で人の身魂の悪口を云うと言う事があるものか』
 爪の延びた手で頸筋をグツと喰ひ入るほど掴み押へつける。黒姫は「キーキー」と言ひながらその場に蹲踞む。側に居た高山彦は友彦の襟髪をグツと取り、段上から突き落さうとした途端に、友彦は体をパツとかはした。高山彦は二つ三つ空中廻転をして、群集の中に唸りを立てて落ちて来た。「サア大変」と大勢は寄つてかかつて介抱をしながら、痛さに唸く高山彦を担いで、黒姫館にドヤドヤと送つて行く。
国依別『黒姫さま、誠にお気の毒な事でございました。貴女も嘸お腹が立ちませう。また高山彦も思はぬ御災難で誠に御心配でせう。しかしながら此処は神様の前、滅多な事はございませぬから御安心なさいませ』
黒姫『何から何まで、何時もお構い下さいまして、……ヘン……お有難うございますワイなア』
と肩と首をカタカタと揺つて居る、その容態の憎らしさ。
杢助『友彦殿、今日は職権を以て退場を命じます』
友彦『仕方がありませぬ。御命令に従ひ自宅へ控へ命を待ちまする。立腹の余り、ツイツイ粗怱を致しました』
と帰り行く。後見送りて黒姫は肩の中に首を耳の辺りまで石亀の如に突込んでしまひ、頤を出したり引込めたり、舌を唇でチヨツと噛んで、何とは無しに嘲弄気分を表はして居た。
高姫『杢助さま、どうも怪しからぬぢやありませぬか。折角の如意宝珠の玉をこんな事にしてしまうとは、一体全体訳が分らぬぢやありませぬかい。この責任は誰にありますか。……久助さま、お民さま、テールス姫さま、こんな不調法をして置いて、よう安閑として居れますな。この高姫が三人に対し退場を命じます。よもや杢助さま、これに向つて違背は有りますまいな』
杢助『何事も責任は私に有りますから、三人のお方はどうぞ此処に動かずに居て下さい』
 三人一度に「ハイ」と俯向く。
高姫『エヽそんなら時の天下に従へだ、もう何も言ひますまい。これから青玉だ。……サア玉治別、黄竜姫様、此処にお出でなさい。さうして久助さま、元の座にお帰りめされツ』
と稍甲声を張り上げながら、またもや例の如く調査し、恭しく玉筥の蓋を取つて見た。高姫の顔はまたもや口が尖り出した。舌を中凹に巻いて二三分ばかり唇の外に出し、首を右の方に傾げて目を白黒させ、両手を開いて乳の辺りで行儀好く、扇を拡げたやうにパツとさせ、腰を二つ三つ振つて居る。玉治別はこれを眺めて、
玉治別『これ高姫、黒姫、矢張お前さまお二人は改心が足らぬ。海洋万里の竜宮の一つ島の、秘密郷の諏訪の湖水から聖地高天原まで、万里の天空を八咫烏に乗せられ捧持して帰つた結構な玉を、黒鷹の身魂が憑つてこんなに変化さしよつたのだ。玉治別承知致しませぬぞツ』
と今度は反対に高姫に喰つてかかる。
高姫『へー甘い事をおつしやいますワイ。肝腎要の水晶玉の高姫が覗いて、玉が変化する道理が何処に有りますか。お前さまがあんまり慢心して御用した御用したと、法螺を吹くものだからこんな事になつたのだ。……コレ小糸どん、この醜態は何だいな。これで立派に御用が勤まつたのですかい。本当に呆れてものが言へませぬワイ。これ小糸どん、どうして下さる。結構な玉に悪身魂を憑して、お前さまは神界のお邪魔を致す曲者だよ。童女の癖に大の男をアフンとさせるやうな悪党者だから、玉の御用が出来さうな道理がない。妾は初めから、お前が玉の御用をしたと聞いた時、フフーと惟神的に鼻から息が出ました。日の出神が腹の中から笑うてござつたのだ』
 黄竜姫は屹となり、『高姫さま』と声に力を入れ、
黄竜姫『ソレは余りの御言葉ではありませぬか。貴女の御身魂さへ本当にお研けになれば、本当の玉がお手に入るのですよ。屹度、神様がお隠しになつたのだが、御自分の心から御立替遊ばせ。さうすれば、本当の麻邇の宝珠がお手にお入り遊ばすのでせう』
高姫『何と云つても立派な御弁舌、高姫も二の句が次げませぬ。オホヽヽヽ』
と肩を揺りまたも腮をしやくる。
玉治別『モシモシ黄竜姫さま、斯様な没分暁漢のお婆アさま連に相手になつて居つても詰りませぬから、もう止めて置きませう』
 黄竜姫はニタリと笑ひながら、
黄竜姫『ハイ、さう致しませう』
と元の座に帰る。
高姫『アノマアお仲の好い事ワイの。ホヽヽヽヽ、若い男と女には監視を付けて置かにや険難だワイ』
 杢助は苦虫を噛み潰したやうな顔をして、厳然として無言のまま扣へて居る。
高姫『コレ杢助さま、お前も偉さうに総務面をしてござつたが、今日は目算ガラリと外れただらう。アノマア恐い顔ワイなア』
杢助『アハヽヽヽ、何だか知らぬが面白い事でござるワイ。アハヽヽヽ』
高姫『コレ黒姫さま、確りなさらぬかいな。一向元気が無いぢやないか。お前の竜宮の乙姫が玉の持主ぢやないか。此奴等に三つまで此様な事にしられて、それを平気でようまア、居られますな』
黒姫『ハイ何分心配がございますので』
高姫『ウン、さうだとも さうだとも、高山彦さまがエライお怪我をなさつたから、御心配になるのも御無理と申しませぬが、もうしばらくだ、辛抱して下さい。さうしたら無事解放して上げます。……コレコレお節、お前の持つて帰つた赤玉をこれから調べるのだから、蜈蚣姫さまも此処へ御出でなさい。お前さまも随分魔谷ケ岳で私に対して弓を引いたり、国城山で悪口を言ひました。先へ申して置きますよ。もしこの赤玉が団子石になつて居つたら、どうなさいますか』
蜈蚣姫『何事も惟神に委した私、どうすると云ふ訳に行きませぬ。神様の御処置を願うまでです。乍併高姫さまの指図は断じて受けませぬ。左様御心得を願ひます』
と一つ釘を刺す。高姫はまたも口をへの字に結び桂馬結びの紐を解き、
高姫『サアお節、地獄の釜の一足飛だ。お前が長らくの苦労も花が咲くか、水の泡になつてしまうか、禍福吉凶幸禍の瀬戸の海ぢやぞい。瀬戸の海で思ひ出したが、ようも馬鹿にして下さつた。助けてやつたなぞと決して思つては居ますまいな。エー何をメソメソと吠えて居るのだ。善い後は悪い、悪い後は善いと云う事があるから、何月も月夜ばかりは有りませぬぞ。チツとばかし都合が悪いと言つて顔を顰めるやうでは、どうして立派に玉能姫と言はれますか』
と口汚く罵りながら、柳筥の蓋をパツと開けた。
高姫『黒姫さま、一寸御覧、何だかこの玉は黒いぢやありませぬか』
 黒姫は一寸覗き込む。
黒姫『ホンニホンニ、蜈蚣姫さまのやうに黒い玉だなア。コリヤ大方蜈蚣の身魂が憑つて、赤い筈の玉が黒くなつたのだらう』
玉能姫『黒姫さまも随分お白くありませぬから、どちらのがお憑り遊ばしたか分りますまい。オホヽヽヽ』
高姫『またしてもまたしても碌でもない、コリヤ消炭玉だ。道理で、ちと軽いと思つて居つた。アカ阿呆らしい。モウ玉調べは御免蒙りませうかい』
とプリンプリン怒つて居る。
杢助『御苦労ですがモウ一つ紫の玉をお調べを願ひます』
高姫『エー杢助さま、またかいなア』
と煩さ相に言ひながら、万一の望みを最後の紫の玉に嘱して居た。国依別は一同に向ひ、
国依別『モシモシ皆さま、モウ一つになりました。何を言つても手品上手の高姫さまでございますから、水を火にしたり火を水にしたり、石を玉にして呑んだり吐いたり、終ひには天を地にしたりなさいます。天一の手品よりはお上手ですから、そのお心算で確りとお目にとめられますやうに願ひまアす。東西々々』
 高姫はクワツと怒り、
高姫『神聖なる八尋殿において何と言ふ事を言ふのか。此処は寄席では有りませぬぞい。尊き尊き神様のお鎮まり遊ばす錦の宮の八尋殿では有りませぬか』
国依別『八尋殿だからといつて、手品が悪い道理が有りますか。現にお前さま手品をして居る途中です。そんな事を言うと自縄自縛に落ちますぞ。二十世紀頃の三五教の五六七殿でさへも劇場を拵へてやつて居るぢやありませぬか。訳の分らぬ事を言ふものぢや有りませぬ』
高姫『それだから瑞の御霊のやり方は、乱れたやり方だと神様がおつしやるのだよ。アアモウこの玉は調べるのが嫌になつた。また初稚姫や梅子姫さまに恥をかかすのが気の毒だから、こりやもう開けない事にして置かう』
杢助『この玉は是非調べて頂きたい。神様は我子、他人の子の隔ては無いとおつしやるのだから、神素盞嗚尊の御娘御の梅子姫様と、杢助の娘の初稚姫、依估贔屓したと言はれてはなりませぬから、どうぞこの場でお調べを願ひませう』
高姫『エーエー仕方がないなア。本当にイヤになつちまつた。そんなら、マアマも一苦労致しませう。……梅子姫さま、お初さま、サア早く此処へ来るのだよ』
と稍自棄気味になり言葉せはしく呼び立てる。言下に梅子姫、初稚姫は莞爾として高姫の側に寄り添うた。高姫はまたもや柳筥の蓋をチヤツと開いた。忽ち四方に輝くダイヤモンドの如き紫の光り、流石の高姫もアツと驚いて二足三足後に寄つた。黒姫は飛び上つて喜び、思はず手をうつた。一同の拍手する声、雨霰の如く場の外遠く響いた。
高姫『お初、イヤ初稚姫さま、梅子姫さま、お手柄お手柄。矢張りお前等は身魂が綺麗だと見えますワイ。……杢助さま、お前さま中々好い子を持つたものぢや。ヤレヤレこれで一つ安心、後の四つは四足魂に汚されてしまうた。瑞の御魂のやうに憑る麻邇の珠だから、田吾作、久助、お民、友彦、黄竜姫、蜈蚣姫、テールス姫、お節もこれから、百日百夜小雲川で水行をなさい。さうすれば元の玉に還元するだらう。嫌といつてもこの高姫が行をさせて元の光りを出さねば措くものかい』
 七人はアフンとして頭を掻いて居る。其処へ走つて来たのは佐田彦、波留彦両人であつた。
佐田彦『杢助さまに申上げます。今朝より言依別命様は御病気とおつしやつて、御引籠りになつておいでなさいましたが、余りお静かですから、ソツと障子を開けて中へ這入つて見れば、萩の机の上に斯様な書き置きがしてございました』
と手に渡す。杢助開いてこれを見れば、
『この度青、赤、黄、白の四個の宝玉を始め三個の玉、三つ四つ併せて都合七個、言依別命都合あつて、ある地点に隠し置いたり、必ず必ず玉能姫、玉治別、黄竜姫その他この玉に関係者の与り知る所に非ず。しかしながら杢助は願ひの如く総務の職を免じて、淡路の東助を以て総務となす。言依別は何時聖地に帰るか、その時期は未定なり。必ず我後を追ひ来る勿れ』
と書いてあつた。杢助は黙然として涙をハラハラと流し、千万無量の感に打たるるものの如くであつた。

(大正一一・七・二三 旧閏五・二九 谷村真友録)



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