出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語25-4-151922/07海洋万里子 改心の実王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
諏訪の湖
あらすじ
 友彦、ムカデ姫、テールス姫、黄竜姫、梅子姫の五人は友彦のジヤンナの郷に到着した。郷人たちは、黄竜姫と梅子姫を天女と思い歓待した。一行は郷人たちにバプテスマを施し、玉野ケ原に向って出発した。彼らは無事に目的地に到着して、諏訪の湖水で七日七夜禊を修した。
 諏訪の湖水の上を、数多のアンボリーが飛び回っていたが、それらが飛び去るのと入れ替わりに、八咫烏に乗って玉治別、初稚姫、玉能姫、久助、お民がやってきた。
 黄竜姫は梅子姫に、「自分は地恩城の女王と言われ得意になっていたが、もったいなくも神素盞嗚大神の直々のお血筋の上位に立っているのは、ちょうど頭が下になり、足が上になっているような矛盾撞着のやりかたでありました。梅子姫様と自分では天地霄壌(しやうじやう)の懸隔があります。尊卑の別も弁えず、不都合の至りです」と詫びる。
 梅子姫は、「黄竜姫は神徳をいただいた。自分は神素盞嗚大神の生みの子と生まれ、木の花姫の生宮として、黄竜姫の神業を輔佐していたが、実のところは黄竜姫のこの言葉を待っていた」と応える。
 友彦、ムカデ姫も改心した。
 梅子姫は「いかなる罪穢れも、自分が代って千座の置戸を負う」と言う。
 テールス姫も「神界へ自分を許してもらうようにお願いして欲しい」と頼むが、梅子姫は「テールス姫はこの中で一番罪が軽い清らかな身魂である。引き続き、神業に励め」と告げる。
名称
アンボリー 梅子姫 お民 大蛇 久助 郷人 玉能姫 玉治別 テールス姫 友彦 初稚姫 猛獣 ムカデ姫 八咫烏 黄竜姫
信天翁 生神 生宮 宇豆姫 清公 救世主 貫州 木の花姫 神素盞鳴大神 スマートボール 皇神 タイヤ 武公 玉依姫 チヤンキー 鶴公 ブース マール ミユーズ モンキー
天津祝詞 天の河原 エスタン山 オセアニア 神界 浄土 ジヤンナの郷 諏訪の湖 聖地 玉野ケ原 地恩城 千座の置戸 鎮魂 天国 鳥船 ネルソン山 バナナ バプテスマ 禊 竜宮城
 
本文    文字数=15871

第一五章 改心の実〔七六一〕

 黄竜姫、梅子姫、友彦、テールス姫、蜈蚣姫の五人は共に、地恩城を後に数百里、山路を越えて玉野原の諏訪の湖の竜宮城に進むこととなつた。後には左守、スマートボール夫婦を初め右守鶴公、貫州、武公、マール、ミユーズの幹部連をして留守師団長とし、草の蓑、竹の小笠の軽き扮装、タロの木の枝をつきながら、岩石起伏せる羊腸の小径を上りつ下りつ、谷を飛び越え谷間を伝ひ漸くにして、ジヤンナの友彦が割拠せし郷に着いた。
 鬼のやうな荒男、赤銅のやうな顔に青い黥を、顔一面に彩りし者を先頭に、老若男女が六ケ敷い顔して黄竜姫の一行を『ウワーウワー』と鬨の声を挙げながら歓迎した。昼尚暗き森林に包まれたるこの郷は、一見鬼のやうな人種ばかりであるが、至つて質朴でかつ正直で信仰心に富んで居た。曲つた鼻の赤い友彦を、天来の救世主と仰いで、尊敬したほどの郷人は、天女の如き黄竜姫、梅子姫の玉を欺く清き姿を眺めて、天の河原よりネルソン山に鳥船に乗じ天降り給ひしを、ジヤンナの郷の救世主友彦夫婦が奉迎して帰りしものと固く信じ、一斉に砂糖屋の十能見たやうな、大きな黒い手を拡げ、
土人『ウツポツポ ウツポツポ、オーレンス、サーチライス、ターレンス、チーター チーター』
と叫びながら歓迎の意を表した。この意味は、『神様か、天の御使か、但は吾等を救ふ光明の神か、実に立派な大救世主が、この郷に御降り遊ばした。吾々は最早絶対に悩みに遇ふこともなく、永遠無窮に天国浄土の楽みを味はうことが出来るであらう。木の実は豊に実り、鼓腹撃攘の恵みに浴することは火を睹るよりも明瞭だ。有難い、勿体ない、貴い、嬉しい。吾々郷人は力の限り心の極みを、この生神様に捧げませう』と言ふ事である。……ジヤンナの郷の救世主と仰がれたる友彦は、郷人に向ひ、
『ターリスト、テールターイン、ハールエース、オーレンス、サーチライス、カーテル、ライド』
と叫ぶ。この声に一同は大地に平伏し嬉し涙を流して歓喜した。友彦はまたもや、
『ハール ハール』
と手を挙げて叫ぶや、大勢の土人は一行を手車に乗せ、三五の神を祭りし稍広き館の中に、御輿を舁ぐやうな塩梅式で何事か分らぬ事を喋りながら奥深く送り行く。
 黄竜姫一行は友彦の館の奥深く招かれ、色々珍らしき果物を饗応され、かつバナヽの味に舌鼓打ちながら、一二日此処に逗留し、郷人に対して黄竜姫、梅子姫よりバプテスマを施し、宣伝歌を教へた上、数十人の郷人に送られ、一行五人は漸くにして玉野ケ原の広場に無事安着することとなつた。
 途々木の実を喰ひ、谷水を飲み、芭蕉の葉を褥となしながら、猛獣、大蛇の群に言霊を授け帰順悦服させつつ愈此処に金銀の砂輝く広野ケ原に辿りつく。一行は諏訪の湖の畔に建てたる小さき祠の前に端坐し、天津祝詞を奏上し、傍の椰子の樹の森に一夜を明かすこととなりぬ。
 エスタン山の後方を覗いて現はれたる大太陽は、諏訪の湖水の魚鱗の波に映じ、金銀の蓆を敷き詰めたる如く、その麗しさ譬ふるにものなく、一行五人は湖水に身体を清め、七日七夜此処に禊を修し神恩を感謝せり。
 早や夕陽も傾いて得も言はれぬ麗しき鳥の声、塒を求めて各密林に帰り行く。純白の翼の大鳥は暗を縫うて低く黄昏時より現はれ来り、湖面を縦横無尽に翺翔する。その数幾千万羽とも数へ難く、月無き夜半も明るきばかりの光景なり。これは信天翁の祖先でアンボリーと言ふ大鳥なりける。
 一行五人は椰子の樹下に身を潜め、天津祝詞を奏上し夜の明くるを待つ。夜明けに間近くなりたる時しも、頭上にバタバタと鳥の羽ばたき激しく聞え来たる。見れば両翼の長さ三丈ばかりのアンボリー、椰子の樹上にとまつて、一同の頭を被ふて居る、それが夜明けに間近くなつたので一時に立ち上つた音である。一同は鳥の飛び行く方面を目も放たず打看守れば、ほんのりと薄紅くうす白く大空を染めながら、際限もなき大原野を西北の空を指して、一羽も残らず飛去れり。
   ○

 ジヤンナの郷に三五の  神を祀りし友彦が
 館に一行夜を明かし  一日二夜を逗留し
 タイヤ、ブースを初めとし  数多の土人に皇神の
 誠の道を説き諭し  鎮魂やバプテスマ
 一人も残らず施して  昼なほ暗き森林の
 小径を伝ひ郷人に  賑々しくも送られて
 漸くセムの谷間に  辿り来れる折柄に
 黄竜姫は皇神の  珍の命の霊借りて
 送り来りし郷人に  厚く言葉をかけながら
 東と西に別れつつ  露の枕も数多く
 重ねて此処に玉野原  金銀輝く途の上
 勇み進んで諏訪の湖の  辺にやうやう安着し
 祠の前に端坐して  一行五人が安穏に
 訪ね来りし神恩を  感謝し終り清鮮の
 湖水に身をば浸しつつ  七日七夜の魂洗ひ
 椰子樹の蔭に身を潜め  夜明けを待てる折柄に
 樹上に聞ゆる羽ばたきの  音に驚き眺むれば
 雪を欺く白翼の  パツと開いた大鳥の
 空を封じて数多く  西北指して飛んで行く
 一行五人は空中を  仰ぎ見つむる折もあれ
 黄金の翼に乗せられて  此方に向つて飛び来る
 四五の神人悠々と  湖水を目蒐けて降り来る
 その光景の崇高さに  五人は思はず手を合せ
 祝詞を唱へつ眺め居る  黄金の鳥に乗せられし
 男女五人の神人は  波の上をばスレスレに
 北に向つて進み行く  これぞ玉治別宣使
 初稚姫や玉能姫  久助お民の五人連
 神の御言を畏みて  貴の教を隈もなく
 伝へ導く神の業  〓怜に委曲に宣り了せ
 玉依姫の御使の  黄金色の霊鳥に
 救はれ御空を翔りつつ  帰り来れる生神の
 通力得たる姿なり  嗚呼惟神々々
 神の教の尊さよ。  

 翼を一文字に拡げた金色の霊鳥は、神の使の八咫烏である。玉治別一行を乗せた五羽の八咫烏は、日光に照り輝きて中空にキラリキラリと光を投げながら、地上までも金光を反射させ、諏訪の湖辺に飛び来り、紺碧の波の上を辷つて際限もなき湖水を、北へ北へと進み行く。
 梅子姫、黄竜姫は飛び立つばかりこの姿を見て驚きかつ喜べり。一行の胸の裡は譬へがたなき崇高にして且壮快の思ひが漂うたからである。
友彦『黄竜姫様、梅子姫様、地恩城において園遊会の時、天空高く現はれた蜃気楼の光景、紺碧の湖水現はれ、四方を包む青山の崇高なる姿は、今この湖面を見ると寸分の差も無いやうですな、大方清公、チヤンキー、モンキー等の、女神に導かれ結構な御用を仰せつけられて居た所も、この聖地でございませうかなア』
黄竜姫『妾もそれに間違ひないやうな感じが致します。昔から人跡絶えしオセアニアの秘密郷、斯様な立派な湖があらうとは、夢にも知りませなんだ。何とかして神様の御力を借り、この湖水を渡つて見たいものですなア』
梅子姫『蜃気楼で拝見した時には純白な白帆が沢山に航行して居ましたが、船は一隻も見えないぢやありませぬか。大方アンボリーの飛交ふ影が船のやうに見えたのでせうかな』
友彦『サアさうかも知れませぬ。……黄竜姫様、船が無ければ渡る訳には行きませぬ。玉治別や初稚姫様のやうに、黄金の鳥が迎ひに来て下さらば実に結構だが、船も無ければ鳥船もなく未だ吾々は御神慮に叶ふ所まで身魂が磨けて居ないのでせう』
黄竜姫『神様は一点の曇りなき水晶魂でなければ、肝腎の神業にはお使ひ下さいませぬ。折角この浜辺まで参つたものの、かくの如く三方は壁を立てたやうな岩山、何程足の達者な者でも鳥類でない以上は越す事は出来ますまい。しかしながら此処まで無事に着いたのも全く神様のお恵み、此処でもう一層徹底的の心の修業を励みませう。地恩城の女王だとか、ジヤンナの郷の救世主などと言はれて得意になつて居るのが、これが第一神様の御心に叶はないのでせう。同じ天地の恵に生れた人の子、善悪美醜の区別はあつても神様の愛にはちつとも依怙贔屓はありますまい。こりやもう一つ身魂を立て直さなくては駄目でせうよ。勿体なくも神素盞嗚大神様の御娘御、梅子姫様を蔭の御守護とし、賤しき妾の身を以て地恩城の女王と呼ばれ、神司と言はれて、勿体なくも直々の御血筋の上位に立つて居たのは、恰度頭が下になり、足が上になつて居るやうな、矛盾撞着のやり方であつた。……アヽ梅子姫様今までの御無礼を何卒お赦し下さいませ。決して貴女を押込め私が上に立つて覇張らうなどと云ふやうな、賤しい心はチツトも持つて居ませなんだ。しかしながら名誉心に駆られ、本末自他公私の別を、不知不識の間に犯して居りました。貴女と吾々は天地霄壌の懸隔がございます。尊卑の別も弁へず甚だもつて不都合の至り、今改めてお詫を仕ります。さうして地恩城の女王たる地位を神様にお返し申し、生れ赤子の平の信者となつて御神業に奉仕し、貴女様を女王とも教主とも仰いで、忠実にお仕へ致しますから、不知不識の御無礼御気障、何卒神直日大直日に見直し聞直し下さいますように、黄竜姫が真心よりお詫仕ります』
と涙を滝の如く両眼より滴らし、悔悟の念に堪へざるものの如く涕泣嗚咽終にその場に泣き伏した。梅子姫は儼然として、
『黄竜姫どの、貴方は結構な御神徳を頂きました。妾は神素盞嗚大神の生みの子と生れ、木の花姫の生宮として今日迄、貴方のお傍に身を下し、神業を輔佐して参りました。貴方の御言葉を今日只今まで、実の所は待つて居たのでございます』
と微笑を浮かべて曰りつれば、友彦はまたもや両眼に涙を浮かべながら、
『私は生れついての狡猾者、到る所に悪事を働き、まぐれ当りに鼻の赤きを取得にてジヤンナの郷に持て囃され、救世主と呼ばれながら好い気になり、心にも無き尊敬を受け、天来の救世主と化け済まして居た心の汚さ、イヤもう塵埃に等しき吾等の身魂、どうして肝腎要の御用にお使ひ下さいませう。……何卒々々梅子姫様、貴女様より大神様に重々の罪お赦し下さいますやうお取成し願ひ上げ奉ります。また私は決して今後は、人様以上に結構な御用をさして頂かうとは夢にも思ひは致しませぬ。如何なる事にても構ひませぬから、どうぞ神様のお綱の切れぬやうに、大神様にお詫のお取次偏に希ひ上げ奉ります』
梅子姫『貴方の心の園の蓮花、転迷開悟の音を立て開き初めました。アヽいい所で改心して下さいました。これで梅子姫も父大神より命ぜられたる御用の一端が出来たと申すもの、私の方より貴方に対して感謝致します』
と嬉し涙を両眼に浮かべ、述べたつれば友彦は嬉しさ身に余り、大地にひれ伏し顔も得上げず、歓喜と悔悟の涙に咽び返つて居る。
 蜈蚣姫は梅子姫の前に手をつかへて、
『梅子姫様、今迄の御無礼何卒々々お許し下さいませ。私は貴女様の御存じの通り悪逆無道の限りを尽した、鬼婆のやうな悪人でございました。地恩城に参りまして娘の出世を見るにつけ、不知不識に高慢心が起り、かつ愛着の念に駆られ、肝腎の大神を第二に致し、かつ貴女様に対し、平素軽侮の目を以て向つて居りました心盲でございます。地恩城において友彦がため園遊会を開いた折、貴女様は紫の蓮華岩の上に立たせ給ひ、私の素性を歌つて下さつた時の私は、心の中にて非常な不満を抱きました。今思へばあの時のお言葉の中には、大神様の大慈大悲の救ひの御心……なぜその時に私は気が附かなかつたでございませう。森羅万象に対し一切色盲の私、不調法ばかり致しまして神様に対し、また貴き貴女様に対してお詫申上げる言葉もございませぬ。どうぞ母子の者も憫み下さいまして、今迄大神様に敵対申した深い罪を、お詫下さいますようにお願ひ申します』
とワツとばかりに声をあげ泣き伏するにぞ、梅子姫は莞爾として、
『アヽ蜈蚣姫様、貴女は今日只今初めて誠の神柱になられました、結構でございます。どうぞこの後とても妾と共に三五の大神様の御用に誠心誠意御尽力あらむことを希望致します。如何なる罪穢れ過も梅子姫が代りて千座の置き戸を負ひますれば御安心下さいませ』
 蜈蚣姫は『有難うございます』と言うたきり、大地にかぶりつき有難涙に咽び入る。テールス姫はまたもや梅子姫の前に両手をつき、
『何分罪多き私、不知不識の御無礼お気障が何程ございませうとも、どうぞお赦し下さるやう、神界へお願ひ下さいませ』
と合掌して頼み入る。
『貴女はこの中でも最も罪軽き、身魂の清らかな神の子です。今日神界に対し差したる不調法もございませぬ。今後も今迄通り過ち無きやう、神の御用に御奉仕あらむことを希望致します』
と答ふれば、テールス姫も梅子姫が慈愛の言葉に、有難涙をしぼるのみであつた。
 梅子姫は湖面に向ひ合掌しながら何事か暗祈黙祷する事しばし、忽ち何処ともなく微妙の音楽聞え、西北の空を封じて、此方に向つて一瀉千里の勢にて飛び来る以前のアンボリー、幾百ともなく、翼を並べ、湖上目蒐けて飛び帰るその麗しさ、絵にも写せぬ眺めなり。

(大正一一・七・一一 旧閏五・一七 谷村真友録)



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