出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語25-1-21922/07海洋万里子 与太理縮王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
竜宮洲の地恩城
あらすじ
 ムカデ姫は一同の者に出陣の用意を申し付けた。黄竜姫はそれを聞いて、「三五教は無抵抗主義だ。教主の自分を無視して出陣を命じた」と怒り、ムカデ姫を除名処分とした。
 黄竜姫は「ムカデ姫を捕縛せよ」と命じたが、銀州と鉄州は「なぜムカデ姫を除名するのか。天地道理を無視した命令は聞けない」と反対するので、黄竜姫は二人も除名した。しかし、金州の諫言に、黄竜姫も最後には除名処分を取り消した。
 そこへ鶴公がやって来て、「なぜ出陣するのか。友彦が攻めてくるという確実な情報があるのか」と尋ねる。この件は、金州、銀州、鉄州の注進によるので、三人に問い質すと、「友彦の襲来はウソである。友彦襲来と仮想的を作り、スマートボール他を城内より追い出し、清公に実権を握らせる計略である」と白状する。
名称
清公 金州 銀州 鶴公 鉄州 ムカデ姫 黄竜姫
アインスタイン 鬼 クロンバー 貫州 教主 小糸姫! 郷人 侍女 スマートボール 武公 チヤンキー テールス姫 天地の神 友彦 蕃人 ブランジー モンキー
海往かば 鬼ケ城山 自転倒島 惟神 国城山 顕恩郷 言霊 相対性原理 三千世界 神界 ジヤンナの郷 地恩城 内乱 忍冬茶 ネルソン山 一つ洲 魔谷ケ嶽 三国ケ嶽 無抵抗主義 冥土 メソポタミヤ
 
本文    文字数=24408

第二章 与太理縮〔七四八〕

 地恩城の奥殿には黄竜姫と蜈蚣姫の二人、侍女を遠ざけ、頭を垂れ物憂し気に、何事か首を鳩めてヒソビソ話に耽つて居る。
蜈蚣姫『黄竜姫様、大変な事が出来ました。あの意地くねの悪い鼻曲りの友彦が、ネルソン山を西に渉り、獰猛なる土人をチヨロ魔化し、テールス姫と言ふ妖女を抱き込み、表面三五教を標榜し、衆を集めてこの地恩郷に攻め寄せ来り、お前さまを否応なしにまた元の女房にしようとの企み、今に本城へ攻め寄せ来るとの、金、銀、鉄の注進、万一左様な事が実現して、友彦この場に攻め来る事あらば、お前さまはどうなさる考へですか、御意中を承はりたい』
黄竜姫『母様、左様な御心配に及びませぬ。柔よく剛を制すと言つて、如何なる頑強不霊の友彦なりとて、妾が三寸の舌剣を以て腸まで抉り出し、見事改心させて見せませう。友彦如きは物の数でもありませぬ。あのやうな者が恐ろしくて、この野蛮未開の一つ島がどうして拓けませう。取越苦労はなさいますな、ホヽヽヽヽ』
とオチヨボ口に袖を当て、手もなく笑ふ。蜈蚣姫は真面目な心配相な顔付にて、
『何程悧巧だと言つても未だお前は年が若いから、さう楽観をして居られますが、恋の意地と言ふものはまた格別なもので、なかなか油断はなりませぬ。寝ても醒ても小糸姫に馬鹿にしられたと怨んで居る友彦の事だから、一時は時到らずとして尾を捲き目を塞ぎ爪を隠して、猫のやうになつて居たものの、今やジヤンナの郷において、飛つ鳥も落すやうな勢になつたのを幸ひ、日頃の鬱憤を晴すは今この時と戦備を整へ捲土重来する以上は到底なかなか一筋や二筋では納まりますまい。年寄の冷水、老婆心の繰言とお笑ひなさるか知りませぬが、年寄は家の宝、経験がつんで居るからチツとは母の言ふ事もお聞きなされ。後の後悔は間にあひませぬ』
黄竜姫『あの、マア母様にも似合はぬ御心配相なお顔付、母上も顕恩郷では随分剛胆な事をなさいましたではありませぬか。それのみならず、自転倒島の鬼ケ城山に敗れ三国ケ嶽に砦を構へ、次で魔谷ケ嶽、国城山と大活動をなされた時は、夜叉のやうなお勢でござつたぢやありませぬか。それに今日、母上の口からそんな弱い音色が出るとは思ひも掛けませぬ。この黄竜姫、仮令百の友彦、万の友彦来るとも、三五教の神様の神力、吾言霊の威力に拠つて言向け和し、前非を悔いしめ、至善至美の身魂に研き上げて助けてやる妾の所存、決して決して御心配遊ばしますな』
と脇息に肱を乗せ忍冬の茶を一口グツと飲んで、
『母様、どうぞお寝み遊ばしませ。最早夜も更けかけました。いづれネルソン山へは数百里の道程、友彦が攻めて来ると言つても、まだ十日や半月は大丈夫です。あまり周章てるには及びませぬ』
蜈蚣姫『油断大敵、一時も猶予はなりませぬ。妾は先程一同の者に、防戦と出陣の用意を命じて置きました。やがて出陣するでせう』
黄竜姫『それは誰の吩咐で出陣をお命じになりましたか』
蜈蚣姫『ハイ、妾の計らひで……』
黄竜姫『それはまた、不都合千万、私人としては貴女は妾の母、されど神様のお道から言へば妾が教主も同然、妾の命令をも聞かずに、公私混淆、自他本末を混乱して左様な命令を出されては困るぢやありませぬか。どうぞ早く取消しをして下さい』
蜈蚣姫『何程お前様が教主だと言つて威張つた処で、矢張り親は親だ。親の言ふ事を聞かぬやうでは鬼も同様です。それでは神様のお道を守る人とは申されますまい。この蜈蚣姫も猪食た犬だけあつて、どんな経験も持つて居る。今こそ可愛い娘の光を出したいばかりに、目を塞ぎ爪を隠し、灰猫婆アになつて居るものの、まさかと言ふ時になれば忽ち虎猫になりますよ。虎も目を塞ぎ爪を隠して柔和しく見せて居れば、何時までも厄介者だと蔑み、年寄つたの、耄碌したのと思つて居ようが、いつかないつかなこの蜈蚣姫、国家興亡のこの際、何時迄も爪を隠す訳にはゆかない。虎猫の本性を現はし、これから大活動を演ずる覚悟ですよ。平和の時はお前さまを大将にして置いてもかなり勤まるが、こんな非常の場合は生温い事でどうなりませう。アタ小面憎い友彦の首を引き抜いて、思ひ知らしてやらねばなりませぬ。エー、煩い事だ。また年寄に一苦労さすのかいな』
黄竜姫『母様、貴方はそれだから困ります。三五教の御教をお忘れになりましたか』
蜈蚣姫『エー、融通の利かぬ娘だな。三五教の教は天下太平の御代には実に重宝な教だが、危機一髪のこの際、あのやうな柔弱な無抵抗主義の教理は、マドロしうて聞いてゐられますものか。神様が無抵抗主義を採れとおつしやるのは……為な、せい……と言ふ謎ぢや。お前さまは何と言つても未だ年が若いから正直に聞くので困る。口の端に乳が附いて居るやうな事言つて……どうしてこの地恩城が維持出来ますか』
と最後の言葉に力を入れて、畳を握り拳でポンと叩いて見せた。
黄竜姫『アヽ情ない母様の御精神、どうしたら本当の改心をして下さるであらう。……どうぞ神様、一時も早く真の道が、私の一人よりない大切な母に解りますやうに、どうぞ心の鏡に光明を与へ、心の暗黒を照らして下さいませ。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と合掌し涙含む。
蜈蚣姫『何程人間が改心したと言つても、元から悪の素質を持つて居る吾々の身魂、譬へて言へば、大きな鉢の中へ泥水を盛り、それが時節の力で泥は鉢の底に沈り、表面は清水に澄み渡つて居つても、何か一つ揺ぶるものがあると、折角底に沈つて居た泥がまたもや浮き上り、元の泥水となるのは自然の道理だ。これが惟神のお道です。体を以て体に対し、霊を以て霊に対し、力を以て力に対するは天地の道理ぢやありませぬか。アインスタインの相対性原理の説明だつて、さうぢやないか。お前さまのやうなそんな時代遅れの事を言つて居ると、蟹の手足をもぎ取り、鳥の翼を剥ぎ取つたやうな目に遭はされますぞ。三千世界に子を思はぬ親がありませうか。お前が可愛いばつかりに、妾はお気に召さぬ事を言ふのだが、親の意見と茄子の花は、千に一つも仇花はありませぬぞ。良薬口に苦し、甘いものは蛔虫の源、どうぞ母が一生のお願ひだから、出陣を見合す事は思ひ止まつて下さい。妾もこれから清公の左守神を引率れ、年寄の花を咲かし、冥途の土産に一戦やつて見ようほどに、必ず必ず柔弱な精神を発揮して、折角張り詰めた母の勇猛心を挫いて下さるな。親が子に手を合して頼みます。海往かば水漬く屍、山往かば草生す屍、大神の辺にこそ死なめ、閑には死なじ顧はせじと、弥進みに進み、弥逼りに逼り、友彦が軍勢を山の尾ごとに追ひ伏せ、河の瀬ごとに薙散らして服へ和し、一泡吹かして懲らしめくれむは案の中、必ず邪魔召さるな』
と血相を変へて長押の薙刀を取るより早く、
『黄竜姫、さらば……』
とこの場を立ち出でむとする。
黄竜姫『地恩城の女王、三五教の神司、今改めて蜈蚣姫に対し、三五教を除名する。有難くお受け召され』
 蜈蚣姫は二足三足引返し、黄竜姫をハツタと睨み、
『久離絶つても、親子ぢやないか。親子の情は何処迄も変るものぢやない。仮令蜈蚣姫、天地の神の怒りに触れ、水火の責苦に会うとても、吾子のためには厭ひはせぬ。三五教を除名された上は、最早その方に制縛は受けぬ、自由自在の活動を致すはこれからだ。愈清公以下の勇士を引率れ、華々しき功名手柄を現はしくれむ。小糸姫、さらばでござる』
とまた立ち出でむとするを、黄竜姫は言葉厳かに、
『最早三五教を除名せし蜈蚣姫、左守神たる清公を初め、その他一同を指揮する権利はあるまい。御勝手にただ一人お出で遊ばせ。飛んで火に入る夏の虫、子の愛に溺れて真の神の愛を忘れ給ひし不届者、天に代つて懲戒致す。……ヤアヤア金州は在らざるか、早く来つて蜈蚣姫を縛せよ』
と呼はつた。
 折から金、銀、鉄の三人、スタスタとこの場に現はれ来り、親子がこの体を見て不審の眉を顰めながら、
金州『コレハコレハ、お二人様の御様子、何か深い仔細がございませうが、先づ先づお静まり下さいませ』
黄竜姫『仔細は申すに及ばず、地恩郷の女王黄竜姫が命令だ。蜈蚣姫を縛り上げよ』
金州『コレハコレハ、案に相違の女王様のお言葉、一向合点が参り申さぬ。如何なる事情の在しますとも、子の分際として、天にも地にも掛替へなき、山海の恩ある御母上を縛せよとは何たる不孝のお言葉、女王様は狂気召されたか』
と涙を拭ふ。
蜈蚣姫『コレハコレハ金州、お前の言ふ通りだ。父と母とは天地に譬へてある。父の恩は天より高く、母の恩は地より重しと聞く。地の恩に因みたるこの地恩郷の女王となりながら、母の恩、所謂地恩を忘れた小糸姫、サア、もうこの上は親の権利を以て小糸姫を放逐する。汝……金、銀、鉄の三人、この蜈蚣姫が命令を聞き、友彦の軍勢に向つて応戦の用意を致せ。さはさりながら身に寸鉄を帯びよと言ふのではない。善言美辞の言霊と親切の行為を以て、敵を悦服致さすのだ。必ず必ず誤解を致すでないぞ』
金州『理義明白なる貴女のお言葉、金州確に承知仕りました。しかしながら今貴女がお手に持たせ給ふ薙刀は、何のためにお持ちでございますか』
蜈蚣姫『これは敵を薙ぎ払ふ武器では無い。味方の軍勢を励ますための武器だ。愚図々々致して居ると、この蜈蚣姫がお前達を片端から薙ぎ払ふも知れぬぞ。サア汝等は蜈蚣姫に続けツ。小糸姫に用は無い』
とまたもやこの場を慌しく立ち出でむとする。
黄竜姫『地恩郷の女王黄竜姫、蜈蚣姫を除名したる以上は、金、銀、鉄の三人の者共、彼が命を奉ずるには及ばぬぞ。心を鎮めて妾が言葉を篤と聞けよ』
 この言葉に三人は平伏し、
銀州『これはまた異なる事を承はるものかな。どの咎あつて蜈蚣姫様に対し除名の処分をなされましたか。一応理由を承はりたうございます』
鉄州『この頃の暑熱のために精神を逆上させ、非理非道なる悪言暴語をお吐き遊ばす黄竜姫様のお言葉、天地の道理に反したる貴女の御命令には、吾々は絶対に服従する事は出来ませぬ』
黄竜姫『今更めて銀、鉄の両人を除名する』
銀、鉄『コレハコレハ心得ぬ貴女の御言葉、何の咎あつて除名遊ばすのか。無道の除名処分には決して服従仕らぬ。また仮令除名されても蜈蚣姫様を奉じ、この地恩城を守護致す考へでござれば、少しも痛痒は感じませぬ。何卒々々、今一度お考へ直しを願ひたう存じまする』
金州『女王様に申上げます。御立腹は御尤もなれども、何を言つても、絶つても絶れぬ御親子の間柄、斯様な事が城外に洩れましては、第一、大神様のお道の汚れ、余り褒めた話ではございませぬ。どうぞ親子仲よく遊ばして下さいませ』
黄竜姫『今改めて母上様に申上げます。万々一敵軍襲来致すやうな事あらば、この黄竜姫が陣頭に立ち、華々しく神界のために活動してお目に懸けませう。今迄の無礼の言葉お赦し下さいませ。除名の事は今改めて取消しませう。また……銀、鉄の両人に対する除名の言霊も只今宣り直しませう』
蜈蚣姫『アヽ流石は妾が血を分けた娘だけあつて偉いものだなア。さうなれば、さうと……何故早く言つて下さらぬのだ。年寄に要らぬ気を揉まして、親に余り孝行……な仕打ぢやなからうに』
と笑ひ泣きに泣く。
黄竜姫『最初よりこの精神で妾は申上げて居ましたけれども、母様は余り血気に逸り、そのまま城外へ御出になれば、それこそ吾々親子を初め、地恩城一同の大恥辱になると思ひ、無礼な事を申上げました。どうぞお赦し下さいませ』
蜈蚣姫『心安い親子の仲、さう更まつて御挨拶には及びますまい』
と機嫌を直し薙刀を長押に掛け、忍冬茶をグツと飲んで脇息に凭れる。
 かかる処へ足音高く入り来る鶴公は、恭しく両手をつき、
『黄竜姫様に申上げます。只今承はりますれば、蜈蚣姫様より出陣の用意を致せ……とのお言葉、敵無きに出陣とは心得申さぬ。これには何か深い御経綸の在する事ならむ。一応その真相を、私に差支へ無くばお洩らし下さいませ』
 蜈蚣姫は黄竜姫の言葉も待たず、二足三足膝を摺り寄せ、
蜈蚣姫『お前はそれだから間抜者と言ふのだ。友彦が獰猛なる蕃人隊を引き率れ、本城へ復讐のため攻め寄せ来ると言ふ事が分らぬのか』
鶴公『はて、心得ぬ貴女のお言葉、天が下に善に敵する仇はありますまい。何を苦んで防戦の用意とか、出陣とかを御命令になつたのですか。さうしてまた友彦が果して攻め寄せ来ると言ふ、的確なる調査がついて居りますか』
蜈蚣姫『現在此処に居る金、銀、鉄の三人が、注進に来て居るのだよ』
鶴公『はて心得ぬ。金、銀、鉄の三人は一ケ月ばかりこの門内を出た事はござらぬ。どうしてそんな急報が耳に入つたのだらう。……コレコレ金、銀、鉄の三人共、その方は何人に左様な事を聞いたのか』
金州『ハイ……あの……それ……今の……何でございます。エー、さうして……先方が……何ですから此方も何々して置かねば……何々の間に何だと……思ひまして一寸申上げました。これと言ふも全く清公様……オツトドツコイ……きよや昨日の事ではございませぬ。誠に恐惶(清公)頓首の次第でございます』
鶴公『その方の申す事は少しも分らない。も少し、はつきりと申さないか』
金州『オイ、銀州、貴様チツと応援してくれ。俺ばつかりに言はすとは余りぢやないか、貴様が発頭人だよ。アーア発頭人にこの答弁を譲つて、私はホーツと息をつきながら金公……オツトドツコイ……キン聴する事にしようかい』
銀州『ハイ、黄竜姫様、その他の方々の御前を憚りながら、謹み敬ひ言上仕りまする。抑々地恩城は四面山に囲まれ、メソポタミヤの顕恩郷にも勝る楽園地でございますれば、黄竜姫様の御威勢も日に日に旭日昇天の勢、それに日頃慕はせ給ふ母様に無事に会はせ給うて、その御顔色恐悦至極、左守の清公様、右守の鶴公様の誠心籠めての日夜のお活動、そのため地恩郷は益々隆盛に向ひ、こんな喜ばしい事はまたと世界にありませうか。しかるに味良き果物には害虫多く、美しき花には風雨の害甚しとやら、治に居て乱を忘れず、乱に居て治を忘れず、治乱興敗は天下の常と存じますれば、吾々は先見の明なくともかくの如きはよく御合点の某、御忠告までに申上げ奉りまする』
鶴公『益々不分明なる汝の言葉、左様な問題を尋ねたものでは無い。友彦一件は何人より聞いたのかと尋ねて居るのだ』
銀州『オイ、鉄、何とかテツボをあはしてくれぬと、俺はスンデの事でテツ棒を喰はされる処だ。初から約束の通り、第一線危き時は第二線が防ぎ戦ひ、第二線敗るる時は第三線が力戦苦闘するは、締盟当時の吾等の決心、サア手坪をあはして巧く弁解をするのだよ。この言霊戦に敗をとれば吾々は、もう駄目だよ』
と耳の側に囁く。
鉄州『ハイ、……何でございますか。最前から金、銀の答弁を聞いて居れば徹頭徹尾、この鉄も意味貫徹しませぬ。鉄瓶の口から湯気を立てて居るやうな二人の陳弁の有様、側の見る目も気の毒なりける次第なりです。かかる事は夢の中の状態で、五里霧中に葬り去るが安穏でございませう。夢は袋に、刀は鞘に、秘密は腹に包んで置くが最も悧巧なやり方、吾々はこれ以上申上げる事は徹頭徹尾ありませぬ。この問題は只今限り撤廃を願ひませう』
鶴公『三人が三人共、実に瞹昧模糊として不徹底極まる答弁、……コリヤ金州、左様な瓢鯰式の言葉を用ゐず、友彦が襲来に関し、何人より聞きしか明かに申上げよ』
金州『ハイ是非に及ばず申上げまする、実は……その……何でございます。実に清公さまの……エー……ともかく、マア……一つの計略ですな』
鶴公『コリヤコリヤ金州、畏くも女王様、蜈蚣姫様の御前なるぞ。真面目に謹んで答弁致さぬか』
金州『ハイ、おい第二線だ……吟味がかう厳しうては逃げ道がない。貴様の雄弁を以て其処はそれ……何々してやつてくれぬかい』
と耳に口を寄せ囁く。銀州は迷惑相な顔をしながら頭を掻き、一寸鶴公の顔を見上げ、
『エー、何分……金州の申した通り、私が発起人でございます。しかしながら神の奥には奥があると同様に、発起人の奥にも奥がございまして……どうもハツキリと申上げ憎うございます。奥を申上げるのは何だか臆劫なやうで、奥歯に物が挟まつたやうな感が致します。怯めず臆せず、記憶に存する事は臆面も無く申上ぐるが順当ではございまするが、矢張り、エー何でございまする。本当の事は清公さまと宇豆姫さまの関係から起つた問題ですから、どうぞ神直日大直日に見直し聞直し、宣り直して下さいませ。人の非を人の前に曝す事は、神様のお戒めに背くと申すもの、こればかりはお道の精神を守つて沈黙を致しませう』
鶴公『汝等三人は何事か申し合せ、吾々を嘲弄致すのだなア』
銀州『滅相もない。嘲弄と言へば左守司様は長老臭い。貴方が地恩城の長老に成られるが最後、吾々はお払ひ箱になるのは定つた事、長老の斧を以て竜車に向ふ如く一たまりもございますまい。それだから実の処は、友彦襲来の兆候ありと仮想敵を作りスマートボールその他のヤンチヤ連中は城内より追放り出し、後に清公さまを純然たる唯一の長老、即ち宰相たるの実権を握らせ、言ふと済まぬが、エー右守神の何々さまを排斥しようと言ふ吾々の計略で……はありませぬ。畢竟夢の浮世の夢を見たばかりの事、吾々が悪を企んだのだとは夢々疑うて下さいますな』
鶴公『イヤ、もう何も聞く必要は無い、人の非を穿鑿する吾々は考へも無いから、直日に見直し聞直し宣り直して置きませう。……モーシ、黄竜姫様、蜈蚣姫様、実に水禽の羽撃きに恐れたる平家の軍勢の如き馬鹿らしきこの騒ぎ、いやもう油断のならぬ世の中でございますワイ』
蜈蚣姫『金、銀、鉄の言ふ事を綜合すれば、どうやら左守神の清公が張本人と見える。……清公をこれへ呼んで来なさい。金州、サア早く』
金州『ハイ、お言葉でございまするが、叔母の死んだも直休み、漸く内乱鎮定の曙光を認めた処ですから、少し休養を願つてお使ひを致しませう』
鉄州『実際の事を申しますれば、清公さまは御存じの通り、実に立派なお方でございます。ブランジーとして実に申分なきお方、しかしながらクロンバーが無ければ陰陽合致致さず、それがために宇豆姫さまをクロンバーの位置に据ゑたいと、吾々仲間の者は内々運動を開始して居ました。処が肝腎の宇豆姫さまは察する処、鶴公さまに秋波を送り、ブランジーの清公さまに、エツパツパを喰はさむとする形勢ほの見えたれば、何とか事を構へ、右守神鶴公さまを先頭に、スマートボール、貫州、武公、チヤンキー、モンキー、その他の連中を城外に放り出し、城門を固く鎖し、時を移さず無理往生にしてでも宇豆姫さまをクロンバーの役に就かせ、夫婦合衾の式を挙げさせたいと鳩首凝議の結果、一寸狂言を致したに過ぎませぬ。この暑いのに何百里もあるネルソン山の彼方まで、誰が偵察に参る者がありませうぞ。全く以て真赤な嘘言でございました。身の過ちは宣り直せと言ふ神様の御教を奉体遊ばす黄竜姫さま、人をお赦し遊ばす慈愛の権化、滅多にお叱り遊ばすやうな、天則違反的な行為には出られますまいから、安心して実状を申上げました』
と流石鉄面皮の鉄州も、稍羞恥の念に駆られてか、俯向いて真赤な顔をして居る。
蜈蚣姫『エーエー、しようもない悪企みをしてこの妾まで心配させ、親子喧嘩までオツ始めさせた太い奴だ。……ナア鶴公さま、油断も隙もあつたものぢやございませぬなア』
鶴公『お言葉の通り実に寒心致しました。しかしながらこれ全く神様の吾々に対するお気付けでせう。これに鑑み今後は、人の言ふ事を軽々しくまる聞きしてはなりますまい』
蜈蚣姫『かく事実の判明した上は何をか言はむ。今日はこれにて忘れて遣はす。サア妾と共に神殿において、感謝祈願の祝詞を奏上致しませう』
と先に立ち、一同と共に神殿に足音静に進み入る。

(大正一一・七・七 旧閏五・一三 北村隆光録)
(昭和一〇・六・四 王仁校正)



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