出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語24-3-91922/07如意宝珠亥 神助の船王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
ニユージーランド近辺岩島
あらすじ
 ムカデ姫の一行の乗った船はニユージーランド近辺まで進むと、急に強風が吹いたので、一行は岩島の陰に避難した。
 そこへ、チヤンキー、モンキーがやって来て、「船に乗せてくれ」と頼む。二人は、三年前に小糸姫を竜宮城へ送ってゆく途中で、船が難破して、この島に流れ着いていたのだった。ムカデ姫が小糸姫の行方問うと、「海底の竜宮へ行ったのではないか」と答える。それを聞いたムカデ姫は「娘が死んだ」と悲しみに沈む。
 高姫は玉のことで頭が一杯で、チヤンキーとモンキーに「玉を隠した」と迫り、二人に案内させて玉を探しに行こうとするが、「ムカデ姫が勝手に船を出してしまうのではないか」と疑い、心配で行けない。ムカデ姫は「自分が初稚姫や玉能姫を悪く言ったとき、高姫がかばい、高姫の真心が分った。だから、初稚姫、玉能姫を悪く言うな」と改心を示した。高姫は、「初稚姫と玉能姫だけは思い切ることができない」と、執念を示す。
 その時、南洋のテンカオ島という巨大な島が、地すべりのため海中に沈没したため、水位が一時的に高くなり、一行のいる島も沈みそうになる。
 そこへ、玉能姫一行があらわれて、高姫たちを救う。ところが高姫は、「日の出神が救ったのだ」と、玉能姫たちには感謝しない。貫州が怒って高姫を突き飛ばすと、高姫は海にはまってしまったが、助けられた。
 高姫は、「艮の金神、坤の金神、金勝要神、日の出神の四魂が揃って誠の花が咲く仕組、なにほど言依別が瑞の御霊でも、玉照姫が木の花咲耶姫の分霊でも、玉照彦が三つ葉彦の再来でも、四魂には肩を並べることができない」とはしゃぐ。
 玉能姫は、娘が死んだと悲しむムカデ姫に、「五十子姫に聞いたところによると、小糸姫は黄竜姫となって三五教を広めていると」言う。
名称
お民* 久助 貫州 スマートボール 高姫 玉能姫 玉治別 チヤンキー 友彦* 初稚姫 ムカデ姫 モンキー
五十子姫 艮の金神 妖怪変化 お節! 乙米姫 鬼熊別 大神 海蛇 金勝要神 小糸姫 言依別命 木の花咲耶姫 四魂 素盞鳴尊 玉照彦! 玉照姫! 大自在天 坤の金神 日の出神 日の出神(高姫) 日の出神の生宮 分霊 仏 真黒黒助 三葉彦 瑞の御霊 黄竜姫!
天津祝詞 綾の高天 アンボイナ島 生田の森 海底の竜宮 家島 オーストラリヤ 雄島 雄滝 大島 海神島 神言 沓島 九分九厘 言霊 金剛不壊 執着心 シロの島 神界 聖地 小豆島 刹那心 瀬戸の海 千座の置戸 鎮魂 地獄 テンカオ島 天眼通 南洋 ニユージーランド 如意宝珠 ノアの方舟 バラモン教 一つ洲 波斯の国 再度山 雌島 雌滝 メラの滝 竜宮 竜宮の一つ洲 霊歌
 
本文    文字数=30805

第九章 神助の船〔七三九〕

 神が表に現れて  善と悪とを立別ける
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  高姫生命を棄つるとも
 島の八十島八十の国  山の尾の上や川の末
 海の底まで村肝の  心到らぬ隈もなく
 探さにや措かぬと雄猛びし  矢竹心の矢も楯も
 堪りかねたる玉詮議  左右の目玉を白黒と
 忙しさうに転廻し  善と悪との瀬戸の海
 牛に曳かれて馬の関  狭き喉首乗り越えて
 数多の島々右左  眺めて越ゆる太平の
 波を辷つてアンボイナ  南洋諸島のその中で
 珍の竜宮と聞えたる  芽出度き島に漕ぎつけて
 玉の所在を探す内  綾の高天の聖地より
 玉照彦の神言もて  初稚姫や玉能姫
 玉治別の三人は  再度山の山麓に
 生田の森にて足揃ひ  船を準備へ高姫が
 危難を救ひ助けむと  潮の八百路を打渡り
 漕ぎ来る折しも霧の中  仄かに聞ゆる叫び声
 唯事ならじと船を寄せ  よくよく見ればこは如何に
 バラモン教の宣伝使  友彦初め清鶴や
 武の四人が船を破り  生命の綱と岩壁に
 力限りにかぢりつき  救けを叫ぶ声なりし
 玉治別は快く  四人の男を救ひ上げ
 率ゐ来りし伴舟に  友彦その他を救ひつつ
 男波女波を打渡り  雄滝雌滝の懸りたる
 雄島雌島の合せ島  アンボイナ島の竜宮へ
 船を漕ぎつけをちこちと  青葉茂れる山路を
 濃霧に包まれ千丈の  瀑布の音を知るべとし
 近より見れば滝津瀬の  漲り落つる音ばかり
 一行七人滝の前に  佇みこれの絶景を
 驚異の眼をみはりつつ  その壮烈を歎賞し
 涼味に浴する折柄に  濃霧を透して婆の声
 常事ならじと近寄りて  窺ひ見れば高姫の
 腕は血潮に染りつつ  団栗眼を怒らして
 面をふくらせ何事か  囁く側に蜈蚣姫
 妖怪変化に擬ふなる  化物面を曝しつつ
 滝の麓に倒れ居る  玉治別は驚いて
 手負に向つて鎮魂の  神法修し一二三四
 五六七八九十  百千万と言霊の
 霊歌を頭上に放射せば  幾許ならず蜈蚣姫
 元の姿に全快し  地獄で仏に遭ひし如
 心の底より感謝しつ  嬉し涙に暮れにけり
 玉治別の一行は  探ね来りし高姫の
 所在を知つた嬉しさに  真心こめていろいろと
 言依別の命令を  完全に委曲に宣りつれど
 心ねぢけし高姫は  情を仇に宣り直し
 相も変らず減らず口  叩いてそこらに八当り
 憎々しげに罵れば  流石無邪気の一行も
 呆れて言葉なかりけり  ヤツサモツサの押問答
 やうやう治まり一同は  二隻の船に分乗し
 玉治別の操れる  船には初稚玉能姫
 鶴武清の六人連  波を乗り切り竜宮を
 後に眺めて離れ行く  残りの船は友彦が
 艪を操りつ蜈蚣姫  高姫貫州久助や
 スマートボールやお民等の  一行を乗せてやうやうと
 波ののた打つ和田の原  西南指して進み行く
 前後左右に駆けまはる  海蛇の姿眺めつつ
 轟く胸を押隠し  心にも無き空元気
 船歌うたひ友彦が  力限りに炎天の
 大海原に搾る汗  ニユージランドの手前まで
 進む折しも暴風に  吹きまくられて浪高く
 危険刻々迫り来る  左手に立てる岩山の
 影を目標に漕ぎ寄せて  難を避けむと進み寄る
 鬼か獣か魔か人か  得体の知れぬ影二つ
 猿の如く岩山を  駆けめぐり居る訝かしさ
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直し聞直し
 身の過ちは宣り直す  神の救ひの船に乗り
 大海原に漂へる  この岩島を一同が
 生命の親と伏拝み  ここに小船を止めつつ
 アヽ惟神々々  御霊幸はひましませと
 祈る言霊勇ましく  雷の如くに鳴り渡る
 この神言を聞きしより  二つの影は嬉しげに
 此方に向つて下り来る  神の仕組ぞ不思議なる。

 友彦は怪しき二つの影を見て、
『ヤア高姫さま、蜈蚣姫さま、愈願望成就の時節到来、お喜びなさいませ。貴女のお探ねになる代物は漸くこの島に在ると云ふ事が、的確に分つて来ましたよ』
 高姫吃驚したやうな声で、
『エヽ何とおつしやる。あの玉がこの島に隠してあると云ふのかい』
『御覧の通り、真黒黒助の、ア…タマが二つ、如意宝珠のやうにギラギラした目のタマが四つ、貴女方を歓迎し、上下左右に駆けめぐつて居るぢやありませぬか。ありや屹度玉の妄念ですよ。黄金の隠してある所には何時も化物が出ると云ふ事だ。彼奴はキツト如意宝珠の精が現はれ、人に盗まれないやうに保護をして居た所、焦れ焦れた……言はば……玉の親のお前さまがやつて来たものだから、再び腹の中へ呑み込んで帰つて貰はうと思ひ、妄念が現はれて玉の所在を知らして居るのに違ひない。コンナ所に……さうでなければ黒ン坊が住居して居る筈はない。キツトさうですよ。女の一心岩でも突き貫くとやら、あの通り岩を突き貫いて玉の精が現はれたのでせうよ』
 高姫は目をクルクルさせながら、二つの影を凝視め、
『如何にも不思議な影だ。どう考へてもコンナ離れ島に船も無し、人の寄りつく道理がない……サア蜈蚣姫さま、あなたはモウ玉に執着心は無いとおつしやつたのだから、微塵も未練はありますまいな』
『妾はアンナ黒ン坊にチツトも執着心は有りませぬ』
『さうでせう。それ聞いたら大丈夫、サアこれから貫州と二人この岩山を駆け登り、玉の所在を探して来う……イヤイヤ待て待て、腹の悪い連中、岩山の上へあがつて居る後の間に、蜈蚣姫さまに船でも盗られたら、それこそ大変だ。……サア貫州、お前はこの船の纜をキユツと握つて放す事はならぬぞえ。……モシ蜈蚣姫さま、お付合に従いて来て下さいな』
『オホヽヽヽ、さう御心配なさらいでも、滅多に船を持つて逃げるやうな事はしませぬ……とは請合はれませぬワイ』
『サアそれだから険難だと云ふのだ。わしの天眼通は、お前さまの腹のドン底までチヤーンと見抜いてある。それが分らぬやうな事で、どうして日の出神の生宮が勤まるものか……アヽ仕方がない。貫州、お前御苦労だが、玉の所在を、あの黒ン坊に従いて探して来てくれ。わしは蜈蚣姫さまの監督をして居るから……アーア油断も隙も有つたものぢやないワイ』
『オツホヽヽヽ、よう悪気の廻るお方ですな。お前さまは宝を見ると直にそれだから面白い。恰度、犬コロが三つ四つ一所に集まり、顔を舐めたり、尾を嘗めたりして互に睦まじう平和に遊んで居る、其処へ腐つた肉の一片を投げて与ると、忽ち争闘を始め、親の讐敵に出会うたやうに喧嘩をするのと同じ事、お前さまは宝が……まだ本当に有るか無いか知れもせぬ前から、目の色まで変へて騒ぐのだから、本当に見上げた御精神だ。いつかな悪党な蜈蚣姫も腹の底から感服致しました。………スマートボール、お前は貫州さまと一緒に黒ン坊の側へ行つて、万々一玉が有ると云ふ事が分つたら、外の二つの玉はどうでも良いから、金剛不壊の如意宝珠を、邪が非でもひつたくつて来るのだよ。この蜈蚣姫ぢやとて、性来から善人でもないのだから宝の山へ入りながら手振りで帰るやうな馬鹿ぢやない。今迄の苦労を水の泡にはしともないから、わしも犬コロになつて、力一杯争うて見ませうかい。オツホヽヽヽ』
『一旦お前さまは小糸姫にさへ会へばよい、玉なぞに執着心は無いと、立派におつしやつたぢやないか。それに何ぞや、今となつて子と玉の変換をなさるのかイ』
『変説改論の持囃される世の中だから当然さ。……コレ、スマートボール、高姫さまが何程鯱になつても、味方と云へば貫州さまただ一人、あとは残らず蜈蚣姫の幕下ばかりだ。寡を以て衆に敵する事は到底不可能だ。何程多数党が横暴だと国民が叫んでも、何程少数党が正義だと云つても、矢張多数党が勝利を得る世の中だもの、泰然自若、チツトも騒ぐに及びませぬ。他人の苦労で徳とると云ふ事は恰度この事だ。高姫さま、御苦労ながら貴女、玉の所在を査べて来て下さいな。同じ大自在天に献上するのだもの、誰が取つても同じ事、それに貴女は私に玉を取らそまいとするその心の底が分らぬ。大自在天様を看板に、ヤツパリ三五教の大神に献上する考へだらう。何程布留那の弁の高姫さまでも、心の中の曲者を隠す事は出来ますまい……あのマア迷惑相なお顔付、オツホヽヽヽ』
とワザと肩を揺り、高姫流の嘲笑振りをして見せる。かかる所へ二人の黒ン坊、断崖絶壁に手をかけ足をかけ、大勢の前に下り来り、
『わしはチヤンキー、も一人はモンキーと云ふシロの島の住人だが、三年前に鬼熊別の御娘小糸姫様を御送り申して、竜宮の一つ島へ渡る途中暴風に出会ひ、船を打割り、辛うじてこの島に駆けあがり、生命を助かり、蟹やら貝などを漁つてみじめな生活を続けて来た者ですがどうぞお前さま、吾々二人を船に乗せて連れて帰つて下さいませ』
と手を合して頼み入る。毛は生え放題、髭は延び次第、手も足も垢だらけ、目のみ光らせて居る。二人の姿を間近く眺めた一同は、この言葉を半信半疑の念にかられながら聞いて居る。蜈蚣姫は胸を躍らせ、
『ナニ、お前は小糸姫を送つて来て難船したと云ふのか。さうして小糸姫は何処に居りますか』
『サア何処に居られますかな。私たちは男の事でもあり、漸くこの島にかぢりついたのだが、あまりの驚きでどうなつた事やらトツクリとは覚えて居りませぬ。大方竜宮へでも旅立たれたのでせう』
『竜宮と云ふのはオーストラリヤの一つ島の事かい』
『サアその一つ島へ行く途中に難破したのだから、竜宮違に、乙米姫様の鎮まり玉ふ海底の竜宮へお出でになつたのでせう。本当に綺麗な女王のやうな方で、今思ひ出しても自然に目が細くなり、涎が流れますワイ。アヽ惜しい事をしたものだ』
と憮然として語る。蜈蚣姫は今迄張詰めた心もガツタリと、その場に倒れ身震ひしながら船底にかぶりつき、忍び泣きに泣き居る。高姫は蜈蚣姫のこの悲歎に頓着なく、チヤンキー、モンキー二人の胸倉をグツと取り、
『これ、チヤン、モンとやら、お前は誰に頼まれて玉を隠したのだ。玉能姫か、言依別か、但は此処に居る連中の誰かに頼まれて隠したのだらう。よう考へたものだ。コンナ遠い岩山に埋没して置けば如何にも知れぬ筈ぢや。私も今迄立派な立派なアンボイナ島や、大島や、小豆島を探さうとしたのが感違ひ、アヽ時節は待たねばならぬものだ。サアもうかうなつた以上は、お前が何と云つて弁解しても白状させねば置かぬ。何程隠しても、こんな小つぽけな島、小口から岩を叩き割つても、発見するのは容易の業だ。隠しても知れる、隠さいでも知れるのだから、エライ目に遇はされぬうちにトツトと白状したがお前の得だよ』
 チヤンキー、モンキーの二人は寝耳に水のこの詰問に、何が何やら合点ゆかず頭を掻きながら、
『今貴女は玉を隠したとか、どうとかおつしやいますが、一体何の玉でございますか』
『オホヽヽヽ、よう白ばくれたものだなア。それ、お前が玉能姫に頼まれた如意宝珠の玉だよ。それを何処に隠したか、キツパリと白状しなさい』
『ソンナ事は一切存じませぬ』
『玉ナンテ名も聞いたこたアありませぬワイ』
『ヨシヨシ強太い者だ。腹を断ち割つても、今度こそは白状させねば置かぬ。アヽ面倒臭い事だ。妾が自ら査べに行けば後が案じられる。蜈蚣姫さまは……ヘン……吃驚したよな顔をして船底にかぢりつき油断をさせて、この高姫が山へ往つたならば矢庭に船を出し、この島に放つとく積りだらうし、アヽ体が二つ三つ欲しくなつて来たワイ』
 蜈蚣姫は漸くにして顔を上げ、
『わしも今迄恋しい一人の娘に会ふのを楽みに、心の合はぬ高姫と表面だけは調子を合して来たが、天にも地にもただ一人の娘がこの世に居らぬと聞けば、モウ破れかぶれだ。……サア友彦、お前も憎い奴なれど、仮令一年でも私の娘の夫となつた以上は、切つても切れぬ親子の仲、キツト私に加勢をしてくれるだらうな』
『ハイお母さま、ようおつしやつて下さいました。貴女の命令なら、高姫の生首を引抜けとおつしやつても、引抜いてお目にかけます』
『ヤア頼もしや頼もしや、親なればこそ、子なればこそ。何処にドンナ味方が拵へてあるか分つたものぢやない。「ほのぼのと出て行けど、心淋しく思ふなよ。力になる人用意がしてあるぞよ」……と三五教の神様がおつしやつたと云ふ事だ。……(声に力入れ)サア高姫、モウかうなる以上は化の皮を引ん剥いて婆と婆との力比べだ、尋常に勝負をなされ』
『ヘン、蜈蚣姫さまの、あの噪やぎやう……イヤ狂ひやう。誰だつて一人の娘が死んだと聞けば、自暴自棄も起るであらう。気が狂ふまいものでもない。しかしながら其処をビクとも致さぬのが神心だ……女丈夫の大精神だ。小糸姫様が海へ沈んで竜宮行をしたと聞いて腰を抜かし、その愁歎振は何ですか。見つともない。この高姫は元来気丈の性質、流石は生宮だけあつて、小糸姫が海の底へ旅立をしたと聞いて、落胆どころか却て愉快な気分に充されました。ナント身魂の研けた者と、研けぬ者との心の持様は違うたものだナ。オホヽヽヽ』
と自暴自棄になつて減らず口を叩く。
『人情知らずの悪垂婆の高姫。……サア友彦、親の言ひ付けだ。櫂を持つて来て頭から擲りつけて下さい。一人よりない大事な娘が死んだのを、却て愉快だと言ひよつた。……サア早くスマートボール、久助、高姫を打ちのめし、海の竜宮へやつて下され。チヤンキー、モンキーさま、お前さまも無理難題をかけられて、嘸腹が立たうのう。一寸の虫にも五分の魂だ。チツトは敵討ちをしなさらぬかいな。敵は貫州とただ二人、モウかうなれば蜈蚣姫のしたいままだ。……サア高姫、返答はどうだ』
と追々言葉尻が荒くなる。貫州は両手を拡げ、
『蜈蚣姫さま、御一同さま、マア待つて下さい』
『この期に及んで卑怯未練な、待つてくれも有るものか。お前も讐敵の片割れ、覚悟をしたがよからう』
『わしだつてコンナ没分暁漢の高姫に殉死するのは真平御免だ。お前さまの方に、貫州も一層の事応援するから、……どうだ、聞き届けてくれるかな』
『お前はメラの滝でチラリと喋つた言葉に考へ合はすと、あまり高姫を信用しとりさうにもないから、赦してやらう。サアどうぢや高姫、舌噛み切つて死ぬるか、この場で海へ身を投げるか、それが厭なら皆の者が寄つて懸つてふん縛り、海へ放り込まうか。最早これまでと諦めて、宣伝歌の一つもこの世の名残に唱へたがよからうぞ。オツホヽヽヽ』
 高姫は悪胴を据ゑ、腕を組み、涙をボロリボロリと零して俯向き沈む。
『オホヽヽヽ、高姫さま、嘘ですよ。あまりお前さまが我が強いから、一つ我を折つて上げようと思うて狂言をしたのだから、安心なされませ。天が下に敵もなければ他人もない。私も今迄の蜈蚣姫とは違ひます。玉能姫さまや初稚姫さまを、あれだけボロ糞に言つてもチツトも怒らず、親切ばかりで立て通しなさつたその心に感じ、善一つの真心に立帰つたこの蜈蚣姫、どうしてお前さまを苦しめませう、安心して下さい。その代りお前さまも、玉能姫さまや初稚姫その他の方々を鵜の毛の露ほどでも恨むやうな事があつては冥加に尽きまするぞ』
『ヤアそれで高姫もヤツと安心を致しました。しかしながら初稚姫や玉能姫の悪人ばかりは、どうしても思ひ切る事が出来ませぬワイ。人我れに辛ければ我れまた人に辛しとやら言つて、年をとつてこれだけ苦労艱難をするのも、みんな初稚姫や玉能姫のなす業、如何に天下の大馬鹿者、無神経者と云つても、この残念がどうして忘れられませうか』
『玉能姫様や初稚姫様は、神様の命令を受けて御用遊ばしただけぢやありませぬか。元からお前さまを困らさうなどと、ソンナ悪い心はなかつたのでせう』
『ソンナ小理屈は言うて下さいますな。例へば主人が下僕に対し藪の竹を一本伐つて来いと命令したと見なさい。竹を伐る時の竹の露は誰にかかりますか。ヤツパリ下僕にかかるぢやありませぬか。竹伐つた奴は玉能姫、初稚姫の両阿魔女だ。怨みが懸らいで何としようぞいの。アヽ口惜しい、残念や、オーン オーン オーン』
と前後を忘れ狼泣きに泣き始めける。
 折しも海鳴の音、俄に万雷の一時に轟く如く聞え来り、波は刻々に高まる。一同はチヤンキー、モンキーの後に従ひ、最も高き岩上に避難した。船は纜を千切られ、何処ともなく、浪のまにまに流れてしまつた。水量は追々まさり、最早足許まで浸して来る。山岳のやうな浪は遠慮会釈もなく、頭の上を掠めて通る。殆ど水中に没したと思へばまた現はれ、息も絶え絶えになり、各自覚悟の臍を極めて神言を奏上し、心の隔てはスツカリ除れて、ただ生命を如何にして保たむやとこれのみに焦慮し、宣伝歌を泣声まぜりに声を嗄らして唱へ居る。
 かかる所へ波に漂ひつつ艪を操り、甲斐々々しく進み来る一隻の稍大なる船ありき。日は漸く暮れ果て、誰彼の顔も碌に見えなくなり来たり。一隻の船には二三人の神人が乗り居たり。船の中より、
『ノアの方舟現はれたり、サア早く乗らせ給へ』
と呼ばはりながら足許へ漕ぎ寄せ来る。一同は天にも昇る心地しながら、一人も残らずこの船目蒐けて、天の祐けと飛び込めば、船は波を押分け悠々として西南指して進み行く。
 かく俄に鳴動し、水量まさり来りしは、南洋のテンカオ島と云ふ巨大なる島が、地辷りのために海中に沈没したため、一時の現象としてかくの如くなりしなりき。水量は追々常態に復しぬ。船は月に照されながら海上静かに走り居る。船の中の神人の爽かな声、
『妾は玉能姫でございます。高姫様、蜈蚣姫様、その他御一同様、危ない所でございましたが、神様のお蔭で先づ先づ御無事で、コンナ御芽出たい事はございませぬ。妾達は神様の御命令によつて、貴女方が海神島にお着き遊ばすまで御保護申せとの言依別命の御命令で、見えつ隠れつお後を慕つて参りました。アヽ有難い、これで妾の使命も完全に勤まつたと申すもの、マアよう無事で居て下さいました。玉治別も居られます。初稚姫様もここに乗つて居られます』
『これと云ふのも全く日の出神様の御神徳ぢや。お前さまもそのお蔭で言依別命に対して言ひ訳も立ち、完全に御用も勤まつたと云ふもの、コンナ事がなければお前さまが遥々此処まで出て来たのも無意義に終るとこだつた。アヽ神様は誰もつつぼに致さぬとおつしやるが偉いものだなア。大神様は平等愛を以て心となし給ふ。お前さまもこれでチツトは我が折れただらう。手柄を横取して自分一人が猫糞をきめこみ、結構な神宝を隠して素知らぬ顔をしてござつたが、これで神様の大御心が分つたでせう。サア玉の所在を綺麗サツパリと皆の前にさらけ出し、功名手柄を独占しようなぞと云ふ執着心を、この際放かしなさるのが御身の得だぞへ、オホヽヽヽ』
 玉能姫、初稚姫は呆れて何の言葉もなく、黙然として俯むき居たり。玉治別は一生懸命に艪を操りながら高姫の言葉を聞いて少しくむかついたが、神直日大直日の宣伝歌を思ひ出し、吾と吾心を戒め、さあらぬ態に船唄を唄ひ、汗をタラタラ流しながら船を操り居たり。
高姫『コレお節さま、お初さま、お前さまもいい加減にハンナリとしたらどうだい。助けに来るのも、助けられるのも皆神様に使はれて居るのだよ。必ず必ず高姫その他を助けてやつたと慢神心を出してはなりませぬ。ハヤそれが大変な取違だ。九分九厘になつたれば神が助けるぞよと、チヤンとおつしやつてる。家島で船を取られた時も、神がお節さまを御用に使ひ、船を持つて来さしました。アンボイナ島でもその通り、今また日の出神のおはからひで結構な御用を指して貰ひなさつた。此処で結構な御用をさして貰ひなさつたのも、ヤツパリ高姫があつたればこそ……一遍々々お前さまは手柄が重なつて結構だが、ウツカリ慢神すると谷底へ落されますぞや。大分に鼻が高うなり出した。チツト捻ぢて上げようか』
と二人の鼻を掴みかからうとする。貫州はその手をグツと握り、
『コレ高姫さま、我が強いと云つても余りぢやないか。側に聞いて居る私でさへも憎らしうて、お前さまを殴りつけたうなつて来た。ようもようも慢神したものだなア、チツト胸に手を当てて考へて見なさい。生命を助けて貰ひながら、またしてもまたしても減らず口を叩いて、よう口が腫れぬ事だナア』
『貫州、神界の事はお前達の容喙すべき事ぢやない。どんなお仕組がしてあるか分りもせぬのに、出しやばつて囀るものぢやありませぬぞ。バラモン教の蜈蚣姫さまでさへも高姫の言葉に感心して、何ともおつしやらぬのに、没分暁漢のお前が何を吐くのだい。お前も大分に鼻が高くなつた。一つ捻つてやらうか』
と稍高い鼻を掴みかかるのを、貫州は力をこめて撥ね飛ばした途端に、高姫はザンブとばかり海中に落込みぬ。玉治別は驚いて、矢庭に棹を突き出す。高姫は一生懸命になつて棹に喰ひつき、漸くにして救ひ上げられけり。
『コレ貫州、何と云ふ乱暴な事を致すのだい』
『これも神界の御都合でせう。肱出神様が肱ではぢかはりましたら、貴女が曲芸を演じてカイツムリとなり、皆の者一同に観覧さして下さいました。本当に抜目のない愛想のよい仁慈無限の高姫さまだと、云はず語らず、皆の者が舌を出して喜び居りましたワイな』
蜈蚣姫『高姫さま、お怪我はございませなんだか。お前さまも余りお口がよろしいからナア』
『放つといて下され、口がよからうが悪からうが、妾の口は妾が自由に使用するのだ。お前さま等の改心が足らぬから、この高姫が千座の置戸を負うてこの海へ飛び込み鹹い塩水を呑んで罪を贖ひ、助けて上げたのだ。何故一言の御礼を申しなさらぬ。……コレコレ、ムカデにお節、お初殿、分りましたかなア』
玉能姫『ハイ、どうもお元気な事には心の底から感心致しました。その勢なれば強いものです。大丈夫ですワ』
『さうだらう。お前も大分に高姫の心の底が見えかけたよ、大分に身魂が研けたやうだ。モ一つ打解けて玉の所在さへ白状すれば、それこそ立派な者だ。高姫の片腕になれるべき素質は充分にある。モウそろそろ言はねばなるまい。言はねば云ふやうにして言はすぞよと大神様がおつしやつた事を覚えて居ますか。誰が何と云つても艮の金神、坤の金神、金勝要神、一番地になるのが日の出神、四魂揃うて、誠の花が咲くお仕組、何程言依別が瑞の御霊でも、玉照姫が木花咲耶姫の分霊でも、玉照彦が三葉彦の再来でも、到底四魂の神には肩を並べる事は出来ますまい。お前さま達は今迄何でも彼んでも、言依別やその他の枝の神の申す事を聞いて居つたから、思ふやうにチツトも往きやせまいがな。四魂の中でも根本の土台の地になる日の出神をさし措いて、何結構な御用が出来るものか、これを機会に改心が一等でござるぞや』
と口角泡を飛ばし、誰も返辞もせないのに、独り噪やいで居る。
 船中の人々は高姫を気違扱ひして相手にならず、言ひたいままに放任し置きたりける。
 蜈蚣姫は丁寧な言葉にて、
『玉能姫様、初稚姫様、玉治別様、アンボイナ島では大変な失礼な事を申上げましたが、どうぞ御赦し下さいませ。就きましては妾の娘小糸姫は魔島の麓で船を破り可哀や溺死を遂げました。夫は今は波斯の国に居りますなり。年老つた妾、夫婦別れ別れになり、一人の娘には先立たれ、最早この世に何の望みもございませぬ。どうぞ今迄の御無礼を海へ流して、どうぞ妾を貴方のお供になりと御使ひ下さいますまいか。実に立派な御心掛け、如何な悪に強い妾も感心致しました』
と袖に涙を拭ひ泣き伏す。玉能姫は合掌しながら、
『どう致しまして、老練な蜈蚣姫様、どうぞよろしく、足らはぬ妾の御指導をお願ひ致します。今承はれば小糸姫様は海の藻屑となつたと仰せられましたが、それは御心配なされますな。屹度オーストラリヤの一つ島に立派な女王となつて、羽振りを利かして居られます。妾は素盞嗚尊様の御娘、五十子姫様より小糸姫様の消息を聞きました。今は三五教の教を樹て黄竜姫と名乗つて立派に暮して居られます。やがて芽出たく親子の対面が出来ませう。どうぞ御心配をなさらぬやう、勇んで下さいませ』
『アヽ有難い、左様でございましたか。これと云ふのも皆大神様の御神徳……』
と手を合せ、直に天津祝詞を奏上し、感謝の辞に時を移しけり。高姫は投げ出したやうな言葉付きで、
『蜈蚣姫さま、どうでお節の云ふ事、当にやなりますまいが、仮令話にせよ、娘さまに会へると云ふ事をお聞きになつたら嘸嬉しいでせう。妾も虚実はともかく、言霊の幸はふ国、刹那心でも芽出たいと思はぬこたアありませぬ。しかしマア物は当つてみねば分りませぬ。どうも日の出神の観察では怪しいものだが、折角そこまでお前さまが喜びて居るのだから、妾も一緒にお付合に喜びて置きませう』
 玉治別は立ち上り、
『サア向方に見えるのがニユージーランドの沓島だ。皆さま少々波が荒くなるから、その覚悟して下さい』

(大正一一・七・三 旧閏五・九 松村真澄録)
此日午前六時二代様三代様も白山、月山に御登山の途に就かるとの電来たる。



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