出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語24-2-61922/07如意宝珠亥 アンボイナ島王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
アンボイナ島近海
あらすじ
 高姫一行は波のまにまに大小無数の島嶼をぬって進んだ。濃霧の中、船はいつ岩石に衝突するか危険な状況になった。
 そこで、空中から声が聞こえ、「高姫は言依別の教主に反対して、執着心を燃やして玉を追いかけている。改心せよ」と迫る。高姫はいろいろ理屈をつけてそれに対抗した。声は、「高姫の守護神、日の出神と名乗るのは銀毛八尾の古狐、大黒主命は白毛の古狸、ムカデ姫の腹の中には、アダムとエバの悪霊の裔なる大蛇の守護神がひそんでいる」と言う。高姫と空中の声は、「アオイエウ……」と言霊で掛け合いをする。
 濃霧が晴れ渡ると、一行の船は竜宮島のアンボイナの港に横付けになっていた。
名称
天の八衡彦命 お民* 久助* 貫州 スマートボール 高姫 ムカデ姫
悪魔 悪霊 アダム 艮の金神 エバ 大黒主命 大蛇 銀毛八尾の古狐 国治立尊 黒姫 言依別 探女 醜女 守護神 素盞鳴大神 月の大神 天地の神 野狐 野狸 野天狗 白毛の古狸 日の出神(高姫) 日の出神の生宮 変性男子 変性女子 曲津 曲津神 魔神 八岐大蛇 黄竜姫
アンボイナの港 現界 執着心 神界 聖地 地の高天原 一つ洲 弥勒神政 日本魂 竜宮島
 
本文    文字数=13364

第六章 アンボイナ島〔七三六〕

 高姫、蜈蚣姫を乗せたる船は、波のまにまに大小無数の嶋嶼を右に左に潜りつつ進み行く。俄に包む濃霧に咫尺を弁ぜず、このまま航海を続けむか、何時船を岩石に衝き当て破壊沈没の厄に会ふも知れざる破目になつて来た。流石の両婆アも船中の一同もはたと当惑し、何となく寂寥の気に充たされ、臍の辺りより喉元さして舞ひ上る熱き凝固は、螺旋状をなして体内を掻き乱すが如く、頭部は警鐘乱打の声聞え、天変地妖身の置き処も知らぬ思ひに悩まされた。何ともなく嫌らしき物音、鬼哭啾々として肌に粟を生じ心胆糸の如く細り、この上少しの風にも、玉の緒の糸の断絶せむばかりになり来たり。何処ともなく嫌らしき声、頭上に響き渡りぬ。
『アヽヽ飽迄我を立て徹す高姫、蜈蚣姫の両人、天の八衢彦命の言葉を耳を浚へてよつく聞け。汝は悪がまだ足らぬ。悪ならば悪でよいから徹底的の大悪になれ。大悪は即ち大善だ。汝の如き善悪混淆、反覆表裏常なき改慢心の大化物、これこそ真の悪であるぞよ。悪と云ふ事は万事万端、神界のために埒があく働きを言ふのだ。
イヽヽ嫌らしい声を聞かされて慄ひ上り、意気銷沈の意気地無し。今此処で慣用手段の日の出神を何故現さぬか。大黒主命はどうしたのだ。因循姑息、悪魔の我言に唯々諾々として畏服致すイカサマ宣伝使。てもいげち無い可憐らしい者だなア』
 高姫は直ちに、
『何れの神様か存じませぬが、
アヽヽ悪をやるなら大悪をせいとはチツトと聞えませぬ。善一筋の日本魂の生粋を立て貫くこの高姫。
イヽヽいつかないつかな、変性女子的貴女の言葉には賛成出来ませぬ。なア蜈蚣姫さま、お前さまもチツト、アフンとしていぢけて居らずに、アヽヽイヽヽアイ共に力を協せ、相槌を打つたらどうだい。こんな時こそ誠の神の御神力を現はさいで何時現はすのだ、アヽヽ、イヽヽ意気地のない人だなア』
 空中より怪しき声、
『ウヽヽ、煩さい代物だ。何処までも粘着性の強い高姫の執着、有無転変の世の中、今に逆とんぼりを打たねばならぬぞよ。言依別の教主に反抗致した酬い、眼は眩み波にとられた沖の船、何処にとりつく島もなく、九死一生のこの場合に立ち到つて、まだ改心が出来ぬか。
エヽヽ偉相に我ほどの者なきやうに申して世界中を股にかけ法螺を吹き捲り、誠の人間を迷はす曲津神の張本人、鼻ばかりの高姫が今日は断末魔、さてもさても可憐想な者だ。浮世に望みはないと口癖のやうに申しながら、その実、浮世に執着心最も深く、偉相に肩臂怒らし大声で嚇す夏の雷鳴婆ア……。
オヽヽ鬼とも蛇とも悪魔とも知れぬ性来に成りきりて居りても未だ気がつかぬか。恐ろしい執着心の鬼が角を生やしてその方の後を追つ掛け来り、今此処で往生させる大神の御経綸、尾を捲いて改心するのは今であらう。返答はどうだ』
 高姫は負けず、またもや、
『ウヽヽ煩さい事をおつしやるな。
エヽヽえたいの知れぬ声を出して、
オヽヽ嚇さうと思つても日の出神の生宮はいつかな いつかな、ソンナチヨツコイ事に往生は致しませぬぞ。一つ島の女王と聞えたる黄竜姫を、お産み遊ばした蜈蚣姫の姉妹分とも言はれたるこの高姫、何れの神か曲津か知らねども、チツトは物の分別を弁へたがよからうぞ』
 空中より、
『カヽヽ重ねて言ふな、聞く耳持たぬ。蛙の行列向ふ見ず、この先には山岳の如き巨大な蛙が現はれて、奸智に長けたる汝が身も魂も、ただ一口に噛み砕き亡ぼしてくれる仕組がしてあるぞ。叶はん時の神頼みと言つても、モウかうなつては駄目だ。神は聞きは致さぬから左様心得たがよからう。
キヽヽ危機一髪、機略縦横の高姫も最早手の下しやうもあるまい。気違ひじみた気焔を吐いたその酬い、気の毒なものだ。聞かねば聞くやうにして聞かすと申すのはこの事であるぞよ。
クヽヽ黒姫と腹を合せ、変性男子の系統を真向に振り翳し、神界の経綸を無茶苦茶に致した曲者、苦労の凝りの花が咲くと何時も申して居るが、神の道を砕く苦労の凝りの花は今愈咲きかけたぞよ。
ケヽヽ見当のとれぬ仕組だと申して遁辞を設け、誤魔化して来たその酬い。
コヽヽ堪へ袋の緒がきれかけたぞよ。聖地の神々を困らしぬいた狡猾至極の汝高姫、我と我心に問うて見よ。心一つの持ちやうで善にも悪にもなるぞよ。
サヽヽ探女醜女の両人、よくも揃うたものだ。サアこれからは蜈蚣姫の番だ。逆様事ばかりふれ廻り天下万民を苦しめた蜈蚣姫の一派。
シヽヽ思案をして見よ。神の申す言葉に少しの無理もないぞよ。皺苦茶婆アになつてから、娑婆に執着心を発揮し、死後の安住所を忘れ、獅子奮迅の勢を以て種々雑多の悪計を廻らしながら、至善至美至真の行動と誤解する痴者。
スヽヽ少しは胸に手を当てて見よ。素盞嗚大神の御精神を諒解せぬ間は、何程汝が焦慮るとも九分九厘で物事成就は致さぬぞよ。
セヽヽ背中に腹が代へられぬやうなこの場の仕儀、それでも未だ改心が出来ぬか。雪隠虫の高上り、世間知らずの大馬鹿者。
ソヽヽその方達二人が改心致さぬと、総ての者が総損ひになつて、まだまだ大騒動が起るぞよ。早々改心の実を示せ。そうでなければ今此処でソグり立ててやらうか』
『ソヽヽそれは、マア一寸待つて下さい。それほど妾の考へが違つて居ますか。この蜈蚣姫は明けても暮れても、神様のため、世界のため、人民を助けるために、苦労艱難を致して居る善の鑑と堅く信じて居ります。それが妾の生命だ。何れの神か悪魔か知らねども、我々の心が分らぬとは実に残念至極だ。粗忽しい、観察をせずに、もうチツト真面目に妾の腹の底を調べて下さい』
 空中より、
『タヽヽ叩くな叩くな、腹の中をタヽヽ断ち割つて調べてやらうか。高姫も同様だぞ、汝の腹の中は千里奥山古狸の棲処となつて居る。日の出神と名乗る奴は銀毛八尾の古狐の眷族だ。大黒主と名乗る奴は三千年の劫を経たる白毛の古狸だ。また蜈蚣姫の腹中に潜む魔神はアダム、エバの悪霊の裔なる大蛇の守護神だ。
チヽヽ違ふと思ふなら、今此処で正体を現はさうか。地の高天原を蹂躙せむと、汝等両人の体内を借つて仕組んで居るのだ。汝はそれも知らずに誠一つと思ひつめ、自分の身魂に自惚し、最善と感じつつ最悪の行動を敢へてする、天下の曲津神となつて居るのに気がつかぬか。
ツヽヽつまらぬ妨げを致すより、月の大神の心になり、心の底より悔悟して。
テヽヽ天地の神にお詫を致せ。
トヽヽトンボ返りを打たぬうち、トツクリと思案を致し、トコトン身魂の洗濯を励むが肝腎だぞよ。
ナヽヽ何と申してもその方等は曲津の容器。弥勒神政の太柱は地の高天原に、神世の昔より定められた身魂が儼然として現はれ給ふ。何ほどその方が焦慮つても、もう駄目だ。
ニヽヽ二階から目薬をさすやうな頼りのない法螺を吹き廻るより、生れ赤子の心になつて言依別の教主の仰せを守れ。
ヌヽヽヌーボー式の言依別だと何時も悪口を申すが、その方こそは言依別の神徳を横奪せむとする、ヌースー式の張本人だ。
ネヽヽ熱心な信者を誤魔化し、蛇が蛙を狙ふやうに熱烈なる破壊運動を致す侫人輩。
ノヽヽ野天狗、野狐、野狸のやうな野太い代物。喉から血を吐きもつて、折角作り上げた誠の魂を攪乱致す野太い代物。下らぬ望みを起すよりも良い加減に往生致したらどうだ』
 高姫は、
『もうもう十分です。
ハヽヽハラハラします。腹が立つて歯がガチガチしだした。早くしようも無い事は、もうきりあげて下さい。
ヒヽヽ日の出神の生宮が堪忍袋の緒を切らしたら、何程偉い神でも堪りませぬぞ。
フヽヽ不都合千万な、この方の行動を非難するとは何れの神だ。
ヘヽヽ屁でもない理屈を並べて閉口さそうと思うても……ン……この高姫さまは一寸お手には合ひませぬワイ。
ホヽヽほんに訳の分らぬ廻しものだ。こんな海の中へ我々を引張り出し、一寸先も見えぬやうな濃霧に包んで置いて、暗がりに鶏の頸を捻ぢるやうな卑怯な計略、その手は喰はぬぞ。
マヽヽ曲津の張本。
ミヽヽ身のほど知らずの盲目神。
ムヽヽ蜈蚣姫と高姫が。
メヽヽ各自に神力のあらむ限りを発揮して。
モヽヽ耄碌神のその方を脆くも退治して見せよう。
ヤヽヽ八岐大蛇だの、狐だの、狸だのとは何たる暴言ぞ。
イヽヽ意地気根の悪い。
ユヽヽ油断のならぬ胡散な痴呆もの。
エヽヽえー邪魔臭い。
ヨヽヽよくも、ヨタリスクを並べよつたな、ようも悪魔の変化奴。
ラヽヽ乱臣賊子、サア正体を現はせ、勇気凛々たる日の出神の生宮、大自在天の太柱、グヅグヅ吐すと貴様の素首を引き抜いてラリルレロとトンボリ返しを打たしてやらうか』
 空中より一層大きな声で、
『ワヽヽ笑はせやがるワイ。我身知らずの馬鹿者共、手のつけやうのない困つた代物だ。
ヰヽヽ何程言うても合点の往かぬ歪み根性の高姫、蜈蚣姫。
ウヽヽ煩さくなつて来たワイ。艮の金神国治立尊の御前に我はこれより奏上せむ。
ヱヽヽ襟を正して謹聴して待つて居らう。やがて御沙汰が下るであらう。
ヲヽヽ臆病風に誘はれてヲドヲドしながら、まだ。
ガヽヽ我の強い。
ギヽヽぎりぎりになるまで。
グヽヽ愚図々々致して居ると。
ゲヽヽ現界は愚か。
ゴヽヽ後生のために成らないぞ。
ザヽヽ態さらされて。
ジヽヽジタバタするよりも。
ズヽヽ図々しい態度を改め。
ゼヽヽ前非を悔い改心致して。
ゾヽヽ造次にも顛沛にもお詫を致せ。
ダヽヽ騙し歩いた。
ヂヽヽ自身の罪を。
ヅヽヽ津々浦々まで白状致して廻り、玉に対する執着心を只今限り綺麗薩張この海に流してしまへ。さうしてしまへばまた神の道に使つてやるまいものでもない。
デヽヽデンデン虫の角突き合ひのやうな小さな喧嘩を致し。
ドヽヽ如何してそんな事で神界の御用が勤まると思ふか。
バヽヽ婆の癖に馬鹿な真似を致すと終には糞垂れるぞよ。
ビヽヽ貧乏揺ぎもならぬやうになりてから。
ブヽヽブツブツと水の中に屁を放いたやうな小言を申しても。
ベヽヽ弁舌を何程巧に致しても。
ボヽヽ木瓜の花だ、誰も相手になる者はないぞよ。
パヽヽパチクリと目を白黒致して。
ピヽヽピンピン跳ねても、キリキリ舞ひを致しても。
プヽヽプンと放いた屁ほどの効力も無いぞよ。
ペヽヽペンペン跳ねても。
ポヽヽポンポン言つても、もう日の出神も通用致さぬから覚悟をしたがよからう。汝果たして日の出神ならば、この濃霧を霽らし、天日の光を自ら浴びて船の方向を定め、アンボイナの聖地に渡れ。その時また結構な教訓を授けてやらう』
 高姫、蜈蚣姫は返す言葉も無く、船の中に両手を合せ、負けぬ気の鬼に妨げられて謝罪り言葉も出さず、俯向いて謝罪と片意地との中間的態度を執つて居た。何時しか濃霧は霽れた。よくよく見れば船は何時の間にやら南洋一の聖地、竜宮島と聞えたるアンボイナの港に横着けになり居たりける。

(大正一一・七・二 旧閏五・八 北村隆光録)



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