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原著名出版年月表題作者その他
物語24-1-41922/07如意宝珠亥 一洲の女王王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
竜宮の一つ洲
あらすじ
 チヤンキー、モンキーに襲われたのは小糸姫の夢であった。しかし、三人の乗った船は荒波にもまれ、岩に衝突して難破した。チヤンキー、モンキーは行方不明となった。そこへ、四人の女を乗せた船が通りかかり、小糸姫を助けた。夢の通りになったのだ。
 小糸姫は「竜宮洲の女王となる」と腹を据えている。五十子姫、今子姫、梅子姫、宇豆姫の四人の宣伝使は、「小糸姫なら女王に適任だ」と、三五教の教理を教え込んだ。
 五人は竜宮の一つ洲へ安着した。萱野ケ原で天津祝詞を唱えていると、島民は「天津乙女が天上より降りられた」と拝んでいる。そこへ、大男のブランジーが多くの部下を連れてやって来て、五人に詰問したが、結局、小糸姫に帰順する。
 それからは、五人は一つ洲の花となり、三五教の教えは島内に行き渡り、島は地恩郷と改称された。小糸姫は女王となり、黄竜姫と改名した。
 実は、ブランジーは高山彦、クロンバーは黒姫であった。二人は高姫に聖地を追い出されてから、玉を捜して、一つ洲に来て2年間探していたのだった。黒姫が黄竜姫に玉の行方を尋ねると、黄竜姫は「玉は、自転倒島のある地点に隠してあるが、発掘は不可能だ。玉に対する執着心を捨てなさい」と答えた。黒姫は「いったん聖地へ帰り、言依別を追い出して、三五教を立て直したい」と言いながら、荒れ狂い、高山彦に手をひかれながら自分の館へ帰った。
名称
五十子姫 今子姫 宇豆姫 梅子姫 クロンバー 小糸姫 数百人の荒男 ブランジー
天津神 天津乙女 鬼熊別 鬼雲彦 大蛇 片彦 釘彦 国治立大神 黒姫! 言依別 守護神 神素盞鳴大神 高姫 高山彦! 棚機姫 友彦 天の太玉宣伝使 枉神 魔神 至仁至愛の神 八乙女 竜宮の乙姫の生宮 黄竜姫!
天津祝詞 エルサレム 自転倒島 萱野ケ原 クスの港 顕恩郷 黄金の玉 言霊 金剛不壊 執着心 精神的天国 聖地 立直し 地恩郷 天眼力 ニユージーランド 如意宝珠 バラモン教 一つ島 真秀良場 紫の玉 メソポタミヤ 竜宮洲 竜宮の一つ洲
 
本文    文字数=15661

第四章 一島の女王〔七三四〕

 今迄皎々たる浄玻璃の月は忽ち黒雲に蔽はれ、満天の星光は瞬く中に雲の帳に包まれた。海面は俄に薄闇く、暴風忽ち臻り、小舟を波のまにまに翻弄虐待する。船底に横たはり以前の夢を見て居た小糸姫は驚いて目を瞠り、
『アヽ大変な恐ろしい夢を見た。……これ船頭さま、俄に闇くなつたぢやないか、此処は一体何と言ふ所だなア?』
『あまり暗くて薩張り見当がとれなくなりました。しかし大方ニユージーランドの近辺だと思ひます。波は刻々に高くなり、もうこの上は風に任して行く処までやるより仕方がありませぬ。かう言ふ時にバラモン教のお経を唱へて下さつたら、チツトは風も凪ぎませう。お姫様、どうぞ神様に願つて下さいな』
『この通り風が吹き波が荒く立ち騒ぎ……櫓櫂の方に一生懸命に力を入れてくれる方が妾に取つて何程安全だか知れませぬよ。最前の夢のやうな目に会はされては迷惑だから……』
『夢にドンナ目に会はれましたな?』
と言ひながら一生懸命に櫓を漕いで居る。山岳の如き波の間を、船は木の葉の風に散る如く浮きつ沈みつ、荒波の翻弄に任すより途はなかつた。忽ち巨大なる音響と共に船は一つの岩山に衝突し、滅茶々々になつてしまつた。小糸姫は辛うじて壁を立てた如き岩に壁蝨のやうに喰ひつき、運を天に任し経文を唱へて居る。二人の男はどうなつたか浪の音に遮られ、一声さへも聞く事が出来なかつた。一時ばかり経つと思ふ頃、空を包みし黒雲は拭ふが如く晴れ、風は凪ぎ、浪静まり、魚鱗の月光は海上一面に不知火の如く瞬き初めた。かかる所へ四人の女を乗せた一艘の小舟、島影より悠々と現はれ来り、小糸姫が叫ぶ声を聞きつけ、中の一人は棹をさし述べ漸々にして小糸姫を船中に救ひ上げた。二人の男の影は目に当らなかつた。小糸姫は疲労の結果、船底に横たはつたまま二時、三時ばかり顔を得上げず、礼をも言はず蟹の如うな泡を吹いて苦しみ居たり。

 メソポタミヤの顕恩郷  鬼雲彦が本城に
 種々雑多と身を窶し  神素盞嗚大神の
 御言畏み八乙女が  鬼雲彦の側近く
 仕へ待りてバラモンの  悪逆無道を立直し
 国治立の大神の  至仁至愛の御息より
 現はれ出でたる三五の  神の教に服はせ
 名実叶ふ顕恩の  郷の昔に復さむと
 心を配る折柄に  天の太玉宣伝使
 数多の司を伴ひて  顕恩城に入り来り
 言霊戦を開始して  鬼雲彦の大棟梁
 その他の魔神を伊照らせば  忽ち大蛇と身を変じ
 雲を起して遁げ去りぬ  天の太玉宣伝使
 顕恩郷を掌り  此処に八人の乙女子は
 天地四方の国々に  三五教の御教を
 宣べ伝へんと手を別けて  荒野を彷徨ふ折柄に
 バラモン教の枉神に  嗅出されて捕へられ
 いたいけ盛りの姉妹は  半破れし釣舟に
 投げ入れられて浪の上  何処を当てと定めなく
 漂ひ来る折柄に  大海中に突き立てる
 岩ばかりなる一つ島  辺に漕ぎ着き眺むれば
 何れの人か知らねども  年端も行かぬ真娘
 岩に喰ひ付き声限り  救ひを求めて叫び居る
 仁慈無限の五十子姫は  三人の女子と諸共に
 言はず語らず心合ひ  棹を延ばして救ひあげ
 互に櫓櫂を操りつ  風に送られ西南
 竜宮島を指して行く  あゝ惟神々々
 霊の幸を隈もなく  世人の上に照らします
 至仁至愛の神の御救ひに  小糸の姫は生きかへり
 撥ね返りたる心地して  朝日の豊栄昇る頃
 漸く頭を抬げける  四辺を見れば四柱の
 顕恩郷に見覚えの  娘と見るより仰天し
 しばし言葉も無かりしが  漸く心落ち着けて
 『あゝ訝かしやいぶかしや  夢か現か幻か
 五十子の姫や梅子姫  御供の宇豆姫、今子姫
 貴女は何故海原に  彷徨ひ来り在しますぞ
 これには深き理由の  在するならむ詳細に
 宣らせ給へ』と手を合せ  胸もどきどき問ひかくる。

 五十子姫は小糸姫に向ひ、
『貴女は顕恩郷の鬼熊別様のお娘子、どうして、マア斯様な処へお越しなされましたか。さうして友彦様はどう遊ばしましたか』
『それよりも貴女等四人様、斯様な処へ御船に乗つてお越し遊ばすとは合点が参りませぬ。何の御用で何処へ御いでになりますか、お聞かせ下さいませな』
『これには深い仔細がございまする。何れゆるゆる聞いて頂きませうが、貴女からどうぞ先へお口開きを願ひます』
 小糸姫は『ハイ』と答へて、顕恩郷を出でしよりその後友彦に別れ、此処迄逃げ来りし一伍一什の顛末を包み隠さず述べ立てた。四人は年にも似合はぬ小糸姫の悪竦にして豪胆なるに舌を捲きける。
 梅子姫は呆れ顔にて、
『随分貴女も人格がお変りになりましたね』
『さうでせうとも、妾は竜宮の一つ島の未来の女王ですから、今迄のやうな嬢や坊では数多の国人を治める事は出来ませぬ』
と未だ島影さへも見えぬ内から、早くも竜宮島を腹に呑んで居る豪胆不敵の女なり。
 五十子姫、梅子姫は善悪はともかく、野蛮未開の地の女王としては最適任ならむ、この船に乗つたのを幸ひ竜宮島に到着する幾多の日数を応用して三五教の教理を体得せしめ、精神的天国を建設せしめむと早くも心に定め……顕恩郷を立ち出で、三五教の教理を四方に宣伝せむとする時しも、バラモン教の片彦、釘彦一派に捕へられ、此海に漂流し来りし事の顛末を細さに物語り、互に敵味方の障壁を除却し、一蓮托生の船の上にて遂に首尾よく小糸姫に三五教の教理を植付けた。
 小糸姫は船中より已に女王気取で五十子姫、梅子姫を顧問か参謀のやうに独り定めにしてしまつた。今子姫、宇豆姫は自分の小使として待遇して居た。五十子姫、梅子姫は良き機関を得たりと喜び、表面十六才の阿婆摺れ娘の小糸姫を首領と定め、漸くにして五人の女は竜宮島のクスの港に無事到着し、船を岸辺に繋ぎ、五人は宣伝歌を歌ひながらさしもに広き一つ島を足に任せて進み行く。日は漸く没して四方闇黒に包まれ、五人はとある谷川の辺に蓑を敷き安々と寝に就きけり。
 猛獣の声は山岳も揺ぐばかり唸り出した。豪胆不敵の五人の女は松風の音か琴の音位に軽く見做し、その声を就寝の栞とし、他愛も無く此処に一夜を明した。四辺の果実をむしりて腹を拵へ、草茫々と身を没するばかりの谷道を宣伝歌の声に木霊を響かせながら、進み進みて或る一つの平坦なる部落に出たり。山と山とに包まれたる摺鉢の底のやうな稍広き原野と山腹に穴を穿ち、炭焼竈のやうに各戸煙をボウボウと立てて居る。五人は原野の中央にある小高き大岩の上に登り、声を限りに天津祝詞を奏上し宣伝歌を歌ひ出した。この声に驚いてか、山腹の数限りもなき穴より色の黒き老若男女一つの穴より或は五人或は十人、二十人と這ひ出で各柄物を手にし、五人の立てる大岩の周囲に蟻の如く群がり集まつた。此処は一つ島にても稍都会と聞えたる萱野ケ原といふ処であつた。一同は色白き五人の美女が岩上に立てる姿を見て、天津乙女の天上より降り給ひしものと固く信じ随喜の涙を流しながら、四方八方より掌を合せ拝跪敬礼して居る。
 かかる処へ山奥より法螺貝の声「ブウブウ」と響き渡り、見れば数百人の荒男を率ゐた大男駻馬に跨がり、ツカツカとこの場に現はれ来り、
『ヤア、汝は何れの国より漂着してうせた。この一つ島は、他国人の上陸を許さざる秘密境だ。誰の許可を得て出てうせた。速にその岩を下り一々事情を申し伝へよ』
 小糸姫は泰然自若、満面に笑を湛へて大男の一行を看守つた。四人の宣伝使も同じく両手を組み合せ、儼然として小糸姫の両脇に立ち、一同の顔を打ち看守つた。大の男は声荒らげ、
『この方は一つ島の大棟梁ブランジーと言ふ者である。この方の威勢に恐れぬか。一時も早く座を下り我等が縛につけ』
と鬼の如き眼を光らしグツと睨めつけたるを、小糸姫は莞爾と笑ひ、
『愚なりブランジー、妾は天津神の命を受け、只今四柱の従者を率ゐ、五色の雲に乗りこの一つ島に天降りしものぞ。この国は妾が治むべき神の定めの真秀良場なれば今日より妾に誠心を捧げて仕ふるか。さもなくば、天譴を下して槍の雨を降らせ、雷の弾を以て懲戒のため汝等を打滅しくれむ。返答如何に』
とキツと言ひ渡せば、流石のブランジーも崇高なる女の姿に首を傾け、しばし思案に暮れて居た。数百人の荒男は武装のまま大地に平伏し、五人に向つて萱野ケ原の住民と共に両手を合せ随喜の涙に暮れて居る。ブランジーはこの光景を見て我を折り、またもや馬を下り大地に平伏して帰順の意を表したり。小糸姫は言葉淑やかに、
『汝は天津乙女の棚機姫に帰順せし徳によつて、妾が従司となし重く用ひむ。飽迄も誠を以て吾等に仕へよ』
と巧く言霊を応用すれば一同は感に打たれ、五人の宣伝使を神人と敬ひ、前後を護りて稍展開せる美はしき原野の中の都会に導き、広殿に五人を迎へて心よりの馳走を拵へ、いと懇に誠意を表したりける。
 茲に五人は一つ島の花と謳はれ、三五の神の教を四方に宣伝し、その驍名は全島に轟き渡りけり。此処をこれより地恩郷と命名し、小糸姫は遂に島人に挙げられて女王となり黄竜姫と改名する事となりける。
 茲に五十子姫は今子姫を従へ、梅子姫、宇豆姫を小糸姫が左右に侍せしめ、自転倒島さして神素盞嗚大神の御跡を慕ひ進み渡る事となりぬ。ブランジーの妻にクロンバーといふ女あり。夫婦何れも五十の坂を四つ五つ越えたる年輩なり。ブランジーはクロンバーと共に今は黄竜姫の宰相役となり、遠近にその名を轟かして居た。クロンバーはある時黄竜姫に拝謁を乞ひ奥の間近く進み入り、
『黄竜姫様に折入つてお願ひがございます。妾の夫ブランジーは貴女様のお見出しに預り、宰相として恩寵を辱なうし、この島においては飛ぶ鳥も落す勢となりました。クロンバー身にとり有難く御礼の申し上げやうもございませぬ。御存じの通り大男の不束者でございますれば、どうぞ御見捨てなく末永く使つてやつて下さいませ。妾は実はこの島の生れではなく、聖地エルサレムに仕へて居りました者でございますが、大切なる玉の紛失せしためその所在を探ねむと、竜宮の乙姫様の生宮として今年で殆ど満二年、残る隈なく探せども今に所在は分らず、何卒々々貴女の天眼力を以て御示し下さらば有り難うございます』
 黄竜姫は厳然として、
『これは珍らしき汝の願ひ、その玉と申すは如何なる玉なるぞ』
『ハイ、左様でございます。金剛不壊の如意宝珠に黄金の玉、紫の玉の三つの御宝でございます。今迄は自転倒島の三五教の東本山に納めありし処、何者にか盗み取られ今に行方が分りませぬ。黄金の玉は妾が保管致して居りました所、何者にか盗み出され、また残り二つの玉は噂に聞けばこれまた行方不明との事、どうぞ貴女の御神力を以て、この島の何れの地点にあるやお示し下さらば有り難う存じます』
 黄竜姫はさも鷹揚さうに微笑みながら、
『その宝玉はこの竜宮島には隠しては無い。自転倒島のある地点に隠しあり、容易に発掘すべからず、最早汝は玉に対する執着心を離れ、ブランジーと共に誠心を尽して国務に奉仕したがよからう』
と言ひ捨て逃ぐるが如く奥殿に姿を隠してしまつた。後にクロンバーは独言、
『アーア、仕方がない。黄金の玉を紛失し、高姫様に叱り飛ばされ、守護神の囁きによつて竜宮の一つ島に隠しあると聞き、此処まで探ねて来たものの、この広き島に三年や五年国人を使うて探して見た処で雲を掴むやうな咄し、黄竜姫様のお言葉によれば三つの宝はこの島には無いとの事、どうしたらよからうか。彼の玉無き時はどうしても聖地に帰り高姫様に会はす顔がない。この黒姫は夫高山彦と共にブランジー、クロンバーと外国様に名を変へてこの島に居るものの、もうかうなつては何程結構な役を仰せ付けられても聖地に比ぶれば物の数でも無い。アヽ早く帰りたいものだナア』
と語る折しもブランジーはこの場に現はれ、
『ヤア黒姫、早く館へ帰らうぢやないか。黄竜姫様の御機嫌を損ねてはならないぞ』
『高山さま、何をおつしやる、もう妾はこの島が嫌になりました。何程探したとてこの広い島に手掛りの出来る筈がありませぬ。この上は破れかぶれ、一旦聖地へ立ち帰り、三五教を根本より立直し、言依別の教主を追つ放り出さねば虫が得心致しませぬ。我々夫婦が波濤万里のこの島へ来て苦労するのも、皆言依別のためではありませぬか、エヽ残念や、口惜や、妾はもう破れかぶれ、これから狂乱になりますからその積りで居て下さい』
『ハヽヽヽヽ、また何時もの疳癪病が突発したのか。マアマア宅へ帰つて、酒でもゆつくり飲んでその上の事にしようかい』
と背を三つ四つ打ち、クロンバーの手を引いて己が館へ帰り行く。

(大正一一・六・一四 旧五・一九 北村隆光録)



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