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原著名出版年月表題作者その他
物語23-3-91922/06如意宝珠戌 高姫騒王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
紀の国若彦館
あらすじ
 若彦の館に玉能姫がやって来るが、名を名のらず、門番も玄関番の久助も分らないので中に入れようとしない。玉能姫は委細かまわず中に入り若彦と会う。
 若彦は「神業のためには、勝手に会えない」と言うが、玉能姫は「高姫は若彦と自分が共謀して玉を隠していると思っている。そこで、計略を立てて、毒入りの食べ物を持って若彦館に来るので、気をつけるように」と告げる。
 高姫がやって来て、玉能姫を見つけ、「玉を出せ」と迫る。玉能姫は「三十万年は口外できない。自分で日の出神に願い、天眼通で見つけよ」と言う。
 そこへ、木山彦、木山姫、秋彦、駒彦、常楠、お久、虻公、蜂公が訪ねてくる。高姫は、一行が若彦と共謀していると勘違いし、秋彦、駒彦を引き倒す。それに怒った常楠は高姫を館から放り出した。
名称
秋公 秋彦 虻公 お久 久助 木山彦 木山姫 駒彦 七五三公 高姫 玉能姫 常楠 蜂公 若彦
青彦! お節! 大神 言依別 日の出神(高姫) 日の出神の生宮!
生田の森 紀の国 熊野 三個の神宝 三十万年 聖地 体主霊従 天眼通 再度山 三千年 日本魂
 
本文    文字数=20008

第九章 高姫騒〔七二一〕

 若彦の門を潜つて入り来る一人の美人があつた。門番の秋公、七五三公の両人はこの姿を見て、
秋公『モシモシ、何処のお女中か知りませぬが、何の御用でござるか、門番の私に一応御用の趣を聞かして下さいませ』
女『少しく様子あつて……ともかく主人に会ひたうございますから』
七五三公『名も分らぬ女を通す事は罷り成りませぬ』
女『お前は此処の門番ではないか、妾が如何なる者か分らぬやうな事で、門番が勤まりますか』
とたしなめながら、足早に奥深く進み入つた。
七五三公『アヽ薩張駄目だ、女と言ふ奴は押し尻の強いものだ。しかし彼奴は何処ともなしに気品の高い女であつたが一体何だらうかなア』
秋公『ひよつとしたら大将のレコかも知れぬぞ』
と小指を出して見せる。
七五三公『当家の大将に限つてそんな者があつて堪らうかい。玉能姫様と言ふ立派な奥様があるのだが、今は再度山の麓の生田の森に、三五教の館を建てて熱心に活動して居られると言ふ事だ。御夫婦は遥々国を隔てて忠実に御神業をなさると言つて、大変な評判だから、そんな事があつて堪るものか』
秋公『さうだと言つて思案の外と言ふ事がある。ひよつとしたら玉能姫さまが御入来になつたのぢやあるまいかな』
七五三公『馬鹿を言へ、玉能姫様がどうして一人お入来になるものか。少なくとも一人や二人のお供は、屹度従いて居らねばならぬ筈だ』
秋彦『そこが……微行と言ふ事がある。きつと大将が恋しくなつて、御微行と出掛けられたのだらう』
と門番は美人の噂に有頂天になつて居る。
 美人は奥深く進み入り玄関先に立ち、小声になつて、
女『若彦様は御在宅でございますか』
と訪うた。玄関番の久助はこの声に走り出で、
久助『ハイ、若彦の御主人は今奥に居られます。誰方でございますか、御名を聞かして下さいませ』
女『少しく名は申し上げられぬ仔細がございます。お会ひ申しさへすれば分りますから、どうぞ「女が一人お訪ねに参つた」と伝へて下さいませ』
久助『私は姓名を承はらずにお取次を致しますると、大変に叱られますから、どうぞ名を言つて下さい、さうでなければお取次は絶対に出来ませぬ』
女『左様なれば妾から進んでお目にかかるべく通りませう』
久助『これは怪しからぬ事をおつしやる。此処は私の関所、さう無暗に通る事は罷りなりませぬ』
女『左様なれば取次いで下さいませ』
久助『見れば貴女は相当の人格者と見えるが、私の言ふ事が分りませぬか。玄関番は玄関番としての職責を守らねばなりませぬから、何程通して上げたくとも、姓名の分らない方は化物だか何だか知れませぬ。気の毒ながらどうぞお帰り下さいませ』
 美人は稍声を高め、
女『コレ久助、お前はまだ聖地に上つた事もなく、生田の森へ来た事も無いので分らぬのも無理はないが、名を名告らずとも玄関番をして居る位なら、大抵分りさうなものだ。何と言つても妾は通るのだから邪魔をして下さるな』
と何処やらに強味のある言ひ振り。
 久助は首を傾け、
久助『ハテナ、貴女は奥様ではございませぬか。ア、いやいや奥様ではあるまい。尊き玉能姫様は結構な御神業を遊ばして、今では女房とは言ひながら、格式がズツと上になられ、当家の御主人様も容易にお側へ寄れないと言ふ事だ。そんな立派な方が供を連れずに、軽々しく一人御入来遊ばす道理がない。アヽ此奴は、てつきり魔性のものだ。……こりやこりや女、絶対に通る事は罷りならぬぞ』
と大声に呶鳴りつけてゐる。若彦は久助の大声に何事の起りしかと、座を起つてこの場に現はれ来り、美人の姿を見て打ち驚き、
『ア、お前は玉……』
と言ひかけて俄に口をつぐみ、居直つて、
『何れの女中か存じませぬが、どうぞ奥へお通り下さいませ』
女『ハイ、有り難うございます。御神務御多忙の中を御邪魔に上りまして、誠に御迷惑様でございませう。左様なればお言葉に従ひ、奥に通して頂きませう』
若彦『サア私に従いて御入来なさいませ。コレ久助、お前は此処にしつかりと玄関番をして居るのだよ、一足も奥へ来てはいけないから』
と言ひ捨てて両人は奥の間に姿を隠した。後見送つた久助は首を稍左方に傾け舌を斜に噛み出し、妙な目付をして合点の往かぬ面持にて天井を眺めて居る。若彦は奥の間に女と二人静かに座を占め、
若彦『貴方は玉能姫殿ではござらぬか。大切な御神業に奉仕しながら、何故案内も無く一人で此処へお入来になりましたか。私は神様へ誓つた以上、貴女とこの館で面会する事は思ひも寄りませぬ』
玉能姫『お言葉は御尤もでございますが、これには深い仔細があつて参りました。貴方の御存じの通り、言依別様より大切な神業を命ぜられ、次で生田の森の館の主人となりましたが、それに就いて高姫さまの部下に仕へて居る人達が、「三個の神宝は、屹度妾と貴方とが申し合せ当館に隠してあるに相違ないから、若彦の生命をとつてでも、その神宝の所在を白状させねばならぬ」と言つて、大変な陰謀を企てて居りますから、妾もそれを聞いて心落ち着かず、何にも御存じの無い貴方に御迷惑を掛けては、妻たる妾の責任が済むまいと思つて、長途の旅をただ一人忍んで御報告に参りました』
若彦『左様でござつたか。それは御親切に有難うございます。しかしながら何事も神様に任した私、仮令高姫が如何なる企みを以て参りませうとも、神様のお力によつて切り抜ける覚悟でございます。どうぞ御安心の上、休息なされたら一時も早くお帰り下さいませ。万一この事が他に洩れましてはお互の迷惑「若彦、玉能姫は立派な者だと思つて居たのに、矢張人目を忍んで夫婦が会合して居る」と言はれてはなりませぬから、教主のお許しあるまでは絶対にお目にかかる事は出来ませぬ。その代り私も何処までも独身で道を守つて居りますから、御安心下さいませ』
玉能姫『貴方に限つて左様な気遣ひは要りますものか。互に心の裡は信用し合つた仲ですから、決して決して左様なさもしい心は起しませぬ。御承知でございませうが何れ遠からぬ中、高姫さまか、または部下の方々が食物を以て見えませうから、決してお食りになつてはなりませぬ。これだけは特にお願ひ致して置きます』
若彦『ハイ、有り難うございます、何から何まで御注意下さいまして御親切の段、何時迄も忘却致しませぬ』
 玉能姫は嬉し気に若彦の言葉を聞いて笑顔を作り、嬉し涙を滲ませて居る。
 かかる処へ玄関に当つて争ひの声おいおい高くなつて来る。二人は何事ならんと耳を澄ませ聞き入れば、高姫の癇声として、
『此処へ玉能姫が来たであらう』
久助の声『イヤイヤ決して決して女らしい者は一人も来ませぬ。この館は御主人の命令によつて当分の間、女は禁制でござる』
高姫の声『何と言つて隠してもチヤンと門番に聞いて来たのだ。女が一人此処へ這入つて来た筈だ、上も下も心を合せ、しやうも無い女を引き摺り込み、体主霊従のあり丈けを尽し、表面は誠らしく見せて居る若彦の企みであらう。彼奴は青彦と言つて、妾が育ててやつた男だ。エー、通すも通さぬもあるか、言はば弟子の館に師匠が来たのだ。邪魔致すな』
と呶鳴り立て、久助の止むるを振り払ひ、三四人の男を玄関に待たせ置き、畳を足にて強く威喝させながら若彦の居間に進み来り、
高姫『オホヽヽヽ、若彦さま、悪い処へカシヤ婆が参りまして誠に御迷惑様、折角意茶つかうと思ひなさつた処を、風流気の無い皺苦茶婆が這入つて来て、折角の興を醒ましました。お前さまは羊頭を掲げて狗肉を売る山師のやうな宣伝使ぢや。玉能姫殿、この高姫の眼力に違はず、表面は立派な事を……ヘン……おつしやつて言依別の教主を誤魔化してござつたが、今日の醜態は何でござりますか。貴方の御身分で一人の伴も連れずに、大切な神業を遊ばす夫の側へ忍んで来るとは、実に立派な貴方の行ひ、高姫も実に感心致しました。本当に凄いお腕前、爪の垢でも煎じて頂きたうございますワ。オホヽヽヽ』
若彦『これはこれは高姫様、遠方の所ようこそいらせられました』
高姫『よう来たのでは無い、悪く来たのですよ。お前さまも気持良く楽しまうと思つて居た処へ、皺苦茶婆アがやつて来て、折角の楽しみを滅茶々々にされて胸が悪いでせう。月に村雲、花には嵐、世の中は思ふやうには往きますまいがな。西は妹山、東は背山、中を隔つる高姫川、本当に悪い奴が出て参りました。コレコレ玉能姫さま、恥かし相に赭い顔して何ぢやいな。阿婆擦女の癖に、殊勝らしう見せようと思つて、そんな芝居をしても、他のお方は誤魔化されませうが、この高姫に限つてその手は喰ひませぬぞエ。「その手でお釈迦の顔撫でた」と言ふのはお前さまの事だ。アヽア怖い怖い、こりや一通りの狸ではあるまい。愚図々々して居ると高姫の睾丸……オツトドツコイ……胆玉まで抜かれますワイ』
玉能姫『これはこれは高姫様、遠方の処御苦労様でございました。今承はれば貴方は色々と我々夫婦の事に就いて、誤解をして居らつしやいますが、決して左様な考へを以て来たのではございませぬ』
高姫『そんな事は今々の信者におつしやる事だ。蹴爪の生えた高姫には、根つから通用致しませぬワイなア』
と小面憎気に頤をしやくつて見せる。玉能姫は返す言葉も無く迷惑相に俯向いて居る。
高姫『コレ、玉能姫さま、イヤお節さま、悪い事は出来ますまいがな。誠水晶の生粋の日本魂ぢやと教主が見込んで、大切な御神業を言ひ付けられた貴女の精神が、さうグラ付くやうな事ではどうなりますか。妾はこれから貴女の夫婦会合を実地に目撃した証拠人だから、三五教一般に報告致しまして信者大会を開き、お前さまの御用を取上げてしまはねば、折角大神様の三千年の御苦労も水の泡になります。サアどうぢや、返答をしなされ。三つの玉は何処へ隠してある。それを聞かねば、お前さまのやうなグラグラする瓢箪鯰には秘密は守れませぬ。サア玉能姫さま、若彦さま、夫婦共謀してドハイカラの言依別を誤魔化して居つたが、最早化けの現はれ時、何と言つても高姫が承知しませぬぞエ。一般に報告されるのが苦しければ……魚心あれば水心ありとやら……この高姫も血もあれば涙もある。決してお前さま達の御迷惑を見て、心地よいとは滅多に思ひませぬ。サア玉能姫さま、お前さまはチツと妾の言ひやうが強うて腹も立つであらうが、そこは神直日大直日に見直し聞き直して、御神宝の所在を妾にソツと言つて下さい。さうすればお前さま等夫婦のアラも分らず、妾もまた誠の御神業が出来て結構だから』
玉能姫『妾は一度教主様から玉はお預り致しましたが、不思議な方が現はれて遠い国へ持つて行かれましたから、実際の事は何処に隠されてあるか、妾風情が分つて堪りますか。また仮令知つて居りましても、三十万年の間は口外は出来ない事になつて居りますから、そればかりはどうおつしやつても申し上げられませぬ。どうぞ貴女の天眼通と日の出神の御守護とで、玉の所在を御発見なさるがよろしうございませう』
高姫『エー、ツベコベと小理屈を言ふ方ぢやなア。そんな事を勿体ない、日の出神に御苦労を掛けたり、天眼通を使うて堪りますか。お前さまがただ一言「こうこうぢや」と言ひさへすれば良いぢやないか』
若彦『現在夫の私にさへもおつしやらぬのですから、何程お尋ねになつても駄目ですよ』
高姫『エー、お前までが横槍を入れるものぢやない。夫婦が腹を合して隠して居るのであらう。そんな事はチヤーンと分つて居るのだ』
 若彦は稍語気を荒らげ、
若彦『知つて居るのなら何故貴女勝手にお探しなさらぬか。貴女のおつしやる事は矛盾撞着脱線だらけぢやありませぬか』
高姫『脱線とはお前の事だ。教主の御命令があるまで夫婦顔を合さぬと誓ひながら、今日の脱線振りは何の事だ。矛盾撞着はお前等夫婦の事ぢやないか。余り人の事をけなすと屑が出ますぞ。オホヽヽヽ』
と嘲るやうに笑ふ。
玉能姫『若彦様、妾はこれでお暇致します。高姫様、どうぞ御ゆるりと遊ばしませ。左様なら』
と立ち上らうとするを、高姫はグツと肩を押へ、
高姫『コレコレ、逃げやうと云つたつて逃しはせぬぞえ。金輪奈落の底まで、神宝の所在を白状させねば措きませぬぞ』
玉能姫『何とおつしやつてもこればかりは申し上げられませぬ』
高姫『何と、マア、夫婦がよく腹を合したものだ。本当に羨ましいほど、仲の良い御夫婦様ぢや。オホヽヽヽ』
玉能姫『どうぞ高姫様、其処放して下さいませ。妾は生田の森へ帰らねばなりませぬから、一時の間も神業を疎略に出来ませぬ』
高姫『オホヽヽヽ、一時の間も疎略に出来ない御神業を振り棄てて、夫の側へなれば幾日も幾日もかかつて、遥々紀の国までお越し遊ばすのだから、実に立派なものだ』
玉能姫『それでも退引きならぬ御用が出来ましたので、多忙の中を神様にお願ひ申して参つたのでございます』
高姫『その用とは何事でござるか、サア、それを聞かして貰はう。妾に聞かせぬやうな御用なら何れ碌な事ではあるまい。お前達若夫婦は寄つて如何な企みをして居るか分つたものぢやない。サアもうこうなつては私も勘忍袋の緒が切れた。何と云うても舌を抜いてでも言はして見せる』
と癇声に呶鳴り立てて居る。
 この時玄関に騒々しき人の足音が聞えて来た。しばらくすると秋彦、駒彦、木山彦夫婦外四人兄弟、慌しく奥の間の声を聞きつけてこの場に現はれ来り、八人一度に手をついて若彦の前に平伏した。
若彦『ヤア、其方は駒彦、秋彦の宣伝使ではござらぬか、何用あつてお越しなされた』
駒彦『ハイ、熊野の大神様へお礼のために参拝致しました』
 高姫はカラカラと打笑ひ、
高姫『アハヽヽヽ、オホヽヽヽようもようも揃つたものだ。何かお前達は諜し合はせ大陰謀を企てて居た所、アタ間の悪い、憎まれ者の高姫がやつて来て居るので肝を潰し、熊野の大神様へお礼詣りをしたとは、子供騙しのやうな逃口上、立派な聖地には大神様がござるぢやないか。それにも拘はらず熊野へお礼詣りとは方角違ひにもほどがある。何事も嘘言で固めた事は直剥げるものだ。オホヽヽヽ、あの、マア皆さんの首尾悪相な顔わいな。梟鳥が夜食に外れてアフンとしたやうなその様子、写真にでも撮つて置いたら、よい記念になりませうぞい』
と言葉尻をピンと撥ねたやうに捨台詞を使つて居る。駒彦一行は何が何やら合点往かず途方に暮れ、黙然として看守つて居る。
若彦『皆様、後でゆつくりとお話を承はりませう。どうぞ御神前へおいで遊ばして、お礼を済まして来て下さいませ。……オイ久助、御神殿へこの方々を御案内申せ』
 久助は玄関より若彦の声を聞きつけ走り来り、
久助『サア、皆様、大広間へ御案内致しませう』
高姫『コレコレ悪人共、イヤ同じ穴の狐衆、しばらくお待ちなされ。若彦と腹を合はせ、御神殿へお礼と云ひ立て、巧くこの場を逃げて行く御所存であらう。そんなアダトイ事を成さつても、世界の見え透く日の出神の生宮はチヤンと知つて居りますぞえ。何故男らしうこの場で斯様々々の次第と白状なさらぬのだ。今日三五教において、誠の神力の備はつた神の生宮はこの高姫でござる。高姫の申す事を聞くか、若彦の言葉を聞くか。サア事の大小、軽重を考へた上、速かに返答なされ。返答次第によつてこの高姫にも量見がござるぞや』
 秋彦、駒彦は口を揃へて、
秋、駒『私は第一に言依別の教主、その次には玉能姫様、その次には若彦さまの崇敬者ですよ。何程高姫様が御神力が強いと言つて、自家広告をなさつても、根つから我々の耳には這入りませぬ。サア皆さま、御神殿へ参拝致しませう』
とこの場を立つて行かうとする。高姫は夜叉の如く立腹し、秋彦、駒彦の襟髪を両手にひん握り、力をこめて後へドツと引き倒した。常楠、木山彦は余りの乱暴にムツと腹を立て、
常楠『何処の何人か知らぬが、罪も無い我々の伜を打擲するとは言語道断、年は寄つても昔執つた杵柄の腕の冴えは今に変りは致さぬ。さア高姫とやら、思ひ知れよ』
とグツと襟首を掴みて常楠が強力に任せて、猫を抓んだやうに館の外に放り出した。高姫はそれきりどうなつたかしばらく姿を見せなかつた。一同は神殿に向ひ感謝の祝詞を奏上して高姫の無事を祈りけるこそ殊勝なれ。

(大正一一・六・一一 旧五・一六 北村隆光録)



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