出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語23-3-141922/06如意宝珠戌 籠抜王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
淡路島東助館
あらすじ
 「東助が帰らない」という噂を聞きつけたバラモン教の友彦は、「東助の後釜となり財産を手に入れよう」と、淡路島洲本の東助館を訪問した。
 友彦は東助の妻お百合と会い、偽の神憑りとなって、「大自在天大国別命である。主人の東助は亡くなった。友彦を後添えとして迎えろ」と宣託する。神憑りの醒めた友彦に、お百合は、「友彦は、自分の姉の家で詐欺を働いた男によく似ている」と言う。そして、お百合がどなりつけると、友彦は尻餅をついて倒れ気を失う。それを、お百合は細紐で縛った。
 そこへ、東助が友彦、武公、清公、鶴公を連れて戻る。東助は友彦に「これまでの罪を懺悔せよ」と改心を迫る。友彦は「大便がしたい」と雪隠に行き、跨げ穴から潜って外に逃げ出した。
 武公、清公、鶴公は東助の子分となり、前非を悔い、心の底から言依別命の教えを奉ずることとなった。
名称
お冊 お百合 清公 武公 鶴公 東助 友彦
悪魔 生宮 大国別命 言依別命 酋長 大自在天 霊魂
淡路 神憑り 神感法 洲本 雪隠 天国 浪速 バラモン教
 
本文    文字数=16887

第一四章 籠抜〔七二六〕

 洲本の里に名も高き、人子の司東助が留守の門前に佇み、宣伝歌を声低に歌ふ一人の宣伝使があつた。下女のお冊は台所よりこの声を聞きつけ、門の戸を開いて眺むれば、蓑笠、草鞋脚絆の扮装したる、四十恰好の男盛りの宣伝使であつた。宣伝使はお冊に向ひ、
宣伝使『我れは日頃の経験上、この館の前を通り見れば、何とはなしにこの家には変事の突発せし如く覚ゆる。汝が家に何事もなきや』
と言葉淑やかに問ひかけた。お冊は少し首を傾けながら、
お冊『一寸お待ちを願ひます。奥へ云つて奥様に伺つて参りますから……』
と言ひ残し、そのまま姿を隠した。奥の一間には女房のお百合、火鉢の前にもたれかかり、何事か思案の態であつた。お冊は襖をソツと引あけ、
お冊『奥様々々』
と呼んだ。お百合は何事にか気を取られしものの如く、お冊の声が耳に入らなかつた。お冊は恐る恐るお百合の前ににじり寄り、
お冊『モウシ奥様、門口に不思議な宣伝使が立つて居られます。どういたしませうかなア』
と云ふ声に、お百合は顔をあげ、
お百合『ナニ、宣伝使が門にお立ちとな。それは都合の好い事だ。一つ伺つて頂きたい事があるから……どうぞ此方へ通つて貰うて下さい』
お冊『ハイ畏まりました』
と足早に表へ出で、
お冊『モシモシ宣伝使様、奥様が何か御願なされたい事があるさうですから、どうぞ奥へ御通り下さいませ』
 宣伝使は打ち頷きお冊の後に従ひ、草鞋を脱ぎ足を洗ひ、お百合の居間に通された。お百合は座を下がり、宣伝使を上座に請じ、丁寧に頭を下げ、
お百合『宣伝使様、よくこそ御立寄り下さいました。先づ御ゆるりと御休息下さいませ』
宣伝使『私はバラモン教の友彦と申す宣伝使でござる。当家の門前を通過致さむとする時、何となく気懸りが致しましてなりませぬので、お宅には思ひも寄らぬ事件が突発致して居るやうに考へましたから、一寸御尋ね致しました』
お百合『それはそれは御親切に有難うござります。実の所は妾の主人東助と申す者、二三日以前より何処へ参りましたか、皆目行方は分らず、大方この間の颶風に、船自慢の主人の事とて船を操り、荒波に呑まれたのではあるまいかと、上を下への大騒動、村中の者がそれぞれ手分けを致しまして、山林原野は申すに及ばず、近海を隈なく探し廻れども皆目行方が知れず、生て居るのか死んで居りますのか、それさへも分りませぬ。どうぞ神様に一応御伺ひ下さいますまいか』
 友彦は近辺の者の騒ぎを見て、遠近の人々に東助の紛失せし事を、前以て聞き知り、ワザと立寄つたのである、されど素知らぬ風を装ひながら、
友彦『それはそれは御心配でございませう。一つ私が伺つて見ませう』
と手を洗ひ口を嗽ぎ、あたりに人無きを見てニタリと笑ひ、舌を出し、
友彦『村人の話によれば、あれだけ探したのだから、最早生きて居る気遣ひはない。ウマくチヨロまかせば、淡路一の財産家、友彦が亭主となり、バラモン教を淡路一円にこの富力を以て拡張すれば何でもない事だ。あゝ結構な風が吹いて来たものだ。しかしながら万々一主人が生きて帰つて来たら大変だが、しかし滅多にそんな事はあるまい。一つ度胸を出してやつて見よう』
と小声に呟いて居る。そこへ女房のお百合は新しき手拭を持ち、
お百合『宣伝使様、どうぞこれでお手を御拭き下さいませ』
とつき出す。その横顔を見て、
友彦『アヽ何と綺麗な女だなア。……しかし今の独語を聞かれはせなかつたか』
と稍不安の念に駆られ、盗み目にお百合の顔を覗いて見ると、お百合はそんな気配も無かつた。友彦はヤツと安心の胸を撫でおろし、悠々と床の間に端坐し、バラモン教の経文を唱へ終り、偽神憑りとなつて、
友彦『ウンウンウン、この方は大自在天大国別命なるぞ』
と雷の如く呶鳴り立てた。お百合は驚いて平伏し、
お百合『ハイ有難うございます』
と涙声になつて居る。友彦はまたもや口を切り、
友彦『当家の主人東助は、何不自由なき身でありながら、海漁を好み或は冒険的事業を致す悪い癖がある。それがために生命を棄てたのだ。不憫なれどモウ仕方がない。せめて三日以前にこの宣伝使が当家に来て居れば、知らしてやるのであつたが、さてもさても残念な事であつたのう。モウこの上は仕方がない。霊魂の冥福を祈り、主人の天国に救はるるやう、鄭重なる祭典を行ひ、且有力なる神の如き夫を持ち、東助の後継を致ささねば、当家は到底永続致すまいぞよ。また東助は睾丸病があるため、子が出来ないから、折角蓄めた財産も他人に与らねばなるまい。汝は神の申す事を、よつく肚に入れて、何事も大国別命の命令通り致すが上分別だ』
お百合『ハイハイ有難うございます。……神様の仰せなら、どんな事でも背きは致しませぬ』
友彦『何と偉い奴だ。その方は流石東助の妻だけあつて、よく身魂が研けたものだ。神も感心致すぞよ』
お百合『何を申しても、世間知らずの卑女、神様から褒められるやうな事は一つもございませぬ』
友彦『坊間伝ふる所によれば、汝は実に貞淑の女と云ふ事だ。世間の噂を聞かずとも、神は心のドン底までよく見抜いて居るぞよ。一旦死んだ主人は最早呼べど答へず、叫べど帰らず、是非なしと諦め、後の家を大切に守り、子孫を生み殖やし、祖先の家を守るが、せめてもの東助への貞節、合点が行つたか』
お百合『ハイハイ畏まりましてございます。しかしながら妾のやうな者に、どうして後添に来てくれる者がございませう。何だか夫の霊に対し気が済まないやうに思はれてなりませぬ。そしてその夫を持つのは、せめて三年祭を終つてからにして貰ふ事は出来ますまいか』
友彦『大国別命が申す事、しつかり聞け。人間の理屈は論ずるに足らぬ。善は急げだ、一日も早く夫を迎へたがよからう。その夫は神が授けてやるほどに……さうすれば子孫は天の星の数の如く殖えて、家は万代不易、世界の幸福者としてやるぞよ』
お百合『ハイハイ有難うございます。どうぞよろしう御願申上げます。そしてその夫と申すのは、何処から貰ひましたらよろしうございますか、これも一つ御伺ひ致したうございます』
友彦『別に何処へも探しに行くに及ばぬ。灯台下は真暗がり、今汝が目の前に三国一の花婿が来て居るぞよ。これも神が媒介を致さむと、遥々連れて来たのだから、喜び勇んで命令に服従するがよからう』
お百合『神様、根つから其処らに誰も見えませぬ』
友彦『ハテ察しの悪い。今汝の目の前において神の託宣を伝へて居る、大国別命の生宮の宣伝使であるぞよ』
 お百合はハツと驚き、友彦の顔をつくづく看守り、
お百合『あなたは何時やら、浪速の里でお目にかかつた事のあるやうな方ですなア』
友彦『馬鹿を申せ。他人の空似と申して、世界に同じ顔をした者は、二人づつ天から拵へてあるのだ。この肉体は神の直々の生宮であるぞよ。よく調べたがよからう』
お百合『鼻の先の一寸赤い所から、目の窪んだ所、口の大きさ、出つ歯の先の欠けた所、似たりや似たり、よくマア似た方も有るものですなア。妾の姉は浪速の里に嫁入つて居りますが、去年の冬、急飛脚が来ましたので、行て見れば姉の大病、そこへ宣伝使がお見えになり、イロイロとおつしやつて……姉の病気を直してやらう、それに就てはコレコレの薬が要るから、薬代を出せ……と仰せられ、大枚三百両を懐にし門口を出た限り、今に顔を見せないさうです。妾はその時に見た顔と貴方のお顔と、余りよく似て居りますので、一寸御伺ひ致しました』
友彦『神と詐偽師と一つに見られては、神も迷惑致すぞよ』
お百合『さうおつしやるお声は、あの詐偽師とそつくりですワ。声までそれほどよく似た人が有るものですかなア』
友彦『つい話が横道へ這入つた。その方の覚悟はどうぢや』
お百合『どうぞ二三日お待ち下さいませ。その上でトツクリと考へ、親類にも相談致し、浪速の姉も招んで来て、その上に御厄介に預りませう。どうぞ神さま一先づ御引取り下さいませ』
 ポンポンと手を拍つた。友彦は顔色を真赤に染め、冷汗を体一面ヅクヅクにかいて、湯気をポーツポーツと立てながら、
友彦『あゝ失礼致しました。つい眠つたと見えて、結構な風呂に入れて貰うたと思へば、アヽ夢でしたか。体中この通り、守護神が入浴したと見えまして、湯気が立つて居りまする』
お百合『イエイエ決して夢ではございませぬ。お神憑りでございました。それはそれは妙な事をおつしやいました。妾は少しばかり腑に落ちぬ事がございますので、二三日猶予を願つて置きました』
友彦『あゝさうでしたか。何分知覚精神を失つてしまふ神感法の神憑ですから、チツトも分りませぬ。神憑も却て自分に取つては不便なものでございます。アハヽヽヽ』
と笑ひに紛らす。
お百合『それだけ立派な神懸が出来ましたら結構です。仮令人間憑りに致しましても、あれだけ巧妙に託宣が出来ますれば、大抵の者は皆降参つてしまひます。妾でさへも一旦は、あの何々でした位ですもの。オホヽヽヽ』
友彦『何と、合点の行かぬ貴女の御言葉尻、何ぞ怪しい事がございましたか』
お百合『イエイエ別に怪しい事はございませぬ。神様の御引合せ、姉の内へ去年参りました泥棒の模型か実物か、それは後で分りますが、……野太い奴が瞞しに来ました』
と後の一二句に力を籠めて、優しき女に似ず呶鳴りつけた。友彦はこの声に打たれ、思はず尻餅を搗いて、口を開けたまま、火鉢の横にバタリと倒れた。お百合は独語、
お百合『オホヽヽヽ、何と悪魔と云ふものは、どこまでも抜目のないものだ。的きり此奴は姉さんの宅で三百両騙り取つた奴に間違ない。まだ主人の生死さへも分らない内から其処ら近所で噂を聞いて来よつて、良い加減な事を言ひ、若後家を誑らかさうと思うてやつて来よつたのだなア。どうやら目を眩かして居るらしい。今の間に細帯で手足を括り、庭先へ引摺り出し、水でもかけて気を付けてやりませう。……アーアそれにしても東助さまはどうなつたのかいな。村の衆は、未だに誰も報告に来て下さらず、イヨイヨ妾も未亡人になれば、今迄とは層一層腹帯を締めねばなるまい。あゝ困つた事が出来て来た』
と自語する折しも、お冊は慌しくこの場に駆来り、
お冊『奥様、お喜び下さりませ。旦那様が只今御機嫌よう御帰りになりました』
 お百合は飛び立つばかり喜び、
お百合『ナニ、旦那様がお帰りとな。あゝこうしては居られまい。ドレドレお迎へを申さねばなるまい』
と襟を正し居る所へ、早くも東助は三人の男を引連れ、廊下の縁板を威喝させながら現はれ来り、
東助『アヽお百合、余り帰るのが遅かつたので、心配しただらうなア。村人にも大変な厄介をかけたさうだ。俺も到頭風に吹き流されたと云ふ訳でもないが、家島まで往つて来たのだ。マア安心してくれ』
お百合『それはそれは何よりも嬉しい事でございます。つきましては貴方のお不在中に、四足が一匹這ひ込んで来ましたので、今生捕にして置きました。どうぞトツクリ御覧下さいませ』
と友彦を指ざす。
東助『何、これは人間だないか。厳しく縛されて居るではないか』
お百合『ハイ、一寸妾が縛しておきました。此奴は去年の冬、姉さまの内で三百両騙り取つた泥棒ですよ。あなたが行方が知れないと云ふ噂を聞いて、ウマく妾を誑らかし、この家を横領しようと思うて出て来た図太い代物です』
東助『それは怪しからぬ奴だ。しかしながらこうしてはおかれまい。助けてやらねばならぬから……コレコレ鶴公、清公、武公、お前達御苦労だが、縛を解き水でも与へて、気を付けてやつて下さい』
 三人は命のままに縛を解き水を吹き注けた。漸くの事で友彦は正気に復し起きあがり、東助その他の姿を見て大に驚き、畳に頭を摺りつけ、涙と共に詫入る。東助は友彦に向ひ、
『お前は立派な宣伝使の風をして居るが、今聞く所によれば、大変な悪党らしい。この世の中は何処までも悪では通れませぬぞ』
友彦『ハイ誠に悪うございました。面目次第もございませぬ。どうぞ生命ばかりはお助け下さいませ。これつきりモウ宣伝使は廃めまする』
東助『結構な宣伝使の役をやめとは申さぬ。ますます魂を研いて立派な宣伝使にお成りなさい。そして世界の人民を善道に導きなさるのが貴方の天職だ。今迄のやうな神様を松魚節にして女を籠絡したり、病人の在る家を探して、弱身に付け込み詐欺をしたりするやうな事は、これ限りお廃めなさるがよからう』
友彦『ハイ有難うございます。どうぞお助け下さいませ。これ限り悪は改めまする』
 かかる所へ門口に大勢の声にて、
『東助さまが生きてござつた。無事に帰られた、ウローウロー』
と山岳も揺ぐばかり歓呼の声聞え来る。
東助『お前、イヨイヨ改心を志たのならば、あの通り今門口に沢山の村人が来て居るから、一つ懺悔演説でもして下され。一伍一什包み隠さず、旧悪をさらけ出して改心の状をお示しなされ。それが出来ねば大泥棒として、この東助が酋長の職権を以て成敗を致す』
 友彦小さい声で、
『ハイ致しまする』
東助『サア早く門口へ出て、懺悔演説を始めたがよろしからう』
 友彦は、
『ハイ直に参ります。俄に大便が催して来ました。どうぞ便所へ往く間御猶予を願ひます』
東助『便所ならば其処にある。サア早く行つて来たがよからう』
 友彦は、
『ハイ有難うございます』
と直様雪隠に入り、跨げ穴から潜つて外に這ひ出し、折柄日の暮れかかつたのを幸ひ、裏山の密林指して一生懸命に隠れたりける。
 鶴公、清公、武公の三人はしばらく東助の家に厄介となり、遂に東助に感化されて前非を悔い、心の底より言依別命の教を奉ずる事となりにける。

(大正一一・六・一二 旧五・一七 松村真澄録)



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