出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語23-2-81922/06如意宝珠戌 縺れ髪王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
紀の国熊野の滝
あらすじ
 木山彦夫婦が熊野の滝で祈願をしていると、異様の神人が現れ、「息子の鹿公に会わせるが、二人の過去の天則違反の罪を告白せよ」と命ずる。
 木山彦は「若い頃、ある女と夫婦の約束を結び、子までなしたが、それを捨てて今の女房を持った」と告白する。木山姫は「結婚前、若気のいたずらから男の子を産み、捨てた」と懺悔した。
 そこへ、常楠一行が現れる。
 一同の前に木の花姫命が顕現して、「秋彦、駒彦の至誠に免じて神界より親子の対面を許した。駒彦は常楠、お久の子供。秋彦は木山彦、木山姫の子供。虻公は常楠、木山姫の子供。蜂公は木山彦、お久の子供である。いずれも天則違反の子供であったので、神界の罪によって親子の対面がかなわなかった。しかし、信仰の力によって罪を許されて、親子の対面をなすことを得た」と告げる。
 一同は神恩を感謝し、若彦館へ向った。
名称
秋彦 虻公 異様の神人 お久 木山彦 木山姫 木の花姫命 駒彦 助公 常楠 蜂公
悪神 熊野大神 鹿公! 種 若彦
天津祝詞 祈願の祝詞 熊野の滝 神界 天教山 那智の滝 竜神の宮
 
本文    文字数=7447

第八章 縺れ髪〔七二〇〕

 木山彦の一行は漸くにして熊野の滝の麓に衣類を脱ぎすて、夫婦は此処に何事か祈願を凝らし七日七夜を送つた。従者の助公は木山彦の命により直ちに帰郷し、木山彦の不在を守る事となりぬ。
 此処に夫婦は一心不乱になつて、今一度吾子の鹿公に会はせ給へと祈つて居る。三七二十一日の水行を了へた夜半頃、何処ともなく山奥の谷を響かせ馬の蹄の音勇ましく、此方に向つて中空を駆来る異様の神人、七八人この場に現はれ、夫婦に向ひ、
『汝は日高の庄の酋長にて木山彦夫婦なるべし。汝が熱誠なる祈願を聞き届け、一人子の鹿公に遇はしてやらうほどに、夫婦共前非を悔い、今迄なし来りし天則違反の罪を吾前に自白せよ』
と言葉厳しく言ひ渡し、鏡の如き目を光らし、白馬に跨つたまま両人の顔を睥睨して居る。扈従の神と見えて六七人は稍小さき馬に跨り各手槍を携へて居る。夫婦は戦慄き恐れ『ハイ』とばかりに平伏したり。
木山彦『私は壮年の頃ある一人の女と夫婦の約束を結び、子まで成したる仲を無惨にも振り捨てて、今の女房を持ちました。悪い事と申せば私一代にこれにより外に覚えはございませぬ。その報いにや、二人の娘は人身御供に取られ、一人の伜は継母が来たので何時の間にか、幼少の頃吾家を飛び出して行方は更に分らず、年は追々寄つて来る、世の中の寂寥を感じ、面白からぬ憂き年月を送る折しもその伜に邂逅ひ、半時の間も待たず言葉一つ云ひ交さず、またもや竜神の宮の犠牲に取られてしまひましたのも、全く神様の冥罰が当つたのでございませう。どうぞその子に遇はして下さるやうと、夫婦の者がお願ひに参つたのでございます。今では女房も年を取り、継子が帰つたとても余り辛くは当りますまいから、も一度遇ひたうございます。承はれば、我子は宣伝使となつて竜神の宮の悪神を平げ、世界を遍歴して居るさうでございます。何卒々々今迄の深き罪をお赦し下さいまして、哀れな老夫婦に今一度面会をさせて下さいませ』
と涙ぐむ。異様の神人は言葉爽かに、
『如何にも汝の申す通り寸分の間違ひはない。汝の女房木山姫も随分継子に辛く当つたものぢや。しかしながら最早今日は余程心も柔ぎ居れば、親子の再会を許して遣はす。必ず必ず神信仰を怠るな』
 木山姫はハツと平伏し、涙と共に去し昔の懺悔話を語り出したり。
『今日まで夫にも隠して居りましたが、神様は何もかもよく御存じでございますから、包み隠さず一伍一什を神様の御前、夫の前に白状致します。妾は若気のいたづらから一人の男を拵へ腹が膨れ、遂には親の許さぬ子を設け、種と云ふ男に産子を渡しそのまま姿を隠し、今の夫に娶られたものでございます。アヽその子は今どうして居りませうか、もしこの世に成人して居ますなら、神様のお慈悲で一目遇はして頂きたうございます』
と涙と共に頼み入る。木山彦は妻の物語を聞いて今更の如く呆れ居るばかりなりき。馬上の神人はニコニコしながら、
『汝の遇ひたしと思ふ子は、今に遇はしてやらう。必ず信仰を怠るな』
と言葉終ると共に、一同の神の姿は掻き消す如く消え失せにけり。
 かかる所へ常楠夫婦を始め秋彦、駒彦、虻公、蜂公の六人連は、この滝に身を清めむと夜中に闇を冒して出で来り、忽ち真裸となり滝水に身を清め、天津祝詞を奏上した。木山彦は夜陰の事とて一行の何人なるか気が付かなかつた。ただ熱心なる信仰者とのみ思ひつめ、夫婦は一生懸命に祈願の祝詞を夜の明くるまで、大地に平伏して奏上して居た。
 夜は漸々に明け離れ、一同の顔はハツキリとして来た。
木山彦『オヽ其方は常楠夫婦ではござらぬか、ヤア、秋彦、駒彦の宣伝使殿、これはこれはよい所でお目に懸りました。突然ながら、秋彦の宣伝使は私の伜でござる。ようまア無事で居てくれた。竜神の宮の神を征服げると云ふ神力を備へて居るとは実に偉いものだ』
と涙をホロリと零す。秋彦は藪から棒のこの言葉を少しも訝かる色なく、
秋彦『アヽ貴方が父上でございましたか、ようまあ達者で居て下さいました』
と人目も構はず木山彦に抱きつき、嬉し涙に掻き暮れて居る。
常楠『この間から合点の往かぬ事のみ突発して、彼方からも此方からも親子の対面ばかり、吾々夫婦は三人の子を発見致しました。これも全く大神様のお引き合せ、酋長殿も大切なお息子に御面会遊ばして、こんな大慶な事はございませぬ』
と涙を流し祝意を表する。秋彦、駒彦、虻公、蜂公四人は無言のまま手を合せ、滝水に向つて『熊野大神様、有り難く御礼申上げます』と心の中で祈願を籠めて居る。
 この時何処ともなく麗はしき雲起りて四辺を包み、忽然として現はれた一柱の女神、言葉淑やかに宣り給ふやう、
『秋彦、駒彦両人が至誠に免じ、神界より親子の対面を許したのであるぞよ。今改めて汝等に告げむ。駒彦は常楠、お久の二人の中より生れた子である。また秋彦は木山彦とお久との間に生れた子である。次に虻公は常楠と木山姫との中に生れた子である。次に蜂公は木山彦とお久との中に生れた子である。何れも皆天則違反のいたづらより生れ出でし御子なれば、神界の罪によりて今日まで親子互に顔を知らず、親は子を探ね、子は親を探ねつつあつた。されど汝等が信仰の力によつて各罪を赦され親子の対面をなす事を得たのである。夢々疑ふ事勿れ。我は天教山より下り来れる木花姫命なるぞ』
と宣り終へ給ひて、微妙の音楽に送られ崇高なる御姿は煙の如く消え給ふ。
 四辺を包みし麗はしき雲はさつと晴れて、さしもに高き那智の滝の落つる音、滔々と轟き渡り、滝の飛沫に各日光映じ、得も云はれぬ麗はしき光景となつた。一同は神恩を感謝し、茲に水も漏らさぬ親子の縁を喜びつつ、若彦館を指して進み往く。
 惟神霊幸倍坐世。
(付記)
木山彦──お久……秋彦(鹿)遁児、六才、継母
常楠(種)──お久……駒彦(馬)失児、三才、天狗
常楠──木山姫(おたつ)……虻、捨子、水児、一才
木山彦──お久……蜂、水児、一才

(大正一一・六・一一 旧五・一六 加藤明子録)



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