出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=23&HEN=1&SYOU=4&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語23-1-41922/06如意宝珠戌 長高説王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
錦の宮の八尋殿
あらすじ
 杢助たち国依別たちは皆、密かに聖地に帰り、高姫の動きを偵察していた。
 高姫は「突発事件が起こった」と、役員信徒を錦の宮の八尋殿に集めた。そして、「言依別は玉能姫、初稚姫のアマツチョに神業を任せた。これは他の役員を軽んじている証拠である」となじる。
 加米彦が立ち上がり、「高姫は『日の出の神の命令』だと、勝手に黒姫、鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスを聖地から放逐した。高姫についている日の出神は、玉の行方も分らないような神で、吾々は信頼する価値がない。高姫は変性男子の系統であるので、曲津神が抱え込んで、国治立大神のおでましを妨害し、再び、悪魔の世にしようと企んでいる」と言う。
 高姫は、「変性男子が昇天された後は、系統の高姫が教祖の御用をするのが当然だ」と言う。
 そこに、杢助が魔我彦と竹彦を連れてきた。魔我彦は、自分の犯した罪を告白して、反省の色を示す。それを聞いた高姫は、自分の館に逃げ帰る。
名称
加米彦 国依別 言依別命 佐田彦 高姫 竹彦 玉治別 波留彦 魔我彦 杢助 役員信徒 若彦
秋山彦 悪魔 生宮 生霊 お節 お初 カーリンス 国武彦命 国治立大神 黒姫 教主 教祖 神素盞鳴大神 鷹依姫 竜国別 玉能姫! テーリスタン 初稚姫! 日の出神(高姫) 日の出神の生宮! 変性男子 変性女子 曲津神 魔神 瑞の御霊 竜宮の乙姫
天津祝詞 青山峠 大台ケ原 大本 神憑り 冠島 紀伊の国 沓島 三千世界 神界 神政 聖地 底の国 立替へ 立直し 天眼力 十津川 錦の宮 根の国 筆先 松の世 ミロクの神政 八尋殿 日本魂
 
本文    文字数=24860

第四章 長高説〔七一六〕

 杢助は魔我彦、竹彦二人と共に窃に聖地に帰り、表戸を閉ししばらく外出せず、聖地の様子を窺つて居た。玉治別、若彦、国依別の三宣伝使も密に聖地に帰り、国依別が館に深く忍び、高姫一派の陰謀を偵察しつつあつた。神ならぬ身の高姫はこの事は夢にも知らず、鬼の来ぬ間の洗濯するは今この時と、私かに聖地の役員信徒の宅に布令を廻し、緊急事件突発せりと触れ込んで、錦の宮の八尋殿に集めた。
 この日は風烈しく急雨盆を覆へす如く、雷鳴さへも天の東西南北に巻舌を使つてゴロツキ出した。かかる烈しき風雨雷電にも屈せず、緊急事件と聞いて爺も婆も猫も杓子も、脛腰の立つ者は満場立錐の余地なきまでに寄り集まつた。この時高姫は烏帽子、狩衣厳めしく神殿に進み、言依別の教主、尻でも喰へと言ふ鼻息にて斎主を勤め、型の如く祭典を済ませ、アトラスのやうな曼陀羅の面を高座の上に曝し、満座の一同に向ひ、鬼の首を篦で掻き斬つたやうに得意気に壇上に肩を揺り、腮を上下にしやくりながら、
高姫『皆さま、今日はかくの如き結構なお日和にも拘らず、残らず御参集下さいまして、日の出神の生宮も満足に存じます。言依別の教主は先日より少しく病気の態にて引き籠られ、また杢助の総務殿は何れへかお出でになり、この三五教の本山は首の無い人間のやうだ、二進も三進も動きが取れないと、大勢様の中には御心配遊ばしたお方があつたやうですが、日の出神の御神徳は偉いものです。教主が出勤せなくても、杢助その他の幹部宣伝使が居なくても、御神力によつて、かくの如く一人も残らず参集して下さつたと言ふのは、未だ天道様はこの高姫を捨て給はざる証でございませう。杢助総務の召集でも言依別の教主の召集でも、この八尋殿の建設以来、これだけ立錐の余地なきまでお集まりになつた事はございませぬ。それだから神力が強いか、学力が強いか、神力と学力との力競べを致さうと神様がおつしやるのです。論より証拠、実地を見て御改心なさるが一等です。時に緊急事件と申しまするのは外でもござらぬ。我々日の出神の生宮、しかも変性男子の系統の肉体、及び錚々たる幹部の御連中を差措き、たかの知れたお節の成り上りの玉能姫や、杢助の娘お初の如き者に、ハイカラの教主が大切なる御神業をソツと命令し、吾々始め幹部の御歴々にスツパヌケを喰はすと言ふ事は、如何に御神業とは言へ、吾々一同を侮辱したる仕打ちではござりますまいか。幹部役員は申すも更なり此処にお集まりの方々は何れも熱心なる三五教の信者様ばかりでござりませう、神様のお仕組の御用を各々に致したいばつかりで、地位財産を捨てて此処へ来ながら、訳の分らぬ杢助一派の者に蹂躙されて、指を啣へてアフンとして見て居ると言ふ事がありませうか。かう見渡す所、大分立派な男さまも居られますが、貴方等は睾丸を提げて居られますか。実に心外千万ではありますまいかな』
 加米彦は満座の中よりヌツと立ち上り、
『高姫さまに質問があります、何事も神界の御経綸は我々人間の容喙すべき所ではありますまい。如何に日の出神の生宮ぢやとおつしやつても、神様が高姫さまの命令に服従せよとは、何処の筆先にも書いてはありませぬ。日の出神呼ばはりは廃めて貰ひたい。貴女こそ聖地及び神界の御経綸を混乱顛覆させる魔神の容器でせう』
 高姫は高座より地団駄を踏み、目を釣りあげ、
『誰かと思へば汝は秋山彦の門番加米彦ではないか。世界の大門開きを致すこの高姫の申す事、たかが知れた一軒の家の門番が容喙すべき限りでない。すつ込つで居なされ』
と一口に叩きつけやうとする。加米彦は負ず気になり、高姫の立てる壇上に現はれて一同を見渡し、
『皆さま、私は今高姫さまの仰せられた如く、秋山彦の門番を致して居りました加米彦でございますが、しかしながら高姫さまも大門の番人ぢやと只今自白されたではありませぬか。門番の分際として大奥の事がどうして分りませう。それに就いても私は秋山彦の館、即ち神素盞嗚大神、国武彦命様の御隠れ館の門番を致して居つた者、その時に冠島、沓島の鍵を応答なく盗んで行つて玉を呑み込んだ人があると言ふ事は、私が今申し上げずとも、皆さんは既に已に御承知の事と存じます。斯様なる権謀術数到らざるなき生宮さまの言葉が、どうして真剣に真面目に信ぜられませうか。皆様冷静によく御考へを願ひます』
 座中より『尤も尤も』『賛成々々』『ヒヤヒヤ』『ノウノウ』の声交々起つて来る。
 高姫は烈火の如く、
高姫『今「ノウノウ」と言つたお方はこの日の出神の前に出て来て下さい。吾党の士と考へます。サア早く此処へお越しなされ』
加米彦『恐らく一人もありますまい、私の説に対し「ノウノウ」と言つたお方は賛成の意味を間違つて言はれたのでせう。皆さま、失礼な申し分でございますが、中には老人や子供衆も居られますから、一寸説明を致します。「ヒヤヒヤ」と言へば私の説に賛成したと言ふ事、「ノウノウ」と言へば賛成せないと言ふ事です。どうです。尚一度宣り直して貰ひませう。さうして不賛成のお方は「ノウノウ」と言つて下さい』
 場の四隅よりは『ヒヤヒヤ』の声ばかりである。殊更大きな声で『ノウノウ、しかし高姫の説にはノウノウだ』と付け加へた。高姫は口角泡を吹きながら、
『皆さま、今となつて分らぬと言うても余りぢやありませぬか、大切なるお宝を隠されて、よう平気で居られますな。第一言依別のドハイカラの教主は、杢助のやうな奴にチヨロまかされ、系統の生宮の高姫を疎外し、さうしてその宝をば何処かへ隠してしまつた。皆さまはそんな章魚の揚壺を喰はされたやうな目に遇ひながら、平気でござるとは無神経にもほどがあるぢやありませぬか。何程言依別の教主が偉くても、杢助の力が強くても、神界の事が学や智慧で分りますか。昔からの根本の因縁、大先祖は如何なる事を致して居つたか、如何なる因縁でこの世へ生れて来たか、日の出神の誠のお活動は如何なものか、竜宮の乙姫様の御正体はどうかと言ふ明瞭な答へが出来ますか。モウこれからは錦の宮を始めこの八尋殿は、及ばずながらこの高姫が総監致します。玉能姫や初稚姫の女を選んで、大切な御用をさせると言ふ訳の分からぬ教主に、随喜渇仰して居る方々の気が知れませぬ。チツと皆さん、耳の穴を掃除して日の出神の託宣を聞き、活眼を開いて実地の行ひをよくお調べなされ。根本の要を掴んだ日の出神の生宮を差措いて、枝の神の憑つた肉体に何が分りますか。ここは一つ……誰の事でも無い、皆お前さん等の一身上に関する大問題、否国家の大問題です』
加米彦『只今高姫さまのお言葉に就いて異議のある方は起立を願ひます』
 一同は残らず起立し『異議あり異議あり』と叫んだ。
加米彦『皆さまの御精神は分りました。私の申した事に御賛成のお方はどうぞ尚一度起立を願ひます』
 高姫は隼の如き目を睜り、各人の行動を監視して居る。壇下の信者は高姫に顔を睨まれ、起立もせず坐りもせず、中腰で居るものも沢山あつた。
加米彦『皆さまに伺ひますが、教主が神界の御命令に拠つて、玉能姫さま、初稚姫さまに御用を仰せ付けられたのが悪いとすれば、まだまだ横暴極まる悪い事が此処に一つあるやうに思ひます』
 聴衆の中より『有る有る、沢山にある』と呶鳴る者がある。
加米彦『その職に非ざる身を以て、神勅も伺はず、教主の承諾も得ず、部下の役員を任免黜陟すると言ふ事は、少しく横暴ではありますまいか。黒姫様、鷹依姫様、竜国別様、テーリスタン、カーリンスを聖地より追出したのは、果して何人の所為だと思ひますか』
 この時高姫は肩を斜に聳やかしながら、
高姫『加米彦、そりや何を言ひなさる。系統の生宮、日の出神が命令をなさつて、黒姫以下を海外諸国へ玉探しにおやり遊ばしたのだ。何程言依別や初稚姫が偉いと言つても、日の出神には叶ひますまい。学や智慧で定めた規則が何になるか。そんな屁理屈は神界には通りませぬぞや』
加米彦『これ高姫さま、お前さまは二つ目には日の出神だとおつしやるが、そんな立派な神様なら何故宝玉を隠されて、それを知らずに居りましたか。それの分らぬやうな日の出神なら我々は信頼するだけの価値がありませぬ』
 一同は『ヒヤヒヤ』と叫ぶ。中には『加米彦さま、確り頼みます』と弥次る者もあつた。
高姫『誰が何と言つても日の出神に間違ひはない。そんな小さい事に齷齪して居るやうな日の出神なれば、どうしてこの三千世界の御用が勤まりますか。物が分らぬにもほどがある。仮令この高姫一人になつたとてこの事仕遂げねば措きませぬぞ』
加米彦『高姫さま、一人になつてもと今言はれましたな。この通り沢山の方々が見えて居つても、ただ一人も貴女の説に賛成する者が無いのを見れば、既に已に一人になつて居るのではありませぬか』
 場の四隅より『妙々』『賛成々々』『しつかり頼む』『孤城落日』等の弥次り声が聞えて来た。
高姫『盲目千人、目明一人の世の中とはよくも言つた者だ。神様の御心中をお察し申す。あゝあ、こんな分らぬ身魂の曇つた人民ばかりを、根の国、底の国の苦しみから助けてやらうと思召す大神様や、日の出神様の広大無辺のお心がおいとしい』
と涙を拭ふ。
加米彦『高姫さま、貴女の誠心は我々も認めて居りますが、しかしながら根本的に大誤解があるのを我々は遺憾に存じます。貴女の肉体は変性男子の系統だから曲津神が抱込んで、国治立大神のおでましを妨害し、再び悪魔の世界にしやうとして居るのですから、ちつとは省みなさつたがよろしからう、我々のやうな肉体に憑つた処で悪魔の目的は達しない。断つても断れぬ系統の肉体を応用して日の出神だと誤魔化すのですから御用心なさらぬと、遂には貴女の身の破滅は言ふに及ばず、大神様の御経綸を妨害し天下に大害毒を流すやうになりますから、此処は一つ冷静にお考へを願ひたい。寄ると触ると幹部を始め数多の信者は、この事ばかりに頭を悩めて居りますが、しかし貴女が変性男子の系統でもあり、断つても断れぬお方ぢやと言ふので皆遠慮して居るのです。この加米彦なればこそ、職を賭してかかる苦言を申し上げるのです。決して貴女を排斥しようとか、除け者にしようとの悪い心は少しもありませぬ。第一貴女のお身の上を案じ、大神様の御経綸を完全に成就して頂き、世界の人民もミロクの神政を謳歌し、一時も早く松の世をつくり上げたいとの熱心から御忠告を申し上げるのです。どうぞよくお考へを願ひます』
高姫『秋山彦の門番、加米彦、そりや何を言ふか。ヤツとの事で宣伝使の末席に加へられたと思つて、ようツベコベとそんな屁理屈が言へたものだ。系統を抱き込んで目的を立てると言ふ事は、それは言依別命の事だ。この高姫は正真正銘の変性男子よりも早い神様の御降臨、云はば変性男子よりも高姫の方が先輩と云つても異論はありますまい。打割つて言へば、変性男子よりもこの日の出神の生宮が教祖とならねばならぬ者だ。変性男子の肉体は最早昇天されたのだから、後は高姫が教祖の御用をするのが神界の経綸上当然の帰結であります。しかしながら一歩を譲つて変性女子の言依別を教主にしてやつて置いてあるのは、皆この高姫が黙つて居るからだ。しかし最早こうなつては勘忍袋の緒がきれて来た。日の出神が加米彦の宣伝使を今日限り免職させ、杢助の総務役を解き、言依別命を放逐し、玉治別、国依別の没分暁漢も今日限り免職させるから、今後ノソノソ帰つて来ても皆さまは相手になつてはなりませぬぞ』
加米彦『アハヽヽヽ、何程高姫さまが地団駄踏んで呶鳴らつしやつても、少しも我々においては痛痒を感じませぬ。お前に任命されたのではない。言依別神様に任ぜられたのだから、要らぬ御心配をして下さいますな』
高姫『お前等の知つた事ぢや無い。善一筋の誠正直を立て通す妾の仕込んだ魔我彦、竹彦両人こそ、本当に立派な宣伝使だ。これから誰が何と言つても魔我彦を総務にし、竹彦を副総務に神が致すから左様心得なされ。嫌なお方は退いて下され。この錦の宮は高姫が誰が何と言つても総監致すのだから』
 この時佐田彦、波留彦の両人は壇上に駆上り、
佐田彦『吾々は言依別命様よりある特別の使命を帯び、御神宝の御用を勤めた者であります。何と言つても高姫さまはその隠し場所が分らなくては駄目ですよ。大勢の者がどうしても貴女に畏服するのは、貴方が天眼力で玉の所在を言ひ当なくては日の出神も通りませぬ』
 高姫は目を瞋らせ、
高姫『エヽ、またしても門掃の成上りがツベコベと何を言ふのだ。玉の所在が分らぬやうな事で、こんな啖呵がきれますか。屹度時節が来たなれば現して見せて上げよう』
佐田彦『日の出神も時節には叶ひませぬかな』
波留彦『吾々の心の裡にチヤンとしまひ込んであるのだが、常平生から人の心が見え透くとおつしやる日の出神さまに、この胸の中を一寸透視して貰ひませうか』
と襟を両方に開け、胸板を出して稍反身になり、握り拳を固めてウンウンと殴つて見せた。
高姫『ツベコベと神に向つて理屈を言ふ間は駄目だ。誰が何と言つても魔我彦、竹彦位立派な者はありませぬワイ。妾の言ふことが気に喰はぬ人はトツトと尻からげて帰つて下さい。お筆先にこの大本は大勢は要らぬ。誠の者が三人さへあれば立派に御用が勤めあがると、変性男子のお筆にチヤンと出て居る。今が立替立直しの時期ぢや、サアサア早う各自に覚悟を成さいませ。此処は大勢は要りませぬ。大勢あるとゴテついて、肝腎の御用の邪魔になる。日の出神の生宮が天晴れ神政成就さして見せるから、その時にはまた集まつてござれ。神は我子、他人の子の隔ては致さぬから、その時になつたら、「高姫様始め魔我彦、竹彦の宣伝使、エライ取違ひを致して居りましたから、どうぞ御勘弁下さりませ」と逆トンボリになつてお詫に来なされ。気好う赦して上げるから、今は御神業の邪魔になるからトツトと帰つて下され。帰るのが嫌なら高姫の言ふ事を聞いて、改心をなさるがよからう』
 かかる所へ杢助は魔我彦、竹彦両人を従へ、ノソリノソリと人を分けてやつて来た。群集は三人の姿を見て思はず雨霰と拍手した。杢助一行は一同に目礼しながら高座に上り、
杢助『アヽこれはこれは高姫様、御演説御苦労でございました。嘸お疲れでせう。貴女の御信任厚き魔我彦、竹彦の立派な宣伝使が見えました。これから貴女に代つて演説なさるさうです。私も大変に両人さんのお説には感服致しました』
 高姫は百万の援軍を得たる如き得意面を曝し、肩を聳やかし稍仰向きながら、
高姫『杢助殿、アヽそれは御苦労であつた。よう其処まで改心が出来て結構だ。これから何事も高姫の申す事を聞きなさるか、イヤ改心をなさるか』
杢助『改心の徹底までいつたものは、最早改心する余地がありませぬ。貴女のやうに改心から後戻りをして慢心が出来ると、また改心する機会がありまするが、吾々の如き者は、融通の利かぬ困つた者です。貴女のやうに慢心しては改心し、改心しては慢心し、慢心改心、改心慢心と自由自在の芸当は、到底吾々のやうな朴訥な人間では不可能事です、アツハヽヽヽ』
と豪傑笑ひをする。群集は手を拍つて笑ふ。
高姫『アヽ魔我彦、竹彦、好い処へ帰つてござつた。皆さまに合点の往くやうに此処で改心の話を聞かして下さい。さうすればこの高姫の日頃教育した力も現はるるなり、お前さまの善一筋の一分一厘歪はぬ日本魂の生粋が証明されるのだから、サア早うチヤツと皆さまに大々的訓戒を与へて下さい。これこれ加米彦、佐田彦、波留彦、余り沢山に高座に居ると窮屈でいかぬ。しばらく下へおりて、魔我彦や、竹彦の大宣伝使の御説教を聞くのだよ。さうすれば、チツトはお前さまの我も折れてよからう』
と得意満面に溢れ肩を揺りイソイソといきつて居る。魔我彦は大勢に向ひ、
『皆さま、私は高姫様の神様に御熱心なる御態度に心の底から感銘致しまして、どうかして高姫様の思惑を立てさしたいと思ひ、御心中を忖度致しまして紀伊の国に罷り出で、実の処は若彦を巧く誑かし聖地へ連れ帰り、杢助さま、言依別の教主をある難題を塗りつけ放逐しやうと企みつつ、大台ケ原の峰続き青山峠までスタスタやつて往つた所、玉治別、国依別の両宣伝使が谷の風景を眺めて、休息して居られました。そこで高姫様の一番お邪魔になるのは言依別命、それについで命の信任厚き玉治別、国依別の両人を、何とかして葬り去らうと思ひ進んで行つた所、折よくも日の暮前両人に出会し、二人の隙を覗ひ千仭の谷間へ突落し、高姫様の邪魔ものを除かむものと考へて居りました。万々一都合よく行けば、あとに残つた言依別命位は最早物の数でもないと、忽ち悪心を起し、思ひきつて谷底へ突き込みました。両人は五体が滅茶々々になつて斃死つただらうと思つて居ましたが、あに計らむや妹図らむや、若彦の館において杢助様始め玉、国両宣伝使に出会した時のその苦しさ怖さ、屹度復讎を討たれるに相違ないと思つて心配を致し、生きた心地も無くガタガタ慄へながら、矢庭に庭先の松の樹に駆上り、神憑りの言を信じ雲に乗つて逃げ出さうと思ひ、過つて二人共樹上より大地に向つて真逆様に墜落し、人事不省に陥つて居る所を、玉、国の両宣伝使の手厚き御保護を受け、さうして鵜の毛の露ほども怨み給はず、却て神様から結構な教訓を受けたと喜んで下さつた時の吾々の心、到底高姫さまの教へられる事とは天地雲泥の違ひでございました。そこで私は何故このやうな善のお方を悪く思つたか知らぬと、懺悔の念に堪へず考へ込んで居りましたが、矢張言依別の教主の教理を聞いてござるお蔭で、こんな立派な人格になられたのであらうと深く感じました。また私があのやうな悪心を起したのも、矢張高姫さまの感化力がさせた事だとホトホト恐ろしくなりました。どうしても人間は師匠を選ばねばなりませぬ。水は方円の器に随ふとか申しまして、教はる師匠、交はる友によつて善にもなり、悪にもなるものと堅く信じます。私は皆さまに今日までの取違を此処にお詫致します』
高姫『コレコレ魔我彦、誰がそんな乱暴な事をせいと言ひましたか、それは大方言依別の霊が憑つたのだらう』
竹彦『イヽエ、言依別さまの身魂は余り尊く清らかで、我々のやうな小さい曇つた鏡にはおうつりに成りませぬ。全く高姫さまや、黒姫さまの生霊が憑りましてな』
 聴衆は手を拍つてドヨメキ渡る。杢助はまたもや口を開き、
杢助『皆さま、私は言依別の教主より内命を奉じ、十津川の谷間へ急行せよとの仰せにより行つて見れば、谷川に似合はぬ大滝の下に立派な青い淵がありました。そこで水行して居ると上から二人の男が突然降り来り、ザンブとばかり淵へ落ち込んだ。日の暮紛れに何人か分らねども見逃す訳にも行かぬ、直に淵へとび込んで救ひ上げ色々と介抱した所、二人の男は漸く息を吹き返しました。よくよく見れば、玉治別、国依別の宣伝使でございました。それより両人に向ひどうしてこんな所へ落ち込んだのですかと尋ねて見ましたが、御両人は他人に瑕瑾をつけまいと言ふ誠心から、現在この魔我彦、竹彦につき落された事を一言も発せず隠して居られました。さうして二人に対して毛頭怨みを抱いて居られないのには私も感服致しました。これと言ふのも全く瑞の御霊の大精神を体得して居られるからだと、流石の杢助も感涙に咽び、それより三人は道を急いで若彦の館に行つて見れば、魔我彦、竹彦の両人が何事か善からぬ虚言を構へ若彦を唆かし大陰謀を企まむとして居る所でありました。しかしながら流石の悪人も誠の心に感じかくの如く改心を致して、自分の罪状を逐一皆さまの前に曝け出し真心を示して居られます。これでも言依別様の教が悪と言はれませうか。高姫さまの教は果して完全なものでございませうか』
と釘をさされて高姫はグツとつまり、壇上を蹴散らす如き勢で肩を斜に首を左右に振りながら、己が館へ足早に帰り行く。
 かかる所へ言依別の教主は莞爾として現はれ、一場の演説を試みた。玉治別、国依別、若彦の三人はこの場に悠然として現はれ来り、一同に会釈し、神殿に向ひ天津祝詞を奏上し終つて一同解散したり。今後の高姫は如何なる行動を執るならむか。

(大正一一・六・一〇 旧五・一五 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web