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原著名出版年月表題作者その他
物語23-1-31922/06如意宝珠戌 松上の苦悶王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
紀の国若彦館
あらすじ
 杢助、国依別、玉治別は若彦の館を訪ねた。「魔我彦と竹彦が来ている」と聞くと、杢助は「魔我彦が国依別と玉治別を谷に突き落とした」と若彦に告げる。それから、杢助は若彦に何かを囁いた。若彦は、館の奥に戻り、魔我彦と竹彦に向って、「病人があるため、夜分に鎮魂して欲しい」と持ちかけた。
 魔我彦は若彦の態度を見て、「国依別たちが来ているのではないか」と疑った。竹彦が神懸りして、「自分は八岐大蛇の眷属である。国依別達は、魔我彦、竹彦に復讐するつもりである。命が惜しければ、松の木に登り、天津祝詞を唱えよ」と命じた。
 二人は指示どおり、松の木に登って、天津祝詞を唱えたが、神懸りの「空中に飛べば、紫の雲に包んで、遠くに連れ去ってやる」という言葉を信じて、空中に飛んだが、真ッ逆様に落ちて地面に激突した。
 それを見た国依別と玉治別は魔我彦、竹彦を介抱して、以前の罪を許した。
 魔我彦と竹彦は杢助と一緒に、国依別、玉治別、若彦は三国ケ岳をまわって、それぞれ聖地に帰った。
名称
国依別 竹彦 玉治別 魔我彦 杢助 八岐大蛇の眷属 若彦
秋彦 悪鬼 天津神 天の真浦 大蛇 金狐 国津神 教主 言依別 駒彦 邪霊 鷹鳥姫! 高姫 玉能姫 初稚姫 日の出神(高姫) 物怪
近江 天津祝詞 青山峠 伊勢路 宇都山郷 河内 神懸り 紀の国 活眼 執着心 折伏の剣 娑婆 神界 聖地 刹那心 鎮魂 十津川 錦の宮 北極星 三国ケ岳 大和 霊肉一致
 
本文    文字数=19374

第三章 松上の苦悶〔七一五〕

 原野を遠く見晴らした若彦館の奥の間に招ぜられた三人の男は、杢助、玉治別、国依別であつた。
若彦『これはお三人様、打ち揃うてよくも御入来下さいました。今も今とて貴方方の噂を致して居りました。呼ぶより誹れとはよう云つたものですなア』
杢助『言依別の教主の命によつて、紀の国へ急遽出張致しました』
杢助『言依別の教主は、矢張り相変らず勤めて居られますか』
杢助『これはまた妙なお尋ね、教主が変つてなるものですか』
若彦『高姫さまはどうなりました』
杢助『高姫さまは相変らず聖地で働いて居られます』
 若彦『ハテナ』と思案に暮れる。
若彦『玉能姫はどう致しましたか』
杢助『玉能姫様は初稚姫様とお二人、錦の宮の別殿にお仕へになつて居ります。しかし妙な事をお尋ねですな。誰か当館へ来た者がありますか』
若彦『ハイ、先程魔我彦、竹彦の両人が参りました』
 国依別はこれを聞くより俄に眉を吊りあげ、何と無しに不穏な色を顔面に漂はした。
国依別『その魔我彦は何処に参りましたか』
若彦『離れの座敷で休息して居られます』
杢助『アハヽヽヽ、これは妙だ。悪い事は出来ぬものだなア』
若彦『魔我彦が何を致しましたか』
杢助『イエ、人の心位恐ろしいものはありませぬ』
若彦『何だか、そはそはと両人は致して居りますので、これには深い様子のある事と思ひ、どつこにも逃げないやうに五人の荒男をもつて監守さして置きました。一体どんな事をやつたのです』
 杢助は、青山峠の頂上より谷底へ玉治別、国依別を突き落し、殺害を企てた事を小声に耳打ちした。若彦は倒れむばかりに打ち驚き、
若彦『どこまでも執念深き高姫一派の奸計。どうしても金狐、大蛇、悪鬼の守護神が退かぬと見えますな。どう致しませう。このまま追ひ帰すか、但は帰順させるか二つに一つの方法を執らねばなりますまい』
杢助『まア私に任して下さい』
と腕を組んでやや思案に耽る。しばらくありて杢助は若彦の耳に口を寄せた。若彦は打ち頷き、この場を立つて離れ座敷に進み入り、五人の男に向ひ、
若彦『アヽ皆の者御苦労であつた。各自自分の部屋に帰つて休息して下さい。……魔我彦さま、竹彦さま、長らくお待たせ致しました。嘸お退屈でせう』
魔我彦『どうぞお構ひ下さいますな。お客さまはどうなりましたか』
若彦『ハイ、ほんの近くの百姓が見えましたのでございます。何れも用をたして帰りました。どうぞ御悠くりとして下さい。しかし一つ貴方にお願ひ仕度き事がございます』
魔我彦『お願ひとは何事でございますか』
若彦『実は熱心な信者が病気にかかつてこの館に籠つて居りますが、どうも怪しい病気ですから、一遍貴方の御鎮魂を願ひたいのです』
魔我彦『神徳の充実した貴方がゐらつしやるのに、どうして私のやうな者がお間に合ひませうか』
若彦『あの病人はどうしても貴方の鎮魂を受けなくては癒らないのです。総てものは相縁奇縁と云うて、何程神様の御神徳だと云うても、意気の合ぬものは到底効能がありませぬ。どうぞ貴方急ぎませぬから、お休みになつたら鎮魂を施して下さい』
魔我彦『承知致しました。一つ神様に願つて見ませう』
若彦『早速の御承知、本人も喜ぶ事でせう。しかしながら、何か物怪が憑いて居ると見えて、昼は平穏です。夜分になつてから一つお願ひ申しませう』
 魔我彦は傲然として、
『ハイ宜敷い』
と大ぴらに首を振つて居る。表の方には杢助、玉治別、国依別の三人小声になりて、何事か話に耽つて居る。若彦は二人に向ひ、
若彦『些しく表に用がございますれば失礼致します。どうぞ御悠くりと今日はお休み下さいませ。今晩お世話にならなくてはなりませぬから』
と云ひ捨て立ち去る。後に二人は小声になり、
魔我彦『どうも怪しいぢやないか。どうやら、杢助がやつて来て居るやうな気がしてならぬ。まかり間違へば青山峠の陰謀が露見したのだなからうかなア』
竹彦『私も何だか心持が悪くなつて来た。どうぞして此処を逃げ出す工夫はあるまいかなア』
魔我彦『ひよつとしたら二人の奴、谷底で蘇生したかも知れないぞ。それなら大変だ。一つお前神憑りをやつて見てくれ』
 竹彦は言下に手を組み、瞑目した。忽ち身体震動して、
竹彦『ウヽヽ、この方は八岐の大蛇の眷属であるぞよ。今表に杢助、玉治別、国依別の三人が現はれて、今夜を待つて復讐せむとの企みをやつて居るぞよ』
魔我彦『それは大変です、何とかして助かる工夫はありますまいか』
竹彦『ウヽヽ、もうかうなる以上は、館の周囲は荒男が取り巻き警戒して居る。力強の杢助は表に隠れて居る。もはや袋の鼠、両人の身体は逃れる見込はあるまい』
魔我彦『ハテ、困つた事だ。どうしたら良からう』
と顔色を変へてまごつく。
竹彦『ウヽヽ、周章るには及ばぬ。先づ気を落ち着けよ。かういふ時こそ刹那心が必要だ。何れ人を呪はば穴二つ、天に向つて唾したやうなものだ。自業自得だ、諦めて三人に命をやつたらよからう』
 魔我彦は益々狼狽へ、
魔我彦『命惜しさに吾々は信仰もし、宣伝使もやつて居るのです。そんな事があつて耐るものですか。かういふ所を助けて下さるのが神様だ。何とかよいお指図を願ひます』
竹彦『ウンウン、自業自得だ。仕方がない、今表に折伏の剣を三人が力限り研いで居るぞ。あの業物で、すつぱりとやられたら、二人の身体は見事梨割りになるだらう、ウフヽヽヽ』
魔我彦『何卒、吾々二人を此処から救ひ出して下さい。もうこれきり改心を致しますから……』
竹彦『ウンウンウン、先づ周章ずと日が暮るまで待つたらよからう。何程謝罪つた所で、これだけ大勢強い奴が取巻いて居るからどうする事も出来はしない。なまじいに逃げ隠れ致して、名もなき奴に命を取られ恥を曝すよりも、汝が持てる懐剣で刺違へて死んだがよからう。それが最善の方法だ』
魔我彦『この不安状態がどうして今夜まで待てますか。また大切な一つの命を、さう易々と放る訳には行きますまい』
竹彦『ウヽヽ、この肉体も可愛さうなものだが、その方も可愛さうだ。しかし玉治別、国依別の命を易々と取らうと企んだ張本人は魔我彦だから仕方がない、観念致せ』
魔我彦『これがどうして観念が出来ませう』
竹彦『ウヽヽ、命が惜いか、吾身を抓つて人の痛さを知れ、貴様が命の惜しいのも、玉、国両人が命の惜しいのも同じ事だ。しかしながら、玉、国両人は常から命が大切だと云うて居る位だから、死ぬのは嫌なに違ひない。それに引かへ貴様は高姫と共に、日々烏の啼くやうに命はいらぬ、お道のためなら仮令どうなつても惜しくないと云うて居るぢやないか。命の無くなるのは貴様の日頃の願望成就ぢや、こんな目出度い事はまたとあるまい。アハヽヽヽ』
魔我彦『貴方は何れの神様か存じませぬが、ちと気に食はぬ事をおつしやる。お引取を願ひます』
竹彦『ウヽヽ、さうだらう、気に食はぬだらう。尤もぢや、口先でこそ命はいらぬと云つて居つても、肝腎要な時になると、娑婆に未練の残るのは人間として、普通一般の当然の執着心だ。その執着心を取らなければ、誠の神業は成就致さぬぞ』
魔我彦『同じ事なら肉体を持つて御用を致したうございます。アヽしまつた事をした。どうしたらよからうかなア。日はだんだんと暮れて来る。愚図々々して居ればどんな目に遇はされるか知れやしない、翼でもあれば、たつて帰るのだけれど』
竹彦『ウヽヽアハヽヽヽ、それほど命が惜しければこの方の申すやうに致すか』
魔我彦『命の助かる事ならどんな事でも致します。どうぞ早くおつしやつて下さいませ』
竹彦『ウンウンウン、汝等両人は庭先のこの松の頂上に登り、天津祝詞を一生懸命に奏上致せ。さうすれば天上より紫の雲をもつて汝の身体を迎へ取り、安全地帯に送つてやらう。どうぢや嬉しいか』
魔我彦『ハイ、助かる事なれば結構です。そんなら何時から登りませう』
竹彦『時遅れては一大事、半時の猶予もならぬ。松の木を目蒐けて登つてゆけ。竹彦の肉体も共に登るのだぞ。ウンウンウン』
と云ひながら霊は元に帰つた。魔我彦は四辺キヨロキヨロ見廻し、人無きを幸ひ庭先の大木を命を的に猿の如くかけ登つた。竹彦も続いて頂上に登りついた。二人は一生懸命に天津祝詞を声の限り奏上した。この声に驚いて若彦を初め、杢助、玉、国その他の一同は松上の二人の姿を見て、『アハヽヽヽ』と笑ひどよめいて居る。二人は一生懸命汗みどろになつて惟神霊幸倍坐世を奏上して居る。杢助は態と大きな声で、
杢助『サア、これから曲津彦と竹取別の両人を料理して酒の肴に一杯やらうかい』
と雷の如く呶鳴りつけた。魔我彦はこれを聞き戦慄し、次第々々に慄ひ声になり、遂には息も出なくなつてしまつた。竹彦は『ウヽヽ』とまたもや松上にて神憑りを始めた。
魔我彦『貴方の御命令通り此処迄避難しましたが、あの通り杢助以下の連中が樹下を取り巻いて居ります。どうぞ早く雲をもつて迎ひに来て下さい』
竹彦『ウンウンウン、かくの如く濃厚な紫の雲、汝の身体を取囲んで居るのが目に入らぬか。活眼を開いて四辺を熟視せよ』
魔我彦『どうしても我々の目には見えませぬ』
竹彦『ウンウンウン、見えなくつても雲は雲だ。竹彦の肉体と手を繋いで天に向つて飛びあがれ。さうすれば摘み上げてこの館より脱出せしめ、安全地帯に救うてやらう。男は決断力が肝要だ。サア早く早く』
と促され、魔我彦は無我夢中になつて竹彦の手をとり、一イ二ウ三ツと声を揃へて一二尺飛び上つた途端に、松上より眼下の荒砂を敷きつめた庭に真逆様に墜落し、蛙をぶつつけたやうにビリビリと手足を慄はせ、人事不省に陥つた。若彦、杢助、玉、国その他の者はこの光景に驚き、忽ち樹下に人山を築き、水よ水よと右往左往に慌て廻る。お光は手桶を提げ慌しく走り来る。杢助は直ちに水を含み、両人の面部に息吹の狭霧を吹きかけ、漸くにして二人は唸りながら生気に復し、四辺をキヨロキヨロ見廻し、玉治別、国依別の姿を見て『キヤツ』と叫び、またもや人事不省に陥つてしまつた。玉治別は魔我彦を、国依別は竹彦をひつ抱へ、奥の間深く運び入れ、夜具を敷いて鄭重に寝させ、神前に向つて天津祝詞を奏上し、更めて鎮魂を施した。漸くにして二人は息を吹きかへす。
玉治別『魔我彦さま、どうでした。随分御心配なさつたでせう』
魔我彦『ハイ、誠に申訳のない事を致しました。どうぞ命だけは御猶予を願ひます』
玉治別『人を助ける宣伝使がどうしてお前の命が欲しからう。お蔭で大変な修業をさして貰ひました。しかしこの後はあんな危険な事は止めて貰ひたいものだ。天の真浦の宣伝使が、駒彦、秋彦に宇津山郷の断崖から雪中へ落されたよりも余程険難でしたよ』
 魔我彦は真赤な顔をして俯向く。
国依別『竹彦さま、気がつきましたか』
竹彦『ハイ、気がつきました。悪い事は出来ませぬワイ。余り成功を急いだものですから何分貴方方は高姫さまの御神業の妨害をなさる悪人だと信じきつて、あゝ云ふ無謀な事を致しました。しかしながら魔我彦の精神は存じませぬが、決して竹彦はそんな悪人ではありませぬ。八岐の大蛇の邪霊が私に憑いてあんな事をさせたのですよ。何卒私を恨まぬやうに願ひます』
杢助『随分不減口を叩く男だな。しかしながらお前もこれで悪は出来ないと云ふ事は分つたであらう』
魔我彦『私も肉体がやつたのではありませぬ。八岐の大蛇の眷族が憑つたのですから、どうぞ神直日大直日に見直し聞き直しを願ひます』
杢助『大体お前達は高姫の脱線的熱心に惚込んで居るから、そんな不善的な事を平気でやつて、立派な御神業が勤まると思うて居るのだ』
魔我彦『何事も日の出神さまの御命令通りだと思つて、高姫さまの意志を一寸忖度して居る処へ守護神がやつて来て、霊肉一致、二人を谷底へ突落し、殺さうとしたのです。しかしながら魔我彦の肉体は何も知りませぬ』
杢助『玉治別、国依別の宣伝使は青山峠の絶頂から、あの深い谷間へつき落され、すんでの事で五体を粉砕するやうな目に遇はされても、お前達両人に対し鵜の毛の露ほども恨んで居ないのは実に感服の至りだ。お前達もこの両宣伝使の心を汲みとつて、少し改心したらどうだ。さうして改心を証明するために、今迄の高姫一派の計略を此処ですつかり自白したがよからう』
魔我彦『そればつかりは自白出来ませぬ、高姫さまから仮令死んでも云うてはならないと口留めされ、私も万劫末代、舌を抜かれても言はないと固く約したのですから』
杢助『仮令善にもせよ、悪にもせよ、まだ良心に輝きがあると見えて、約束を守ると云ふ心がけは見上げたものだ。俺達もこれ以上は最早追及せぬ。玉治別さま、国依別さまこの両人を赦しておやりでせうなア』
玉治別『赦すも許さぬもありませぬ。何事も神様の御経綸、我々に油断は大敵だと云ふ実地の教育を与へて下さつたのですから、そのお役に使はれなさつた御両人に対し、御苦労様と感謝こそすれ、寸毫も不足に思つたり恨んだりは致しませぬ』
国依別『私も玉治別と同感です。魔我彦さま、竹彦さま、安心して下さい。当つて砕けよと云ふ事がある。この上は層一層親密にして、神界の御用を勤めようぢやありませぬか』
 杢助は立つて歌を歌ひ、しらけたこの場の回復を図つた。

『大和河内を踏み越えて  漸々此処に紀の国の
 青山峠の谷間に  言依別の御言もて
 勇み進んで来て見れば  音に名高き十津川の
 激潭飛沫の谷の水  衣類を脱ぎて真裸体
 ざんぶとばかり飛び込みて  御禊を修する折からに
 樹々の青葉も追々に  黒ずみ来り天津日の
 影は漸く隠ろひて  闇を彩る折からに
 頭上をかすめて落ち来る  二つの影は忽ちに
 青淵目がけて顛落し  人事不省になる滝の
 辺に二人を抱きあげ  よくよく見ればこは如何に
 玉治別や国依別の  神の命の宣伝使
 青山峠の断崖より  つき落されてこのさまと
 聞いたる時の驚きは  流石に豪気の杢助も
 胸に浪をば打たせつつ  闇を辿りて漸々に
 二人を伴ひ平岩の  麓に漸く近寄つて
 その夜を明かし両人に  様子を聞けば魔我彦や
 竹彦二人の悪戯と  聞いて再び胸躍り
 深き仔細のある事と  此処に三人はとるものも
 取敢ずして若彦が  館に訪ね来て見れば
 思ひがけなき両人が  離れ座敷でひそびそと
 深き企みを語り合ふ  善悪邪正のその報い
 忽ち現はれ北の空  雲を払つて照り渡る
 北極星の動きなき  若彦さまが雄心に
 再び動く三人連れ  魔我彦竹彦両人は
 虚実のほどは知らねども  ともかく前非を心から
 悔いしが如く見えにける  嗚呼頼もしや頼もしや
 仕組の糸に操られ  心にかかりし村雲も
 愈晴らす今日の宵  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましまして  鷹鳥姫が迷ひをば
 晴らさせ給へ魔我彦や  竹彦一派の迷信を
 朝日の豊栄昇るごと  照し明して三五の
 道の誠を四方の国  国の内外の島々に
 月日の如く明かに  照させたまへ天津神
 国津神達八百万  百の御伴の神達の
 御前に頸根つきぬきて  遥に祈り奉る
 慎み祈り奉る』  

と歌ひ終つて両人に向ひ、
杢助『サア、魔我彦さま、竹彦さま、この杢助と共に聖地へ帰りませう。若彦、玉治別、国依別はこれより伊勢路に渡り近江に出で、三国ケ岳を探険して聖地へ帰つて下さい。聖地にはまたもや高姫の陰謀が劃策されてあるから、杢助はこれより両人を伴ひ、すぐ帰国致さう』
と云ふより早く忙しげにこの館を立ち出た。魔我彦、竹彦は何となく心落着かぬ面持にて、悄々後に従ひ聖地をさして帰り行く。

(大正一一・六・一〇 旧五・一五 加藤明子録)



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