出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語23-1-21922/06如意宝珠戌 副守囁王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
普陀落山の若彦館
あらすじ
 若彦は普陀落山の麓に館を作り、三五教を宣伝していた。
 魔我彦と竹彦が訪ねてくるが、門番の秋公と七五三公はなかなか中に入れない。そこで、魔我彦と竹彦は無理やり中に入り、若彦と会った。
 若彦は、神殿の朝の礼拝のおさがりで朝食を食べ、魔我彦と竹彦にもすすめた。魔我彦は「自分は玉照彦、玉照姫の命令でやって来た。聖地では、杢助と初稚姫が我が物顔にふるまい、人心は離反している。高姫も心配している。また、言依別命は若彦の女房の玉能姫と○○している。そこで、高姫が錦の宮にうかがうと『言依別の職を免じ、高姫に一切万事を一任する』とあり、杢助をたたき出して若彦を総務にするので、聖地に帰ってもらいたい」と言う。
 若彦は魔我彦の言うことは問題にせず、「自分は言依別命に絶対服従だ」と言う。竹彦が神懸りになり、「魔我彦が国依別と玉治別を谷底に突き落とした」ことをほのめかす。若彦もそれを悟った。
 魔我彦は逃げ出そうとするが、そこへ、「三人の宣伝使がやって来た」という知らせがあったので、若彦は男達に二人を監視させておいて、三人と会いに行く。
名称
秋公 乙 お光 甲 七五三公 侍女 竹彦 丁 丙 戊 魔我彦 役員信者 若彦
悪魔 大神 国依別 黒姫 言依別命 邪神 高姫 鷹依姫 竜国別 玉照彦 玉照姫 玉能姫 玉治別 野天狗 初稚姫 副守護神 ムカデ姫 杢助
青山峠 ウラナイ教 神懸り 惟神 紀州 北山村 黄金の玉 四本足 神界 天眼通 錦の宮 如意宝珠 波斯の国 普陀落山 魔谷ケ岳 紫の玉
 
本文    文字数=16914

第二章 副守囁〔七一四〕

 罪も穢れも那智の滝、洗ひ流した若彦は、心もすがすがしく三五教の教理を遠近に伝ふべく、普陀落山の麓に館を造り、教を四方に布きつつあつた。門を叩いて、
『頼まう頼まう』
と訪ふ二人の宣伝使がある。門番の秋公、七五三公はこの声に眠りを醒まし、大欠伸をしながら、
七五三公『オイ秋公、誰だか門外に訪ふ人がある。早く起きて開けてやらないか』
秋公『夜も碌に明けてゐないのに、この門開ける必要があるか。少し時刻が早いから、マア一寝入したがよからう』
 門を叩く声益々忙はしい。七五三公は夜具を被つたまま、
『オイオイ開けるのは秋公の役だ。早く起きぬかい』
秋公『それほど喧しく言ふなら、貴様開けてやれ』
『オレはその名の如くしめる役だ。愚図々々して居ると、また若彦の大将からお目玉を頂戴するぞ。エー仕方の無い奴だ』
と寝巻のまま、仏頂面を下げて片足に下駄、片足に草履を穿き、三尺帯を引摺りながら、門をガラガラと開いた。二人は丁寧に会釈し、
『若彦の宣伝使は御在宅ですかな』
七五三公『そんな難かしいことを言つて解るかい。居るか、居らぬかと云ふのか。さうしてお前は何と云ふ宣伝使だ』
『ハイ私は魔我彦、外一人は竹彦と云つて三五教の宣伝使です。大神様の御命令によつて、遥々参つたのですから案内して下さい』
『曲つたとか、曲らぬとか、案内とか、門内とか、お前の言ふ事は全然訳が分らぬ。そんな英語を使はずに俺達に分るやうに云つてくれ』
魔我彦『アハヽヽヽ、訳の分らぬ門番もあつたもんぢやなア。こんな奴が門番して居る位だから、大抵若彦の御手並も分つてゐるワイ』
七五三公『一寸待つてくれ。今お前は此家の御主人を若彦と云つたなア。何故若彦さまと言はないのだ。そんな無茶なこと云ふ奴は、この門は通されぬのだ。大方魔谷ケ岳の蜈蚣姫の乾児だらう。三五教の宣伝使だなんて、うまく化て来たのではないかな。……オイ秋公、貴様起きて来い。大変な奴がやつて来居つたぞ』
 秋公はこの声に驚いて、寝巻のままこの場に現はれ来り、
『大変な奴とは此奴か。どうしたといふのだ』
『此方の主人を若彦なんて呼びつけにしやがるものだから、むかつくのだよ秋公』
『それはむかつくとも、オイ何処の奴か知らぬが今日は帰つてくれ』
魔我彦『その方は謂はば若彦の門番でないか。大神様の御命令で来た吾々を、通すの通さぬのと云ふ権利があるか。早く案内を致せ』
と稍怒りを帯びた語気で呶鳴りつけた。二人は頭を掻きながら、
秋公『マアこれから吾々門番は手水を使ひ、着物を着換へ、朝飯を食つて悠くりと案内をしてやるから、それまで其処に待つてゐるが好いワイ』
竹彦『魔我彦さま、広いと云つてもたかが知れた若彦の屋敷、サア、行きませう』
と先に立ち奥に入る。若彦は涼しさうな薄衣を着て、庭先の掃除に余念無く、箒目を正しく砂の上に画いてゐる。
魔我彦『アヽ彼れがどうやら若彦の宣伝使らしい。大将は朝早くから彼の通り、箒を以て園丁の役を勤めて居るのに、門番の奴グウグウと寝やがつて、ポンついてゐやがる。ウラナイ教の北山村の本山でも、依然さうだつた。門番は威張るばかりで働かぬものだ。なア竹彦、貴様も波斯の国ではウラナイ教の門番をしてゐた時、依然さうだつたなア』
竹彦『そんなことを今頃に持ち出すものぢやありませぬぞ。さうしてウラナイ教なんて、疾の昔に消滅してしまひ、今は吾々は立派な三五教の宣伝使だ。昔の門番を、こんな処で担ぎ出されると吾々の沽券が下る。そんな過去つたことを云ふのなら、青山峠の谷間の突発事件を此処で開陳しようか』
魔我彦『シーツ』
竹彦『シーツとはなんだ。人を四足扱ひにしやがつて、シーシー云うと、死んだ奴がまた恨めしやーナアーとやつて来るぞ。縁起を祝ふ神の道だ。四と九とは言はぬやうに慎んだがよからう』
と佇んで若彦の掃除を見ながら二人が囁いてゐる。その声が耳に入り若彦は、箒を手にしながら両人の姿を眺めて、
若彦『アヽ貴方は魔我彦さまに竹彦さま、朝早くから、よくお入来になりました。どうぞ奥へ通つて下さい。一別以来の御話しも悠くり承はりませう』
 魔我彦は儼然として、
『私は玉照彦、玉照姫様の御使として、遥々参つたものでございます』
竹彦『謂はば神様の御使、謹みて御聴きなさるがよろしからう』
と傲然と構へてゐる。若彦は腰を屈め、
『何はともあれ、奥へ御通り下さいませ』
と先に立つ。二人は離れ座敷に招かれ、茶湯の饗応を受け、しばらく打寛いで四方山の話に耽る事となつた。若彦は表に出で部下の役員信者と共に、神殿に朝の拝礼をなし、一場の説教を了り朝飯を喰つて居る。侍女は膳部を拵へ、離れ座敷の二人の前に持運び、朝飯をすすめて居る。若彦は朝餉を済まし、衣紋を繕ひ、離座敷の二人が前に現はれ、
若彦『これはこれは御両人様、長らく御待たせ致しました。遥々の御越し、何の御馳走も無く誠に済みませぬ』
魔我彦『三五教の教理は一汁一菜と云ふ御規則でござる。それにも関はらず、イヤもう贅沢な御馳走に預りました。聖地においては到底玉照彦様でも、こんな御馳走は見られたこともござりませぬ。しかしながら折角の御志、無にするも如何かと存じ、快く頂戴致しました。アハヽヽヽ』
若彦『吾々も三五教の宣伝使、一汁一菜の御規則はよく守つて居ります。しかしながら今日は神様の御入来ですから、神様に御馳走を奉つたのです。魔我彦さまや、竹彦さまに御上げ申したのではござらぬ。貴方は神様に上げたものを、気の毒だから御食れましたとおつしやつたが、神様の分まで御食りになつたのですか』
と竹篦返しを喰はされ、二人はギヤフンとして円い目を剥く。
魔我彦『今日吾々の参つたのは大神様の御命令、玉照彦、玉照姫の二柱の神司より、御神慮を伝ふべく出張致しました。貴方は聖地の大変を知つて居りますか』
若彦『聖地は無事安穏に神業が栄えて居るぢやありませぬか』
魔我彦『さてさて貴方は長らく聖地を離れてゐるから解らぬと見えるワイ。貴方の御存知の杢助と云ふ奴、全然聖地へ入り込み、初稚姫の少女の言ふ事を楯に取り、横暴を極め、誰も彼も人心離反し、今に大変動が起らんとして居る。それで高姫さまも非常に御心配を遊ばしてござるのです』
若彦『さうすると貴方は高姫さまの旨を奉じて来られたのか、或は言依別の教主様の旨を奉じて御入来になつたのか、それから第一番に聴かして貰ひませう』
竹彦『そんな事はどうでも好いぢやないか』
と言はんとするを魔我彦は周章て押し止め、
魔我彦『コレコレ竹彦さま、お前は約束を守らぬか。お前の言ふべきところではない、謂はば従者ぢやないか』
竹彦『従者か何か知らぬが依然表面は魔我彦と同格の立派な宣伝使だ。余り偉さうに言つて貰ひますまい。青山峠の絶頂はどうですな』
と顔を覗き込む。
魔我彦『青山に日が隠らば烏羽玉の夜は出なむ。朝日の笑み栄え来て、拷綱の白き腕淡雪の若やる胸を、素手抱き手抱きまながり、真玉手玉手さし巻き、腿長にいほしなせ、豊御酒奉らせ。アハヽヽヽ』
と笑ひに紛らす。
竹彦『ヘン、うまい処へ脱線するワイ』
魔我彦『沈黙だ』
若彦『杢助がどうしたと言ふのですか』
魔我彦『杢助はお前さまを紀州下りまで追ひやつて置き、お前の女房玉能姫をうまく抱き込み、聖地へ連れて行き、言依別の命に密と○○させて、それを手柄に威張つて居るのだ。それがために聖地の風紀は紊れ、「町内で知らぬは亭主ばかりなり」と云ふ事が突発して居ますよ。お前さんは杢助や、言依別を何と思ひますか。肝腎の女房を○○されて、それで安閑としてゐるのですかな。高姫さまが大変に憤慨なされて「アヽ若彦さんは気の毒ぢや、どうぞ一日も早くこの事を知らして上げ、私と一緒に力を協して聖地を改革せねばならぬ」とおつしやつて、錦の宮に御願ひを遊ばしたところ、玉照彦、玉照姫の神司に大神が御降臨遊ばし、「不届至極の言依別、今日よりその職を免じ、高姫に一切万事を委任する。就ては杢助を叩き出し、若彦さんを総務にするのだから早く聖地へ帰つて貰へ」との有り難き御言葉、それ故吾々は遥々と参りました』
若彦『それは御苦労でした。しかしながら貴方のおつしやる大変とは、そんなものですか。それはホンの小さい問題ぢやありませぬか。例令玉能姫が○○されたと言つても、吾々さへ黙つて居れば済むことだ。その位な事が、何大変であらう。アハヽヽヽ』
と手も無く笑ふ。魔我彦はキツとなり、
『これは怪しからぬ。自分の女房を○○されながら平気で笑うてゐるとは、無神経にも程度がある。イヤ、貴方は玉能姫以上のナイスが出来たので、これ幸ひと思つてゐるのでせう』
若彦『私は神界に捧げた身の上、玉能姫を措いて他に女などは一人もナイスだ。アハヽヽヽ』
と木で鼻を擦つたように笑つて取り合はぬ。
魔我彦『それよりも未だ未だ一大事がある。如意宝珠や、紫の玉や、黄金の玉を隠した張本人は言依別命だ。可愛相に黒姫さまや、竜国別、鷹依姫その他の連中は、玉探しに世界中へ出てしまつた。さうして言依別の教主は何でも目的があつて、自分一人で何処かへ隠してしまひよつたのだから、何処までも詮議立をしなくてはなりませぬ。何を云つても玉能姫を○○するために、お前さまをこんな遠国へ、杢助と諜し合せて追ひやるやうな代物だからなア』
若彦『アヽさうですか、私は言依別様が何をなさらうとも、神界に仕へて居る方だから、少しも異存は申しませぬ、絶対服従ですから』
魔我彦『服従も事によりますよ。些と冷静に御考へなさい。天下の大事ですから。教主一人と天下とには換られますまい』
若彦『彼の賢い抜目の無い玉治別や、国依別が付いて居るのですから、滅多なことはありますまい。もしも左様なことがあれば、屹度知らして来る筈になつて居るのですから』
竹彦『玉治別や国依別は、モウ現世には………』
と言ひかけるのを、魔我彦は『シーツ』と制し止める。
竹彦『また人をシーなんて馬鹿にするない。シーシー死骸、死人、しぶとい、知らぬ神に祟り無し。死んだがマシであつたかいなア』
と首を篦棒に振り、長い舌を出してゐる。魔我彦は心も心ならず、
魔我彦『若彦さま、この男は些と逆上してゐますから、何を云ふか解りませぬ。チツとキ印ですからそのつもりで聴いて下さい』
若彦『玉治別と国依別さまの消息は御存知でせうな』
魔我彦『………』
竹彦『この竹彦は知つても知りませぬ。しかしながら副守護神がよく知つてゐますよ』
 魔我彦は矢庭に両手を組み、竹彦に向つてウンと一声、魔我彦は、
『副守の奴、除けーツ』
と呶鳴り立てゐる。
竹彦『ウヽヽ油断を致すと谷底へ突落されるぞよ。一旦谷底へ落した上で神が救けて、誠の御用を致さすぞよ。この世は神の自由であるから、人間のうまい計画は成就致さぬぞよ。蛙は口から、われとわが手に白状致さして面の皮を引剥くぞよ』
魔我彦『下れ下れ、下り居らう。その方は野天狗であらう』
竹彦『野天狗でも何でもいいわ、谷底ぢや、押も押れもせぬ三五教の宣伝使でも、矢張押されて谷底へ落ちてアフンと致すことがあるぞよ。今に上が下になり下が上になるぞよ。神が表に現はれて善と悪とを立別るぞよ』
魔我彦『エー喧しい野天狗だ。下れと云つたら下らぬか』
竹彦『ウヽヽ若彦殿、気をつけたがよからうぞよ。悪の誘惑に乗つてはならぬぞよ。何程うまいこと申して来ても、神に伺うた上でなければ、聞いてはならぬぞよ。マガマガマガ』
魔我彦『モシモシ若彦さま、困つた邪神が憑依したものですなア』
若彦『イヤ邪神でもありますまい。大方この守護神の言ふことは、事実に近いやうですよ。国依別、玉治別の宣伝使は、もしや或はマガタケル彦に谷底へ突き落されたのではありますまいかな』
竹彦『ウヽヽ流石は若彦の宣伝使だ。汝の天眼通、天晴れ天晴れ』
 魔我彦は顔蒼白め、ソロソロ遁腰になつてこの場を立去らうとする。
若彦『マア魔我彦さま、悠くりなさいませ。天が下には敵も無ければ味方も有りませぬよ。神様が善悪は御審判き下さいますから、吾々は何事が起らうとも惟神に任して居れば好いのですよ。サア、お茶なつと召上りませ』
と茶を汲んで突き出す。魔我彦は身体ワナワナと戦き出した。
 かかる処へ召使のお光と云ふ女、あわただしく走り来り、
お光『只今三人のお客様が見えました。どう致しませう』
若彦『表の奥の間へ御通し申して置け』
魔我彦『モシモシその三人の方と云ふのは、どんな御方でございますか』
お光『なんでも宣伝使さまのやうです。大変大きな御方が一人混つてゐられます』
 魔我彦の面色はサツと変つた。竹彦は身体をブルブルと慄はせながら、また神憑りになつて、
竹彦『それ来た それ来た、谷ぢや谷ぢや、玉ぢや玉ぢや、クニクニクニモクモクモク』
と呶鳴り出した。若彦は、
若彦『コレお光や、四五人の男を此処へ招んで来ておくれ』
 『ハイ』と答へて、お光は表を指して姿を隠し、しばらくありて甲、乙、丙、丁、戊の五人の大男を伴れて来た。
若彦『ヤア五人の男ども、私は表のお客さまに少し用があるから、二人のお客さまを見放さないやうに、大切に保護をして居るのだよ。出口入口に気をつけて悪魔の侵入せないように守つてあげてくれ。遁げられては一寸都合が悪いからなア』
甲『ハイ何事もチヤンと私の胸にございます。御心配下さいますな』
若彦『何分よろしう頼む。モシ魔我彦さま、竹彦さま、私は表の客人に一寸会つて来ます。どうぞ悠くりお茶でも上つて遊んで下さいませ』
と五人の男に目配せし、悠々とこの場を立つて表屋の方に姿を隠す。

(大正一一・六・一〇 旧五・一五 外山豊二録)



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