出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語22-3-101922/05如意宝珠酉 美と醜王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
鷹鳥山の清泉
あらすじ
 三人の女は、上枝姫、中枝姫、下枝姫と言い、金助、銀公、鉄公を導いて、現界と神界の境目まで来た。
 上枝姫は金助に向って、「玉能姫を助けようとする心が自分(上枝姫)を生んだ。しかし、助けて恩を着せようという心が迷いの国を生み、ムカデ姫に褒められようとする心が修羅道を作っている」と言う。
 金助は上枝姫と一緒であるというつかのまの幸せから、一転して、イモリ姫の鬼婆に言い寄られる。イモリ姫は、「大勢の女の恨みと、金助の鬼心が自分を生んだ」と言い、耳まで裂けた口をバクバクさせて金助に言い寄る。
 金助は恐ろしさにふと気が付くと、泉で気を失っており、他の六人も茨で引っかいて血だらけで草原に転がっていた。
名称
イモリ姫 カナンボール 金助 銀公 熊公 下枝姫 スマートボール 鉄公 中枝姫 蜂公 上枝姫
妖怪変化 閻魔 鬼婆! 鷹鳥姫 玉能姫 天人 怨霊
御題目 現界 心の鬼 言霊 修羅道 神界 鷹鳥山 南無妙法蓮華経 如意宝珠 羽交
 
本文    文字数=10500

第一〇章 美と醜〔七〇二〕

 玉能姫と現はれたる三人の女は、甲を上枝姫と云ひ、乙を中枝姫と云ひ、丙を下枝姫と云ふ。金、銀、鉄の三人は漸く美人に導かれ、名も知らぬ山の頂に辿り着いて居た。
金『上枝さま、不思議の縁で貴女とかう云ふ仲になつたのも何かの因縁でせうなア。一寸先も分らないやうなあの山道を、貴女のお蔭で漸く此処に登つて来ましたが、どうもこの辺は鷹鳥山とは趣が違ふぢやありませぬか』
上枝姫『違ひますとも。鷹鳥山を距る事、殆ど三百里ですよ』
『何時の間に、そんなに遠く来たのでせう』
『ホヽヽヽヽ、貴方は御存じありますまいが、私は天人ですよ。貴方の体を翼の中に入れて来たのですから、殆ど半時ばかりの間より経つて居ませぬ』
『それにしても余り早いぢやありませぬか。しかし今迄銀、鉄、外二人の姫さまは此所へ一緒に来た筈だのに、何処へ往つてしまつたのでせう』
『神界では、タイムもなければ遠近もありませぬ。さう御心配なさらずとも今に会ふ事が出来ます。今と云つても現界で云へば五十万年の未来です』
『何と合点の行かぬ事をおつしやいますなア。此処は現界ではありませぬか』
『現界と云へば現界、神界と云へば神界で、顕神幽一致の大宇宙の世界を逍遥して居るのですからなア』
『何だか私は狐に誑まれたやうな気が致します。性来の黒ン坊の私、何時の間にやら艶々した皮膚になり、色まで白くなつて来ました。さうして貴女のやうな立派なネースに手を曳かれ、見も知らぬ麗しき山の頂に導かれたと云ふのは、どうしても合点が往きませぬ。夢ぢやありますまいか』
『夢は現界の人間の見るものです。聖人に夢なしと云うて、清浄潔白の人間に夢があつて耐りますか。畢竟貴方が玉能姫さまが清泉に陥り溺死をしようとして居たのを助けて上げたいと云ふその真心が凝つて、此処に私とかう楽く暮す事が出来るやうになつたのです。要するにその心より玉能姫さま同様の妾を生出し救ひの国を開かれたのです。しかしその次に貴方は玉能姫を救ひ上げ、それを恩に着せて自分の物にしようと思ひ且その言霊を使つたでせう。それでその心と言葉が凝つてまた一つの迷ひの国が展開して居ます。其処へ貴方はこれから旅行せねばなりますまい。も一つ奥の国は蜈蚣姫に褒められて手柄をしようと云ふ修羅道が展開して居ます、これも一度踏まねばなりますまい。私とかうして楽く、麗しき山の頂に、百花爛漫たる種々の花を褒めながら楽むのも束の間ですよ。ただ貴方の初一念の玉能姫を救ふと云ふ好意が造つた世界は極短いものです。左様なら』
と云ふかと見れば姿は煙となつて消えてしまつた。四面暗澹として咫尺を弁ぜざるに至つた。金は、
『モシモシ上枝様、何処へお出になりました。も一度お顔を見せて下さいませ。アヽもう姿がなくなつたか、仮令妖怪変化でも、ただの一時でもこんな愉快な気分になる事を得ば死んでも満足だ。アヽどうしたら良からう』
と暗夜の道を前後左右に狂ひ廻る途端に、千仭の谷に真逆様に顛落し、谷川の青淵にざんぶとばかり落ち込んでしまつた。
 何処ともなく現はれ来る一人の鬼婆、矢庭に真裸となり、金助を小脇に引き抱へ救ひ上げた。金助は今や溺死せむと苦み悶えたる矢先、何人かに救はれ、嬉しさの余り、
『何れの方かは存じませぬが、よくマア助けて下さいました。有難う存じます』
と面を上げよくよく見れば、いつしか夜は明け放れ、山奥の谷川の辺に見るも恐ろしい鬼婆に救はれて居た。金助は吃驚仰天、この場を逃げ去らむとする時、鬼婆はグツと素首を握り、
『これこれ金助さま、お前さまを助けたのはこの婆だよ。さアこれから私のハズバンドになつて下さい』
『やア此奴は大変ぢや。上枝様のやうな美人なら、仮令化衆でも恐ろしくはないが、お前のやうな皺苦茶だらけの、口が耳まで裂けた鬼婆アさまの亭主になるのは許して貰ひたいなア』
『私はいもり姫と云ふ腹に真赤な痣があり、南無妙法蓮華経と御題目を天然に表はした、いもりのやうな婆だ。これもお前の心から造つて生んだ鬼婆だから、お前の世話にならいで誰人の世話にならう。お前は玉能姫を助け、それを恩に着せて、恋の欲望を遂げようとしたではないか。いもりの黒焼振りかけて、女を思ひつかさうとするやうな虫の好い考へを起すものだから、たうとうその心の鬼が私を生んだのだから、何と云つても離れやせぬぞえ』
『「惚薬、他にないかと蠑螈に問へば、指を輪にして見せたげな」指を輪にすると云ふ意味は、世の中の仇敵として喜ばれて居る妙な運命を辿る金助の事だよ。金ちやんには美人が惚れる可能性が備はつて居る。しかしながら蠑螈姫では駄目だよ。なんぼ金さまが色男でも、お前のやうな悪垂れ婆には聊か御迷惑千万、ナンノホウレンゲキヨウだ。今度ばかりはどうか許してくれ。また逢ふ時もあらうからなア』
 鬼婆の蠑螈姫は、涙をハラハラと流し、
『そりや聞えませぬ金助さま。お前と私のその仲は、金助や経惟子の事かいな。初めて逢うたその日から……』
『コラコラ、何吐すのだ。昨日や今日の事ぢやない、と云ひやがるが、現に今逢うたばかりぢやないか』
『そりや違ひます金助さま。お言葉無理とは思はねど、お前は元来ずるい人、女の尻を付け狙ひ、狙ひ狙うた魂が、凝り固まつて七八年、ここにいもりの姫となり、お前の心の黒幕を、開けて生れたこの妾、今更捨てようとはそりや聞えませぬ、胴欲ぢや。仮令この身は閻魔の庁で、如何なる酷い成敗に遭はされうとも、私の夫とも親とも頼む金助さま、どうしてこれが思ひ切られようか。思へば思へば前の世の、まだ前の世の前の世の、昔の昔のさる昔、去つた女房の怨霊や、泣かした女の魂が、凝り固まつて今此処に、お前に逢うた嬉しさは、千代も八千代も万代も、忘れてならうかいもり姫、逢ひたかつた、見たかつた、明けても暮れてもお前の事、夢寐にも忘れぬ女房が、心を推量して下さんせいなア』
『こりやこりや、いもり姫とやら、切なる心は察すれど、某は鷹鳥山の岩窟に立ち向ひ華々しく言霊戦を開始して、当の敵たる鷹鳥姫を虜に致し、如意宝珠の宝玉を手に入れねばならぬ大切な身の上、夫婦になれなら、事と品によつてはならぬ事もない。何はともあれ凱旋の後、否やの返事を仕らむ。サア早う其処を放しや。時延びるほど不覚の基、エヽ聞き分けのない鬼婆め』
『愛憐き夫が討死の、門出を見かけて女房が、これが黙つて居られうか、泣く泣く取り出す拳骨の痛さ、耐へて往かしやんせ』
『こりや鬼婆、洒落ない。貴様等に拳骨を喰はされて耐るか、あた縁起糞の悪い、討死の門出なんて何を云ふのだ』
『これ金さま、妾の素性を知つて居るかい。お前は女にかけては随分ずるい人だが、金にかけては雪隠のはたの猿食柿、一名身不知と云ふ、柿のやうな男だ。渋うて、汚うて、細かうて、喰へぬ男だと云はれて来ただらう。そして鬼金だ鬼金だと人に持て囃された悪党者だ。金が敵の世の中だよ。大勢の恨とお前の鬼心が混淆になつて、こんないもり姫の鬼婆が出現したのだ。云はば色と金との権現様だ。お前は豪さうに人間面を提げて歩いて居るが、決してそんな資格はありませぬぞえ』
『エヽ困つた口の悪い婆が現はれたものだなア、人間でなければ三げんか、四けんか、五んげんさまか』
『良い加減にお前さまも改心して、解脱さしてくれたらどうだいな。それが出来ねば何処迄もお前さまにくつ着いて行かねばならぬ。磁石が鉄に吸着くやうなものだ。スヰートハートした病は、お医者さまでも有馬の湯でも、根つから葉つから何処迄も癒りやせぬワイなア。アヽ味気なき闇の浮世だ。誰がすき好んでこんな鬼婆になりたいものか、お前と云ふ男は殺生な男だ。サアどうして下さる』
と堅い冷たい皺だらけの手で、金助の両腕を左手に一掴みとなし、右の腕に蠑螺の壺焼を固めて、
『これ金さま、お前は本当に情ない人だ。イヤイヤ喰へない人だ。サアこの婆の身をどうして下さる』
と耳まで引き裂けた口をパクパクさせながら口説きたてるその嫌らしさ、身の毛もよだち首筋元のぞわぞわと寒さにハツと気が付けば、以前の清泉の中に飛び込んだ途端、向脛を打ち、気絶して居た事が分つた。傍を見れば人の呻声、咫尺を弁ぜぬ闇の中から次々に聞えて来る。
 かくして漸く夜は烏の声にカアと明け放れ、四辺を見れば、銀、鉄、熊、蜂、カナンボール、スマートボールの六人は、彼方此方の草の中に、荊蕀掻きの血だらけの顔を曝して苦悶して居た。

(大正一一・五・二六 旧四・三〇 加藤明子録)



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