出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語22-2-71922/05如意宝珠酉 囈語王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
聖地高姫の館
あらすじ
 高姫の精神錯乱状態は治まらない。杢助は天の数歌で鎮魂するが、高姫は「杢助は八岐大蛇が化けている」と言う。お初が「玉は神様が預かっています。三個の玉は有形です。そのために皆様はもっと立派な無形の玉を一個づつ頂きましたから、ご安心なさいませ」と言うが、高姫は聞かずお初を追い掛け回す。
 そこへ、テルヂーと雲州が見舞いに来ると、高姫は今度は雲州の腰をめったやたらに打ち付けて、「玉を返せ」と迫る。杢助は、強制的に高姫を蒲団の中に入れると、高姫は高熱にうなされ、「自分は再びウラナイ教を立てるつもりで玉を守っていたが、玉がなくてはダメだ」と本心を暴露する。
 国依別、駿州、三州が見舞いに来たが、杢助はうわごとが漏れるのを恐れて面会謝絶にしていた。国依別たちが無理やり奥に入ると、高姫は杢助に抱かれ眠っており、杢助は「もうダメだろう」と言う。お初は「心配ない。これには深い様子のあることでしょう」と言う。
 言依別命たちも見舞いに来て、一同は、高姫の回復を願って天の数歌を唱えた。
名称
雲州 遠州 お玉 お初 国依別 言照姫 言依姫 言依別命 三州 駿州 高姫 テルヂー 武州 紫姫 杢助 若彦
青彦! 生宮 大森博士 大蛇 黒姫 素盞鳴尊 玉治別 日の出神の生宮 変性男子 変性女子 曲津 魔我彦 ミロク 八岐大蛇 竜宮の乙姫
浅間山 天津祝詞 天の数歌 ウラナイ教 黄金の玉 師団演習 神政 鎮魂
 
本文    文字数=13134

第七章 囈語〔六九九〕

 高姫は一生懸命精神錯乱状態になつて、熱に浮かされ猛虎の如く、咆哮怒号の声屋外にビリビリと響いて来た。遠州、武州は驚いて奥へ駆け入つたり表へ出たり、手の施す所も知らず、
武州『オイ遠州、どうしよう。大変ぢやないか。大変々々』
と狼狽へ廻つて居る。
 杢助はお初の手を引きながら門の戸をがらりと開け、悠々と入り来り、
『オイ、遠州、武州、何を騒いでゐるのだ』
遠州『あの声を御聞きなさいませ、刻々と鳴動がきつくなります。浅間山が爆発するのか、高姫山が破裂するのか知りませぬが、大変な騒動が始まりかけて居ます。何処へ避難したらいいかと思つて、周章狼狽の体でございます』
『アハヽヽヽ、如何にも偉い鳴動ですな』
『何と云つても三十八度と四十度の間を昇降してゐる熱ですから、随分偉い煙も吐き出します。側に居られた態ぢやありませぬ。どうぞ貴方、鎮めて下さいな』
『この鳴動は大森博士だつて、どうすることも出来はしない。しかし杢助が一つ鎮魂をして鎮めて見ませう』
とお初と共に高姫の病床に進み入つた。
 高姫は金盥の底をガンガン叩きながら、起ちつ坐りつ捩鉢巻になつて暴れ狂うてゐる。杢助は両手を組み、一、二、三、四、……………と天の数歌を静かに唱へ、ウンと一声指頭より霊光を発射し、高姫の面を照した。高姫は漸く鎮静状態に復し、バタリと床の上に倒れ、肩で息をしながらウンウンと唸つてゐる。杢助は高姫の肩を撫で擦りながら声低に、
『モシモシ高姫さま、大層御苦しみと見えますが、何事も神様のなさることでせうから、決して決して御心配のなきやうに、気を確に持つて下さい。言依別の教主様も至極平気で居られますから』
 高姫はこの声にムツクと立上り、杢助の胸倉を矢庭にグツと引掴み、肩をいからし声を震はし、歯ぎしりをキリキリと言はせながら眼を釣上げ、
『お前は杢助ぢやないか、仮令言依別が何と云つても、大事の大事の結構な玉を紛失致したのは、神政成就のためには大変な大失策だ。これと言ふのも貴様がお初を伴れて来て、高姫の生宮から無理に引張り出さしたそのために、こんな目に遇うたのだ。私もそれから何となく変になり、こんな病気になつたのも、みんな杢助、お前のためだ。神政成就の妨害を致す大曲津奴が。大方八岐の大蛇が化けて居るのだらう。サア白状致して玉の在処を知らせよ。さうでなければ何処までも放しは致さぬぞや』
『高姫さま、それは偉い迷惑、マア悠くりと気を落着けて冷静になつて下さい』
『何ツ、迷惑と申すか。お前の迷惑は小さいことだ。大神様を始め世界万民の迷惑ぢや。第一この高姫が起つても坐ても居られぬ迷惑な目に遇うてゐる。サア、キリキリと白状致せ』
 杢助は高姫の手を強力に任せグツと放した途端に、高姫はどんと仰向けに倒れ、口から蟹のやうに泡を吹き飛ばし、前歯の抜けた口を斜交に開いて、頻りに何事か言はむと上下の唇をたたいている。
お初『小母さま、決して御心配なさいますな。その玉は神様の御手に御預り遊ばしてござるから、神政成就の妨害にはなりませぬ。三個の玉は有形です、そのために皆様はモツト立派な無形の玉を一個宛頂きましたから、御安心なさいませ』
 この声に高姫は気がつき、
『ヤア、お前はお初ぢやな。小豆のやうな態をして、ようツベコベ囀る奴ぢや。私の玉を叩き出した曲者、サア、もうかうなる上はこの高姫が承知致さぬ』
と飛びかからうとする。お初は体をヒラリと躱し、
『小母さま、気を落着けなさい』
『何ツ、猪口才な、ゴテゴテ言はずにすつこんで居れ。大方貴様が玉を盗んだのであらう。サア、日の出神の生宮が承知致さぬ』
とまたもや飛びかかる。お初は右へ左へ胡蝶の飛び交ふ如く、ヒラリヒラリと高姫の鋭鋒を避けて居る。門口にはテルヂー、雲州の二人、高姫の病気危篤と聞いて見舞にやつて来たと見え、
テルヂー『これ遠州さま、一寸開けて下さい。テルヂー、雲州の両人だ』
 遠州はこの声にガラリと戸を引き開け、
『ヤア、よく来て下さつた。大変に大将の病気が、変になつて来たので困つてゐるのだ』
雲州『変になつたとはどうだい。危篤と云ふのか』
『時々高姫山が鳴動をするので危険でたまらないのだよ。人事不省の高姫山、うつかり踏査でもしようものなら、山と共に奈落の底まで陥落するか分つたものぢやない。今も玉治別さまがカーンとやられて、遁げ帰らしやつたとこだ。気がついたらまた俺から篤りと云うて置くから、帰つたがよからうぞ』
テル『折角此処まで来たのだから、御顔だけでも拝見して帰らうか。なア、雲州』
雲州『危険区域だと云つて退却するのは男子の本分ではない。これも修行のためだ、一つ踏査することにしようかい』
と遠州の止むるをも聞かず、無理に奥の間に進み入つた。
 高姫は火の如き顔色に眼を釣り、拳を固めて六歳のお初目蒐けて追ひかけてゐる。杢助はこの騒ぎを他所事のやうに煙草をくすべながら、師団演習の観戦でもしてゐるやうな調子で泰然と構へてゐる。二人の姿を見るより、高姫は、
『ヤー、お前はテルヂーに雲州ぢやないか。貴様は元が小盗人だから、大方あの玉を盗みよつたのだらう。サア、了簡せぬ。早く此処へ玉を吐き出せ』
と雲州の素首をグツと捻ぢ、畳に摺つけ、
『サア、吐け吐け』
と高春山でお初の玉吐せを見てゐた高姫は、同じ流儀に倣つて腰を滅多矢鱈に叩きつける。
雲州『アイタヽ、ウンウン。モシモシさう叩いて貰ひますと、尻からプン州や、ウン州が出ますワイなア。オイ、テルヂー、早う俺を助けてくれぬかい』
『貴様は身魂が悪いから尻から吐くのだらう。コラ、今デルジリと吐かしただらう。早く尻を出せ』
 杢助は強力に任せ、高姫の素首をグツと握つて、猫を抓んだやうに引提げ、ポイと蒲団の上に抓み下した。
 またもや高姫は発熱甚だしく、ウンウンと苦悶の声を上げながら、床上に力なくグタリと倒れて囈語を始めた。
『三五教の変性男子様の結構な教を、変性女子がワヤに致して盗つてしまはうとするので、これは何でも系統の高姫が、一つ腰を入れねばなるまいと黒姫を説き諭し、青彦や魔我彦に言ひ聞かして、到頭ウラナイ教を樹てて、神政成就の御用を致さうと思ひ、日の出神の生宮が現はれ、黒姫には竜宮の乙姫様が引添うて、御守護遊ばすなり、力一杯変性女子の悪の守護神に敵対うて見たところが、思うたよりは立派な身魂で、ミロクさまのやうな素盞嗚尊ぢやと感心して、それから心を改め三五教へ帰つて、手を引合うてやらうと思へば、奴灰殻の学と智慧とで固まつた言依別命が教主となり、またもや学と智慧とでこの世をワヤに致さうと致すによつて、アヽ三五教も駄目だ、私が三つの玉を呑み込んで、再びウラナイ教を樹てて見ようと、心の底で思つて居つた。それ故黒姫に黄金の玉の御守をさして置いたのに、彼奴は莫迦だから到頭八岐の大蛇の眷属に奪られてしまひよつた。アヽ残念ぢや。三つの御玉が一つ欠けた、どうしよう、かうしようと気が気でならず、到頭黒姫を鞭撻つて玉探しに出したが、これでは雲を掴むやうな頼りのない話。しかしながらこの高姫が保管して居る二つの玉さへあれば、どうなり、かうなりと、神様に対して高姫が変性男子の御用継ぎを致せると思うて居つたら、その二つの玉も大蛇の乾児に、何時の間にか盗られてしまひ、今は蟹の手足をぼがれたやうな悲惨な事になつてしまつた。
 これと云ふのも言依別命が、余り物喰ひがよいので、何でも彼でも塵芥を、この聖らかな神様の御屋敷へ引張り込むものだから、こんな縮尻が出来たのだ。エーもう仕方が無い。しかしこの玉は遠くは行くまい。何れ未だ近くに隠してあるに違ひない。さうでなければ誰かが呑み込んでゐるのかも知れぬ。仮令死んでも、火になつても蛇になつても、この三つの玉を取返さねば置くものか。エーエー残念や、口惜しや、ウンウンウン』
と千切れ千切れに自分の腹の底まで白状してしまつた。
 これを聞いた杢助、お初、テルヂー、遠州、雲州、武州は目と目を見合はし、高姫の腹の中の清からざりしに肝を潰してゐる。
 高姫の大病と聞きつけて、次から次へと見舞客は踵を接し、門口は非常に雑沓を極めた。されど杢助は深く慮るところあり、高姫の囈語を大勢に聞かせては大変と、遠州、雲州に堅く言ひつけ面会を謝絶せしめつつあつた。此処へ国依別は駿州、三州を伴ひやつて来た。
国依別『コレコレ遠州さま、高姫さまの御病気はどうです。些とよい方ですか』
遠州『善とも悪とも、テンと見当がつきませぬ。善いと思へば悪い、悪いと思へば善い、到底凡夫の吾々、見当の取れぬ仕組と見えますワイ』
『コレコレ遠州さま、今日は教理のことをたづねに来たのぢやない。御病気は如何と云ふのだよ』
『病気ですかい。御病気は矢張身体の機械が、どつか破損したのですなア。随分奇怪千万な病気ですよ。何でも彼りや憑いてますなア』
『誰がついて居るのだ。看護婦は何人位居るか』
『何分日の出神さまの生宮ですから、神主もそれはそれは沢山居るでせう。人間の目には根つから見えませぬなア。死虱とか云つて、随分観音さまが沢山、御守護してゐらつしやいますワ』
『莫迦云ふない。オイ、駿州、三州、こんな奴に相手になつて居つても、とんと要領を得ない。サア、奥へ強行的進軍だ』
と行かむとする。遠州は両手を拡げ、
『アヽ国さま、駿、三、マア待つて下さい。杢助さまが喧ましいから』
『なに、杢助さまが来てゐるのか。そんなら猶の事、這入らねばなるまい』
『今お前達が這入ると病気は益々危篤になると云つて、杢助さまが心配してござつたので、軈て御臨終も近寄つただらう』
『それほど危篤に陥つてござるのなら尚更の事だ。どうしても御目にかからねばなるまい。其処除け、邪魔ひろぐな』
と突き除け刎ね除け進み入る。見れば高姫は、杢助に抱かれて、スヤヤスと睡つてゐる。
国依別『アヽお初さま、杢助さま、皆さま、大変に御苦労でした。御様子はどうですな』
杢助『ハイ、案じられた容態で困つてゐます。精神錯乱と見えて取止めもないことを口走るので、実のところは面会謝絶をしてゐたのです。しかしよう来て下さつた。到底もう駄目でせう』
と絶望的悲調を帯びたカスリ声で、力なげに答へる。
 お初はニコニコしながら、
『何れも方、御心配下さいますな。これには深い様子のあることでせう』
 かかる処へ言依別命は、言依姫、お玉の方、言照姫、紫姫、若彦を伴ひ、病気見舞のために此処に現はれ、枕頭に座を占め、天津祝詞を奏上し、天の数歌を唱へて恢復を祈つた。

(大正一一・五・二五 旧四・二九 外山豊二録)



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