出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語22-2-61922/05如意宝珠酉 見舞客王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
聖地高姫の館
あらすじ
 高姫は玉の箱を池に投げ捨て、頭痛がすると寝込んでしまう。
 玉治別とお勝が見舞いに来るが、高姫は「玉治別がお初を連れてきて、玉を吐き出させたからいけないのだ」と責任を転嫁し、お勝を泣かせてしまう。お勝が「言依別命に聞く」と言うと、高姫は「言依別命は自分の妹の言依姫の婿だから、何とでもなる」と言う。
 玉治別が立ち去ろうとすると、高姫は金盥で玉治別の頭を打つ。高姫の狂気に、玉治別とお勝は館を逃げ出した。そこへ、杢助とお初が現れる。
名称
遠州 お初 高姫 玉治別 武州 杢助 お勝
幽霊 黒姫 言依姫 言依別命 玉照彦 玉照姫 日の出神の生宮
宇都山郷 金剛不壊の宝珠 三千世界 神政 天眼通 如意宝珠 紫の玉 八尋殿
 
本文    文字数=12066

第六章 見舞客〔六九八〕

 高姫はすごすごと我家に帰り頭痛がするとて臥床に入り捩鉢巻の大発熱、大苦悶。遠州、武州は種々と介抱に全力を尽して居る。玉治別は妻のお勝と共に高姫の病気と聞き、見舞のために訪ねて来た。玉治別は庭の表に立ち働いて居る遠州に向ひ、
『遠州さま、承はれば高姫さまには少しお塩梅が悪いと聞きましたが、御様子はどうですかナ』
『ハイ、この間八尋殿で演説をなさつてから肝腎のお宝が石に化けて居つたとか云つて、怒つて溜池の中に放り込まれました。それから気分が悪いと云うてお寝みになつたきり、毎日日日玉々と、囈語ばつかり云うて居らつしやいます。誠に困りものですよ』
『どうか差支なくば、玉治別夫婦がお見舞に参つたと、伝へて下さい』
『承知致しました』
と奥に入り耳許に口を寄せて、
『高姫様、玉治別の宣伝使がお見舞に見えました』
 高姫は人事不省に陥りながらも、玉の一声にふつと気がつき、
『何、玉が出て来たと、そりや結構だ。早く見せておくれ』
と起き上つた。遠州は玉ではない、玉治別が来たのだと実を明かせば、またもや高姫が落胆して重態に陥る事を案じ、何気なう、
『ハイ、玉がお出になりました』
と皆まで云はさず、高姫は、
『早く此処へ持つてお出で』
 遠州は、
『ハイ』
と答へて表に出で、
『玉治別さま、お勝さま、どうぞ奥へお通り下さいませ。高姫様が大変お待ち兼ねでございます』
 玉治別はお勝と共につと奥に進み入り、見れば高姫は真赤な顔をしながら捩鉢巻のまま病床に坐つて居る。
玉治別『高姫様、承はりますれば御病気との事、どうかとお案じ申しましてお訪ねに上りました』
高姫『別に私は、病気なんかありませぬが、つい癇癪玉がつき詰めて熱が出たのです。常に健康なものが偶に寝ると、大変な噂が立つと見えます。ヤアもう大丈夫です』
お勝『毎度夫がお世話になりまして、一度お訪ね致さねばならないのですが、つい御無礼を致しました』
『お前さまが玉さまの奥さまかい。ほんに可愛らしい御器量のよいお方だこと、玉治別さまもお仕合せな事ですワイ。時に玉治別さま、皆さまは如意宝珠の玉の紛失に就て、どう云うて居られますかな』
『いやもう種々の噂でございます。高姫さまが独断で黒姫さまを追ひ出し遊ばしたが、人を呪はば穴二つ、自分もまた玉で失敗して何処かへ逃げ出さねばなるまい、と云つて居る人もあり、中には如意宝珠は決して紛失して居ない、吾々の身魂が曇つて居るから石に見えたのだと云ふ人もあり、一方にはどうも言依別命様の御処置が手ぬるいと云つて居る方もあります。つまり百人が百人、種々の意見を立てて騒いで居ますよ』
『私は誰が何と云うても此処は動きませぬよ。三千世界の救ひ主の日の出神の生宮が離れて、どうして御経綸が成就致しますか。大神さまは日の出神の生魂を地と致して三千世界を助けると、お筆先にまで書いて示してござるのだから』
『大変な御決心で結構ですが、しかしあの玉がもし紛失して居たら、貴女の責任上どうするお考へですか』
『青二才の分際で、そんな事までお構ひなさるには及びますまい』
『何程青二才だつて、やつぱり私も宣伝使の一人、参考までに聞いて置かねばなりませぬ』
『若い人達の聞く事ぢやない。お前達はとに角神様のお話さへして居ればよいのだ。私等とはお顔の段が違ふのだから。それについても言依別も何とかして大勢の者に云ひつけて、宝の在処を探して下さりさうなものぢやに、エヽ辛気臭い事だ。玉照彦さまも、玉照姫さまも何程立派な神様だとか云うても、何分年が若いものだから、こんな時には仕方がない。アヽ頭が痛くなつて来た。もう玉治別御夫婦帰つて下さい。私が本復の後、篤と皆さまに分るやう、千騎一騎の活動を遊ばすやうに一伍一什の因縁を説いて聞かして上げます。この頃の聖地の方々は薩張り桶のたががゆるんでしまつて、誰も彼も蒟蒻の幽霊見たやうな空気抜けばかりぢや、さうだから結構な玉を全部盗られてしまひ、平気の平左でポカンとしてなす所を知らずと云ふ腑甲斐ない為体、私は思うても腹が立ちますワイな。玉治別さま、お前さまも、ちつとこの玉の事に就て御心配なさつてはどうだい。宇津山郷の蛙飛ばしの蚯蚓切り、薯の赤子を育てるのとは、ちと宣伝使は六ケ敷いですよ。貴方第一チヨカだからこの玉探しに率先して、もう今頃にや何処かに飛んでいつてゐらつしやると思うて居たのに、気楽さうに夫婦連れで、ぞろぞろと昼の真最中に何の事だいな、ちと確りなさらぬか。人間の家は女房が肝腎ぢやぞえ。これお勝さまとやら、お前さまがこの玉治別さまを、ちつと鞭撻せなければならぬぞえ。千騎一騎のこの場合に、何を迂路々々と間誤ついてござるのぢやい』
『高姫さま、貴女は人を責むるに急にして己を責むると云ふ事は知らないのですか』
『そんな事は疾うの昔に知つて居りますワイな。よう考へて御覧なさい。金剛不壊の宝珠の玉や紫の玉は、謂はば一旦私の身の内のもので、私の御魂同然だ。腹の中から吐きだしたのと、吐き出さぬだけの相違ぢやないか。アヽこんな事なら腹に呑んでさへ居れば、こんな不調法は出来やしまいのに、お前さまが仕様ない木挽の杢助やらお初のやうな阿魔つちよを引張つて来て高姫の腹から吐き出さしたりするものだから、こんな事になつたのだ。この大責任は元を糺せば、玉さま、お前が負はねばならぬのだ。その次に杢助の娘のお初、これでも口答へをするならして見なさい』
『高姫さま、怪しからぬ事をおつしやいます。玉を吐き出したのとこの度の紛失とは別問題ぢやありませぬか。さう混淆にせられては聊か私も迷惑致します』
『その理屈が悪いのだよ。お前さまは謂はば新米者の端役人ぢや。私は日の出神の生宮ぢや、同じ宣伝使にしても天と地との懸隔がある。私を失敗らしてお前さまは平気で見て居る気か。私の失敗は謂はば三五教の自滅も同然ぢや。お前さまが一人や二人失敗つたつて、決して三五教に影響を及ぼすものでない。ともかく大責任を自覚し私が盗りましたと云うて責任を帯び、一先ずこの場のごみを濁しなさい。その間にこの高姫が天眼通で在処を探し、お前さまの無実を晴らし、さうして玉治別さまは立派な人だと云はれて信用が益々あがつて来る。神さまに仕へるものは、これ位な犠牲的精神がなくては駄目ぢや、それが出来ないやうな事なら宣伝使を返上なさいませ。なアお勝さま、私の云ふ事が無理ですか、無理なら無理とハツキリ云うて下さい』
と稍精神に異状を帯びたせいか、勝手気儘な理屈を吹き出す。
玉治別『まアまア高姫さま、お鎮まりなさいませ。貴女は少しばかり逆上して居ますから、病気の害になると済まぬによつて、今日は一先づお暇致します』
『これこれ、この重大なる責任をこの高姫に塗りつけようとするのか。大方お前さまがそつと何々したのぢやなからうかな。どうも素振が怪しいぞえ』
『病人だと思うてあしらつて居れば余りの事を云ひなさる。これから私も言依別の教主さまにお届けして来ます』
『言依別が何ぢやいな、あれは言依姫の婿ぢやないか。謂はば私の妹の婿で私の弟も同然だ。真の日の出神の憑つた高姫を措いて、あんな者に何を云つたつて埒が開くものかい。あれは知慧と学とで、人間界では一寸豪さうに見えるが、神の方から云へば赤坊みたやうなものぢや。なぜ高姫の云ふ事を聞きなさらぬのかい』
と目を三角にして睨みつける。お勝は悔し涙に堪へ兼ねてその場に泣き倒れる。
高姫『泣いて事が済むなら易い事だ。私でも泣きたいけれども神政成就の御宝の行方を探すまでは、そんな気楽な、泣いてをれますか。大きな口を開けて、わあわあと泣くお前さまより、ぢいつと耐へて気張つて居る高姫の方が何程苦しいか分りませぬぞえ』
玉治別『ともかく今日はお暇を致します。ゆつくりと思案して御返事に参ります』
『どつこい、夫婦の者、この解決がつくまで一寸も動いてはなりませぬぞや』
『はて迷惑の事だ。お勝、どうしようかなア』
 お勝はまたもや大声を上げてオイオイ泣き出した。高姫は枕許の金盥を爪でガシガシと掻き鳴らしながら、もどかしさうに、
『あゝ玉が欲しい。玉が欲しい。玉はやつとあつてもがらくた人間のどたまばかりで仕方がない。ようこれだけ蒟蒻玉が集まつたものだ、これ確り……玉さま……せぬかいな』
と金盥をもつて玉治別の頭をガンとやつた。玉治別は、
『困つた事になつたものぢや、云ふ事が薩張支離滅裂、到頭魂が抜けて発狂してしまつた』
と呟くを聞き咎めて、高姫は口を尖らし、
『何、私が発狂したと見えますか』
『八(発)狂と嘲弄ふ貴女は、非常に九(苦)境に陥つて居るやうに見えますワイ。アハヽヽヽ』
と焼糞になつて高笑ひをする。高姫はムツと腹を立て、
『長上に対して無礼千万なその振舞』
とあべこべに、頭をこづいた方から無礼呼はりを浴びせかけられ、玉治別はお勝の手を取り、
『サアお勝、長坐は畏れぢや、気の鎮まるまで家に帰らう』
とこの場を見捨てて表へ駆出した。高姫は狂気の如く奥の間で怒鳴つて居る。
 高姫の病気と聞いて見舞にやつて来た杢助は、お初の手を引き、門口で玉治別夫婦にベツタリ出会し、
『ヤア、先生か』
『杢助さまか、お初さま、ようお出なさいました』
『高姫さまの様子はどうですか』
『いやもう大変です。カンと叩られて来ました。大変に、私やお初さま始め、杢助さまを恨んで居ますよ。用心なさい、またカンとやられちや耐りませぬからなア』
『テンと訳が分りませぬなア』
『別に勘考せいでも奥へお出になれば分ります。一寸私は急ぎますから、お先へ御免蒙ります』
と云ひながら女房のお勝と共に、慌しく吾家をさして帰つて行く。

(大正一一・五・二五 旧四・二九 加藤明子録)



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