出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語21-3-101922/05如意宝珠申 女権拡張王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
大谷山
あらすじ
 竜国別は、赤子を抱いた妙齢の美人に、なまめかしく声をかけられる。女は、「高春山の鬼婆にかどわかされていたが、カーリンスに助けられて逃げ出した。体が凍えているので火があれば当たらせてくれ」と頼む。
 竜国別が「火は無い」言うと、「竜国別の体で暖めて欲しい」と言う。竜国別は女の肉体には触れられないので、薪を見つけてなんとか火を焚いた。女は「自分が何物か審神せよ」と言い、女権拡張論を唱え、男尊女卑を採る竜国別と論争になった。
 そこへ、鬼武彦が現れ、女の正体を暴くと、女は金毛九尾白面の悪狐となって逃げ去った。
 また、天から言依姫が現れたので、鬼武彦は「竜国別たちに加勢したい」と申し出るが、姫は、「三人の卒業試験だから、危急の場合以外は加勢無用」と命じ、二人は立ち去った。
 竜国別は夢を見ていたのだ。
名称
鬼武彦 女 言依姫 竜国別
生宮 お玉 鬼婆 カーリンス 巨人 金毛九尾白面の悪狐 国治立大神 国依別 言依別 木の花咲耶姫 木の花姫 鷹依姫 玉照姫 玉治別 天女 化物 副守護神 変性男子 本守護神 魔神 ムカデ姫 霊魂
アルプス教 心の岩戸 審神 神諭 体主霊従 太陽界 高春山 男尊女卑 女権拡張 浪速 羽衣の舞 文化生活 三国ケ岳 利己主義
 
本文    文字数=17877

第一〇章 女権拡張〔六八四〕

 吹雪烈しき山の奥  竜国別の宣伝使は
 高春山に向はむと  猿の声に耳打たれ
 心イソイソ進み行く  人煙稀なる谷の道
 雪に埋もれゆき暮れて  路傍に立てる岩蔭に
 少時息をば休めける。  

 谷の片方の突出た岩の蔭に身を寄せ、一夜を明かす事となりぬ。竜国別はウツラウツラと眠りに就きけるが、フト耳に入りしはなまめかしき女の声、驚いて目を醒ませば妙齢の美人、鬢のほつれ毛を頬の辺に七八本垂れながら、稍憂ひを含み、一人の赤児を抱き前方に立てり。
『この真夜中の雪路に女の一人、しかも乳呑児を抱いて、何処へ御出でなされますか』
『ハイ妾は浪速の者でございます。高春山の鬼婆に拐かされ、日夜責苦に遇ひ難渋を致して居りましたが、情あるカーリンスと云ふ婆アの部下に想ひをかけられ、ソツと救はれて此処迄逃げ帰りました。しかしながら何時追手がかからうやら知れませぬ。どうぞ助けて下さいませ。妾としてもこの寒さに凍え、身体強直して一歩も進む事が出来ないのでございます。どうぞ火がござりますれば暖取らして下さいませぬか』
『それは御難儀な事でせう。此処へ木の葉を集めて焚く訳にもゆかず、困つたものですなア』
『どうぞ貴方の暖かいお体の温みを分けて頂くことは出来ますまいか。最早かうなつては、恥も何も構うて居れませぬ。全身の血液が凝固しさうにございますワ』
『アー困つた事だなア。今高春山の魔神の征服に向ふ途中、女の肉体に触れると云ふ事は絶対に出来ない。何か良い考へは出ぬものかなア』
と四辺を見廻せば、雪明りに目に付いたのは一束の枯柴、突出た岩に蔽はれて乾いたままに残つて居る。
『アー此処に結構な薪がある。何人が刈つて置いたか知らないが、これも神様の御蔭だ、これを焚いて暖を取つたらどうでせう』
『それは好都合でございます。どうぞ燃やして下さいませ。しかし余り大きな火を焚くと追手の目標になつては困りますから……』
『よろしいよろしい、小さく燃やしませう。しかし雪の足形を索ねて追手が来るかも知れますまい』
『お蔭で足跡は降る雪が次々に埋めてくれましたから、大丈夫でございます』
 竜国別は燧を打ち火を出し、薪に点けて暖をとり、女も嬉しげに手を炙つて居る。
『いまのあなたの御話によれば、高春山へ囚はれて居られたとの事、しからばアルプス教の内幕はよく御存じでせうな』
『ハイよく承知致して居ります。到底あなた方が三人や五人お出でになつた所で、飛んで火に入る夏の虫ですよ、お止めになつた方が却てお身のためだと思ひます』
 竜国別は不機嫌な顔で、
『仮令幾万の強敵があらうとも、一旦我々は言依別の教主より任命された以上は、一つの生命が無くなつても、この使命を果さねばならないのだから、行く所まで行く積りです』
『それは大変な御決心で結構でございます。妾もあなたのやうな気の強い御方と手を曳いて、今迄鬼婆が妾に加へた惨虐の恨みを晴らしたいのですから、どうぞ伴れて行つて下さいませぬか』
『イヤ滅相も無い。女の方と道伴れなんか出来ますものか。またあなたに助けられて、魔神の征服に行つたと云はれては、末代の恥辱ですから、それだけは平に御断り致します』
『随分お堅い方ですなア。さう云ふ堅固な精神の夫が、妾も持つて見たうございますワ』
『コレコレ女中、戯談も良い加減になさいませ。貴女は赤ん坊を懐に抱いて居るぢやないか。立派な夫があるに相違はありますまい』
『イエイエ、夫はまだ持つた事はございませぬ』
『夫が無いのに児があるとは、一つの不思議ではありませぬか』
『ホヽヽヽヽ、三五教の宣伝使にも似合はない事をおつしやいますこと。玉照姫様の御生母のお玉さまは、夫なしに妊娠なさつたぢやありませぬか』
『それはさうだが、ああ云ふことはまた例外だ。普通の女にさう云ふことがある道理がない』
『妾を普通一般の女と御覧になりましたか』
『サア別にかう見た所では、何の変つた点もなし、判別がつきませぬワイ』
『妾の素性が分らないやうな事では審神者も駄目ですよ。どうして高春山の魔神を帰順させる事が出来ませうか』
『これはまた妙な女に会つたものだ。お前は要するに化物だらう』
『何れ化物には違ひありませぬ。しかし化物にも善と悪とがあります。その審神者をして下さいな』
『この雪の降るのに、一人で山路を赤児を抱へて歩くところを見れば、先づ立派な者だなかりそうだ。鷹依姫の悪神に苦しめられて逃げて帰つたところを見れば、どうせ碌なものぢやなからうて』
『鷹依姫に苦しめられたやうな女だから、碌な者で無いとおつしやりますが、現在玉照姫様をお生み遊ばしたお玉の方は、三国ケ岳で蜈蚣姫に苦しめられたぢやありませぬか。あなたの判断は正鵠を欠いで居ますよ。お玉さまは立派だが、妾は雪路を夜中に歩いて居るから怪しいと云ふ事が先入主になつて、お目が眩んだのぢやありますまいかなア』
 竜国別は両手を胸のあたりに組んで太い息をつき考へ込む。女は薪を先繰り燻べる。二人の顔は益々明かになつて来た。竜国別はフト女の顔を見ると、二つの耳が馬のやうにビリビリと動いて居るに気が付いた。
『あなたの耳はどうしましたか。人間なれば耳は動かないのが通例だ。お前さまの耳は不随意筋が発達して居ると見えて、畜生のやうに自由自在に動く。コレヤ屹度魔性の女に相違あるまい』
『オホヽヽヽ、耳が動くのがそれだけ気になりますか。あなたは耳所か肝腎の霊魂まで頻りに動揺し、ハートには激浪怒濤が立ち騒いで居るぢやありませぬか。それの方がよつ程可笑しいワ、ホヽヽヽヽ』
『ハーテナ。ますます分らなくなつて来たワイ』
『本当に妾だつて、あなたのやうな分らぬ宣伝使に出会うた事はありませぬワ。神様はイロイロ姿をお変じ遊ばすぢやありませぬか。木の花姫様を御覧なさい。竜体にもなれば、獣にもなり、立派な神の姿にも現じ、乞食にまで身を窶して衆生済度を遊ばすのに、妾の耳が動いたと云つて軽率にも獣扱ひなさるのは、チツト聞えないぢやありませぬか』
 竜国別は、
『ハーテナー』
と云つた限り、また俯向く。
『ハテナハテナと何程おつしやつても、あなたの身魂が磨けねば、この談判は何時までも果てませぬ。ハテ悟りの悪い宣伝使だこと、ホヽヽヽヽ』
『ともかく今日は本守護神が不在だから、番頭の副守護神が発動して居るので、根つからお前さまの審神も出来ない。本守護神が帰つてから、ユツクリと御答を致しませう』
『ホヽヽヽヽ、うまい事おつしやいますこと。一時遁れの言ひ訳でせう。そんな痩我慢を出して我を張らずに、男らしくスツパリと、身魂が曇つて居るので分らないから……とおつしやつたらどうです。妾の素性を明かすために、今此処で羽衣の舞を舞うて見せますから、どうぞこの赤ん坊を一寸抱いて下さらぬか』
『何はともあれ、旅の慰めだ。審神を兼ねてその舞を拝見致さうかなア』
『どこまでも徹底的に、我の強いお方ですこと、ホヽヽヽヽ』
『我が無ければならず、我があつてはならず、我は腹の中へキユツと締め込みて落ちついて居る身魂でないと、誠の御用は出来ませぬワイ』
『ホヽヽヽヽ、三五教の御神諭をそのまま拝借して、巧妙い事おつしやりますこと』
『日進月歩の世の中、知識を世界に求めると云つて、善い事は直に取つて我物とするのが、豁達自在の文明人としての本領だ。お前さまは浪速の土地に生れたものだと云つたが、文化生活と云ふものはどんなものだか知つて居るかい』
『ホヽヽヽヽ、文化生活が聞いて呆れますよ。そんなことは疾の昔に御存じの妾、文と云ふのは蚊の活動する羽翼の声……一秒時間に何万回とも知れぬ羽翼の廻転から起る声音ですよ。化と云ふのは人の褌で相撲をとつたり顔を舐めたりして、生血を絞り自分一人うまい汁を吸ふと云ふ生活でせう。体主霊従、我利々々亡者の充満した世の中を矯直すために、国治立大神が変性男子の生宮を借つて教を垂れさせられ、その御心を世界に宣伝するお前さま達が、悪逆非道の利己主義の文化生活を主張するとは、逆様の世の中とは云ひながら、実に矛盾したものですなア。それだから神様がこれだけ沢山の宣伝使があつても、誠の解つた者は一柱も無いと云つて、御悔み遊ばすのですよ。三五教を破る者は依然三五教にあるとは千古不磨の金言ですワ。妾はこの第一言に対し無量の感に打たれて居ます。サア妾がこれから羽衣の舞を舞うて、尊き天の神様を御招待申上げ、貴方の心の岩戸を開いて見せませう。どうぞこの赤ん坊を抱へて下さいませ』
『随分愛らしいお子だ。しかし男ですか、女ですか』
『三十三相揃うた女です。女の赤ん坊です』
『ヤアそれならば御免蒙りたい。女を……仮令子供にもせよ、魔神の征討に上る我々、抱く訳には行きますまい』
『何をおつしやいますか。女位世の中に潔白なものはありますまい。あなた方は二つ目には婦人に対し、軽侮の目を以て臨まれるのが怪しからぬ。我々は新しい婦人となつてどこまでも女権拡張をやらねばならない。婦人の代議士さへ選出される世の中に何と云ふ頭脳の古い事をおつしやるのでせう』
『何と云つても、男は陽、女は陰だ。おまけに月に七日の汚れがある。そんな汚れた女に男が触つてどうなるものか。清きが上にも清くせなくては、神業が勤まりますまい』
『男位不潔苦しい肉体はありますまい。十三元素とか、十五元素にて固め上げた肉体の、半ば腐敗せる燐火の燃える、臭気の激しい醜体を持ちながら、月に一週間づつ汚れを排除し、清められた女の肉体が汚れるとは、ソラまア何とした分らぬ事をおつしやるのでせう。開闢の初より、女ならでは夜の明けぬ国と云ふぢやありませぬか。太陽界を治しめす大神様は男でしたか。木花咲耶姫様はどうでせう。変性男子の身魂、国治立命様の肉の宮は男ですか、よく考へて御覧なさい』
『短兵急にさう攻撃されては、二の矢が継げませぬ。しかし牝鶏暁を告ぐる時はその家亡ぶ、と云ふ事がある。何と云つても牝鶏は牝鶏だ。何程女が男の真似をしようと思つても、第一体格が劣つて居る。鼻下に髭もなければ、腮髯もない。それから見ても男尊女卑と云ふ事は証明されるぢやないか』
『よく掃清められた庭には、雑草は一本も生えて居りますまい。鼻の下を長くして女に洟をたらす天罰の酬いとして、雑草がムシヤクシヤと生えて居るのだ。お前さまは髯を大変自慢にして居るが、その髯は男の卑劣な根性を隠すための道具だ。つまり世間に卑下をせなくてはならぬ所を、神様のお恵で包むやうにして貰つて居るのだから、ヒゲと云ふのですよ、オホヽヽヽ』
『どこまでも男子を馬鹿にするぢやないか。俺は天下の男子に代つて、大いに男尊女卑の至当なる道理を徹底させなくてはならない。お転婆女の跋扈する世の中だから……』
『ホヽヽヽヽ、男位得手勝手な者がありませうか。女房に口の先でウマい事ばつかり言つて、社交のためだとか、外交手段だとか、甘い辞令を編み出して女房の手前を繕ろひ、狐鼠々々と家を飛び出し、スベタ女に酌をさせ、涎をたらして、間がな隙がなズボリ込み、スゴスゴと家へ帰つては、山の神にどうしてウマク弁解しようかと、そんな事ばかりに心を悩ましてゐる、腑甲斐ない男は、世界に九分九厘と云つても差支ありますまい。ヤツパリ女は家庭の女王ですよ。女がそれほど卑しいものなら、なぜ亭主になつた男はそれだけ女房に遠慮をしたり、弁解をするのだらう。何と云つても男は下劣ですよ。天下の事は一切女でなければ解決はつきますまい』
『お前さまは浪速の土地に生れただけに、新刊雑誌でも沢山に噛つて居ると見え、随分口先は巧妙いものだなア』
『日進月歩の世の中、一日新聞紙を見なくても雑誌を繙かなくても、社会に遅れてしまふのですから、女は十分に時勢に遅れないやうに注意を払つて居りますよ。男のやうにスベタ女の機嫌を取つたり女房の顔色を見て弁解ばかりに心力を費消する野呂作とは、大に趣が違ふのです。グヅグヅして居ると、今に女尊男卑の実が現はれ、亭主は赤ん坊を背にひつ括り、鍋の下から、走り元から、何から何まで、女房の頤使に従つて、御用を承はらねばならぬやうになつて来ますよ。現に今でもチヨコチヨコ、さういふ事が実現して居ます。女は長煙管を銜へながら、腮で指図をして居る例は沢山あるのです。これも時代の趨勢だから、坂に車を押す事は出来ませぬ。男子は須らく沈黙を守り、従順の態度を執るのが、今後の男子の立場として安全第一の良法と考へますワ、オホヽヽヽ』
『イヤもうこれ位で、女権拡張論の演説は中止を命じませう』
『そんならこの赤ん坊を抱いてくれますか』
『エー仕方がない。そんなら今日に限りて女尊男卑の実を示しませう。しかし明日からは捲土重来、男子のために大気焔を吐いて、現代のハイカラ婦人の心胆を寒からしめる覚悟だから、その積りで応戦準備をなさるが良からう』
 かかる所へ何処ともなく「ブーブー」と法螺貝を吹く声、谺に響き出した。女はあたりをキヨロキヨロ見廻し、心落つかぬ様子である。ザクザクと雪踏み鳴らし、この場に現はれた大の男、この態を見て、
『汝魔性の女、そこを動くなツ』
と大喝した。女は乳呑児を火中に投じ、忽ち金毛九尾白面の悪狐となつて、宙空をかけり姿を隠したり。竜国別はこれを見て肝を潰し、夢心地に入つてしまつた。またもや大空に美妙の音楽が聞えて来た。ややあつてまたもや降る天女の姿、巨人の前に現はれて、
『アヽ其方は鬼武彦様。よく竜国別を助けて下さりました。妾は聖地において竜国別が危急を悟り、取る物も取敢へず救援に向うた言依別の本守護神言依姫でござります』
『何、これしきの事に御褒めの詞を頂戴致しまして、実に汗顔の至りでござります。しかし竜国別、玉治別、国依別の三人では、余りに高春山の征服は、荷が重すぎるやうですから、私に加勢を命じて頂けませぬか』
『彼等三人の、今度は卒業試験も同様ですから、どうぞ構へ立てをしてやつて下さりますな。しかしながら危急の場合は、御助勢を願ひおきます。サアこれから聖地を指して帰りませう』
と二人は雲に乗り、中空に姿を隠したり。またもや降り来る雪しばき、嵐の音に目を醒せば岩窟の前に火を焚き、その正中に巨岩が放り込まれてあつた。赤児と見えたのは、この岩石である。竜国別は夢の醒めたる心地して、夜明けに間もなき雪空を、宣伝歌を歌ひながら前進する。
 アヽ惟神霊幸倍坐世。

(大正一一・五・二〇 旧四・二四 松村真澄録)



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