出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語21-2-71922/05如意宝珠申 誠の宝王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
湯谷ケ岳杢助の家
あらすじ
 雲州、甲州、三州の三人が杢助の家にやって来て、雲州は器具の名前を逆様に言ったお経を唱え、甲州はでまかせの宣伝歌を歌い、「お杉の霊を慰めに来た」と言う。
 杢助は「三人の計略を小杉の森で聞いた」と言い、「玉治別に付いて行った三人の計略を話せば、金をやる」と言う。三人は、白状すると遠州に悪いので、力ずくで金を取ろうとしたが、杢助には勝てなかった。
 お初が、「金があるばっかりで毎日怖くて夜も寝られなかった。お母様も、お金のために心配して病気になった」と言うので、杢助は金を三人に渡し、「誠の宝が手に入った」と喜ぶ。
名称
雲州 お初 甲州 三州 杢助
遠州 お杉 鬼 国治立大神 駿州 精霊 竜国別 玉治別 武州 分霊 亡霊 霊魂
神懸 小杉の森 執着心 神国 底の国 体主霊従 高天原 高春山 中有 津田の湖 根底の国 根の国 ピユリタン 冥土 幽界 湯谷ケ峠 湯谷ケ岳 霊界 六道の辻
 
本文    文字数=17402

第七章 誠の宝〔六八一〕

 湯谷ケ岳の山麓なる杢助が住家へ、面白からぬ目的を達成せむがために、高天原の神国より根底の国へ急転落下したる心の鬼の雲州、三州、甲州は、疵持つ足のきよろきよろと木挽の小屋に近づいた。
雲州『サア兄弟、これからが正念場だぞ。善と云ふ名詞は此処ですつかり抹殺して、飽迄悪でやり通すのだ。しかしながら悪をなさむとする者は、悪相を現はしては出来ない。善の仮面を被らねば敵に内兜を見透かされてしまふから、三州、汝は一つ殊勝らしいお経を唱へるのだぞ』
三州『お経を唱へと云つても、何にもてんで知らぬのだから仕方がないワ』
雲州『何でも好い。其処らの物を出鱈目放題に並べるのだ。一つ俺が云うて見ようかな。アヽ何から何まで教育をしてやらねばならぬのか、低能児を捉まへたテイーチヤーさんも大抵ぢやないワイ。そこらの器具万端を逆様に云ふのだ。先づ屏風に襖、鍋に釜、徳利、杉に松、門口その他我々の名だ。門口に立つて、ブベウ、マフス、ベナーマカ、チバヒ、シバヒ、ツマ、ギス、ドカー、シウウン、シウサン、シウコウ、ケワルハー、マーター、ケーワー、ニーク、ツター、ケワー、リヨーニクー、スケモクノボウニヨーノー、ギスーオーサン、ダーシン、ダーシン、ワイカワイカ、ワカイマツー、カハノー、カナーデー、クタベツナツテ、ルオーデー、ローアー、ハンニヤハラミタシンギヨウ、ウン、アボキヤ、スギコーノリーモーデ、ボードロノ、シウレン、オリーヤーマーシータ、アサ、アサ、レコラカハレカノ、ラカダヲ、ラモイ、シヨマ、ハンニヤハラミタシンギヨー、とかう云ふのだ』
三州『そんな事云つたつて分りやしない。もつと分るやうに云はないか』
雲州『分らないのがお経の価値だ。今時の蛸坊主や、宣伝使に満足なお経の読める奴があるかい』
三州『オイ甲州、汝がよく似合ふだらう。一つ臨時坊主が嫌なら、三五教の宣伝使になつて、宣伝歌をうまく歌つたらどうだい』
甲州『それの方が近道だ。彼我共に意志が疎通して面白からう。サアこれから俺が宣伝歌をやる。さうすればきつと杢助の奴、頭を下げ、尾を掉つて飛びつくかも知れないぞ、汝達は甲さまの後から小声でついて来い』
と甲州は入口に立つて、

『三五教の宣伝使  玉治別の神司
 それに従ふ竜国別の  プロパガンデイストに従ひて
 湯屋が峠を打ち渡り  津田の湖水の辺まで
 やつと進んで来た折に  玉治別の宣伝使
 俄に手をふり首をふり  顔色変へて神懸
 これや大変な神様が  懸つて何かおつしやると
 お供をして居た六人は  息を殺して畏まり
 その託宣を待ち居れば  玉治別のお言葉に
 妾はお杉の亡霊だ  杢助さまや幼児を
 後に残して霊界に  旅立したが残念ぢや
 土の底へと埋められて  頭の上から冷水を
 蛙のやうに浴びせられ  妾は困つて居りまする
 行きたい所へもよう行かず  六道の辻をウロウロと
 彼方此方と彷徨ひつ  淋しき枯野ケ原の中
 言問ふ人も無き折に  実に有難い三五の
 神の教の宣伝使  霊魂の磨けた玉治別の
 珍の使の御肉体  一寸拝借致します
 可愛い女房に先立たれ  まだ東西も知らぬ児を
 抱へてこの世を淋しげに  暮してござる我夫の
 心は如何にと朝夕に  案じ過ごして結構な
 高天原へもええ行かず  中有に迷うて居りまする
 どうぞ憐れと思ぼ召し  お杉の願を聞いてたべ
 如何に気強い我夫も  二世を契つた女房の
 涙を流して頼む事  よもや厭とは申すまい
 せめて十日や三十日  三五教に帰順した
 三甲雲の三州を  我霊前に額づかせ
 輪廻に迷うた我魂を  安心さして下さんせ
 もしも主人がゴテゴテと  疑うて聞かぬ事あれば
 高春山を言向けて  帰つてござるその時に
 玉治別の体を借り  一々細々ハズバンドに
 心の底からサツパリと  氷解するよに申しませう
 小盗人ばかりを働いた  この三人も元からの
 決して悪い奴でない  神の光に照らされて
 身魂の洗濯した上は  尊き神の分霊
 一時も早く杢助の  住居に駆けつけ幽界で
 お杉の霊魂が苦んで  迷うて居ると逐一に
 話して聞かして下されと  玉治別の口を借り
 涙ドツサリ流しつつ  しみじみ頼んで居らしやつた
 袖振り合ふも多生の縁  躓く石も縁の端
 高春山の征伐に  行かねばならぬ我なれど
 顕幽共に助け行く  誠の道のピユリタンと
 なつた我々三人は  これを見捨ててなるものか
 杢助さまがどのやうに  頑張り散らして怒るとも
 寄る辺渚の捨小舟  浪に取られた沖の舟
 憐れ至極のお杉さま  助けて上げたいばつかりに
 岩石起伏の細道を  足を痛めてようように
 此処まで訪ねて来ましたぞ  杢助さまは在宅か
 早うこの戸を開けなされ  お前の大事な女房の
 私は頼みで親切に  誠尽しにやつて来た
 よもや厭とは言はりよまい  お杉さまの精霊に頼まれて
 お前に代つて霊前に  お給仕さして貰ひます
 サアサア開けた サア開けた  開けて嬉しい玉手箱
 これも全く三五の  神の御蔭と感謝して
 お前が今迄貯へた  金と銀との小玉まで
 皆霊前に置き並べ  お杉の霊を慰めよ
 あゝ惟神々々  御霊幸はひましまして
 お杉の精霊の憑つたる  玉治別の宣伝使
 それに従ふ雲、甲、三  三人さまのお目にかけ
 修羅の妄執を晴らさして  極楽参りをさすがよい
 女房となるも前世の  深い因縁あればこそ
 貞操深いお杉さま  お前が体主霊従の
 欲に捉はれ金銀に  眼眩みて女房を
 根底の国に突落し  可愛い子供に苦労させ
 自分も死んで根の国や  底の国へと突込まれ
 無限の苦をば嘗めて泣く  事にてつきり定つたと
 貞操深いお杉さまが  大変心配遊ばして
 我等に伝言なさつたぞ  それはともかく一時も
 この門開けて下されや  ゴテゴテ言うて開けぬなら
 開けでもよいがお前さま  未来のほどが恐ろしと
 やがて気が付く時が来る  神が表に現はれて
 善と悪とを立別けて  お前の身魂の行先を
 キツと守つて下さらう  アヽ金が欲しい金が欲し
 欲しいと云ふのは俺ぢやない  冥途にござるお杉さまだ』

と口から出任せに、憐れつぽい声を出して歌つて居る。杢助フト目を覚し、
杢助『なんだ。門口に乞食が来よつて、蚊の泣くやうな声で何だか言つて居るやうだ。腹が空つとるのだらう。死人に供へた飯の余りがある。これなつと戴かして、早くボツ払うてやらう。……エヽこれだけ気が沈淪むで居るのに、憐れつぽい声を出して、益々淋しくなるワ』
と云ひつつ、門口をサラリと開けた杢助、
『何処の物貰ひか知らぬが、この山中の一つ家へ踏み迷うて来たのか。腹が空つたらしい、力のない声だが、生憎この頃は女房に死なれ、俄に飯炊く事を知らず、骨だらけの飯が炊いてある。さうして女房の亡霊に供へた奴も沢山に蓄積つて居る。恰度好い所へ来てくれた。勿体なくて放棄す事も出来ないので困つて居た所だ。サア遠慮は要らぬ。這入つてドツサリと喰つてくれい』
雲州『夜中にお休眠になつて居る所を、お目を醒ましまして申訳がございませぬ。私は先般お世話になつた雲州、この二人は甲州、三州でございます。宣伝使のお伴をして津田の湖辺まで参りますと、お杉さまの精霊が現はれ遊ばして、是非共杢助さまに一度会つて来てくれとおつしやつたものですから、高春山の征服の結構なお伴を棒に振つて漸く此処までスタスタやつて来ました』
杢助『アヽさうでしたか。それは御親切に、女房の精霊も定めて喜ぶ事でせう。此処は小杉の森の祠とはチツト広うございますから、ユツクリとお這入り下さいませ』
雲州『何とおつしやいます。小杉の森の祠の前とは、それや貴方御存じですか』
杢助『御存じも御存じだ、此家から僅か四五丁より無い。俺の日々信仰するお宮さまだ。その神さまは国治立大神様で、何でもかでも信神の徳によつて知らして下さるのだ。お三人様、随分作戦計画は手落なく整ひましたかなア。イヤ成功する見込がありますかな。玉治別の持つて居る秘密書類を、遠州、駿州、武州が、今頃はウマク手に入れてござるでせう。お前等も負けないやうに計略を廻らして、金銀の小玉を手に入れたが良からうぞ』
 三人は互に顔を見合せ、小声で、
三人『オイ怪体な事を言ふぢやないか。どうしてあんな事が判つたのだらうか。俺達の盗賊演習を、ソツと側で観戦して居たのぢやなからうか。これやモウ駄目だぞ』
杢助『アハヽヽヽ、俺が小杉の森の祠に参拝して居ると、二三人の小盗人奴が、何処からともなくやつて来やがつて、虫のよい妙な相談をやつて居よつた。盗らぬ先から取つたやうな気になつて、涸き切つた智慧を絞り出し、終局には、人名や器具などの名詞を逆唱してお経に見せたり、哀れつぽい宣伝歌を歌つて、寒いのにビリビリ慄へて立つて居やがつた奴は誰れだあい』
と雷の落ちたやうな声で終の一句を高く呶鳴りつけた。
 雲州は慄ひながら、
『ワヽ私は貴方の御高名を一寸拝借致しまして、洒落に芝居をしたのです』
『芝居なら芝居でよい。さうすれば金銀の小玉は必要がないのだなア』
『ハイ、ヒヽ必要はないことはありませぬ。しかし猿猴が水の月を探るやうなもので到底貴方のお手にある以上は私の自由になりますまい。オイ甲州、三州、汝の意見はどうだ。何と云うても遠州に申訳が無いぢやないか』
『汝の執着心が、俺所の宝に付着して居るから、俺も今日では、最早金銀の恐ろしいと云ふ事を悟つたのだ。恰度、蜈蚣か蝮か鬼のやうな心持がする。夜前も金銀の小玉奴が赤鬼や黒鬼に化けて、鉄の棒をもつて俺を突刺しに来よつた。今後この金を手に入れた奴は皆この通りにしてやると吐しよつたぞ。本当に金が敵の世の中とは好く云うたものだよ。汝等もそれほど金が欲しければ持つて行つたがよい。しかし鬼が出て即座に汝の命を取つても承知かい』
『ソヽその鬼は何時でも出ますか』
『ウン、何時でも出て来る。汝の現に腹の中にも鉄棒を突いて現はれて居るぢやないか。そして現実的に現はれた鬼は、百人力の杢助と云ふ手に合はぬやもをの鬼だ。第一その鬼が最も手に合はぬのだよ、アハヽヽヽ』
『そんなら私はもうこれで泥棒は廃業しますから堪へて下さい』
『馬鹿云ふな、地獄の沙汰も金次第だ。金さへあればどんな恐い鬼でも俄に地蔵様のやうになつてしまふのだ。サアサア遠慮は要らぬ、御註文通り女房の御霊前に供へてある、トツトと持つて帰れ』
『そんなら御遠慮なう頂いて帰りませうか』
『薪に油をかけ、それを抱いて火中に飛び込むやうな剣呑な芸当だぞ。旨く汝でそれが遂行出来るか』
『背中に腹は代へられぬ。一寸で宜敷いから、長らく拝借しようとは申しませぬ、触らしてさへ下さればよろしい』
『俺も男だ。持つて去ねと云つたら、綺麗薩張持つて帰れツ』
『差支へはありませぬか』
『汝が最前小杉の森で云つて居た、玉治別の宣伝使に従いて行つた三人の計略を、逐一此処で白状せい。さうすればその白状賃として、あるだけ皆汝に渡してやらう。さうすれば汝も泥棒したのでない、俺から報酬として貰つたのだから』
 雲州喉をゴロゴロ云はせながら、
『それは杢助さま、真ですかな。しかしながら三人の計略を此処で薩張云つてしまつては、遠州の親方に縁を絶られてしまふかも知れませぬ』
『泥棒に縁を絶られても好いぢやないか。汝はそれほど泥棒を結構な商売と思うて居るのか』
『金は欲しいし、遠州の親分に縁を絶られるのは辛いし、オイ三州、甲州、秘密を明かして金を貰つて帰らうか………エヽ秘密を云つて金を貰へば我々の估券が下がるなり、何程此奴が強いと云つても知れたものだ。サア三人寄つて此奴をフン縛り持つて帰らう』
と云ふより早く、杢助に三方から武者振りついた。杢助はまるで蝶々でも押へたやうに、
『何を小癪な、蠅虫奴等』
と三人を一緒に倒し、グツと股に支へ、蠑螺のやうな拳骨を固めて、
『これほど事を分けて俺が柔順しく出ればのし上り、何と云ふ事を致すか。最早汝は改心の望みがない。サアこの拳骨が一つ触るや否や、汝の命はそれきりだ。俺の女房のお伴をさしてやらう』
と今や打たむとする時、六才になつた娘のお初はその場に駆け出で、
『お父さま、まア待つておやりなさい。さうしてこのお金はこの人にやつて下さい』
『お前が成人してから、好い婿を貰ひ、楽に暮せるやうにと思つて、夜昼働いて貯めて置いたお金だ。この金は詮り俺のものぢやない、心の中で既にお前にやつてあるのだ』
『お父さま、そんなら今私に下さいな』
『オヽ何時でもやる。今か、今やつて置かう』
『そんなら貰ひました。これこれ三人のお方、私がこの金を皆にあげるから持つて帰りなさい。その代りにこれで何なりと商売をして、もうこの先はこんな恐い商売は廃めなさい。お父さま、どうぞこの三人を助けて上げて下さい』
『よしよし、ヤア命冥加な三人の奴、娘の云ふ事をよく聞いて、この金をもつて何とか商売をして、今後は悪い事をすな。サア早く持つて帰れ』
 三人一度に頭を下げ、
『誠に済まぬ事でございました。そんならしばらく拝借して帰ります。きつとこれはお返し致します』
お初『貸したのでは無い、進上たのだから返しては要りませぬ。こんな恐いものがあると私の将来のためになりませぬ。アヽお父さま、これで気楽になりました。よう私を助けて下さいました。このお金があるばつかりで、毎日日日恐くつて寝るのも寝られませなんだ。お母さまもこのお金のために心配して、あんな病気になつたのです』
 三人はお初の渡す金包を取るより早く、雲を霞とこの場を逃げ去る。杢助はお初を抱き、涙に暮れながら、
『アヽお初、有り難い、金銀よりも何よりも貴い宝が手に入つた。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と合掌し、嬉し涙に暮れて居る。
 折から吹き来る夜嵐の声、雨戸をガタガタガタと揺つて通る。

(大正一一・五・一九 旧四・二三 加藤明子録)



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