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原著名出版年月表題作者その他
物語21-1-41922/05如意宝珠申 砂利喰王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
法貴谷の戸隠岩
あらすじ
 竜国別、玉治別、国依別の三人は梅照彦の館を出て、高熊山の参拝を済ませ、さらに進んで法貴谷の戸隠岩に着いた。そこでは、遠州他5人が追剥をしていた。
 玉治別は「自分たちは泥棒を語って、方便で泥棒たちを改心させよう」と、泥棒の親分であるような演技をして、遠州たちを子分にした。
 遠州たちの話から、彼らの親分が徳公だと分ったので、玉治別は自分の身分を明かして、「聖地の門掃いをするような親分についていては情ない」と言う。これを聞いた遠州たちは三五教に帰順して、三人の宣伝使に従うことになる。一行は津田の湖に着いた。
名称
雲州 遠州 甲州 国依別 三州 駿州 竜国別 玉治別 武州
梅照彦 鬼婆 観自在天 木の花姫命 鷹依姫 玉照彦 天狗 天州! 徳公 外山豊二 曲津 神国守 瑞の御霊 ムカデ姫
アルプス教 小幡川 大槻並 来勿止館 華胥の国 黄金の玉 言霊 堺峠 三千世界 神界 摂津の国 刹那心 高熊山 高春山 多田の里 立直し 津田の湖 電信 戸隠岩 如意宝珠 根の国 能勢の里 別院村 法貴谷 三国ケ岳 無線電話 紫の玉
 
本文    文字数=15257

第四章 砂利喰〔六七八〕

 梅照彦が朝夕に  神の教を宣り伝ふ
 珍の館を後にして  ここに三人の宣伝使
 玉照彦の生れませる  高熊山の巌窟に
 心を洗ひ魂清め  神国守に送られて
 来勿止館の門前に  暇を告げてスタスタと
 足に任せて進み行く  天狗の岩にて名も高き
 境峠を打渡り  小幡の川の上流を
 尻を捲つて対岸  青野ケ原を右左
 眺めて進む法貴谷  戸隠岩の前に着く。

 三人は激湍飛沫の音高き谷川に沿へる、樹木鬱蒼たる谷道をエチエチ登つて、漸く戸隠岩の麓に着き路傍の岩に腰打掛け、息を休めてゐる。其処より一丁ばかり離れた坂道に五六人の怪しき男の影、何か頻りに囁いてゐる。
玉治別『竜国別、国依別の兄貴、何だ、向ふの方に怪体な奴が囁いてゐるぢやないか。この山道に何をして居るのだらうかな』
国依別『あれは泥棒の群だ。往来の人の衣類持物を、すつかり脱がせる追剥商売が現はれたのだよ。最前も真裸体になつて女が泣きもつて通つただらう。あれは屹度的さんにやられたのに違ひないぞ。俺達もかうして蓑笠を着て歩いて居るものだから、彼の女も吾々を同類と見よつたか、恐さうにキヤーと云つて一目散に遁げたぢやないか』
竜国別『それに間違ひは無い。吾々も屹度脱がされるのだな。一つ此処で何とか考へねばなるまいぞ』
玉治別『なアに、往くとこまで行つて見な分るものか、刹那心だ。取越苦労をするに及ばないぞ、万々一先方が泥棒だつたら、此方が率先して泥棒の仮声を使ひ、泥棒仲間に交つて、彼奴等をうまく改心させるのだな。木花姫命様は三十三相に身を現じ盗人を改心させようと思へば自分から盗人になつて、一緒に働いて見て「オイ、盗人と云ふものは随分世間の狭いものの怖ろしいものだ。こんな詮らない事は止めて天下晴れての正業に就かうぢやないか」と云つて、盗人を改心させなさると云ふことだ。酒飲みを改心させるには、自分も一緒に酒を飲み、賭博打を改心させるには自分も賭博打ちになつて、さうして改心させるのが神様の御経綸だ。吾々も一つ先方が盗人だつたら、此方も盗人に化けて、手を曳合うて仲間入りをなし、さうして改心させれば良いのだ』
国依別『なんぼどうでも、盗人だけは断然止めたいなア』
玉治別『ナニ、心から盗人になれと云ふのぢやない。盗人を止めさせるための手段だから構はぬぢやないか。それが観自在天の身魂の働きだ。万一先方が盗人であつたら、この玉治別が俺は盗賊の親方だと云つて威喝するのだから、お前達は俺の乾児に化けて居るのだぞ。さうして竜国別とか、国依別とか、こんな道名を唱へては先方に悟られるから、此処で名をしばらく改へて竜公、国公、玉公親分で行くことにしよう。先方から「オイ旅人一寸待つた、持物一切渡して行かつせエ」なんて言はれてからは面白くない。先んずれば人を制すだ。泥棒と見込みがついたら、一つ俺の方から口火をつけるのだ。オイ竜公、国公、玉公親分さんに従いて来い』
竜国別『到頭宣伝使を泥棒の乾児にしてしまひやがつたなア』
国依別『エーこれも仕方がない。観自在天の御化身になると思へば、辛抱も出来ぬことはない、サア玉公親分、先へ行つて下さい』
 玉治別は先に立ち大手を振りながら、五六人の男の車座になつて道を塞いで居る前に近づき見れば、今剥ぎ取つたらしい女の衣服が傍に在るに気が付いた。的切り此奴は泥棒と、玉治別はわざと大きな声で、
玉治別『オイ竜、国、早く来んかい。彼処に五六人の男が居る。彼奴の着物をフン奪つて真裸にしてやるのだ』
と進んで行く。五六人の泥棒はこの声を聞いて何れも呆気にとられてゐる。
玉治別『コレヤ木端泥棒、俺を誰だと思つて居るか。三国ケ岳の鬼婆の片腕と聞えたる大泥棒の玉公親分さんぢやぞ。サア持物一切この方にすつぱりと渡さばよし、愚図々々吐すと何奴も此奴も一蓮托生、素首を引抜いてしまふぞ』
甲『喧しう云ふない。俺だつて同じことだ。商売の好みで、俺達の着物だけは堪へてくれ』
玉治別『堪へてくれとぬかしやア話の次第によつては堪へぬ事も無いが、どうだ、一枚だけ俺に渡さないか。大難を小難にして赦してやるのだから』
乙『モシ親方、一寸待つて下さい。今吾々が集会を致しまして、ヌースー会社の創立委員となり、株式募集の協議の最中でございます。貴方もどうぞ沢山株を持つて下さい、品によつたら社長さまに推薦するかも知れませぬから』
玉治別『俺は株は持つてはやらうが、一番の親方だから株代は払はないぞ。優先株を八百万株ばかり俺に献上致せ。さうすれば徹胴敷設でも何でも、うまく認可してやらう』
甲『そんな認可をして貰つたつて、この泥棒会社に用は無い。徹胴の刃過(鉄道の認可)や無銭出ン話(無線電話)や田紳(電信)の御かげで、吾々の商売の大変邪魔になつて居るのだから、そんなものは要らないわ』
玉治別『貴様は矢張狐鼠盗人だな。通行人の着物位脱がして虐めて何になるかい。モツト羽織袴を着たり、洋服をつけて立派に万年筆の先で、一遍に難渋万、難迫万、難船万と云ふ泥棒をせぬのかい。徹胴敷設をすればレールをかぢり、道路を開鑿すれば砂利をかぢり、軍艦を拵へては鋼鉄をかぢり、缶詰を請負うては石を詰込み、かう云ふ立派な智慧を出してヌースー式をやるのだ。さうすれば別にこんな山奥に隠れて、慄うて居らないでも好いのだ、白昼に堂々と大都会のまん中を自動車を飛ばし、白首を乗せて天下の馬鹿者どもを睥睨しつつ、葉巻を燻らして大きな面をしていけるのだぞ。モウこんな仕様もない小盗人は廃めて、世界一の宝を手に入れる商売に乗り替へたらどうだい。軍艦かぢりよりも、レール喰ひよりも、砂利喰ひよりも何万倍とも知れぬ結構な商売があるのだぞ』
甲『エヽそんな商売が、親方何処にありますか』
玉治別『あらいでかい。俺にまア二三日ついて歩いて見よ。かうして俺は乞食のやうな風に化けて居るが、その実は立派なものだぞ。今の世の中は家を飾り、衣服を飾り、身体中金ピカに扮して居る奴は、却て内実が苦しいものだ。家の中は火の雨が降つて居る。俺達はかうして表面は汚い風をして居る代りに、かかりものが沢山はかからず、大変気楽で、世界の者の知らぬ結構な宝を手に入れて、毎日日日嬉し嬉しの花を咲かして楽しんで居るのだ。一つ貴様も俺の乾児になつたらどうだ。随分小盗人も苦しいものだらうが』
甲『お察しの通り随分苦しいものです。しかし、しようことなしに、こんな商売をやつて居るのです』
乙『三国ケ嶽の鬼婆アさまは、何でも蜈蚣姫とか云うたさうですな。蜈蚣の精から生れたのぢやありませぬか』
玉治別『なアに、そんなことがあるものか、随分あの婆アさまは俺の親方で自慢するぢやないが偉いものだよ。世界中の金銭を自由にして居るのだ。それだからお銭(足)が、たんと有るので蜈蚣姫と言ふのだよ』
丙『アーそれで蜈蚣姫と云ふのですか。何を云つても金銭の世の中ですから、せめて蜈蚣姫の乾児になりとして欲しいものですな』
玉治別『俺が蜈蚣姫の代理を勤めて居る玉公と云ふものだ。此処に二人、怪体な面をして来て居る奴は、竜公、国公と云つて、随分貴様のやうに奴甲斐性の無い、小さい小盗人をチヨコチヨコやつて居つた奴だが、到頭往生しよつて俺の乾児になつたのだ。金銭よりも何よりも、モツトモツト立派な宝が発見されたのだ。それを俺達は二人の乾児を伴れて取りにゆくのだ、それは立派なものだぞ。紫の玉に黄金の玉だ』
乙『へーい、それは立派なものでせうなア』
玉治別『その玉さへあれば、三千世界の事は何でも彼でも、自分の心のままになるのだ。貴様も俺の乾児にしてやるから、御供をしたらどうだい。さうして名は何と云ふか』
甲『ハイ私は遠州と申します、それから此奴が駿州、此奴が甲州、武州に三州と云ふものです。モー一人の奴は雲助上がりだから雲州と云ふ名がつけてあるのです』
玉治別『さうか、よし、それでは小盗人は今日限り廃めるか、どうだ』
 遠州始め一同は、
『ヘイヘイ誰がこんな小さい商売を、アタ恐い、致しますものか。貴方の御供を致しまして、これからその玉を取りに参りませう』
玉治別『オイ此処に居る竜州と国州は、貴様等の兄貴分だから、よく言ふ事を聞かねばならぬぞ。それも承知か』
遠州『私は承知致しました。一同の奴も異議はありますまい』
玉治別『さうか、それならよし。今日からこの玉州さんの新乾児だ、オイ竜州、国州、俺は今俄に腹を痛めずに、これだけ大きな子を生んだのだから、貴様達は子守役になつて世話をしてやつてくれよ』
竜国別『エー仕方が無い。国、どうするつもりだい』
国依別『どうすると云つたところで、行きつきばつたりだ。まア行くとこまで行つて玉を掠奪した上のことだ。オイオイ貴様等は俺の弟分だ。俺達二人の言ふ事を神妙に聞くのだぞ。どんな用があつても直接に、お頭領の玉州さんに口を利いちやならない。この国州や竜州に相談をかけ、指揮を仰ぐのだぞ』
遠州『ハイ委細承知致しました。しかしながら私の大親分に天州と云ふ奴があります。この天州は今三五教の本山へ、何か結構な玉があるに違ひないといつて、信者に化込んで這入つて居ります。それは徳公と云ふ智慧も力も立派に備はつた大親分です』
玉治別『ナニ、あの徳公が貴様の親分と云ふのか。彼奴は聖地で門掃をして居つた奴ぢや。あんな奴を親分に仰ぐ貴様だから知れたものだ。実の所は俺は泥棒でも何でもない、三五教の誠一つの教を宣伝する玉治別のプロパガンデイストだ。さうしてこの御二方は竜国別、国依別と云ふ立派な宣伝使だ。サアこれから其方等が、すつぱりと改心をして、誠の道に復帰るか、さうでなければ、その方達に言霊を発射して、ビリツとも出来ないやうに、五年でも十年でも固めて置くがそれでもよいか』
一同『エー貴方は、さうすると三国ケ嶽の鬼婆の乾児ではないのですか』
玉治別『定つた事だよ。誰が泥棒商売のやうな、世間の狭い引合はぬことをするものかい。俺達は人を相手にせず、天を相手にすると云ふ、実に武勇絶倫なる不世出の英雄豪傑だ』
甲『泥棒の親分でさへ結構だと思つてゐるのに、三五教の宣伝使とは思ひもよりませなんだ。しかし泥棒より幾千倍、イヤ天と地との差異ある神様の御道、どうぞ吾々を可愛がつて救うて下さいませぬか』
玉治別『ヨシヨシ救うてやる。その代りに吾々の指揮命令に盲従を続けるのだよ』
 この時空中に涼しき宣伝歌と思はるる曲が聞えて来た。

 三千世界の梅の花  一度に開く時来り
 本霊を曇らせし  憐れな世人を悉く
 誠の神の御教に  救ふ時とは成りにけり
 この谷道に現はれし  遠州、武州を始めとし
 甲州三州その他の  曲津をことごと言向けて
 神の誠の教を説き  いよいよ吾等が睦び合ひ
 力を協せて高春の  山の尾の上に巣を造る
 アルプス教の司神  鷹依姫が本城に
 どつと乗り込み如意宝珠  黄金の玉や紫の
 玉をマンマと手に入れて  三千世界を神の世に
 立直さむは目の当り  遠州駿州甲州武州
 雲州三州諸共に  来れや来れいざ来れ
 敵は幾万あるとても  何の懼るることやある
 直日の剣抜きつれて  群がる奴輩悉く
 神の誠の言霊に  縦横無尽に攻めなやめ
 勝鬨上げて神界の  堅磐常磐の御使と
 千代万代に名を揚げて  尽きぬ生命を何時までも
 生かして通る神の道  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  鷹依姫の手に持てる
 宝珠の玉を取り還し  この世を救ひの神として
 吾等と倶に抜群の  功名手柄をしよぢやないか
 アヽ惟神々々  御霊幸はひましませと
   ○
 さしもに嶮しき山坂を  先に立つてぞ進み行く
 瑞の御霊の三柱に  五つの身魂を加へつつ
 三五の月照る夜半ごろ  別院村を乗り越えて
 大槻並や能勢の里  乗せて馳行く口車
 摂津の国の多田の里  波を湛へし津田の湖
 畔にこそは着きにける  
   ○
 この物語長けれど  眠りの神に誘はれて
 横に寝ながら根の国や  華胥の国に進み行く
 アヽ惟神々々  御霊幸はひましませと
 後振り返り眺むれば  外山の霞晴渡り
 高春山の頂きに  豊二照らす朝日影
 上るを待つてこの続き  いと細やかに伝ふべし。

(大正一一・五・一六 旧四・二〇 外山豊二録)



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