出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語19-4-141922/05如意宝珠午 声の在所王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
堺峠の麓 来勿止の関所
あらすじ
 テルヂー、コロンボ、谷丸、鬼丸は玉照彦を置いた場所に戻る。玉照彦の泣声が聞こえるが、四人それぞれ別の方向から聞こえて、玉照彦を見つけられない。
 そこへ、言照姫が玉照彦を抱いて現れる。玉照彦は、「両方から自分の手を引っ張って勝った方へ行く」と言って、谷丸とテルヂーに腕を引っ張らせる。谷丸が強く引いて、玉照彦が「痛い」と叫んだので、テルヂーは思わず手を離してしまう。玉照彦は、「心のやさしいテルヂーのウラル教へ行く」と言う。
 しかし、見回すと言照姫の姿がなく、ウラナイ教の松姫がやって来た。そこで、玉照彦は「松姫の世話になる」と言う。松姫は玉照彦を背に負おうとするが、四人は松姫を打ち据えて玉照彦をさらってしまう。
 松姫は二人の女神のおかげで、幽界から戻り息を吹き返した。女神達は、「本物の玉照彦は高熊山の岩窟にいるので迎えに行け」と命ずる。そこで、松姫は、夜分、来勿止の関所にやって来たが、門番は「通さないと言う」。ところが、来勿止神が現れて松姫を門内に導き入れた。
名称
鬼丸 勝公 来勿止神 言照姫 コロンボ 竹公 谷丸 玉照彦 テルヂー 松姫 女神一 女神二

ウラナイ教 ウラル教 来勿止 堺峠 高熊山 高城山 地獄 天狗岩 バラモン教 幽界
 
本文    文字数=19651

第一四章 声の在所〔六五九〕

 谷丸、鬼丸、テルヂー、コロンボの四人は堺峠の天狗岩を後にしながら、山麓の老松の根元を越え、玉照彦の幼児の隠し場所に走り着いた。谷丸は、目を丸くして、此処彼処と探し廻し、三人は吾一の功名せむと、血眼になつて、谷丸の行く後に従ひ、捜索を始めた。忽ち聞ゆる赤児の泣き声、谷丸は立止まり、腕を組み、泣き声の何れより来るかを考へて居る。
谷丸『慥に此処に、お寝かせ申して置いた筈だ、それに形跡だに残つてゐないのみならず、御声は聞えて居るがトント方角が分らない。東に聞えるやうでもあるし、西のやうでもあるし、西かと思へば南に聞えるし、南かと思へば、北に聞えるやうだし、ハテナ、こいつは、狐の奴、玉照彦様を啣へて、其処中を迂路ついて居やがるのだな、オイ俺は東を探すから、鬼丸、貴様は西の方を探してくれ。そして、テルヂー、コロンボ二人は、南、北に手分けして捜索して下さい。その代り誰が見付けても共有だからそのお積もりで願ひますよ』
テルヂー『その約束は間違ひありませぬなア。イヤ面白い。さあコロンボ、貴様は南に行け、俺は北の方を探して見る』
 不思議にも、幼児の泣声は、谷丸の耳には東に最も高く聞えて来る。鬼丸には西の方に聞える。コロンボの耳には南に聞える。テルヂーの耳には慥に北の方から聞えて来る。
 四人は東西南北に、慌しく、声を尋ねて駆け出した。四人の耳に聞ゆる猛烈な泣き声、各自前後左右より響いて来る。四人はその声に、耳を引張られるやうに、体をキリキリ舞ひさせ、目を廻して四人共、バタリと倒れた。一時ばかり四人の呼ぶ声も、風の音も鎮まり閑寂の幕が下ろされた。夜はそろそろと明け放れ、東の空の雲押し分けて昇り給ふ天津日の御影に照され、各一度に目を醒せば、豈計らむや、四人は天狗岩の根元にヅブ濡れになつて眠りゐたりき。
谷丸『アヽ何だ、夢見て居たのか、矢張天狗岩の傍だから鼻高の奴、俺達を一寸チヨロマカしやがつたのだな。それにしても、肝腎の、玉照彦様は何処にお出でになつたのだらう。アヽ此処にござつた、有難い有難い、玉照彦様どうぞ許して下さいませ。貴方お一人をこんな岩の上に、御寝かし申し、吾々は前後も知らず寝込んでしまひました』
と云ひつつ傍に寄り、抱き上げむとしたるに、玉照彦の全身は冷切つて氷の如くに冷たくなつて居る。
谷丸『オイ鬼丸、玉照彦様は冷たくなつて居らつしやる、こりやマアどうしたらよからうかなア』
鬼丸『そりや夢の中に見た通り石ぢやありませぬか』
谷丸『ヤア如何にも、此奴は夢の通り矢張石だつた』
 テルヂー、コロンボ一度に、
テ、コ『アハヽヽヽ、誠に誠に、御挨拶の仕様もございませぬ、もうこうなつた以上は何程泣いても悔んでも石が物云ふ例はございませぬ、どうぞ鄭重に弔うて上げて下さい。さあコロンボ、夢の処へ行くのだ』
と駆出す。谷丸、鬼丸も続いて駆出したり。
 坂の中程まで下り来る折しも、水の滴る如き一人の美人、玉照彦を抱いて上り来るに出会つた。
テルヂー『モシモシ、貴方は言照姫様ではございませぬか』
美人『ハイ左様でございます。今玉照彦の神様を保護して此処迄参りました』
テルヂー『変な事を申しますが、どうぞウラル教の神様として大切に致しますから、吾々に下さいますまいか』
言照姫『ハイ何誰かに貰つて貰はねばならないのですから、お望みとあれば、どうとも致しませう』
 かかる処へ、谷丸、鬼丸は追かけ来り、
谷、鬼『ヤア玉照彦様でございましたか、大変にお慕ひ申し探して居りました。サアサアどうぞ谷丸へお越し下さいませ。私が抱いて上げませう』
言照姫『お前は、谷丸さまぢやないか。私の不在中に、岩窟の中から盗み出し、大切にする事か、あのやうな茨室へ蓑を敷いて、捨子同様にして置きなさつたぢやないか。どうして貴方に、この尊い玉照彦様を安心してお預け申す事が出来ませうか』
谷丸『イヤ誠に済みませぬ。何を云つても、ウラル教のテルヂーが狙つて居るのですから、取られちや大変と、茨の中とは知らず、朧月夜の事とて間違ひ、お寝かせ申したのです。どうぞ私に下さいませ』
言照姫『かう両方から懇望されては、一方を立てれば一方に済まず、処置に困ります。そんならかう致しませう。玉照彦様は御生れ遊ばしてからまだ百日にもなりませぬが、ちよいちよい物もおつしやる、立歩みもなさいますから、ウラル教のテルヂーとバラモン教の谷丸とお二人で両方の手を握つて、玉照彦様を引張合ひして下さい。引張つて勝つ方に上げませう』
 四人一度に、
『さう願へば公平で結構です』
 言照姫は玉照彦を坂道の真中に下ろした。玉照彦は左右の手を両方に差し延ばし、
玉照彦『サア坊の手を引張つて下さい。勝つたお方の方へ参ります。しかしソツと引いて下さいや』
『承知致しました』
と谷丸、テルヂーの二人は、左右に立ち現はれ、腰を跼めて、背の低い玉照彦の手をグツト握り力を極めて、
『サア玉照彦様、私の方へ来て下さい』
と、一生懸命、腕が抜けるほど引張る。
玉照彦『アヽ痛い痛い、痛いわいなア』
と顔を顰め泣き出す。テルヂーはこの声に驚いて、思はず手を離した。
谷丸『サア愈こちらの物ぢや。玉照彦様、御苦労ながら、今日から、バラモン教の神様になつて下さい』
 玉照彦、首を振り、
玉照彦『イヤイヤ テルヂーの方に御世話になります』
谷丸『そりやあ約束が違ふぢやありませぬか』
玉照彦『貴方は、私が悲鳴を上げて痛がつて居るのに、構はずに引張つたぢやありませぬか、あの時にテルヂーが放して下さらなかつたら、私の体は二つに千切れて居るのです。愛情の深いテルヂーに御世話になります』
谷丸『小難かしい事を仰しやいますなア、チト位辛抱して下さつてもよいぢやありませぬか。モシモシ言照姫様、どうぞ生みの御母様の貴方からよく云つて下さいな』
と振り向き見れば、こは如何に、言照姫の姿は最早影も形もない。
玉照彦『私は最うこうなる以上は、どちらへも参る事は止めませう。今ウラナイ教の松姫さまが、お迎へに来て下さるから、そちらへ行きます』
 この時トボトボと坂を登つて来る一人の女がありしが、玉照彦は嬉しさうに、
『ヤア、其方は松姫か、よう迎へに来てくれた。サアサア連れて行つておくれ』
松姫『これはこれは玉照彦様、焦れ慕うて参りました。サア私が御負して進ぜませう』
と背中を突き出す。四人は目と目を見合せながら、松姫を前後左右より取り巻き、鉄拳を以て擲きつけ、悲鳴を上げて倒れるのを見済まし、玉照彦を引攫へ、四人は林の茂みに姿を隠したり。
 松姫は暴漢に乱打され忽ち気絶して坂道に倒れ居たりしが、その日の夕暮頃フト息を吹き返し、四辺を見れば、麗しき二柱の女神、儼然としてその前に立ち給ふ。
女神一『汝は高城山の松姫であらう。サア、妾に従つてこれより、高熊山の岩窟に参りませう』
松姫『何れの神様か存じませぬが、ようマア助けて下さいました。私は悪者に虐げられ気絶をして、遠い遠い彼の世の旅行をやつて居ました。処が二人の女神様が現はれて、コレ松姫、此処は何と心得て居る、幽界の入口であるぞや。汝はまだまだ幽界に出て来る時でない、サアサア妾が送つてやるから、とおつしやつたと思へば気が付きました。見れば幽界で見た女神様と、寸分も間違ひのない御二方様、お蔭で命を助けて戴きました』
と手を合せ感謝の涙にくれて居る。
女神二『サア松姫どの、高熊山の玉照彦様をお迎へに行きませう』
松姫『あの玉照彦様はたつた今、悪者に攫はれて行かれました。最早、高熊山には居らつしやいますまい』
女神一『オホヽヽヽ、今朝ウラル教とバラモン教の宣伝使が来たでせう。彼等は貪欲心に絡まれ、眼暗み、石くれを玉照彦様と思ひ違へ、喜んで逃げ帰つたのです。サアこれから、貴女は気を取り直し、単身岩窟に進み、言照姫にお逢ひなされて、玉照彦様をお連れ申してお帰りなさい。妾は来勿止まで送つて上げませう。それから奥は貴女一人のお働きです。妾達二柱、お手伝ひ申すは易き事ながら、それでは貴女の御手柄にはなりませぬから、心丈夫に以てお出でなさいませ』
松姫『何から何まで、有難うございます。お言葉に甘へて来勿止まで送つて頂きませうか。さうして、貴女様の御神名は何と申します』
 二人の女神はニコリと笑ひ、
『何れ分る時節が参りませう。此処では一寸申し上げ兼ねます』
と先き立ち、足早に、山奥指して進み給ふ。松姫は、二女神の後に従ひ、心いそいそ歩み出したり。
二女神『もう二三丁先が、来勿止の関所でございます。吾々は此処でお別れ致します。何れ改めてお目にかかる事がございませう。左様なら』
と云ふかと思へば二女神の姿は忽ちかき消す如く見えなくなりぬ。松姫は盲人が杖を失つた如く、暗夜に提灯取られた如き心地して、重き足を、希望の車に乗せられ、引摺つて行く。日は既に黄昏れ、十七夜の月はまだ昇り給はざる一の暗み時、来勿止の神の関所に着いた。此処は厳格な関門が築かれてある。
松姫『モシモシ私は霊山へ詣る者でございます。何卒、この門お通し下さいませ』
 門番の一人甲は、横門を押し開け出で来り、
甲『何誰か知りませぬが、この一の暗に、この門あけいと云ふ者は碌な者ぢやありませぬ。何時も何時も狐や狸に誑られて、馬鹿を見通しだから、今日は何と云つても開けませぬ、否通過させませぬ。出直して明日の朝お出なさい』
松姫『左様ではございませうが、決して怪しい者ではございませぬ。どうぞ通して下さいませ。玉照彦様の御誕生地へ至急詣らねばなりませぬから』
 乙この声を聞いて、
乙『オイ勝公、この暗がりに、アタ厭らしい、そんな白い装束を着た女を相手に何を揶揄つて居るのか、早く這入らぬか、また例の奴に定つて居るぞ』
勝公『そうだと云つてこの方が是非玉照彦様に参拝したいから、通過させてくれと、懇願なさるのだもの、無情に断る訳にもゆかぬぢやないか』
乙『何だ、また貴様、日の暮れ紛れに、女を掴まへて、愚図々々云つて居やがるのだな、余程、勝手な奴だ。男が尋ねて来ると、何時も、慳もほろろに、木で鼻こすつたやうな応待をするクセに、今日は言葉付まで、優しく出やがつて、貴様の面つたら、大方崩壊して居るのだらう。暗夜でマア仕合せだ。昼であつて見よ、好い化者だぞ』
勝公『俺の顔が化者なら、貴様の顔は何だい。鯰が沸茶を浴ぶせられたやうな面をしやがつて、人さんの御面相まで、批評すると云ふ資格がどこに有るかい』
乙『何と云つても貴様は女にかけては五月蠅い奴だ、俺が来なんだら、優しい声を出しやがつて何々を、何々する、何々だつたらう。エライ邪魔物が飛び出しまして済みませぬなア、アハヽヽヽ』
松姫『モシモシお二人様、今日は特別の御憐愍を以てお通し下さいませ。どうしても今晩の中に参拝致さねばなりませぬから』
乙『大胆至極な、女の分際としてこの山奥にただ一人踏み込み来り、この怖ろしい岩窟へ参詣しやうなんて、そんな大野心を起しても駄目ですよ。屹度途中で、狼にバリバリとやられてしまふのは請合だ。この門潜るや否や、地獄の八丁目だから、悪い事は云はぬ。お前の身のためぢや。いつまでも絶対通さないとは申さぬから、明日来て下さい』
松姫『御注意は有難うございますが、私は神様に何事もお任せ申した身の上、命なんかどうなつてもよろしいから、どうぞ心よう通して下さいませ』
乙『イヤイヤ、命が惜しくないやうな、ド転婆を通す事は愈以てなりませぬ哩、来勿止の神様にまたどんなお小言を頂戴するか知れやしない。この頃はこの門番も失策だらけで、薩張り鼻べちやで威勢が上らない。それと云ふのも、勝公が心の締りがないものだから、いつでも俺達が巻添へを食ふのだ。オイ勝公、サアこんな命知らずの強者を相手にせずと、トツトと奥へ這入つてそれから門を閉めて、警戒を厳重にせなくちやならぬぞ。サア這入らう這入らう』
勝公『それだと云つてこれほど熱心に、お頼みなさるのに、どうして刎ね付ける訳にゆくものか。貴様這入りたければ、勝手に這入つて勝手に閉めたがよからう。俺は仕方がないから、日頃覚えた、ぬけ道を伝うてこの御方を背中に背負つて上げるのだ』
乙『とうとう尻尾を現はしやがつたな、アハヽヽヽ、随分女にかけては腰抜けなものだ』
勝公『エヽ竹公の唐変木奴、貴様に女が分つて堪るかい。女で苦労して来た者でないと女人心理は解らないぞ。さう毒々しく無情な事を云ふものぢやないワ。人間は堅いばかりが能ぢやない。砕ける時は砕けて、世の中の人々のために便利を計るのが人間の務めだ。况してこの館に泊めてくれとおつしやるのでもなし、通してさへ上げればよいのぢやないか』
竹公『貴様が何と云つても、一旦男の口から、通さぬと云つたら通さぬのだ』
勝公『モシモシお女中、今お聞きの通り同僚役があの通りの頑固者ですから、無理にお通し申しても、後でどんな難題を吾々両人にふきかけるやら分りませぬ。さうすればお互の迷惑ですから、どうぞ貴方も折角此処迄お出でになつたのですから、お気の毒で堪りませぬが、今晩は一旦、引返して下さいませぬか』
松姫『どうぞ、方角だけなつと教へて下さいませ。送つて貰つては大変な、貴方の御迷惑になつては済みませぬから』
勝公『実の処は、これだけ厳しく門番も今迄は云はなかつたのですが、二三日前に、バラモン教の、谷とか鬼とか云ふ奴がやつて来て、来勿止神様を始め、吾々をチヨロまかし、トウトウ大切な、玉照彦様を盗んで帰つたものですから、その後と云ふものは大変に警戒が厳しくなつて、暮六つ下れば、老若男女にかかはらず、一切通してはならぬと云ふ、来勿止神様の厳しき御命令でございます。それ故、今の男があんな無情な事を云うたのですが、しかしあゝ見えても彼奴は極めて平常から親切な男ですよ。言葉つきこそ、穢ふございますが、それはそれは心の美しい男ですよ。屹度腹の中では涙をこぼして居たに違ひありませぬ。どうぞ、竹公は無情な奴だと恨んでやつては下さいますな』
松姫『イエイエ決して決して何の恨みませう。お役目大切にお守りなさる処を、私が御無理を申しますのですから、何とおつしやられても是非はありませぬ。しかし今貴方のお言葉によれば、玉照彦様はバラモン教の方が盗んで帰つたとおつしやいましたが、それは事実ですか』
勝公『盗んで帰つたのは事実ですが、しかしながら御神徳高き高熊の霊山、不思議な事には盗まれたと思つた玉照彦様は、依然として御機嫌麗はしく、言照姫様に抱かれて居られます。本当に妙な事があつたものです』
松姫『それ聞いて安心致しました。私にも成程と諾かれる点がございます』
 かく話す折しも石の本門はガラリと開いた。灯火をとぼし、現はれ来る、白髪異様の老人の姿が、松明に照されて、明瞭と松姫の目に映つた。
 松姫は思はず、ハツと地に平伏した。
勝公『これはこれは来勿止神様、何処へお出ましになります』
来勿止神『ヤアお前は勝ぢやなア。此処へ一人の女が来る筈ぢや。未だ出て来ないかな』
勝公『ハイ、それは何と云ふ方ですか。松姫ぢやございませぬか』
来勿止神『アヽさうぢや、その松姫が来る筈だ。二時ばかり以前に、玉照彦様よりお使が見えて、此処へ松姫と云ふ女が一人来る筈だから、夜分でも構はぬ故、通してやつてくれとの御命令であつた』
勝公『その方なら、今此処に居られます。サア松姫様、御心配なさいますな。今お聞きの通りですから』
 松姫頭を上げ、
松姫『勝さまとやら、御親切有難うございました。して貴方が来勿止神様でございましたか。罪深き妾なれど、どうぞこの御門を通して下さいませ』
来勿止神『サアサア遠慮は要りませぬ、ズツとお通り下さいませ。貴女のお登りを、岩窟の大神様が大変に御待ち遊ばして居られます。サアサアこちらへ』
と松姫の手を把り門内に導き入れたり。

(大正一一・五・九 旧四・一三 藤津久子録)



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