出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語19-3-121922/05如意宝珠午 言照姫王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
高城山
あらすじ
 四足で歩く熊彦、虎彦、馬公、鹿公を見て、竜若まで四足で松姫の前まで行く。五匹の変態動物は、松姫とお節の前で、ヒン・ヒンとかウー・ウーとか唸る。松姫は「部下が畜生道に落ちたのは自分の責任」だと、自分も四足になろうとするが、お節が「人間は行いが大切で、ドモるマネをすればドモリになるし、オシのマネをすればオシになる。四足になっては身魂を汚すことになる」と止める。
 お節は神に願って、天の数歌で五人を人間に戻してもらう。松姫は「本部の高姫と黒姫から三五教に帰順する命令が出ていた。自分が我をはっていたのは、お節や、紫姫を思う馬公と鹿公に手柄を立てさせるためだ。これで、自分は三五教に帰順する。これから修行の旅に出る」と、お節に館の主人を任せて、館を出て行った。熊彦と虎彦は主人の松姫を追おうとするが、「松姫は手柄を立てて戻る」と説得されて追うのをやめた。
 そこへ、エンゼルの言照姫命が現れて、お節に玉能姫、竜若に竜国別、馬公に駒彦、鹿公に秋彦、熊彦に千代彦、虎彦に春彦という神名を与えた。
名称
馬公 お節 熊彦 言照姫命 鹿公 竜若 虎彦 松姫
秋彦! 黒姫 駒彦! 心魂 神素盞鳴大神 高姫 竜国別! 玉能姫! 千代彦! 春彦! 副守護神 本守護神 紫姫
天津祝詞 ウラナイ教 惟神 餓鬼道 言霊 神界 畜生道 鎮魂 地獄 フサの国
 
本文    文字数=20279

第一二章 言照姫〔六五七〕

 松姫館の表門の司を兼ねたる受付役の竜若は、両手を組み深き思案に沈む折柄、潜り門を潜つてノタノタ入り込む四人の姿を眺めて打ち驚いた。女神姿の二人の宣伝使は門外に煙の如く姿を消した。
 竜若は怪しき四人の姿を見て、
『オイ其処へ往くのは、熊に虎ぢやないか。ヤー馬公に鹿公、この冷たい地上を四這ひになつて通るとは、こりやまたどうした理由だ』
熊彦『熊、虎の本守護神の顕現だよ』
竜若『貴様は馬公、鹿公を威喝殴打致した罪人だから、当然の成り行きだが、馬公に鹿公はまたどうしたものだ』
馬公『ハイ私も本守護神が現はれました。どうぞ尻でも叩いて追ひ込んで下さい』
竜若『ハテな』
と暫時思案の後自分もまた四這ひになつて従いて行く、五人の姿は館の奥深く這ひ込んだ。奥には松姫、お節の両人、桐の丸火鉢を挟んで頻りに御蔭話に現を抜かしてゐる。苔蒸す庭前にノコノコ現はれた五人の四這ひ姿、二人は話に実が入り、少しもこの珍姿怪体に気が付かなかつた。獣になつた五人は人語を発すること能はず、二人が自然に目を注ぐのをもどかしげに待てゐる。待あぐんでか、熊公は熊のやうに、
熊彦『ウン ウーン』
と一声唸る。続いて虎公は、
『ウワー ウワアー』
と一生懸命に唸り立てる。馬公は、
『ヒン ヒン ヒン』
と叫ぶ。鹿公は、
『カイロー カイロー』
と鳴く。竜若は沈黙を守つてゐる。この声に驚いて二人は庭前を見やれば四這ひになつた五人の男、松姫は、
『アーいやらしいこと、何でせうなア、お節さま』
と座を立つて遁げようとする。
お節『モシモシ松姫さま、さう驚くには及びませぬ。なんでもありませぬ、竜若さまに熊彦、虎彦の両人さま、それに三五教の馬公に鹿公さまですよ。ホヽヽヽヽ、あのマアよう似合ひますこと』
 松姫はやつと安心の面色にて、
『コレコレ竜若、熊彦、虎彦、冗談もよい加減にしなさい。女主人だと思つて人を嘲弄するのかい。なんだ見つともない。神様の御用をする身でありながら、汚らはしい獣の真似をしたり、何の態だ。ちと嗜みなさらぬか』
虎彦『ウワー ウワー』
熊彦『ウー ウー』
松姫『アーア困つたことになつて来た。誰もかも気が違つたのだらうか。これお節さま、どうしませう』
お節『サア困つたことですな、どうしようと云つたところで仕方が無いぢやありませぬか。コレコレ馬公、鹿公、お節ですよ。あまり御無礼ぢやありませぬか』
馬公『ヒンヒンヒン』
鹿公『カイローカイロー』
お節『アヽ互恨みの無いやうに、両方共怪体なことになりましたな』
松姫『かう云ふ時には神様より外に解決をつけて下さる方はない、アーア可憐想に生きながら畜生道へ落ちたのかいな。人面獣心と云ふことは聞いて居るが、此奴はまた獣体獣心になつたやうだ。やつぱりこの世にも地獄もあれば、餓鬼道、畜生道もあると見える。アヽ怖ろしい怖ろしい。コレコレ皆さま、立つて見なさい。どうしても立つことが出来ないのか。最早人間の位が無くなつたのかいな。位と云ふ字は、立つ人と書くが、此奴はまた完全な四足ぢや、アヽ可憐想に、これと云ふのも松姫の我が強いからだ。ドレドレ一つ神様にお詫を致しませう。お節さま、貴女はこの五人の男の看守りをして居て下さい。私はこれからお水でも頂いて一生懸命御祈念を致します』
と真青な顔をして、神前の間さして進み入る。五人は声限りに『ウーウー』『ウワー』『ヒンヒン』『カイロカイロ』と負ず劣らず呶鳴り立ててゐる。
 しばらくあつて松姫はこの場に現はれ、
『アヽお節さま、一生懸命に願つて来ましたが、まだ皆の衆は治りませぬかな』
お節『ハイ依然として最前の通り、庭の木のしげみへかたまつて這ひつくばうて居られます。漸く唸り声だけは止まつたやうです』
松姫『どう致しませう。私も仕方が無い、罪滅しに四這ひになつて這うて見ませうか』
お節『滅相な、何をおつしやいます。結構な立つて歩ける人間に生れながら、神様の生宮を軽蔑し、四足の真似をなさると今の五人さまのやうに、神罰が当つて本当の四足になつてしまひますよ』
松姫『それだと言つて私の責任が済まぬぢやありませぬか。私は畜生道へ落ちても構ひませぬ、苦楽を共にするのが本当です』
お節『結構な神の生宮と生れてそのやうな汚らはしい事をなさると、本守護神を侮辱した事になり、本守護神は愛想をつかして貴方の肉体を脱出し、副守護神ばかりになつてしまひます。さうすればあのやうな浅猿しいさまにならねばなりますまい。人間は神様に対し持身の責任があります。我身を軽んずると云ふことは、所謂大神様を軽んずるも同様、これ位深い慢神の罪はありませぬ。どうぞそれだけは思ひ止まつて下さいませ』
松姫『そうだと言つてこの惨状を私として傍観する事が出来ませうか』
お節『成り行きなれば仕方がありませぬ。前車の覆へるは後車の戒め、必ず必ずそんな真似をなさつてはなりませぬぞ』
と声に力を籠め、常に変つて稍気色ばみ叱りつけるやうに言つた。松姫は黙念として首を垂れ、悲歎の涙に暮れてゐる。
お節『人間と云ふものは行ひが大切です。吃りの真似をすれば自然に吃りとなり、唖の真似をすれば自然に唖となり、聾の真似をすれば忽ち聾となり、躄の真似をすれば天罰覿面躄になつてしまふのは、争はれぬ天地の真理です。それに人間に生を亨けながら如何なる事情があるにもせよ、勿体ない、結構な肉体を四足の真似をしたりすると云ふことがありますものか。アレ見なさい五人の方は段々身体の様子が獣らしくなるぢやありませぬか。それにまた人間と生れながら汚らはしい、馬ぢやの、鹿ぢやの、熊、虎、竜なぞの獣の名をつけるものだから、忽ちその名の如く堕落してしまふ。言霊の幸はふ国と申しますが、言霊ばかりではありませぬ、行ひの幸はひ災する世の中、どうしても人間は名を清くし、心を清め、行ひを正しくせなくてはなりませぬ。アヽ可憐想に私が及ばずながら、言霊を以て宣り直して見ませう。さすれば大慈大悲の大神様が一度は御許し下さるでせう』
松姫『本当に驚きました。どうぞ貴女、神様にお詫して下さいませ』
お節『畏まりました』
とお節は立上り、神前に進み入り天津祝詞を奏上し、終つて再びこの場に現はれた。
お節『モシモシ竜若さま、熊彦さま、虎彦さま、神様が御許し下さいました。サアお立ちなさいませ。一二三四五六七八九十百千万』
 竜若は忽ちムツクと立上り、
竜若『アヽ有難うございました』
 次で熊彦、虎彦、馬、鹿の四人、またもやスツクと立上り、
『コレハコレハお節さま、よう助けて下さいました。エライ心得違ひを致しました。モウ今後は決してこんな馬鹿なことは致しませぬ』
松姫『コレ竜、熊、虎の三人さま、お前は彼んな馬鹿な態をして私を困らしたのぢやないかいな』
竜若『イエイエ滅相な、私が門番を致して居りますと、潜り門をノタノタ這うて来る熊彦、虎彦の姿、こりや不思議だとよくよく見れば、馬公、鹿公四人揃うてノタノタと四這ひになつて奥へ向つて進んで往く。ヤア此奴は熊、虎、最前の無礼を謝するため、謙遜の余り這うてゆくのだな。それに就ても馬公、鹿公は立つて歩くにしのびず、御付合ひに這うてゆかつしやるのだ。アヽ何方も誠と誠の寄り合ひ、義理の立て合ひと感服の余り、大責任を持つた私一人、人間らしう立つて歩く訳にも行かず、余り心の恥かしさに四這ひになつて随いて来ました。さうした所二三間歩く内に本当の四足になつてしまひ、立つことも出来ず、もの言ふ事も出来なくなつたのです。実に恐ろしいものです。ナア熊彦、虎彦、お前はどうだつた』
 熊、虎一度に、
『何だか本当の獣になつたやうな心持がし、再び立つて歩く事が出来ないかと心配してゐました。お節さまの御かげで畜生道の苦みを助けて頂きました。有難うございます』
と心底から嬉し涙を零して居る。
お節『アヽそれは大変な事になるとこでした。今後はどうぞ慎んで下さいませ。鹿公、馬公、お前までが何とした馬鹿な真似をなさるのぢや。私は大神様に恥かしい』
『イヤどうも申訳がありませぬ。以後は屹度心得ます』
お節『馬公、鹿公、貴方は途中で立派な女神さまにお会ひぢやなかつたか』
馬公『ハイ会ひました』
鹿公『門前まで送つて頂きました。しかしそれ限り御姿がなくなつてしまつたのです』
お節『さうでせう。貴方が自ら人格を落して馬鹿な真似をなさるものだから、流石に慈愛深き女神様もおあきれ遊ばして、お帰りになつたのだ。お詫をなさいませ』
馬公『有難うございます』
鹿公『今度といふ今度は種々と神様から実地教育を授かりました』
熊彦『私は、馬公、鹿公に対し、実に有るに有られぬ侮辱を与へ、打擲を加へました。しかるに忍耐強きお二人さまは、チツトも抵抗もなさらず、却て私達に感謝をされました。智慧浅き私共は、馬鹿か、気違ひかと思うて益々虐待を致しましたので、心の底より恥入つて、アヽ私の精神は四足だつた、人間らしく、どうしてお地の上を立つて歩けようかと、懺悔の余り一つは謝罪のため四足の真似を致しました』
と涙ぐむ。
松姫『アーアさうだつたか、其処迄改心が出来れば、こんな結構なことはありませぬ。しかし神様の御教に、神を敬ひ、人を敬ひ、我身を敬へと云ふことがあります。どうぞ人間の身体は神様の結構なお宮だと思つて、仮令自分の身体でも粗末にしてはなりませぬ。私もお節さまがお止め下さらなかつたならば、お前さま等のやうに畜生道に落ちるとこでございました。サア皆さま、打揃つて神様にお礼を申しませう。実の所はフサの国の本山より、高姫様、黒姫様の御命令が降り、心は既に三五教へ帰順致して居つたのですが、部下の皆さま達が俄にそんな事を云つたところで聞いて下さる道理もなし、どうしたらよからうかと思ひ煩つて居りました。しかるに神様は何から何まで抜け目なく、誠の手本を示して皆さまの改心を促して下さいました。この間からお節さまがお出でになり、いろいろと言葉を尽して三五教に帰るようとお示し下さつたけれども、余り易々と帰順すればお節さまの夫を思ふ真心の誠が現はれ難いと思つて、わざと心にも無い事を云うて頑張つて居りました。さうして紫姫様の御身の上を案じて助けたいと思ふ馬公、鹿公のお二方に花を持たしたいばつかりで、今迄頑張つて居たのです。私が心の底から改心を致しましたのは、大神様のお慈悲は申すに及ばずお節さまのお力と、馬公鹿公の主人を思ふ真心のお力でございます。私のみかウラナイ教一同の者が帰順するやうになりますのも、夫を思ふお節さまの至誠と、主人を思ふ馬公、鹿公の忠義心とのお力でございます。誠ほど結構なものはこの世の中にございませぬ。私は今日限りこの館をあけてしばらく修業に参り、身魂を研くつもりでございます。どうぞお節さま、馬公、鹿公と共にこの館をお守り下さつて、数多の信者に誠の道を説いてやつて下さいませ。貴方等が夫や主人を大切に思はるるのと同様に、私も師匠の高姫様や、黒姫様のために尽さねばなりませぬ。どうぞ宜敷くお願ひ致します。竜、熊、虎その他一同の方々、お節さまを私の代理否、私の御師匠さまと崇め、鹿公、馬公を高弟と仰いで、仲好くお道のために尽して下さい』
と言ひ棄て庭先の草履を穿くや否や、夕の闇に紛れて何処ともなく姿を隠しけり。
 熊彦は驚きあわて、
『ヤア竜若さま、松姫さまは到頭蒙塵されました。コラこうして居られまい。何処までも追ひ駆けてお姿を見つけ出し、帰つて貰はねばなりますまい。オイ虎彦、サア足装束をせい』
竜若『オイ熊彦、虎彦、待て待て、去るものは追はず、来るものは拒まずぢや。何事も惟神に任して置けばよいのだ』
熊彦『オイ竜若、貴様は人情を知らぬ不徳漢だ。今迄師匠と仰いだ松姫さまが、吾々の醜態を御覧になつて恥しさに堪へかね、結構な館を捨てて何一つ持たず、飛び出されたぢやないか。春秋の筆法を以て言ふならば、竜若、松姫を追放すと云ふことになるぞ。今迄は上役を笠に着居つて偉さうに、熊だの、虎だのと頤で俺を使ひ居つたが、何ぢや、こんな時に平然として構へて居る奴が何処にあるか。モウ今日限り上官でも兄弟子でも、何でも無いワ。不徳を懲すために、コラ柔道百段の鉄拳をお見舞ひ申さうか、返答はどうだ』
竜若『アハヽヽヽ、また鍍金が剥げかけたぞ。今のことを忘れたか。また四足に還元したらどうするのだ』
熊彦『エー四足になつたつて構ふものか。国家の興亡旦夕に迫るこの一刹那、愚図々々して居る場合でないぞ。間髪を入れずとはこの事だ。オイ竜若、貴様も今迄松姫様の殊恩に浴した代物だ、こう云ふ場合に赤誠を表はし、師弟の道を尽すと云ふ義侠心はないか』
虎彦『コラ竜若の野郎、何を怖ぢ怖ぢとしてゐるのだ。松姫様を見殺しにする量見か』
竜若『喧しい云ふない。貴様のやうな慌者が居るから、ウラナイ教は発達せないのだ。

君ならで誰かは知らむ我心

と松姫様は俺の千万無量の心中をよくお察し遊ばしてござるのだぞ。貴様のやうにうろたへ騒いで何になるか。それだから平素から臍下丹田に心魂を鎮めよと云うてあるぢやないか』
熊彦『アカンアカン、そんな逃げ口上を云つたつて、誰が承諾するものかい。卑怯者奴が、不徳漢奴が』
竜若『オイ、それほど松姫様の神業の邪魔がしたければ、俺に構はずトツトと往け。間誤々々して居るとお姿を紛失してしまふぞ』
熊彦『エー忌々しい、禄盗人奴、サア虎彦、首途の血祭に、仮令熊や虎に還元したつて構ふものか。此奴を一つ打撲つて潔く出発しようぢやないか』
虎彦『ヨシヨシ合点だ』
と早くも拳骨を固め前後より打かからむとする。馬公、鹿公は両人の利腕をグツと握り、
『ヤア待つた待つた』
『待てと云つたつてこれがどうして待たれるものか。エー邪魔してくれな、放せ放せ』
馬公『お前さまの焦るのは尤もだ。しかしながら松姫様をそれだけ思ふ真心は、実に感心だが、贔屓の引倒しとなつては、反つて済まないぞ。一生懸命に松姫様のおためだと思つてやつたことが、却て師匠を泥溝へ落すことになるのだ。マア冷静に考へて見よ。余り熱した時は公平な判断は出来ぬものだ。此処が鎮魂の必要な所だ。マアマア俺達に免じて思ひ止まつてくれ。屹度松姫様は神様に助けられ、立派な手柄を遊ばすのだから』
熊彦『馬公、そんな気休めを云うてくれな』
馬公『ナニ決して気休めぢやない。正真正銘の偽らざる俺の忠告だ。屹度お前のためにならぬやうなことはせないよ』
熊彦『俺はどうなつても構はぬ。松姫様を見捨てる訳にはいかない。どうぞ頼みだから放してくれ』
虎彦『オイ鹿公、どうぞ今度ばかりは見遁してくれ。二人のものに自由行動を採らして下さい。これが一生の頼みだ』
竜若『馬公、鹿公、構うて下さるな。これだけ貴方が親切に云つて下さつても、私が何と云つても通じないやうな没分暁漢だから、二人の自由に任して置きませう。しかしながら二人とも実に美はしい紅い血が全身に漲つて居る。ヤア熊、虎、ようそこまで師匠を思うてくれる。俺は何も云はぬ、ただもうこの通りだ』
と手を合す。
お節『コレコレ熊公、虎公、どうぞ思ひ止まつて下さい。お節がこの通りお願ひ致します』
と跣足のまま庭先に飛び下り、大地にペタリと平伏し、両手を合して涙と共に頼みいる。
 どこともなく嚠喨たる音楽の響、一同はハツと驚き空を見上ぐる途端に現はれた一人のエンゼル、声も涼しく、
エンゼル『われこそは神素盞嗚大神の御使言照姫命なり。松姫の改心により、ウラナイ教の教主高姫、副教主黒姫の罪は赦された。また松姫は神が守護を致し、神界のために抜群の功名を顕はし、日ならず当館へ帰り来るべし。この上はお節に対し、玉能姫と云ふ神名を賜ふ。竜若は今より竜国別、馬公は駒彦、鹿公には秋彦、熊彦には千代彦、虎彦には春彦と神名を賜ふ。汝等玉能姫を師と仰ぎ協心戮力神界のために全力を尽せ。神は汝の心魂を守護し天地に代る大業を万世に建てさせむ。ゆめゆめ疑ふこと勿れ』
と詔り終り、崇高なるエンゼルの姿は烟の如く消え失せたまひぬ。
 一塊の紫雲は室内より戸外に向つて流れ出で、中空高く舞ひ上る。星は満天に燦然として輝き渡り、東の山の端に三五の明月皎々として輝き始め、芳ばしき風颯々として吹き来り、一同の心胆を洗ふ。
 アヽ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世。

(大正一一・五・八 旧四・一二 外山豊二録)
(昭和一〇・六・三 王仁校正)



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