出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語19-3-101922/05如意宝珠午 馬鹿正直王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
高城山
あらすじ
 高城山の松姫の館では、お節が松姫に仕えていた。門番の竜若、熊彦、虎彦は、「魔窟ケ原の二の舞にならないか」と心配して、「三五教の者は門内には入れない」と警備に余念がない。
 そこへ、馬公と鹿公がやってくる。竜若、熊彦、虎彦は、馬公と鹿公が三五教の者であると分ると殴りかかるが、二人は無抵抗で堪え忍び、神恩を感謝する。竜若達はさらに怒り、馬公と鹿公の睾丸(きんたま)を持って門外に放り出した。馬公と鹿公はこんな酷い扱いに対して、「自分たちが堪え忍ぶことが出来た」ことを神に感謝する。
名称
馬公 熊彦 鹿公 竜若 虎彦 松姫
悪神 青彦 因縁の身魂 お節 国治立大神 黒姫 木の花姫命 素盞鳴尊 高姫 玉照姫 埴安神 日の出神の生宮 紫姫 竜宮の乙姫の生宮
ウラナイ教 言霊 高城山 十曜の神紋 魔窟ケ原 五六七の御世
 
本文    文字数=17437

第一〇章 馬鹿正直〔六五五〕

 雲を抜き出てそそり立つ  高城山の峰伝ひ
 松樹茂れる神の山  木の間に閃く十曜の神紋
 国治立の大神や  埴安神や木の花の
 姫の命の御教を  四方に伝ふるウラナイの
 神の教の出社と  鳴り響きたる神館
 五六七の御世を松姫が  朝な夕なに真心を
 こめて祈りの言霊に  百の神たち寄り集ひ
 醜の教と云ひながら  御国を思ひ世を思ふ
 その御心を諾なひて  守らせ給ふぞ尊けれ。

 松姫館の表門には、受付兼門番の溜り所が設けられてある。竜若、熊彦、虎彦の三人は、あどけなき話に冬の短き日を潰して居る。
竜若『この春頃は陽気も良し、日々木の芽を萌くやうに、求道者が踵を接し、随分吾々も受付や門の開閉に繁忙を極めたものだが、春逝き、夏過ぎ、秋去り、冬来る今日この頃、雪は散らつく、凩は吹く、梢は真裸となり白い白い花が咲くやうになつたやうに、ウラナイ教のこの館も、一葉落ちて天下の秋を知る処か、全葉落ちて寂寥極まる天下の冬となつて来たぢやないか。如何に栄枯盛衰は世の習ひだと云つても、ウラナイ教の凋落と云つたら、実に哀れ儚なき有様だ。我々はこうチヨコナンとして用も無いのに、借つて来た狆のやうにして居るのも、何だか気が利かない。松姫様に対しても気の毒なやうな気がしてならないワ。嗚呼ウラナイ教にも、冷酷無残の冬が来たのかなア』
熊彦『それが身魂の恩頼だ。冬が有りやこそ春が来るのだ。神様は引懸け戻しの仕組ぢやとおつしやるぢやないか。海の波だつて風だつてその通りだ。七五三と風が吹き、波は立つ、ウラナイ教もこの春頃は七の風が吹き、七の波が立つて居た。夏になると五の風や五の波、秋の末から冬のかかりにかけて、三の風が吹き、三の波が打つて居るやうなものだ。また世の中の歴史は繰返すものだから、花咲く春は屹度ウラナイ教に見舞うて来るよ。天下の春にウラナイ教ばかり何時迄も、冬の冷酷を眺めて居るやうな事はあるまい、さう悲観したものぢやないよ』
虎彦『熊公、随分お前は楽観者だなア。蜘蛛が巣をかけて、虫が引つかかるのを待ち受けるやうなやり方では何時迄経つても、ウラナイ教に春は見舞うてくれない。矢張能ふ限り最善の努力を費やさねば駄目だ。運と云ふものは手を束ねて待つて居たつて、来るものではない。矢張こちらから、活動を開始せねばならないぢやないか。それにこの頃は館の松姫様も、宣伝使の布教をお止めなさつたぢやないか。一体吾々は諒解に苦まざるを得ないのだ』
竜若『吾々一同の宣伝使が御神慮に叶つて居ないのだから、十分にこの静かな間に、身魂を研き上げ、御神慮を悟り、本当の神様の大御心を体得して、神様からこれなら宣伝をしにやつても差支へ無いと御認めになるまで、吾々は修行をさされて居るのだ。月日の駒は再び帰り来らず、一日再び晨成り難し、この機会に、吾々は充分の魂磨きをやつて置くのだ。今迄のやうな脱線だらけの宣伝をしたつて、世の中を益々混乱誑惑させるだけだ。一かど立派な神様の御用を勉めた積りで、お邪魔ばかりして居たのだから、神様が戒めのために、この頃のやうに宣伝もお止めなさつたり、求道者もお寄せにならないのだらうよ。吾々一同の者が、本当の誠の神心が解つたならば、宣伝にもやつて下さらうし、因縁の身魂も寄せて下さるだらう。神様は何処から何処迄抜け目が無いからなア』
熊彦『それに就いても三五教は比較的隆盛ぢやないか。高姫さまや、黒姫さまの大頭株が得意の神算鬼智を発輝して、玉照姫様をウラナイ教に奉迎せむとなさつたが、薩張三五教の紫姫や、青彦の奴に裏をかかれて馬鹿を見たと云ふのだから、油断も隙もあつたものぢやない。それにまた合点のゆかぬは松姫さまぢや。青彦の裏返り者の女房お節が、この間から猫撫で声を出しよつて、旨く松姫さまに取り入り、今では奥の間の御用を務めて居るぢやないか。また黒姫の二の舞を演じてアフンとなさるやうな事はあるまいかなア。何程、清濁併せ呑む大海のやうな松姫さまの御心でも、お節のやうな危険人物を奥に住み込ませて置くのは、爆裂弾を抱へて寝るやうなものだ。この位な分り切つた道理がどうして松姫さまは気が付かぬのだらうか』
虎彦『何はともあれ、権謀術数至らざるなき、素盞嗚尊の悪神の一派だから千変万化に身を窶し、大胆不敵にも、女の分際としてこんな所へ、恐れ気もなくやつて来居つた危険性を帯びた化物だから、一つでもお節の欠点を発見したら、それを機会に松姫の大将が何とおつしやつても、吾々は職を賭してお諫め申し、お節をおつ放り出さねばなるまいぞ』
竜若『それもそうだ。女でさへも三五教へ這入つた奴は、あれだけの胆力が据わつて居るのだから、男は尚更手に合はぬ奴ばかりだ。また何時三五教の奴がやつて来居つて、魔窟ケ原の岩窟の二の舞ひをやらうとかかるかも知れないから良く気を付けて、三五教の連中だつたら、この門内へ一足でも入れさす事は出来ないぞ。箒で掃出すか、それも聞かねば六尺棒で袋叩きにしても懲らしめてやらねば、ウラナイ教は何時根底から顛覆さされるやら分つたものぢやない。松姫さまは狼であらうが、虎であらうが、老若男女の区別なく、物食ひがよいから困つてしまふ。腹の中へ毒薬を呑み込んで平気で居るのだから実に剣呑千万だ。もうこれからは、一々出て来る奴を誰何して、身魂を調べた上でなければ、通行させる事は出来ないぞ。この門の出入を許否するは吾々一同の権限でもあり大責任だから、今後吾々は三角同盟を形造り、結束を固うして、毛色の変つた怪しき人物は、断乎として通過させない事にして締盟仕様ぢやないか、日の出神の生宮でも竜宮の乙姫さまの生宮でも、月夜に釜を抜かれたやうな馬鹿らしい、悲惨な目に遭はされ給ふのだから、余程警戒を厳重にせなくては国家の一大事だ。この門一つが危急存亡の分るる所だからなア』
 かかる処へ馬、鹿の両人、潜り戸をガラガラと開けて這入り来たり。
熊彦『ヤア、門番の吾々に何の応答もなく、潜り戸を開けて這入つて来るとは、怪しからぬぢやないか、サア出て下さい』
馬公『ヤアこれは誠に失礼を致しました。余り森閑として居たものですから、貴方等が厳しい御装束をして門を守つてござるとは露知らず、心急くままついお応答もせず御無礼致しました。どうぞこの不都合は、神直日大直日に見直し聞直し下さいまして通過させて下さいませ』
熊彦『成らぬと云つたら絶対にならぬのだ。事と品によつたら通してやらぬ事もないが、貴様に限つて通す事出来ぬ哩。その理由とする処は今貴様が、神直日大直日に見直し聞き直してくれと云つたぢやないか。そんな文句を称へる者は、この広い世界にウラナイ教と三五教の二派あるのみだ。しかしながら貴様はウラナイ教の人間ぢやない。てつきり三五教の瓦落多だらう。貴様のやうな奴をこの館へ侵入させやうものなら、それこそ館の中は忽ちぢや、さうならば、我々も何々に何々しられては矢張忽ちぢや。忽ち変る秋の空、冬の来るのにブルブルと、面の皮剥ぎオツポリ出されて、七尺の男子も矢張忽ちぢや』
馬公『ヤアヤアそれは誠に御親切有難う。我々三五教の馬、鹿の二人が此処へ参る事を、流石明智の松姫様が御存じ遊ばして、門番に命じ吾々を歓迎のため立待ちさせて置かしやつたのだな。たちまち開く心の門、これから愈日の出の守護になるであらう、サア鹿公、御免を蒙つて奥へ参りませうかい』
熊彦『何だ、怪つ体な、馬だとか鹿だとか、道理で馬鹿な面付をして居やがる哩。コラコラこの門は善一筋、誠一つの神様や人間の通行門だ。四足の通るべき処ぢやない。トツトと帰らぬか』
馬公『如何にも吾々の名は馬、鹿、四足に間違ひありませぬが、この御門を御覧なさい、これも矢張四足ぢやないか。それにお前の名も、竜とか熊とか、虎とか云うぢやないか。矢張四足だらう。四足門を、四足が守るとは、余程よいコントラストだ、アハヽヽヽ』
虎彦『トラ何を吐しやがるのだ。それほどコントラストが望みなら、貴様の薬鑵をこの棍棒でコントラストと叩き付けてやらうか』
と云ふより早く傍の六尺棒を以て、馬、鹿の前頭部を二つ三つ撲り付けた。
鹿公『随分ウラナイ教は、手荒い事をなされますなア』
虎彦『何、ウラナイ教が手荒い事をするのだ無い、貴様の悪心がこの虎彦をして、貴様を打たしめるのだ。心の虎が身を責めると云ふのはこの事だ。名詮自性、馬鹿な事を云つて通過を懇望するものだからそれで御註文通り、棍棒を頂かしてやつたのだ。今後は謹んで、斯様な乱暴な事を致すでないぞよ。馬、鹿の守護神、勿体なくも、虎彦さんの肉体を使つて馬鹿にしてけつかる、アハヽヽヽ』
馬公『重々私が悪うございました。どうぞ御勘弁下さいませ』
熊彦『悪いと云ふ事が分つたか。悪かつたら勘弁せい、と云つて、それで勘弁が出来ると思ふか。結構な御神門を、四足門だの、吾々三人を四足だのと失敬千万な、劫託を吐きやがつて、何だ、三五教はそんな無茶な身勝手な理屈は通るか知らぬが、誠一途のウラナイ教ではそんな屁理屈は通らぬぞ』
鹿公『イヤもう、通つても通らひでも結構です、吾々の目的はこの門を通りさへすればよいのだ。黙つて門を開けたのは誠に済まないけれど、諺にも「桃李物云はず」と云ふ事がある。それだから、物静かに敬虔の態度を以て通行したのです』
虎彦『エヽツベコベと、よう囀る奴だ。愚図々々吐すと、鬼の蕨がお見舞ひ申すぞ』
と骨だらけの握拳を固めて、鹿の顔を二つ三つガツンとやつた。
鹿公『アイタヽヽ、随分気張り応があります哩』
虎彦『定つた事だ、こう見えても、朝から晩まで、剣術に柔術で鍛え上げた百段の免状取りだ。全身鉄を以て固めた、虎彦さまの鉄身、鉄腸、槍でも鉄砲でも持つて来て、撃つなと、突くなとやつて見よ。鋼鉄艦にブトが襲撃するやうなものだ、アハヽヽヽ』
と得意の鼻を蠢かし、四角な肩を不恰好に腰まで揺つて嘲笑する。馬公、鹿公は堪忍袋の緒が今やプツリと切かけた。エヽ残念だ、もうこの上は善も悪もあつたものかい、三人の奴を片ツ端から打のめし、三五教の腕力を見せてやらうか。イヤイヤ、なる勘忍は誰もする、ならぬ堪忍するが堪忍だ。訳の分らぬ下劣な奴を相手にしての争ひは自ら好んで人格を失墜するのみならず、延いては、大神様の御心に背き、三五教の名誉を毀損する生死の境だ。仮令叩き殺されても柔和と誠を以て、彼等悪人を心の底より、改心させるのが吾々信者の第一の務めだ。国治立の大神様や素盞嗚大神様の御事を思へば、これ位の口惜残念は宵の口だ。怒りに乗じ手向ひすれば、一時の胸は治まるだらうが、叩かれた者は、安楽に夜分も寝られる、叩いた者は夜分に寝られぬといふ事だ。嗚呼、何事も大慈大悲の大神様の深遠なる恵の鞭だ。吾々は大神様の試錬を受けて居るのだ。紫姫様のお身の上に関するやうな失敗を演じては済まない。と、馬、鹿両人は一度に、心中の光明に照されて、嬉し涙をタラタラと流し大地にカヂリ付いて神恩を感謝して居る。
虎彦『オイ馬、鹿、どうだ、往生致したか。初めの高言に似ずメソメソと泣面掻きやがつてチヨロ臭い。女郎の腐つたやうな奴だなア。貴様は何時の間にか、睾丸を落して来やがつたのだらう。オイ熊彦、貴様は馬の睾丸を検査するのだ。俺は鹿の睾丸を実地検分してやらう』
と目と目を見合せ両人の尻を引捲り、三つ四つ臀部を叩き、
虎彦『ヤア腰抜けだと思つたら、矢張此奴の体は女に出来て居やがる。骨盤が非常に大いぞ。ヤア長い睾丸を垂らして居やがる』
とギユツと握り、無理無体に後向けに引張つた。
 馬、鹿両人は睾丸を引張られ痛さに堪らず、後向けにノタノタと這ひながら、門の外へ引摺り出された。
 熊彦、虎彦両人は、手早く門内に駆入り、潜り戸の錠前を下ろし、
熊、虎『アハヽヽヽ、態ア見やがれ、ノソノソとやつて来るとまたこんなものだぞ。早く帰つて三五教の奴に、酷い目に遭はされましたと報告しやがれ』
馬公『モシモシ、それは余りでございます。開けて下さいと無理に申しませぬ、どうぞ、馬、鹿の両人が、門の外まで参りました、と松姫さまに報告して下さいませ』
虎彦『報告すると、せぬとは、吾々の自由の権利だ。犬の遠吠のやうに、見つともない、門の外で、ワンワン吐すな』
鹿公『左様でございませうが、どうぞ、何かのお話の序に、一言でもよろしいから、おつしやつて下さいませ』
虎彦(大きな声で)『喧しう云ふない。貴様が言つてくれなと云つたつて、この手柄話を黙つて居る馬鹿が何処にあるかい。ウラナイ教の邪魔ばかり致す、三五教の馬、鹿の両人の睾丸を掴んで、門外におつ放り出してやつたと云ふ、古今独歩、珍無類の功名手柄を包み隠す必要があるか、縁の下の舞は、我々の取らざる所だ、一時も早く帰らぬか、愚図々々致して居ると、薬鑵に熱湯を浴びせてやらうか。シーツ、シー、こん畜生ツ、アハヽヽヽ。これで俺も日頃の鬱憤が晴れ、溜飲が下つた。サアこれから、松姫様に申上げて喜んで頂かう、さうすればまた、御褒美に御神酒の一升もお下げ下さるかも知れぬぞ、オホヽヽヽ』
馬公『オイ鹿公、随分結構な神様の試錬に遭つたぢやないか。ようお前も辛抱してくれた。俺は、お前が短気を起しはせぬかと思つて、どれだけ胸を怯々さして心配したか知れなかつたよ。それでこそ俺の親友だ、有難い、この通りだ、手を合して拝むワ』
と涙を滝の如くに流し男泣きに泣き沈む。
鹿公『そうだな、本当に結構な御神徳を頂いた。これで俺達も、余程、身魂に力が出来て胴が据わつた。身魂に千人力の御神徳を与へて下さつた。アヽ神様、あなたの深き広き御恵み、身に浸み渡つて有難う感謝致します』
と嬉し涙に掻きくれる。
馬公『オー鹿公、よう云うてくれた。嬉しい』
と、しがみ付く。鹿公もまた、馬公の体にしがみ付き、互に抱き合ひ、忍び泣きに泣いて居る。
 秋の名残りの柿の実、ただ二つ、冬枯れの梢に淋しげにブラ下つて居る。
 凩に煽られて、烏の雌雄連れは忽ちこの柿の木に羽を休め、悲しさうに可愛い可愛いと啼き立てる。
 嗚呼この結果は、如何なるならむか。

(大正一一・五・八 旧四・一二 藤津久子録)



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