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原著名出版年月表題作者その他
物語19-2-71922/05如意宝珠午 牛飲馬食王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
魔窟ケ原
あらすじ
 若彦と紫姫は玉照姫をウラナイ教に渡すため、馬公、鹿公を使いとして魔窟ケ原へ行かせた。魔窟ケ原では、黒姫はフサの国へ帰ってしまっていて、留守は梅公たちが勤めていた。食糧や酒が二年分貯蔵してあったので、彼らは牛飲馬食していた。馬公と鹿公も仲間に入れてもらい飲み食いしていた。
 そんなところへ、フサの国から鶴公、亀公がやって来たので、馬公と鹿公は「玉照姫を引き渡す」と告げると、鶴公は「高姫、黒姫に伺う」とフサの国へ戻った。
名称
丑公 馬公 梅公 お玉 亀公 鹿公 鷹公 辰公 玉照姫 鶴公 鳶公 寅公 紫姫 若彦
青彦! 厳の御霊 亀彦 黒姫 高姫 高山彦 和魂 八岐大蛇
天津祝詞 天の岩戸 ウラナイ教 ウラル教 大江山 北山村 天眼通 バラモン教 普甲峠 フサの国 魔窟ケ原 元伊勢
 
本文    文字数=19376

第七章 牛飲馬食〔六五二〕

 厳の御霊の大御神、その和魂を祭りたる、神の光の元伊勢の、大御前に額づきて、天津祝詞を奏上し、心の空の雲霧を晴らせ給へと、汗をたらたら祈り居る、三男二女の信徒ありけり。
若彦『コレコレ馬公に鹿公、お前御苦労だがこれから、魔窟ケ原の黒姫さまの岩窟館を訪ねて往つて貰へまいかな、私は玉照姫様を御保護申上げて、紫姫様、お玉さまとこの御神殿に円満解決の祈願を凝らして待つて居るから、黒姫さまに会つて、とつくりと吾々の真心を伝へて貰ひたいのだ』
馬公『ハイハイ、かうなればもう破れかぶれだ。神様のおつしやる事は何が何だか訳が分らない、行つて参りませう』
若彦『分らない所に妙味があるのだらう、往く所まで行かねば到底吾々の限りある知識では御神慮を窺知し奉る事は出来ない。この度は十分に低う出て、黒姫さまが、何と云うても一言も口答へをしてはならないよ』
鹿公『ソンナラ馬公、ともかく偵察がてら行つて来ませう。何だか張合の無いやうな気が致します哩。しかしながら黒姫が居なかつたらどうしませう』
若彦『万一フサの国へでも帰られた後であつたならば、誰か代理者が置いてあらうから、その代理者に懸け合つて来ればよいのだ』
鹿公『代理者が居なかつたらどうしませう。万一留守であつたらどうなるのです』
若彦『エヽ、ソンナ事まで尋ねる必要が無いぢやないか。臨機応変でやつて来るのだ』
 馬、鹿両人一度に、
『委細承知仕りました。オイ兄弟、駆歩だ』
と早くも尻引きからげ飛び出さむとするを、若彦は、
『オイオイ両人、用向は知つて居るか』
馬公『ハイ知つて居ます。黒姫が居るか居らぬか見て来たらよいのでせう』
鹿公『黒姫が居なかつたら、代理を見て来る。代理が居なかつたら臨機応変、酒でもあつたら一杯飲みて来るのでせう』
紫姫『ホヽヽヽヽ』
若彦『ハヽヽヽヽ、狼狽者だなア、黒姫さまが被居らなかつたら、吾々両人は紫姫様や、若彦の代理にお詫に参りました。玉照姫様を献上致しますから、今迄の御立腹は河に流して下さいませ、是非とも宜敷くお願ひ致します。と云うて返事を聞いて来るのだよ』
馬公『ソンナ察しの無い馬公とは違ひます哩。亀彦のお直使がお出でになつた時からチヤンと筋書は分つて居るのだ。なア鹿公』
鹿公『鹿り鹿り、サア往かう。三人様、玉照姫さまを大切にして御保護なさいませや、たつた今黒姫の手に渡すかと思へば、何だかお世話の仕甲斐が無いやうな気が致しまするが、これも成行だ。因縁づくぢやと諦めましてな、是非とも宜敷うお頼み申やす』
と云ひ捨てて谷川伝ひ、崎嶇たる小径を魔窟ケ原指して驀地に駆けり往く。
 話変つて魔窟ケ原の岩窟には主人の留守の間鍋たき、梅公の留守師団長、丑、寅、辰、鷹、鳶その他七八名は、食つては寝、寝ては起き、朝から晩まで、土竜のやうに穴住ひばかりに日を暮し、宣伝にも行かず、貯蔵せし酒や米を出し放題に出して、白蟻が柱を食ふやうにちびちびと、獅子身中の虫の本領を遺憾なく発揮して居る。
寅若『コレコレ梅の大将、去年のこの頃だつたねエ、普甲峠の突発事件、黒姫さまに分つた時にや随分ひやひやしたぢやないか』
梅公『過ぎ去つた事は云ふものぢやない哩。あれが抑もの序幕で、玉照姫の事件が起り、それが失敗の原因となつて、意地癖の悪い高山彦夫婦が、吾々に城を明け渡してフサの国の本山へ帰つて行つた。お蔭で目の上の瘤が取れて毎日ウラル教ぢやないが、飲めよ騒げよ一寸先ア闇よと、牛飲馬食が続けられるのだ。矢張これも梅公の方寸から出たのだ。一年前から見越しての梅公の計画と云ふものは偉いものだらう。黒姫までおつ放り出すと云ふ土台を作つた凄い腕前だから、何と云うても哥兄さまだよ』
寅若『ソンナ自慢は置いて貰はうかい。この新しがる世の中に、黴の生えたやうな一年越の自慢話は買手がないぞ。それにつけても漁夫の利を占たのは三五教の奴だ。一敗地に塗れ馬鹿を見たのは黒姫さまだよ。紫姫や、青彦を特別待遇で下にも置かぬやうな信任振を発揮して居たが、豈図らむや、妹図らむやだ。あの態つたらないぢやないか。アンナ奴はまた三五教で愛想尽かされて、盆過ぎの幽霊のやうに矢張ウラナイ教が誠だつた、改心致しましたなぞと尾を掉つて帰つて来るかも知れやしないぞ。今度はドンナ事があつても相手になつてはいけないよ』
梅公『何程鉄面皮の青彦だつて、さう何度も謝罪つて来られた態ぢやあるまい。ソンナ事は絶対にないと俺は確信して居る、マアマア悠くり飲みて騒ぐがよからうぞ。一寸先は暗の世だ。ある中に飲ンだり食つたりして置かない事には、三五教はともかくバラモン教の残党が押し寄せて来て奪つて行くかも分つたものぢやない。とに角腹の中に入れて置けば損は無いのだから、人数は減つたなり、二年ぶりの食糧や酒があるのだから、お前方勉強して胃の腑を働かし、毎日日日、五六人前宛勉強せないと神様に済まないぞ』
と他愛もなく、酒に酔うて勝手な理屈を囀り居る。
 この時門口より岩の戸を覗いて『オイオイ』と呼ぶ男ありき。
寅若『オイ鷹公、鳶公、何だか入口からオイオイと云つて居やがるぢやないか。何処の奴か知らないが、敵でも味方でも構はぬ、引張込んで飯を鱈腹喰はせ、酒を十分飲ませて穀潰しの御用をさせるんだ。早く行つて引張つて来い。これから酒責め、飯責め、御馳走責めだ』
 『オイ合点だ』と鳶、鷹の両人は握り飯を片手に持ち、片手に酒徳利を各自提げながら、穴の入口までやつて来る。
馬公『モシモシ、私は馬でございます。どうぞ通して下さいませぬか』
鳶公『ウン、荷つけ馬か、乗馬馬か、木馬か、尻馬か知らぬが、マアこのうまい酒を飲んで握り飯でも食へ。さうして誠意を現はすのだ』
馬公『飯相な、どう致しまして、お酒を頂戴しては済みませぬ。実は謝罪りに参りました。是非共宜敷くお願ひ致します』
鳶公『エヽ、ちよろ臭い、徳利の顔を見て謝罪る奴があるか。二升や三升グツとやつてその上で謝罪るのなら筋が立つが、徳利の顔をみて謝罪る奴が何処にあるかい』
馬公『イエイエ、私は黒姫さまに反対致しました青彦や、紫姫の部下の者でございます。誠に済まない事で、黒姫さまにお詫に参りました』
鳶公『ウン、あの黒姫の奴か、彼奴はお前達のお蔭で縮尻りやがつた。とうの昔フサの国の本山に引き上げよつた、その後と云ふものは毎日日日、食つたり飲んだり、気楽なものだ。青彦様々だ。お前もその家来であらば尚々結構だ。マアマア祝ひに一杯やれ』
馬公『オイ鹿公、どうやらこいつは風並が変だよ』
鹿公『変でも何でもただ飲めと云ふのだから飲んだらいいぢやないか。モシモシ皆さま、是非共宜敷く、私は決して決して謝罪りなどは致しませぬ』
鳶公『ヤアお前は鹿公だつたな。ウンよしよし、一寸話せる、我党の士だ。サアこれから酒責め、飯責め、牡丹餅責めの御馳走責めだ。去年の返報がへしだ。おぢおぢせずに男らしう牛飲馬食するのだぞ。黒姫が留守になつたから梅公の会長で、牛飲馬食会の本部が設立されたのだ。貴様も成績次第で幹部にしてやらぬ事も無いし、特別会員に推薦しないにも限らない、

岩窟にも春は来にけり酒の花

だ。アハヽヽヽ、サア這入つたり這入つたり』
 鷹、鳶の両人は、馬、鹿の手を無理無体に引張り、大勢の前に連れて来た。
梅公『ヤアお前は三五教の連中ぢやないか』
馬公『今日から牛飲馬食会へ入会を願ひます』
梅公『ヤア、二人だな、本会創立以来創立者の外に、入会を申込んだのは君達が最初だ。普通なれば飲みぶり、食ひぶりを検査した上に会員の等級を定めるのだが、今日は祝意を表するため、特別会員に推薦するから、特別会員の名誉を保持するために、腹が破れるほど食つて、天が地になり、地が天になる所まで酒を飲むのだ。いいか、合点か』
馬公『これはこれは特別の御詮議を以て』
鹿公『しかも特別会員に列せられまして有難う。飽迄頂戴仕ります』
梅公『ヤア、これで同志がざつと二人増加した。黒姫の信徒募集とは余程早い哩。否効果が挙がると云ふものだ』
寅若『オイ皆の奴、会長万歳を三唱しようぢやないか』
一同『オーよからうよからう、牛飲馬食会万歳、会長さん万歳、馬、鹿両人万歳、会員一同万々歳、ワハヽヽヽ』
と岩窟も崩るるばかり笑ひ倒ける。この時岩窟の外には鶴、亀の両人四五の従者を引き連れやつて来た。
鶴公『これこれ亀公、随分賑やかな声がするぢやないか』
亀公『オウ、そうだなア、何でもこの中に天眼通の利く奴があつて、吾々の歓迎会でも開いて前祝でもしとるのだらう』
鶴公『それだけ天眼の利いて居る奴があるのなら、何故吾々を迎ひに来ないのだらう』
亀公『余り嬉しいので酒に喰ひ酔うて忘れたのかも知れない。しかし霊は屹度迎ひに来て居るよ。何事も善意に解するのが安全第一だ』
鶴公『しかし何だかチと変梃だ。鬼の来ぬ間に体の洗濯、睾丸の皺伸ばしをやつて居るのぢやなからうかなア。何はともあれ一つ呶鳴つて見ようぢやないか』
 かく話す折しも、鳶、鷹の二人は行歩蹣跚として入口に現はれ来り、
『ダヽヽ誰人だ。羨望りさうに入口から覗きよつて、何も遠慮は要らない。サア思ひ切り飲んで、思ひ切り食つて踊るんだ。今日は三五教からも二人も入会者があつた。ヤア七八人も連れて居やがるな。牛飲馬食会の隆盛、旭日昇天の勢だ。今日の祝意を表するため、特別会員に推薦してやる。そんなに入口に乞食のやうに立つて居ないで、トツトと辷り込めい』
鶴公『貴様は鷹公と鳶公ぢやないか。黒姫の留守役たる梅公は何をして居るか。この方はフサの国の本山より出張致したる鶴、亀の両人だ。一刻も早く梅公の奴に注進致せ』
 鷹と鳶とはこの声を聞いて一度に酔を醒まし、ぶるぶる慄へながら、
『ヤア、これはこれは鶴公に亀公、鷹公に鳶公、馬公に鹿公、鶴公に亀公、鷹公に鳶公、馬公に鹿公』
鶴公『何を云つて居るのだ。狼狽へやがつて、早く注進せぬかい』
鷹公『オイ鳶公、気の利かぬ奴だ。早く今の内に奥に行つて皆に注進して、酒徳利や何かを隠すのだ。それまで俺は何とかかとか云うて閉塞隊の御用を務めて居るから』
亀公『オイ、鷹公、その狭い入口に何をうごうごして居るのだ。早く退かぬかい、這入れないぢやないか』
鷹公『今這入られてどう耐らう。出口入口一寸一つ門、徳利の口で一口ぢや、土瓶の口ぢや二口ぢや、口は幸福の門、今日の口はどうやら禍の門ぢや。謹んで漫りに口を開くぢやないぞ。口は禍の基だぞよ。口ほど恐いものはないぞよ。今に天の岩戸を開いて見せるぞよ』
鶴公『コラ鷹公、貴様酒に喰ひ酔つて居るな、大方誰も彼も残らず酒を喰ひ、御馳走に飽いて居るのぢやらう』
鷹公『滅相な滅相な、どうしてどうして、黒姫様のお留守中は慎んだ上にも慎まねばなりませぬ、その故に牛飲馬食会が創立されました』
鶴公『何、牛飲馬食会、そりや何をする会だ』
鷹公『エイエイ、それは彼の何です。大江山に八岐の大蛇が現れまして大きな牛を五六匹も一遍にぎうと飲み、馬も七八匹一遍に食つたと云ふ事です。それで呑のが商売の八岐の大蛇の牛飲馬食をやつて居るその型を一寸して見たのですよ。ちと位酒を飲んで飯を食つたつて矢張一升袋は一升だ。何れ留守中の事だからチツと位不都合があつても大目に見なさるがよからう。とに角憎まれるのは損だ。八方美人主義が当世だから』
 奥の方では鳶公の注進によつて俄の大騒ぎ、徳利を持つて雪隠に隠るる奴、丼鉢を抱へて床下に這ひ込む奴、着物を前後に着る奴、大騒ぎをやつて居る。鶴、亀両人は遂に鷹公を蹴飛ばし、六人の従者と共にこの乱痴気騒ぎの現場に現はれ来たり、
鶴公『ヤア御大将梅公さま、仲々の元気ですなア。流石は黒姫様が留守師団長に選抜せられるだけあつて好く隅から隅まで行き届いて居ます。余程貴方の御政治が良いと見えて四辺の草木は申すに及ばず、室内の徳利や土瓶、膳、椀、箸にいたるまで貴方の余徳で交歓抃舞雀躍手の舞ひ足の踏む所を知らずと云ふ有様ですな』
梅公『イヤもう、さう云はれましては答弁の辞がございませぬ。何分有力な黒姫様がお留守になつたものですから、吾々は粉骨砕身大車輪の活動を致さねばならぬと思うて、部下の者共に奨励を致して居ます。その感化力によりまして、土瓶から徳利の端に至るまで活溌に働いて見せてくれます哩。アハヽヽヽ』
亀公『コレコレ梅公、それは何と云ふ不真面目な云ひ分だ。一体この態は何だ、落花狼藉名状すべからざる為体ぢやないか』
 鳶、グダグダに酔ひながら、
『お前は亀ぢやな、亀は酒の好きなものだ。そんな四角張つた面構へをせずにちつと命の水を飲んだらどうだい。酒は百薬の長だ、酒位元気な、曲芸をする奴はないぞ』
 亀、儼然として、
『吾こそは、フサの国北山村の本山より、高姫の使者として罷り越したるものである。これより汝等一同の者はフサの国へ連れ帰るからその用意を致されよ。ヤア梅公、その方は特別をもつて亀公の御伴申付ける』
梅公『かくある事とかねて承知を致して居りました。それ故先見の明ある吾々、敵に糧を渡すも約らぬと存じ、皆の奴等に昼夜間断なく勉強して牛飲馬食をさせ置いてござる。かくの如く体内に滲み込ませて置けば、今後一年や二年、半粒の米も一滴の水も飲ます必要はござらぬ。アハヽヽヽ』
鷹公『オイ鳶公、辰、寅、皆の奴、梅の大将甚い事を吐すぢやないか。俺達を蛇か蛙のやうに思ひやがつて夏中餌食みさせて、二年三年はもう喰はいでもよいなぞと云うて居やがるぜ。こんな処にいつまでも居つたら蛙の干乾になつてしまふぞ。今の内に逃げ出さうかな』
梅公『オイ丑公、皆の奴が逃げ出さぬやう一方口に立塞がり、槍をもつて立番を致せ。無理に逃走を企てた奴があれば容赦なし芋刺しにするのだぞ』
丑公『畏まりました』
と長押の槍を取るより早く、一方口に立ち塞がり、儼然として警戒の任に当つて居る。梅公は馬、鹿の両人がこの場に混り居るに初めて気がついたものか、目を丸くして頓狂な声で、
梅公『ヤア、お前は三五教の馬、鹿と云ふ男ぢやないか』
馬公『ヘイ、さうでげす。最前貴方様の前において特別会員に推薦されました馬、鹿の両人、吾々も特別会員に列せられたチヤキチヤキです。もしもしフサの国からお越しになつた鶴公さま、亀公さま、よい所でお目に懸りました。実の処、特別火急のお願ひがあつて黒姫さまにお目に懸からうと出て参りました処、生憎御不在の上、梅公の会長の下に盛な牛飲馬食会が開会されて居ましたので、吾々も鷹公、鳶公の推薦によつて特別会員たるの光栄を得ました。しかしながら鶴公さま、貴方は黒姫さまに一つ吾々の願を取次で下さいますまいかな』
鶴公『これはまた妙な事を聞きます。一体取次げと云ふ要件はどんな事でございますか』
鹿公『実は紫姫、青彦が改心を致しまして、折角手に入れた玉照姫様母子を黒姫様に献じたいと申し出たのでございます』
 鶴公しばし首を傾け稍思案に暮れ居たりしが、亀公は不思議さうに、
『またそんな事を云つてウラナイ教を打ち返しに来るのだらう。そんな下手な計略はよしたがよからうぜ』
鹿公『是非とも宜敷うお願ひ申します』
 鶴公は手を打つて、
『嗚呼流石は神様だ、こうなくては叶はぬ道理だ、イヤ承知致しました。直様お伝へ致しませう。馬公、鹿公、貴方は一時も早く帰つて皆さまに報告して下さい。私は一寸飛行船を飛ばしてフサの本山に立帰り、高姫、黒姫様の御両人様の御意見を承はつて参りませう』
馬公『是非共宜敷くお頼み申します』
鹿公『私も同じく是非共宜敷う』
と、いそいそとして門番の丑公に事情を明かし、元伊勢指して帰り行く。

(大正一一・五・七 旧四・一一 加藤明子録)



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